いつも真面目だったあの人のキャラが……。
勇者部部室--
夏の暑さも本格的になり蝉の声も聞こえだした頃、花咲川中学の2年生は林間学校に行く季節となった。
友希那「今日から、私達2年生は林間学校に行くわ。留守中宜しくお願いします。」
ゆり「大袈裟だよ友希那ちゃん。2泊3日でしょ?あっという間に終わっちゃうよ。」
別の時代からこの異世界にやって来た勇者達も便宜上元いた時代の学年に合わせての学年に編入されている。
紗夜「いいえ…長いです。長すぎます……。高嶋さんが大丈夫か心配です…。」
高嶋「大丈夫だよ、紗夜ちゃん。直ぐ帰って来るから。」
燐子「私も、異世界に来て初めてあこちゃんと離れるので…少し不安です……。」
あこ「あこも…。いない間に、敵が来たら誰がりんりんを守るの?」
特に西暦組は少しの間離れ離れになってしまう事が少し不安だった。元の時代ではこの様な事は無かったのだから。
薫「私に任せてくれ。」
燐子「薫さん……良いんですか…?」
あこ「だ、ダメダメ!りんりんはいいから、薫はりみでも守ってて!」
りみ「私でも……ってどういう事!」
小沙綾「私の不安は、留守番の中に1人も巫女がいないという点なんですけど…。」
リサにモカ、そして素養のある沙綾も林間学校に行ってしまうので、その間勇者部には巫女がいなくなってしまう。
小たえ「連絡はいつでも取れるから大丈夫だよ。"カガミブネ"だってあるし。」
リサ「そうそう。敵の動向は常に気を付けてるから、何かあったらすぐ連絡するよ。」
ゆり「でも、できればあまり気にしないで羽を伸ばしてきてね。」
夏希「良いなー。私も行きたかったです。お土産買ってきてくださいね!」
中たえ「楽しみだなぁ。どんな事するんだろう?」
中沙綾「おたえ……林間学校のしおり読んでないの?」
美咲「私も読んでない。山吹さんが作ったしおり分厚過ぎて枕にもならなかったよ。」
しおりというのは沙綾が事前に作って来た広辞苑ほどの分厚さを持つものの事である。小学校の時にも似たようなものを夏希とたえに作って来た経験があった。
有咲「バスで移動して、晩御飯は自分達で作る。なんてことない、普通の林間学校だな。」
蘭「それでも楽しみ。モカとどっか行くっていうのは初めてだし。」
モカ「バスの中では何しようか、蘭?トランプも、おやつもいっぱい持って来たよ。」
モカのリュックは今にもはち切れんばかりにパンパンだった。そうこうしている間に出発の時間となる。
りみ「みんな、気を付けてね。」
薫「楽しんでくるといい。」
香澄「はいっ!花咲川中学勇者部所属2年生一同、林間学校に行ってきまーす!」
---
バス車内--
勇者部のみんなはバスの後部に纏まって座っている。
中たえ「zzzz…zzzz……。」
バスに乗って僅か3秒、たえは夢の中へ行ってしまう。たえの隣に座っていた美咲はふと横の友希那に目をやると、
友希那「zzzz…zzzz……。」
友希那もまた夢の中に誘われていた。
美咲「ははっ、流石の血縁同士だね。」
美咲は乾いた笑みを零す。
香澄「ねぇ聞いた?目的地に着いたらくじ引きで、グループ分けをするんだって!」
前の席で香澄達の元気な声が聞こえる。
リサ「あっ、それなんだけどね、勇者が一般生徒と同じ班になると、色々不都合が生じるから、私達は、勇者部の中だけで2班に分かれる事になってるよ。」
有咲「まったく……大赦はそういう手回しだけは、しっかりしてんだな…。」
蘭「モカと一緒のグループになれると良いけど…。」
高嶋「大丈夫だよ!山吹さんも戸山ちゃんと同じ班になれると良いね!」
中沙綾「私と香澄は大丈夫だよ。必ず一緒になるって信じてるから。」
リサ「そうだね。私も友希那と絶対に一緒になれるって信じてるよ。」
美咲「いや、でもくじ引きですよね?2分の1の確立とはいえ、絶対って事は……。」
リサ「絶対だよ♪」
リサはご機嫌で美咲にウインクする。
有咲「ま、まさか……くじに細工を!?」
有咲の質問にリサは不敵な笑みを浮かべるだけだった。
香澄「高嶋ちゃーん、お菓子食べなーい?」
高嶋「ありがとー、食べるー♪」
沙綾は香澄がお菓子を食べている姿を遠くでこっそり見ているのだった。
そしてバスは目的地に到着し、班分けの運命のくじ引きが始まる--
---
旅館、B班の部屋--
中沙綾「……………………………はぁ~。」
山吹沙綾は落ち込んでいた。B班のメンバーは沙綾、リサ、友希那、高嶋、有咲。
友希那「ど、どうしたの山吹さん……。まるで抜け殻のようよ…。」
有咲「香澄と班が違うからってそこまで、落ち込む事無いだろ!?」
有咲が言う通り、香澄はA班、沙綾はB班になってしまったからである。
リサ「単にくじ運がなかっただけだよ。くじ引きなんて、所詮は単なる偶然だよ。」
有咲「さっきと言ってる事が違うぞ……。」
そんな事を言うリサは友希那と同じB班。それがリサの細工かどうか、真相はリサのみが知る。
友希那「戸山さんなら、すぐ隣の部屋だしこっちには香澄がいるわよ?」
高嶋「あ、あはは……。それはあんまり……慰めになってないかもよ、友希那ちゃん。」
中沙綾「……香澄…?香澄!!あ、ごめんね……間違えちゃった。」
高嶋「う、うん……高嶋です。なんか、ごめんね…。」
今の沙綾は戸山香澄と高嶋香澄の声も勘違いしてしまう程にショックを受けていた。
有咲「謝る必要ないぞ。落ち込み過ぎは同じ班の私らに失礼だぞ、沙綾!」
中沙綾「ごめんね……みんな。心が折れちゃったよ。私の事は気にしないで……。」
リサ「そういう訳にはいかないよ。沙綾も一緒に楽しもうよ。」
有咲「そうだぞ。きっと、ワイワイやってるうちに気が紛れるから、元気だせ!」
--
一方のA班--
あこ「元気出して。あこだってりんりんと離れ離れなんだから。」
A班のメンバーは香澄、たえ、あこ、蘭、モカ、美咲
香澄「うん、そうだよね!さーやもあっちで頑張ってる筈だし、私も楽しまないと!」
香澄はあこに励まされ元気を取り戻す。
モカ「最初は落ち込んでたみたいだけど、何とか持ち直したね。」
蘭「そうだね。いっその事沙綾の事忘れる程に楽しんで帰ろう。」
そんな中、美咲が1つの懸念材料を口にする。
美咲「それより……こっちで料理出来そうな人っている?それが心配なんだけど……。」
蘭「そんなのみんなで協力してカバーするよ。あっちより美味しい夕食作ってみせるから。」
あこ「それは流石に無理なんじゃないかな。向こうには沙綾がいるんだから。」
美咲「それはそうだね。どんな料理も超一流になっちゃうんだから。」
そんな事を話しているが、美咲たちはB班の現状を知らないでいたのだった。
--
B班の部屋--
中沙綾「……………………………はぁ~。」
有咲「どうする……。本格的に沙綾が使い物にならない……。晩御飯の危機だ。」
友希那「そんな事は無いわ。献立はカレーでしょ?それくらい、私達で何とかしてみせるわ。」
高嶋「そうだね。みんなで作れば楽しいし、きっと美味しいのが出来るよ!」
リサ「沙綾の気分が晴れるようなカレーを作って食べさせてあげよう。」
4人は沙綾抜きで頑張る事を決意する。
中沙綾「…………………はぁ~。本当にごめんね。香澄がいないと……力が出ない………。」
---
B班の調理場--
山吹沙綾は未だに落ち込んでいた。
有咲「ちょっと、沙綾!いい加減に機嫌直して、頼むから美味しいカレーを作ってくれ!」
中沙綾「カレー…………?」
有咲「そ、そう、カレーだよ!沙綾にとっては簡単すぎるメニューだろ!」
有咲は必死で沙綾の機嫌を直そうと努力するのだが、
中沙綾「嫌っ!」
友希那「どうしたの?」
中沙綾「嫌っ嫌っ!香澄の為でもないのに作りたくないっ!そんなの拷問だよ!」
沙綾は頑なに料理をするのを拒んだのである。
高嶋「リ、リサちゃん、どうしよう?取り敢えず、材料は揃ってるけど……。」
リサ「カレーなら私が作れるから心配いらないよ。さ、友希那、エプロン着けて♪」
友希那「市ヶ谷さん、私達一緒に手伝いましょう。まずは野菜ね……。切るのは得意よ。」
有咲「私達が得意なのは包丁じゃなくて、刀でぶった斬る方だけどな……。」
--
A班の調理場--
香澄「う…うぅ……ヒック……グス……ッ…。」
中たえ「香澄、なんで泣いてるの?」
香澄「た、玉ねぎが……目にしみて…うぅ。」
香澄は玉ねぎと格闘中だった。
あこ「おーい、モカちーん。ジャガイモの皮むき終わったよ!」
モカ「おー。……って剥き残しがいっぱいあるよ!」
あこ「でも、皮には栄養がいっぱい入ってるって前にテレビで言ってたよ?」
蘭「ジャガイモの芽には毒があるから手抜きは駄目だって。」
美咲「こっちはニンジン切り終わったよー。」
こっちはB班とは違い、スムーズに料理が進んでいる。
--
B班の調理場--
リサの助けもあって、こちらも順調に作業が終わり具材を炒めている。
高嶋「おお~。すでにもう良い匂いがしてきたよ。」
友希那「ここまで順調に来れたし、少し希望が見えてきたんじゃないかしら?」
有咲「まあな。沙綾の手を借りなくてもカレー位どうって事ないな!」
その時だった。
リサ「心配ないって最初から言っ……………あ!?」
巫女達に神託が降る。
友希那「敵襲なの!?」
中沙綾「敵……。樹海に行けば……香澄に会える!ありがとう、バーテックス!!」
沙綾は爆弾発言をかまし、樹海へと一目散に走りだした。
有咲「ちょっと!!不謹慎過ぎてどっかから苦情が来るレベルだぞ、今のはーーーっ!!」
リサ「みんな、分散は危険だからすぐ沙綾を追って!」
友希那「分かったわ!」
4人もすぐに沙綾の後を追った。
---
樹海--
中沙綾「どこっ!香澄、どこにいるの!?ええい、邪魔するなーーーーーっ!!」
4人が樹海へ辿り着くやいなや、沙綾はバーテックスに向かって銃を所かまわずに乱射していた。
友希那「す、凄まじい気迫ね……。心なしか、敵が進軍を躊躇っているわ。」
その時リサから勇者達へ連絡が入る。
リサ「友希那。バーテックスが2手に分かれたよ。沙綾のいる中心を避けたみたい。香澄の班は東、友希那の班は西側に回り込んで対処して!」
友希那「分かったわ。西へ移動よ、山吹さん!」
友希那は沙綾へ指示を出すのだが、
中沙綾「香澄ーーーーー!!ああっ、香澄!?こっちだよーー!私はここだよーーっ!!」
沙綾は全く聞く耳を持っていない。
香澄「あっ!さーやーーーー!!私、頑張るから、さーやも頑張ってねーーーー!」
遠くの方で沙綾を見つけた香澄は手を振って沙綾に叫ぶ。
中沙綾「む、無理だよ……頑張れないよ……香澄ぃ…。私を1人にしないって言ったのに……!」
有咲「この世の終わりみたいなのやめろぉ!沙綾のせいで敵が進路変更したんだぞ。」
高嶋「みんなっ、敵が来てるよ!勇者パーーーンチッ!」
有咲と高嶋は必死で沙綾をフォローしながら星屑を倒していく。
中沙綾「勇者……パンチ…香澄の……技。高嶋さん……あなたはどうして香澄なんですか………?」
高嶋「え、えっと……お父さんとお母さんが色々相談した結果、この名前に……。」
有咲「戦闘に集中しろぉーーーーーーーっ!!!!!」
--
樹海、東側--
香澄「勇者パーーーンチッ!!」
いつにも増して気合充分な香澄は星屑を次々と倒していく。
香澄「早くこっちを片付けて、さーやの班を助けに行かなくちゃ!」
美咲「あはは……その心意気やよし。」
中たえ「おお~。」
あこ「なんかもうバーテックスより怖いよ……。」
香澄「流石さーや…。私も見習わないと。誰か!私と一緒に前に出てくれる?」
あこ「あこに任せて!雑魚は近付けさせないから思いっ切りやってきて!」
--
樹海、西側--
中沙綾「ぉぉぉああああああああああああっ!!!敵を排除して早急に東側と合流しますっ!!」
友希那「え、えぇ……。」
有咲「私ら、出撃する意味あったか?」
西側は沙綾の気迫迫る攻撃により、ほぼ壊滅状態にあった。
高嶋「山吹さんにとって、戸山ちゃんの存在ってとっても大きいんだね…。」
有咲「こんな能力を発揮するなら、いっそ常に2人を引き離しておくのも良いかもな。」
有咲は今地雷を全力で踏み抜いた。
中沙綾「あ~り~さぁ~………。」
有咲「ヒッ!!」
友希那「山吹さん、落ち着いて…。落ち着いて深呼吸するのよ……。」
高嶋「冷静になって!戸山ちゃんが今の山吹さんを見たら、きっと悲しんじゃうよ?」
高嶋の一言で、沙綾が一瞬元に戻る。
中沙綾「あ………つい、正気を失って……。どうしよう……自分を制御できない………。」
有咲「リーダーどうする?」
友希那「わ、私に振らないで頂戴…。山吹さんは神世紀組。扱い方は市ヶ谷さんの方が得意な筈よ…。」
中沙綾「あぁ…私の弱さが、みんなに迷惑をかけてる……。責任を取って戦線離脱します……。」
あろうことか、沙綾は敵に背を向けて帰ろうとしてしまう沙綾なのだった。
---
旅館、B班の部屋--
3人が帰ろうとする沙綾を必死で留めながら"大型"バーテックスを打ち倒し、何とかバーテックスを殲滅した勇者たちは旅館へと戻ってきていた。
リサ「みんなお疲れ。カレー、美味しく出来たよ♪」
有咲・友希那「「……………。」」
有咲と友希那はいつも以上の疲労に襲われていた。
リサ「ど、どうしたの?今回の戦闘は、規模としてはそれ程……。」
中沙綾「ブツブツ……香澄………戦闘が終わ……っ…なのに…いな………ブツブツ……。」
高嶋「あは…は……は…はぁ……。山吹さん…どうしたら、元気出してくれるかなぁ。」
戦闘が終わった後、沙綾さっき以上に落ち込んでいた。遠くで会う事には会えたが、一緒に戦えると思っていた樹海でも香澄に会う事は出来なかったからだ。
--
A班の部屋--
あこ「美味しいっ!!」
中たえ「今まで食べたどのカレーよりも美味しいよ!!」
A班はB班とは打って変わって、出来上がったカレーに舌鼓を打っていた。
香澄「さーやも今頃、美味しいカレーを食べてるよね、きっと♪」
美咲「そうだね。意外と美味しく出来上がってるよ。」
B班の様子を香澄達はまだ知らない。
--
B班の部屋--
友希那「…美味しいわ。流石リサね。」
リサ「そりゃあ、友希那達が戦ってる間、じっくり煮込んでたからね。」
中沙綾「クスン…クスン……香澄……香澄ぃ…。」
遂に沙綾は泣き出してしまう。
高嶋「山吹さんっ。私なんかじゃ、戸山ちゃんの代わりにはなれないと思うけど……。この林間学校の間だけは、私を戸山ちゃんだと思って、甘えてほしいな。はい、ア~ン♪」
そう言って高嶋は沙綾にカレーを食べさせてあげる。
中沙綾「え……?あ、あ~ん……………美味しい。」
有咲「そりゃそうだ。みんなで頑張って作ったんだからな。」
中沙綾「あの……すみませんでした。どうしても……香澄がいないと……私。」
やっと正気を取り戻した沙綾はみんなに謝った。
リサ「解るよ、沙綾。その気持ちは……。痛い程良く解る。」
高嶋「でもさ、お互いの楽しかった事を報告し合う楽しみが出来るし、帰りのバスで盛り上がれるよ!私もずっと考えてるもん。帰ったら、紗夜ちゃんにあれも話そう、これも話さなきゃって。」
離れ離れになったのは沙綾だけじゃない。高嶋だって紗夜と離れ離れになっている。しかも沙綾とは違って紗夜はこの場にいないのだ。
高嶋「ほらっ!いっぱい食べて元気出そう!」
中沙綾「………そうだよね。」
高嶋に食べさせてもらう事で少しづつ元気を取り戻して行った沙綾。波乱の林間学校はまだまだ続いていく--