戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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シリーズ物で過去作の話が出るのってなんか良いですよね。





神樹の記憶~お姉ちゃんの背中~

 

 

勇者部部室--

 

とある昼下がりの事、突然それは起こった。

 

友希那「山吹さん達は本当に小学生なのね。」

 

小沙綾「はい。まだまだ未熟なところもありますが、勇者として頑張っています。」

 

小たえ「仲良し小学生勇者3人組だよね。夏希、沙綾。」

 

夏希「そうだね。」

 

友希那「そう……。ねえ、リサ。」

 

リサ「どうしたの?」

 

友希那「子供だけれど大丈夫なの?」

 

小沙綾「っ!」

 

友希那のその何気ない一言が沙綾の気を悪くしてしまう。

 

夏希「あちゃー……。友希那さん、間違いなく地雷踏み抜いたよ。」

 

小たえ「そうだね。間違いなく踏み抜いたよ。」

 

そこへ事情を知らないあこと燐子、紗夜、高嶋がやって来る。

 

あこ「どうしたの?まさか、友希那さんが年下の子をいじめたとか!?」

 

燐子「友希那さんが…!?いじめは駄目です…。」

 

友希那「ひ、人聞きの悪い事を言わないで、あこ、燐子。」

 

友希那は必死で訂正する。

 

紗夜「湊さんは何をしたのですか?」

 

夏希「実は……。」

 

夏希は紗夜に事の顛末を説明する。

 

 

--

 

 

紗夜「そうですか……。湊さんは言葉が少なすぎます。真意が伝わらないと意味が無いですよ。」

 

高嶋「心配しなくても大丈夫だよ、紗夜ちゃん。友希那ちゃんの気持ち、きっと伝わるから。」

 

紗夜「…別に心配している訳では無いです。」

 

友希那「香澄、紗夜、ありがとう。……ごめんなさい、山吹さん。言葉を改めるわ。」

 

友希那は沙綾に向き直って謝り、言葉を付け加える。

 

友希那「まず、山吹さん達の力は認めているわ。一緒に戦ったし、心強い戦力よ。」

 

小沙綾「あ、ありがとうございます。」

 

友希那「その上で思ってしまうのよ……。年下を戦場へ出す事は良くないのかとね。」

 

小沙綾「………。」

 

しかし、沙綾は更にご立腹になってしまう。

 

燐子「…山吹さんの眉間にシワが……!」

 

夏希「友希那さん、見事に上げて落としましたからね…。いつもより3割増しで怒ってますよ。」

 

高嶋「うんうん、喧嘩する程仲が良いって言うしね。」

 

紗夜「そうでしょうか……?」

 

小たえ「きっと大丈夫ですよ。」

 

紗夜「どうしてそう思うんですか?」

 

小たえ「うーん、何となくですかね。でも、きっと大丈夫です。」

 

謎の自信を力説するたえに紗夜はただ肯定するしかなかった。

 

 

 

 

その一方友希那は--

 

友希那「……変な心配をさせてしまったわね…。」

 

友希那は沙綾を横目でチラッと見る。

 

小沙綾「………。」

 

沙綾は未だに頬を膨らませていた。そんな友希那に救いの手を差し伸べたのはリサだった。

 

リサ「そろそろ私の出番みたいだね、友希那。」

 

リサは友希那を連れて沙綾の前へ行く。

 

リサ「ここは私に任せて。」

 

友希那「リサ?」

 

リサ「2人に必要なのはきっかけだと思うんだ。」

 

小沙綾「きっかけ…ですか?」

 

友希那「そんなものあるかしら…?」

 

リサ「そうだね……例えば、友希那が初めて勇者として戦ったのは小学生の時だった、とかはどう?」

 

7.30天災が起こった時、友希那は今の沙綾たちより幼い小学5年生でバーテックスに立ち向かったのである。

 

小沙綾「………そうなんですか?」

 

これには沙綾も食いついてくる。

 

友希那「ええ……確かに、そうだったわね。」

 

リサ「いい機会だし、お互いを知る為に色々と話し合ってみたら?」

 

そう言ってリサは友希那の肩に手を当てる。

 

友希那「……そうね。一度とことん話し合うのも良いかもしれないわね。山吹さん。私から聞いても良いかしら?」

 

小沙綾「は、はい。」

 

友希那「どうしてあなた達は戦っているの?あなたが元いた時代は状況のせいだったかもしれない。けれど、今は私達がいるわ。無理しなくても良いのよ。」

 

小沙綾「私はみんなを守る為に戦っています。無理をしている訳ではありません。」

 

友希那「だけど、年上の私達があなた達を守る事は義務だと思うの。私達に任せる気はないかしら?」

 

小沙綾「確かに、年下が生き残るという考えも分かります。だけど、みんなを守りたいという気持ちに上も下も無い筈です。」

 

その言葉を聞いた友希那は笑みがこぼれる。

 

友希那「ふふっ……山吹さんは立派なのね。」

 

小沙綾「私からも聞いていいですか?」

 

今度は沙綾が友希那に尋ねる。

 

友希那「…ええ、何でも聞いて良いわ。」

 

少し離れた所で紗夜達が見守っている。

 

高嶋「友希那ちゃんと沙綾ちゃん。何だかいい感じになってきたよね。」

 

紗夜「そうですね。」

 

 

--

 

 

友希那「ごめんなさい、山吹さん。山吹さんは勇者よ。年齢なんか関係なかったわね。ちゃんと戦うべき理由と、守るべき相手を理解しているわ。」

 

小沙綾「いえ、私も友希那さんの物事に取り組む姿勢…勉強になりました。是非、一度鍛錬をお願いします。」

 

友希那「ええ、是非お願いするわ。」

 

腹を割って話し合った友希那と沙綾。それぞれの思いがある中、互いに一致した事は、"山吹沙綾は勇者であり、湊友希那は勇者である"という事だった。

 

 

--

 

 

あこ「あっ、話は終わったかな?」

 

燐子「そうだと思うよ…起こした方がいいかな…?」

 

2人の目線の先にはたえがぐっすりと眠っていた。

 

夏希「あ、私がやりますよ。ほら、起きて、おたえ!」

 

小たえ「ふぁ……、あれ?なんで夏希がいるの?」

 

紗夜「……随分と時間がかかりましたね。」

 

高嶋「時間なんて関係ないよ、紗夜ちゃん。あの2人が仲良くなれたのが一番だよ!」

 

燐子「今井さんは…こうなる事が分かっていたんですか…?」

 

リサ「あははっ!そんな事ないよ。こうなって欲しいなって思っただけ。あの2人、考え方が似てるでしょ。」

 

小たえ「確かに、似てるかも。」

 

リサ「でしょ。だからきっと仲良くなれるって思ってたんだ。」

 

あこ「2人とも頑固で真面目ですしね。」

 

紗夜「ですが、上手くいかない可能性もあったのではないですか?同族嫌悪…決定的に仲違いする事だってあります。」

 

そんな紗夜にリサは笑って答える。

 

リサ「大丈夫だよ。友希那なんだから。」

 

友希那「私がどうかした、リサ?」

 

リサ「2人が仲良くなって良かった、って話してたんだよ。」

 

友希那「そう……。リサ、きっかけを作ってくれてありがとう。それで、これから一緒に鍛錬をする事になったから行ってくるわね。」

 

部室から出て行こうとする友希那。すると、

 

高嶋「待って友希那ちゃん!せっかくだし、みんなでやろうよ!」

 

友希那「私は構わないわ。山吹さんはどう?」

 

小沙綾「はい、私も大丈夫です。」

 

友希那「なら、みんなで行きましょう。」

 

そう言ってみんなで部室を後にした友希那。その大きな背中を夏希は羨ましそうに見ているのだった。

 

小沙綾「夏希!置いてっちゃうよー!」

 

夏希「あっ!?待ってよー!!」

 

夏希はこの感情を胸に留めておき、沙綾達を追いかけた。

 

 

---

 

 

それからしばらく経ったある日--

 

夏希は自分の部屋であの時の友希那の事を考えていた。その時、扉をノックする音が聞こえる。

 

夏希「はーい、空いてますよー。」

 

扉を開けて入って来たのはゆりだった。

 

ゆり「こんにちは、ちょっとお邪魔するね。」

 

夏希「あれ、ゆりさん?どうしたんですか、こんな所に。」

 

ゆり「ちょっとね。夏希ちゃんはお昼ご飯はもう食べた?」

 

夏希「え?まだですけど…。」

 

ゆり「なら良かった!これ、お昼ご飯にどうぞ。」

 

ゆりが夏希に手渡したのは手作りのお弁当だった。

 

ゆり「今日ちょっと作りすぎちゃってね。もったいないと思って持ってきたんだ。」

 

夏希「ありがとうございます!早速頂きます!」

 

夏希はお弁当を夢中で食べ始めた。

 

夏希「お、美味しい!!」

 

ゆり「こらこら、慌てて食べないの。お茶もあるからね。」

 

夏希「……ぷはぁ!ありがとうゆりさん!私にこんなにしてくれて…。」

 

ゆり「良いんだよ。ご飯を美味しく食べてくれる人を見てると、こっちまで嬉しくなってくるから。」

 

夏希「くぅぅ……!ゆりさんは、きっと良いお嫁さんになります!」

 

ゆり「そ、そうかな……。」

 

ゆりは頬を赤らめる。

 

夏希「私、ゆりさんの事は本当に尊敬してるんです。りみさんが妹って事が羨ましいくらいです。」

 

ゆり「ど、どうしたの急に…照れるなぁ。」

 

夏希「……そっか。これが…。」

 

夏希はずっと心に残っていた情景の正体が分かったのだった。

 

ゆり「ん?どうしたの、夏希ちゃん。」

 

夏希「憧れ…。私、お姉ちゃんっていう存在に憧れがあったんです。」

 

ゆり「夏希ちゃん…。」

 

夏希「ウチにも小さい弟がいるから、私も姉と言えば姉なんですけど、理想の姉と違い過ぎるっていうか…。自分自身と憧れの姉像とのギャップが埋まらなくて、結構悩んだりもしたりとかしちゃったりして…。」

 

ゆり「……そうだったんだね。沙綾ちゃんとたえちゃんはどう成長するか分かってるけど、夏希ちゃんは未知数だったけど考え方は十分大人になってると思うよ。」

 

夏希「不思議ですよねぇ。2年後の私は、一体どこで何してるんだろう。」

 

ゆり「大赦勤めっていう話じゃなかったっけ?まぁ何にせよ、私の懸念は杞憂に終わったって事だね。」

 

夏希「え?けねん?きゆーって何ですか?」

 

ゆり「あははっ、でもそういう小学生らしさがたまに出るのが、沙綾ちゃんとたえちゃんよりも好ましい所だね。」

 

夏希「んん?よく分からないです…。」

 

ゆり「私の周りにいる年下の子達はしっかりし過ぎてて、気が抜けないところがあるんだ。最近は、りみですら大人びた事言ってくるんだから。」

 

夏希「あはは、りみさんなら言いそうですね。」

 

ゆり「でもあの怒り顔がたまらなく可愛らしいんだ。妹に怒られるのは嬉しいような悲しいようなだけど。」

 

夏希「私もそれ分かります!」

 

2人のお姉ちゃんトークに華が咲く。

 

ゆり「そうなの?でも夏希ちゃんの弟って、まだまだ小さいでしょ?」

 

夏希「いやぁ…そうなんですけど、日に日に大きくなってくるのをヒシヒシと感じてたんです。あ、これは将来は私より背が高くなるな、とか。」

 

ゆり「そこまで分かるんだ!?で、でも背を越されるのは姉と弟の宿命じゃないかな。」

 

夏希「想像したくないです。弟の方が大きくなって、逆に私が頭を撫でられたりするのかと思うと…。」

 

ゆり「……今、そんなに悪い気がしないって思ったでしょ。」

 

夏希「お、思ってないですよ!その…ちょっとだけです、ちょっとだけ!」

 

顔を真っ赤にしながら夏希は訂正する。

 

ゆり「正直でよろしい。」

 

夏希「ちょっとだけでもそう思ったのはですね。実は、細やかーな夢があるんです。」

 

ゆり「何?」

 

夏希「恥ずかしいなぁ…。」

 

ゆり「勿体ぶらないでさぁ!」

 

夏希「…いつか、私の弟が逞しく立派に育ったら、一緒に平和を守っていきたいなって。」

 

ゆり「……!夏希ちゃん…。」

 

夏希「ゆりさんとりみさんを見ていたら、更にその気持ちが強くなっちゃって…励みになるんです、実際。」

 

ゆり「でも、勇者は…。」

 

夏希「分かってます。男子は勇者にはなれませんからね。そこがネックなんです。やっぱり妹も欲しいかも!」

 

ゆり「ぷっ、夏希ちゃんったら…。」

 

夏希「あ、でも妹の前にお姉ちゃんが欲しいかも!ゆりさん、私のお姉ちゃんになってくれませんか?」

 

ゆり「え……?」

 

夏希「お姉ちゃんって呼んでみても良いですか?」

 

ゆり「……勿論!いつでも呼んで!」

 

夏希「本当ですか!?ありがとう、お姉ちゃん!」

 

ゆり「私こそありがとう!これで妹が2人に増えたね。」

 

ゆりは夏希を抱きしめる。

 

夏希「あはは、苦しい!…でもこういうの良いなぁ!お姉ちゃんに抱きつかれるって、こんな感じなんだ!」

 

ゆり「いつでも抱きついてあげるね。」

 

夏希「あれ?という事は、りみさんも私のお姉ちゃんになるって事になるのか!」

 

りみ「ん?まぁ、そうなるね。」

 

夏希「じゃありみお姉ちゃんにも抱きついてもらわなくちゃ!ちょっと行ってきます!!」

 

夏希は大急ぎで外へ走って行ってしまう。その背中を見つめるゆり。

 

ゆり「あははっ、本当に元気なんだから夏希ちゃんは…。」

 

そこへ、沙綾とたえがやって来た。

 

 

 

 

ゆり「……これで良かったのかな…。」

 

中沙綾「ありがとうございます、ゆり先輩。」

 

中たえ「夏希のあんなに嬉しそうな顔、久しぶりに見たよ。」

 

ゆり「まだ本当の事は言わないの?」

 

中沙綾「もう少し…もう少しだけ……。」

 

中たえ「運命を変える方法があるかは分からない…けど、全力で探してるから…。」

 

ゆり「……そうだね。夏希ちゃんが幸せならそれで…。」

 

確かに今ここで夏希は生きている。いつか帰るその日まで、2人は運命を変える方法を探し続けるながら夏希との時間を精一杯過ごしていくと改めて誓うのだった。

 

 

 


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