第1章も終盤になりました。
そろそろあの子の登場です。
夏休み、花咲川中学勇者部5人は人類の敵バーテックスを12体全部倒したご褒美として、大赦が用意してくれた合宿先に来ていた。
砂浜--
砂浜では香澄が沙綾の車椅子を押して散歩していた。ちなみに沙綾の車椅子は水陸両用の特別製である。
香澄「天気が良くて気持ちいいね、さーや。」
沙綾「本当にそうだね。」
香澄「食事も大赦が手配してくれるんだって。良いのかな、こんなに至れりつくせりで。」
沙綾「病院で寝てた分くらいは遊んでも良いんじゃないかな。」
香澄「そうだね。よーし、進行方向に人影なし。スピード上げるよー。」
そんな香澄と沙綾の姿をパラソルの下で牛込姉妹が見ていた。
りみ「熱中症には気を付けてねー。」
ゆり「若いって良いよねー。」
りみ「お姉ちゃんも歳そんな変わんないでしょ。」
ゆり「そりゃそうだ。楽しんでる?りみ。」
りみ「うん、楽しいよ。」
ゆり「それなら良かった。はい、りみ、あーん。」
りみは指が動かせないので、ゆりにかき氷を食べさせてもらっている。
有咲「ゆり。」
ゆり「なぁに、有咲ちゃん。」
有咲「こっちの体は出来上がってるぜ。何時でも良いよ。さぁ、競泳だ、競泳。」
ゆり「ふっふーん。花咲川の人魚と呼ばれた私が格の違いを見せてあげましょう。」
有咲「呼ばれてたのか、りみ?」
りみ「自称だよ。」
ゆり「でも、水泳は得意だよ。小学校の頃は水泳クラブ通ってたし。」
りみも着いて行き、波打ち際で火照った体を冷ましていた。
ゆり「んー。やっぱりみは家でも砂浜でも可愛い。」
そこへ香澄と沙綾が戻って来た。
香澄「おっ、有咲遂にゆり先輩と勝負するの?」
有咲「優れた勇者は水の中も行けるって事を、またまた見せてやる。」
香澄「うん、頑張って、有咲!」
有咲「っ……。頑張るのなんて当たり前だ。」
突然ゆりは周囲を気にし出した。
ゆり「あんまり女子力を振り撒くと、ナンパされそうだから注意しないと……。」
有咲「何言ってんだか……。」
ゆり「隙あり!」
次の瞬間、ゆりは海に向かって猛ダッシュした。
有咲「ちょまっ…卑怯だぞーー!」
有咲も慌てて駆け出していった。
香澄「よーし、私達も行こう。」
沙綾の車椅子は介護士に押してもらい、香澄はりみの手を優しく掴んで海へ入って行った。
香澄「あー気持ちいい〜。りみりん何かあったら遠慮なく言ってね。」
りみ「うん、ありがとう香澄ちゃん。」
遠くの方でゆりと有咲が泳いでいるのが見えた。
香澄「うひゃーゆり先輩も有咲も早いねー。」
りみ「さすが、お姉ちゃん。」
沙綾「あっ、見て香澄。あっちに魚がいっぱいいるよ。」
香澄「えっ何処ー、見えないよー。」
りみ「沙綾ちゃんの目線は高いから遠くの景色も良く見えるんだよ。」
香澄「えー、ズルイよー。私も座りたーい。」
沙綾「ダーメ。だってここは私の特等席だからね。」
香澄・沙綾・りみ「「「あははは!」」」
香澄「むむむ……。」
有咲「っ……。」
香澄と有咲は何時になく真剣な表情をしていた。
香澄「とりゃ!」
砂をごっそり持っていく香澄。2人は今棒倒しの勝負の真っ最中。
有咲「ぬあっ!そんなに沢山⁉︎」
香澄「どうだー!」
沙綾「香澄の棒倒しの才能は子供達の砂遊びで鍛えられてるんだろうね。」
沙綾がそんな事を呟く。
香澄「砂がね、どれくらいまで取って大丈夫か教えてくれるんだよ。」
有咲「嘘こけー!ちょっと待ってろー今集中するから。……ああっ!?」
その時、棒が倒れてしまう。
香澄「勝ったーー!」
ゆり「ふふふ。香澄ちゃん、あんまり有咲ちゃんをいじめちゃダメだよ。」
りみ「お姉ちゃんは泳ぎで負けたけどね…。」
有咲「ちくしょーもう一回だ、香澄!」
香澄「かかって来なさい!」
2人の勝負を3人は眺めている。
りみ「有咲ちゃん、凄く楽しそうだね。」
ゆり「そうね、りみ。初めて部活に来た時とは大違いだよ。」
香澄「どう?りみりん?」
りみ「わっ、全然動かないよ香澄ちゃん!」
ゆり「一度でいいから砂浜に埋まってみたいって言ってたもんね、りみは。」
りみ「めっちゃ面白いー。」
香澄「いいなぁ、有咲!私も埋めて!」
その時有咲の目が光る。
有咲「よし、かなーり深く埋めてやるー。」
香澄「うわあぁぁお手柔らかにーー。」
負けた腹いせかの様に香澄を砂浜に埋めたのだった。
夜、旅館--
テーブルの前にはカニや刺身やら大層見事なご馳走が並んでいた。
りみ「蟹だよ!蟹がいるよ、お姉ちゃん!」
りみは蟹に興奮していた。ゆりが女将に尋ねる。
ゆり「あのー、部屋間違ってませんか?ちょっと私達には豪華過ぎるような…。」
女将「とんでもございません。どうぞ、ごゆっくり。」
沙綾「私達高待遇みたいですね。」
有咲「ここは大赦絡みの旅館だし、御役目を果たした私達へのご褒美って事じゃねーか?」
ゆり「つまり、食べちゃっても良いと…。」
りみ「だけど、お姉ちゃん。香澄ちゃんが…。」
香澄の味覚の事を心配するが、そんな心配を他所に香澄は食べ始めていた。
香澄「あーん…。もぐもぐ。んー。このお刺身のコリコリした歯ごたえ、堪らないーーー!はむっ。んー!このツルツルとした喉越しもサイコーだよ!」
沙綾「……。」
香澄がみんなに気を使っている事に気付く沙綾。
沙綾「もう、香澄…。いただきますが先でしょ(笑)。」
香澄「あぁ、そうだった。ごめんね、さーや。」
有咲「ありとあらゆる手段で味わおうとしてるな、香澄のヤツ。」
ゆり「色々敵わないな、香澄ちゃんには。」
りみ「尊敬しちゃうな。」
ゆり、りみ、有咲はそんな事を感じていた。
ゆり「それじゃあ、改めて…。」
全員「「「いただきます!」」」
温泉に入り終わり、布団に入る5人。
りみ「それじゃあ電気消すね。」
りみが部屋の電気を消した。その瞬間、沙綾の目がキラリと光る。
香澄・沙綾・ゆり・有咲「「「おやすみー。」」」
沙綾「あの日も、こんな感じのジットリとした夜でした…。」
香澄・ゆり・りみ・有咲「「「!」」」
香澄「さ、さーや?」
沙綾「その男は帰りを急いでいました。でも家への近道をしたのが間違いだったのです…。」
香澄・ゆり・りみ・有咲「「「っ…!」」」
沙綾「お墓の所を通った辺りから自分をつけてくるような足音が聞こえてきて…。」
香澄「わわわっ!さーや、何でこのタイミングで怪談話を⁉︎」
沙綾「男は思い切って後ろを振り返る事にしたのです。すると…。」
香澄・ゆり・りみ・有咲「「「ギャアァァァァ!!!」」」
4人の叫びが暗い部屋にこだました--
夜中--
香澄「あれ…?」
香澄が目を覚ますと布団に沙綾はおらず、座って窓の外を眺めていた。
香澄「さーや、起きてたんだ。」
沙綾「なんか寝付けなくてね。」
香澄「そういえば、さーやのその青いリボン。いつも髪に付けてたよね。」
沙綾「これは私が事故で記憶を失った時に握りしめてた物だって…。誰の物かは分からないけど、とても大切な物。そんな気がしてならないんだ…。」
香澄「そっか…。海を見てたの?」
沙綾「考え事してたんだ。ねぇ、香澄。」
香澄「何?」
沙綾「バーテックスって12星座がモチーフなんだよね。」
香澄「あぁ、確かそうだったね。」
沙綾「ねぇ、香澄…。」
香澄「何?」
沙綾「本当に戦いは終わったと思う?」
香澄「考えてもしょうがないよ。」
沙綾「香澄…。」
香澄「何かあったら、その時はその時。」
香澄はそう言ってポーチを手に取り、沙綾の髪をとかす。
香澄「何より…人類を死のウイルスから守ってくれた神樹様がついてるんだし。」
沙綾「神樹様…。」
香澄「そういえば、バーテックスって何でいつも私達のところに出てきたのかな?太平洋側から来たら危なかったよね。」
沙綾「それは、神樹様が結界にわざと弱い部分を使って敵を通してるから。」
香澄「さーや物知りー。」
沙綾「神樹様は恵みの源でもあるから、防御に全て使うと私達が生活出来なくなるの。」
香澄「あれ?それって何処かで習ったような…?」
沙綾「アプリに書いてあったよ。香澄ってば忘れっぽいんだから。」
香澄「えへへ。でも安心だよ。」
沙綾「どうして?」
香澄「神樹様にははっきり意思があるって事だもん。私達の事だって何とかしてくださるよ。さーやが昨日言ってた通り、病院で寝てた分は遊ばないと。」
沙綾「そうだよね。1人になると、つい悪い方に色々考えちゃって…。みんなといるとそんな事も忘れられるんだけど。」
香澄「勇者部5箇条、悩んだら相談だよ。」
沙綾「でも、こんな事相談されても困るでしょ?」
香澄「そうでもないよ。1人になるとつい暗い事考えちゃうなら…。今日はもーっとさーやにくっ付いてよーっと。」
沙綾「ありがとう。香澄。」
翌日、手配された車に乗る前--
ゆり「こほん、帰る前に私達やる事あるでしょう?」
有咲「なんかあったっけ?花火?」
ゆり「今は一応勇者部の合宿中なんだよ。少しは内容のある話をしないと。文化祭とか文化祭とか文化祭とかね。」
りみ「3回も言ったよ。でも、お姉ちゃんの言う通りだね。」
香澄「バンドをやるって決めたけど、りみりんの事もあるし…。」
りみ「気にしないで香澄ちゃん。お医者さんは治るって言ってたんだし、治った時の事を考えて内容は考えておこう。」
香澄「んーー、りみりーん!」
香澄がりみりんに抱き着く。
ゆり「いい?バーテックスを倒しても、私達の日常が被害を受けてたら世話ないよ。しっかりと日常のスケジュールを守って完全勝利と行きましょう。」
香澄・沙綾・りみ「「「おー!」」」
有咲「まぁ、賛成してあげてもいいか。」
ゆり「よーし、文化祭必ず成功させよう!」
牛込宅--
2人は家でうどんを食べていた。
ゆり「ご馳走も良いけど、それが続くと、」
りみ「うどんが恋しくなるね。」
ゆり「そうそう。家に帰るまでが旅じゃないね。うどんを食べて初めて締めに……。」
その時、ゆりの携帯に着信が。
ゆり「ん?」
突然ゆりの笑顔が消える。
ゆり「あらら、ごめんね。ちょっと行ってこなくちゃ。りみ、食べちゃってて。」
りみ「行ってらっしゃい、お姉ちゃん。」
勇者部部室--
ゆり「あっ⁉︎」
ゆりは部室にケースが置いてあるのを見つける。ケースには大赦の紋章が入っていた。
ゆり「………。」
ケースを開けると--
ゆり「わっ!」
ゆりの精霊である犬神がゆりの顔に飛び込んできた。
ゆり「犬神⁉︎戻ってきた……?」
ケースの中には5つのスマホが入っている。ゆりがスマホを見ると--
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差出人:大赦
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宛先:牛込ゆり
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件名:神託
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敵の生き残りを確認。
次の新月より40日の間で襲来。
部室に端末を戻す。
ゆり「……。」
その時、ケースから風が巻き起こる。
ゆり「わっ!今度は何⁉︎……っ⁉︎私の新しい精霊?」
犬神が頷いた。
ゆり「戦いは…終わってない……。」