戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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原作でも、この場面は辛いものがありますよね。


因みに、他の所ではこの小説は第6章まで進んでいます。



ゆりの想い、りみの想い

 

 

先代勇者、花園たえの元から戻ってきた香澄と沙綾は学校の屋上にゆりを呼び出し、そこで聞いた事を話していた。

 

ゆり「勇者は決して死なない?身体を供物として捧げる?」

 

沙綾「そうです。満開の後、私達の身体はおかしくなりました。身体機能の一部が欠損したような状態です。それが供物を捧げる事だと、花園たえは言っていました。」

 

ゆり「っ……。」

 

香澄は沙綾が話している事を黙って聞いている事しか出来ない。

 

沙綾「事実、彼女の身体も……。」

 

ゆり「じゃあ、私達の身体は、もう元には戻らない…その話は、りみや有咲ちゃんには話したの?」

 

沙綾「いいえ、まずはゆり先輩に相談しようと思って…。」

 

ゆり「そう。じゃあ、まだ2人には話さないで。確かな事が分かるまで、変に心配させたく無いから。」

 

香澄・沙綾「「分かりました。」」

 

香澄と沙綾は頷いた。

 

 

 

 

 

 

次の日、学校の廊下--

 

ゆりは学級日誌を持って歩いていた時、りみが友達と話しているところが見えた。

 

りみ「ごめんね、日曜日は用事があって……。」

 

クラスメイトE「分かった、じゃあまた今度ね。」

 

ゆり「さっきの人はクラスの友達?誘われたんだったら、行ってきたら良いのに。」

 

りみ「あの子達、軽音楽部の人達なんだ。私がいると、みんなに気を使わせちゃうから…。」

 

りみは寂しそうに微笑んだ。

 

ゆり「りみ…。でも…。」

 

その時、

 

先生「りみさんのお姉さんですか?」

 

りみの担任の先生がゆりに話しかけてきた。

 

先生「あの、この後少しお時間が取れますか?」

 

ゆり「大丈夫ですけど…。」

 

 

 

 

 

 

空き教室--

 

先生「りみさんの今の状態は一部の授業に支障が出ています。」

 

ゆり「えっ!?あの子が誰かに迷惑を掛けたんですか?」

 

先生「いえ、他の人にでは無く、りみさんご自身の事で…。りみさんは今の指が動かないので、ある程度授業内容を変える事で対応していますが…あまり露骨な変更は逆にりみさんが気に病まれるでしょうし…。」

 

ゆり(大丈夫…。きっと治るから…。医者だって治るって言ってたんだから…。)

 

 

 

 

 

 

牛込宅--

 

 

 

---

差出人:牛込ゆり

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宛先:大赦

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件名:身体異常について

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満開後の身体異常について何か分かった事はないでしょうか。

勇者4名、未だに治る兆候はありません。

調査の状況を教えてください。

 

 

 

 

 

 

ゆりは大赦にメールを送ると、

 

ゆり「りみー、ご飯出来たよー。」

 

食事が出来たのでりみを呼ぶが、返事がない。

 

ゆり「りみ、ご飯だよ。」

 

部屋へ呼びに来たが、

 

ゆり「寝てる?」

 

机に突っ伏して寝ていた。

 

ゆり「りみ、起きて…。」

 

りみ「お姉ちゃん…?」

 

ゆり「ご飯、出来たよ。」

 

ご飯を食べるも静かな食卓。

 

ゆり「えっとね。」

 

りみ「どうしたの、お姉ちゃん?」

 

ゆり「ここのところ、ずっと天気良くないよね。鞄に折り畳み傘入れていった方が良いよ。いつ雨降るか分からないから。」

 

りみ「分かったよ。」

 

りみは微笑みながら答えた。

 

ゆり「あっ…えっと…。文化祭の準備も進めないとね。衣装は出来たから、歌詞とかも考えないと。」

 

りみ「そうだね。」

 

りみは困ったように微笑んだ。

 

ゆり「どうしたの…。」

 

りみ「このままじゃ、私演奏出来ないね…。だから、私は客席でお姉ちゃん達の応援するよ。」

 

ゆり「だ、大丈夫だよ!お医者さんだって治るって言ってたでしょ!きっと、文化祭までには…。」

 

 

 

 

 

 

夕食後--

 

ゆりは食べ終わった皿を洗っていた。台所で眼帯をズラして手鏡で自分の顔を見る。

 

ゆり(絶対治る。だって、みんな何も悪い事してないんだから。)

 

スマホを取り出すが、大赦から連絡はない。

 

ゆり「……。」

 

 

 

 

 

 

翌日、山吹宅--

 

ゆり「どうしたの?急に私を呼んで。」

 

沙綾が香澄とゆりを呼び出していたのだった。

 

沙綾「ゆり先輩と香澄に見てもらいたい物があって…。」

 

そう言うと、沙綾は急に包丁を取り出した。

 

香澄・ゆり「「っ?」」

 

2人が驚く。なんと、沙綾はあろう事か自分の首筋を包丁で切りつけようとしたのだ。

 

香澄「さーや!」

 

ゆり「沙綾ちゃん!」

 

血が吹き出すかと思いきや、突然沙綾の精霊である"青坊主"が現れ、包丁から沙綾を守ったのだ。

 

ゆり「何やってるの、沙綾ちゃん!今、精霊が止めなかったら…。」

 

沙綾「止めますよ、精霊は確実に…。」

 

香澄・ゆり「「?」」

 

2人は訳が分からなくなっている。

 

沙綾「この数日で、私は10回以上自害を試みました。」

 

香澄・ゆり「「えっ!?」」

 

沙綾「切腹、首吊り、飛び降り、一酸化炭素中毒、服毒、焼身。」

 

その間に"刑部狸"も現れ、沙綾から包丁を取って離れた所に置いた。

 

沙綾「全て精霊に止められました。」

 

ゆり「何が…言いたいの?沙綾ちゃん。」

 

沙綾「今、私は勇者システムを起動させてませんでしたよね。」

 

香澄「あっ、そう言えばそうだね。」

 

沙綾「それにも関わらず、精霊は勝手に動き、私を守った。精霊は勝手に…。」

 

ゆり「だから、何が言いたいの!」

 

ゆりが声を荒げる。

 

沙綾「精霊は私の意思とは関係なく動いている、という事です。私は今まで精霊は勇者の戦うという意思に従って動いていると思ってました。でも、違う。精霊に勇者の意思は関係ない。それに気づいたら、この精霊という存在が違う意味を持っているように思えたんです。精霊は勇者の御役目を助けるものなんかじゃなく、勇者を御役目に縛り付けるものなんじゃないかって。」

 

沙綾「死なずに、戦わせ続ける為の装置なんじゃないかって。」

 

ゆり「っ……。」

 

香澄「で、でも、精霊が私達を守ってくれたって事なら、悪いことじゃないんじゃないかな?」

 

沙綾「そうだね。それだけなら悪いものじゃないかもしれない。でも、精霊が勇者の死を必ず阻止するなら……。花園さんが言っていたことは、やっぱり当たっている事になる。」

 

ゆり「勇者は決して死ねない…。」

 

沙綾「彼女が言っていた事が真実なら、私達の後遺症が治らないという事も…。」

 

ゆり「そんな…。」

 

ゆりは絶望するしかなかった。

 

沙綾「花園さんという前例があったんだったら、大赦は勇者システムの後遺症を知っていたはず。私達は何も知らずに騙されていた…。」

 

ゆり「待ってよ…。じゃあ、りみの指は、もう、二度と……。」

 

ゆりは膝から崩れ落ち、涙を流し絶望した。

 

ゆり「知らなかった…。知らなかったの…。人を守る為、身体を捧げて戦う。それが勇者…。私がりみを勇者部に入れたせいで……。」

 

 

 

 

 

 

それから1時間後--

 

有咲はスマホのメールを見ながら走っていた。

 

 

 

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差出人:大赦

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宛先:市ヶ谷有咲

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件名:他の勇者の動向に注意を

---

 

牛込ゆりを含めた勇者4名が精神的に不安定な状態に陥ってます。

市ヶ谷有咲、あなたが他の勇者を監督し、導きなさい。

 

 

 

 

 

 

有咲「……。」

 

有咲はゆりとりみが住むマンションの近くまで来ていた。家に戻ってきていたゆりは大赦に再びメールする。

 

 

 

---

差出人:牛込ゆり

---

宛先:大赦

---

件名:調査の状況を

---

 

私達の身体について調査の状況を教えてください。

 

 

 

 

 

 

メールを送信したその時、家の電話が鳴る。

 

ゆり「はい、牛込です。」

 

まりな「突然のお電話失礼致します。スペースミュージックの月島と申します。」

 

ゆり「スペースミュージック?」

 

まりな「はい。牛込りみさんの保護者の方ですか?」

 

ゆり「はい、そうですが…。」

 

まりな「バンドオーディションの件で一次審査を通過しましたので、ご連絡差し上げました。」

 

ゆり「え?何の事ですか?」

 

まりな「あ、ご存知ないんですか?りみさんが弊社のオーディションに…。」

 

ゆり「いつですか?」

 

まりな「えー、3ヶ月程前ですね。」

 

ゆり「っ!」

 

まりな「りみさんからオーディション用のデータが届いています。」

 

ゆり「っ!」

 

受話器を落としてしまう。

 

まりな「あれ?どうしたんですか?もしもし?もしもし?」

 

ゆり「りみ!」

 

ゆりはりみの部屋に入るが、りみはいなかった。

 

ゆり「いないの?」

 

机のメモノートにゆりは気付く。広げられたノートには、指の体操やマッサージの仕方が書かれてあった。

 

ゆり「っ……。」

 

本棚には治療法が書かれてそうな本が沢山。

 

ゆり「っ!?」

 

パソコンのデスクトップにオーディションと書かれたファイルを見つけ、聞いてみる。

 

 

 

 

 

 

りみ「えっと、これで…。あれ?もう録音されてる。あ、バ、バンドオーディションに応募しました、牛込りみです。花咲川中学1年生、13歳です。よろしくお願いします。」

 

りみ「私が今回オーディションに申し込んだ理由は、もちろん楽器を弾くのが好きだからって言うのが一番ですけど、もう一つ理由があります。私はバンドメンバーを目指す事で自分なりの生き方、みたいなものを見つけたいと思っています。」

 

りみ「私には大好きなお姉ちゃんがいます。お姉ちゃんは強くてしっかり者で、いつもみんなの前に立って歩いていける人です。反対に私は臆病で弱くて、いつもお姉ちゃんの後ろを歩いてばかりでした。でも、本当は私、お姉ちゃんの隣を歩いて行けるようになりたかった。」

 

りみ「だから、お姉ちゃんの後ろを歩くんじゃ無くて、自分の力で歩く為に、私自身の夢を、自分自身の生き方を持ちたい、その為に今ベーシストを目指しています。」

 

ゆり「っ!!」

 

りみ「実は私、最近までベースを弾くのがあまり得意じゃありませんでした。あがり症で人前で楽器を弾きたくはありませんでした。でも、勇者部のお陰で今は弾くのが本当に楽しいです!」

 

その時、ゆりのスマホにメールが届く。

 

りみ「あっ、勇者部というのは私が入っている部活です。勇者部では保育園の子供と遊んだり、猫の飼い主を探したり……。」

 

 

 

---

差出人:大赦

---

宛先:牛込ゆり

---

件名:Re.調査の状況を

---

 

 

勇者の身体異常については調査中。

しかし肉体に医学的な問題は無く、

じきに治るものと思われます。

 

 

 

 

 

 

しかし、大赦からのメールは以前と変わらない文言だった。

 

りみ「私、人見知りだから部に入った最初はちょっと不安でした。でも、部のみんなは優しくて。今は部活の時間が凄く楽しいです。あ、ごめんなさい。余計な事まで話し過ぎちゃいました。では、弾きます。」

 

ゆり「っ……!!」

 

ゆり「あぁ……あ…あ………。」

 

フラフラとダイニングに歩いて行くゆり。

 

ゆり「あぁっ……!!」

 

ゆりはあの時の事を思い出す。

 

 

ーーー

ーー

 

 

りみ「あのね、お姉ちゃん。私やりたい事が出来たよ。」

 

ゆり「なになに?将来の夢でも出来たって事?だったらお姉ちゃんに教えてよ。」

 

りみ「うーん…秘密。」

 

ゆり「あーひどい。誰にも言わないから、ね。」

 

りみ「いつか教えるね。」

 

 

ーー

---

 

 

ゆり「うっ………。」

 

 

 

ゆり「うぅ〜〜〜〜〜〜!!うああああああああっ!!!!!」

 

 

 

ゆり「うああああああああああ!!!」

 

 

 

 

ゆりは勇者に変身し窓から飛び出していった。

 

有咲「っ!?」

 

有咲が音に気付き砂浜の方を向くと、ゆりが砂浜に着地した後、もう一度飛び上がって行った。

 

有咲「っ……!」

 

山道を走るゆりだが、

 

有咲「待てよ!」

 

有咲が刀を何本か投げるが、ゆりは大剣でそれを全て弾いた。

 

有咲「あんた、何するつもりだ!」

 

ゆり「……大赦を潰してやる!!!!」

 

有咲「何!?」

 

ゆり「大赦は私達を!!騙してた!!」

 

有咲「えっ?」

 

ゆり「満開の後遺症は治らない!!」

 

ゆりは有咲を振り切り再び走り出す。

 

有咲「何を!?」

 

ゆり「うっ!!くっ……!」

 

橋の上で再び相対するが、ゆりは有咲の攻撃を避けながら大赦に向かっていた。

 

ゆり「大赦は始めから満開の後遺症を知っていた!!なのに、何も知らせないで、私達を生贄にしたんだ!!」

 

有咲「そんな適当な事を!」

 

ゆり「適当じゃない!!犠牲になった勇者がいたんだ!!」

 

有咲「えっ!?」

 

ゆり「勇者は、私達以前にもいた!!何度も満開して、ボロボロになった勇者が!!」

 

大剣の柄を強く握り、勢いよく有咲に斬りかかった。

 

ゆり「そして今度は、私達が犠牲にされた!!何でこんな目に遭わなきゃならない!?」

 

有咲は暴走したゆりの攻撃を塞ぐので精一杯だった。

 

ゆり「何でりみが夢を失わなきゃいけないんだ!!」

 

有咲「うっ…。」

 

有咲が弾き飛ばされる。

 

ゆり「世界を救った代償が……-これかあぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

目を閉じる有咲--

 

 

 

その時だった--

 

 

 

 

有咲の前に香澄が立ちはだかり、ゆりの大剣を防いだ。

 

有咲「香澄っ!?」

 

ゆり「退きなさい、香澄ちゃん!!」

 

香澄「イヤです!ゆり先輩が人を傷付ける姿なんて見たくありません!」

 

ゆり「こんな事が許せるかぁっ!!」

 

香澄は両腕と精霊の力で、何とか攻撃をいなしている。その最中、香澄の右手の花びらの4枚目が光る。

 

香澄「分かってます!」

 

ゆり「だったら!!」

 

香澄「でも、もし後遺症の事を知らされていても、結局私達は戦ってた筈です!」

 

ゆり「っ!!」

 

香澄「世界を守る為にはそれしかなかった!だから誰も悪くない!選択肢なんて誰にも無かったんです!」

 

ゆり「それでも!!知らされてたら私はみんなを巻き込んだりしなかった!!そしたら!!少なくともみんなは!!りみは無事だったんだぁっ!!」

 

香澄は両腕でゆりの攻撃を耐え続け、遂に両手の花びらの5枚目が光る。

 

香澄「ゆり先輩!そんなの違う!ダメです!」

 

有咲「はっ!?」

 

有咲が香澄の刻印に気付く。

 

ゆり「何が違うの!!」

 

ゆりが香澄に攻撃するが、香澄は大剣を右手で弾き返した。ここで、ゆりも香澄の右手の花びらが全て光っている事に気付く。

 

ゆり「香澄ちゃん…。」

 

 

 

その時--

 

 

 

りみ「もう、やめてお姉ちゃん。」

 

りみが後ろからゆりに抱きついてきたのだ。

 

有咲「っ!?りみ…。えっ?」

 

ゆり「うっ……うぅ………。」

 

その場で泣き崩れるゆりに香澄と有咲が近付いてきた。

 

ゆり「ごめん…。ごめん……みんな。うぅ…。」

 

りみ「私達の戦いはもう終わったよ。もう、これ以上失う事は無いから。」

 

ゆり「でも…。でも!私が勇者部なんて作らなければ!」

 

りみ「それは違うよ。勇者部のみんなと出会わなかったらきっと夢も持てなかった。お姉ちゃん、私は勇者部に入って本当に良かったよ。」

 

香澄「ゆり先輩。私も同じです。だから勇者部を作らなければなんて言わないでください。」

 

ゆり「うっ、うぅ…。うぅ、うぅ、うぁ……。」

 

りみは泣き出すゆりの頭を抱え込んで、抱き締めた。

 

ゆり「うあぁぁぁぁん!うあぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

りみは泣くゆりをただ抱き締め続けた--

 

 

 

やり切れない思いを抱える中、ゆりの泣く声だけが響いた--

 

 

 

 

 


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