最後は待機組のお話。離れ離れで理性崩壊寸前なのは沙綾だけではなかった--
勇者部2年生のみんなが波乱万丈な林間学校をおくっている頃、残った1、3年生組はというと--
勇者部部室--
紗夜「はぁ……。高嶋さん………今頃どうしているでしょうか……。」
そう呟く紗夜の目には光が宿っていなかった。
小沙綾「紗夜さん、お茶を淹れましたからこっちへ来ませんか?」
紗夜「…………。」
沙綾の声かけにも無反応だ。
ゆり「あらら、無視されちゃった…。」
燐子「無視というより…聞こえていないようです…。」
紗夜「……164800……164799……164798……164797……。」
りみ「……何かブツブツと数字を唱えているようですが…。」
夏希「分かった!ゲームのスコアだ!」
紗夜「高嶋さんが戻るまで……後164794秒……164793秒……164792秒……。」
紗夜が呟いていた数字は林間学校から2年生達が戻ってくるまでの残り時間だった。
ゆり「怖い怖いっ!!怖すぎるよ!」
小たえ「3日間、毎秒カウントダウンしてたら喉が嗄れちゃいますよ?」
薫「そ、そういう問題だろうか…。」
ゆり「高嶋ちゃんがいないだけで、こんなに負のオーラが溢れ出しちゃうなんて…。」
小沙綾「たった3日間だけなのに…。」
燐子「それでも…大切な人がいないのは寂しいです……。どんなに短い時間でも…。」
ただ1人、燐子には紗夜の気持ちが分かっていた。燐子もあこと離れ離れになっているからだ。
ゆり「そっか、燐子ちゃんも…。燐子ちゃんは平気なの?」
燐子「平気では無いですけど…あこちゃんは私がクヨクヨしてるのは喜ばないと思いますから…。」
ゆり「……いい子だよ!燐子ちゃんは本当にいい子だよ!りみの次くらいに!」
夏希「元気出してください、燐子さん!」
小たえ「私達と遊びましょう!」
小沙綾「楽しくしていれば、時間が経つのも早く感じられますから。」
燐子「ありがとう…みんな…。」
ゆり「………いい子だよ!みんな本当にいい子だよ!りみの次の次の、その次と、そのまた次くらいに!」
りみ「お、お姉ちゃん…もう止めてぇ……。」
紗夜「……164570……164569……。」
小たえ「……98671……27423……61951……。」
夏希「お、おたえ…何やってるの?」
小たえ「別の数字をぶつけたら気が散って止めるかと思って。」
紗夜「……164558……164557……。」
今、紗夜の耳には余計な雑音は聞こえておらず、呟く数字に1ミリのズレも生じていなかった。
ゆり「はぁ…。どうしたもんかな…。」
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紗夜「……163140……163139……16万3ぜ……………っ?」
しばらく経ち、突然紗夜のカウントダウンが止まる。
夏希「と、止まった!?」
小たえ「紗夜さん、遊んでください!」
次の瞬間、ゆりの端末に連絡が入る。
ゆり「ん?ちょっと待って。……はい、ゆりだよ。え?敵襲!?……ううん、こっちは大丈夫……分かった。」
かかって来た内容は敵襲があったという知らせ。紗夜は高嶋に会いた過ぎる本能が余りにも強すぎた為、直感が巫女の神託並みに研ぎ澄まされていたのである。
燐子「今井さんからですか…?」
りみ「敵が来たの?」
ゆり「うん、もう撃退したみたいだけどね。」
薫「私達が分散した所を狙って来たんだね…。」
すると突然紗夜が部室から出て行こうとする。
小沙綾「紗夜さん、何処へ行くんですか?」
紗夜「………私が傍にいない間に高嶋さんを襲うなんて……許さない。」
紗夜の周りをドス黒いオーラが漂っている。
ゆり「ちょ、ちょっとちょっと!もう戦闘は終わったんだよ!?」
紗夜「…………コロス。」
夏希「ひぇっ!?」
小たえ「ダークサイドだ…。」
紗夜「……例え暗黒面に堕ちようとも……高嶋さんだけは……私が守る…。」
ゆり「あ、あのぉー…敵はもういなくなったし、高嶋ちゃんも無事なんだけど…。」
紗夜「……見たんですか?」
ゆり「へ?」
紗夜「高嶋さんが元気にしている所を見たんですか?」
ゆり「い、いえ………。」
紗夜「だったら私は信じません。自分の目で確かめるまでは……。」
紗夜の瞳は本気だった。光さえ吸い込んでしまいそうなその真っ黒な瞳には冗談など欠片も、微塵も感じなかった。
小沙綾「こ、これは、かなり重症ですね…。」
紗夜「重症!?高嶋さんが!?どうしよう、行かないと……!」
どうなる、待機組!?
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紗夜「止めないでください!私は行きます!」
りみ「と、止めないでって……何処へ行くつもりですか?」
薫「向こうに来たという事は、ここにも来るかもしれないね。」
ゆり「そうなんだよね…。だから、紗夜ちゃんの気持ちも分かるけど、ここにいてくれないかな?」
ゆりは逆撫でしないよう諭すように声をかける。
紗夜「うっ……それは………っ。」
やっと紗夜は平静を取り戻した。
燐子「氷川さん…少し気を紛らわせないと身体にも毒ですよ…?」
夏希「一緒にゲームしませんか!今日こそは負けないですから!」
紗夜「……すみません…そんな気分では無いんです…。」
みんなが紗夜を気にかけるなか、とうとうゆりが痺れを切らした。
ゆり「あぁ〜もぅ〜……紗夜ちゃん!今日はうちに泊まりに来て!」
紗夜「………えっ?」
ゆり「そんな状態で1人にしておけません。良い?これは部長命令だからね!」
紗夜「………お断りします。」
首を縦に振らない紗夜に対し、りみは切り札を投入する。
りみ「……高嶋さんに言いつけちゃいます。紗夜さんが悪い子だったって。」
紗夜「…………っ!?……分かりました。」
伝家の宝刀を切られてしまい、紗夜は首を縦に振る。
夏希「りみさん凄い……。」
小たえ「お泊まり会良いなぁ。」
ゆり「分かってくれたなら早速行きますか。」
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牛込宅、リビング--
牛込姉妹に諭され、渋々泊まりに来た紗夜。
紗夜「どうしてわざわざ…こんな。独りで大丈夫なのに…。」
ゆりは晩御飯を作っている。
ゆり「紗夜ちゃんは何か嫌いな物とか、食べられない物とかある?」
紗夜「…どうでも良いです、食事なんて。」
りみ「あっ、正解です!」
紗夜「え?」
りみ「正直に言ったら、その食材を上手に隠して、絶対に食べさせようとするんです…。微塵切りとか、すり潰したりとかの方法で。」
コソコソとりみが紗夜に耳打ちする。
紗夜「そ、そうなんですね…。」
紗夜は人参が嫌いだ。りみからその事を言われ少し胸を撫で下ろす。
ゆり「り〜み〜、聞こえてるよ〜。」
りみ「お、お姉ちゃん!?いつの間に…。」
ゆり「悪い子にはこうだ!コチョコチョ!」
りみ「アハハハッ!やだやだ、ごめんなさい!お姉ちゃ…っアハハハッ!」
姉妹の仲睦まじい風景。紗夜が味わって来なかった風景が目の前に広がっている。
紗夜「……姉妹って、こんな感じなんですね。宇田川さんや白金さんとはまた違った……。」
ゆり「それはそうだよ!私とりみは正真正銘血の繋がった本当の姉妹だからね!」
りみ「羨ましくなりました?」
紗夜「別に……そんな事は…。」
ゆり「名誉姉妹になる?それっ!コチョコチョ!」
紗夜「なっ!?止め…っ!なにす…っ!フッ!フフフフフッ!」
流石の紗夜もゆりのくすぐりテクには敵わず笑ってしまう。
ゆり「あっ、やっと笑ったね。」
紗夜「ど、どういう事ですか…。」
ゆり「無理にでも笑えば、気持ちは後からついてくるものだよ。」
りみ「逆に、暗い気持ちの時に暗い顔をしてると、どんどん気が滅入っちゃいます。」
紗夜「だからってどうして……。あなた達には関係無い事じゃないですか…。」
ゆり「見たかったんだよ、紗夜ちゃんの笑顔が。」
紗夜「え…っ?私の…笑顔?」
ゆり「紗夜ちゃん、高嶋ちゃんが行っちゃってからずっと暗い顔しかしてなかったからね。友達がそんな顔してるのを喜ぶ人間なんて勇者部には1人もいないんだから。ね?りみ。」
りみ「うん!」
紗夜「友……達…。」
友達という言葉の響きが紗夜の胸を熱くする。
りみ「名誉姉妹にもなった事ですし、今夜は楽しく過ごしましょう!」
その時、端末からアラームが鳴り出した。
ゆり「……やっぱり来たね…。」
りみ「巫女がいなくて、神託が聞けないけど大丈夫かな…?」
紗夜「とにかく、行きましょう!」
3人は樹海へと急いだ。
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樹海--
樹海では先に小学生組と薫、燐子が戦っていた。
夏希「おりゃーっ!」
薫「燐子ちゃん、君を危険な目には合わせないよ。下がっていてくれ。はぁっ!」
燐子「こ…この辺りにいれば良いですか…?」
燐子は薫の後方3メートル程に退避する。
薫「もっとだ。あこちゃんのいない間に怪我でもしたら大変だ。」
星屑の相手をしながら薫は更に下がるよう指示する。
燐子「薫さん…!ここで大丈夫ですか…?」
燐子は更に5メートル程下がる。
薫「後100歩は下がるんだ!」
小沙綾「い、いくらなんでも下がりすぎでは?」
小たえ「過保護だ。」
そこへ、
紗夜「はぁーーーっ!」
牛込姉妹と紗夜が合流する。
ゆり「待たせちゃったね。敵はどんな感じ?」
小たえ「全然余裕です。」
りみ「私も頑張る!えーーいっ!!」
紗夜「白金さん、作戦は?あら?白金さんは何処ですか?」
夏希「燐子さーーん!紗夜さんが呼んでまーーす!!」
夏希が彼方で待機していた燐子を大声で呼びよせる。
りみ「何であんなに遠くに…?」
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3分後--
燐子「はぁ…はぁ……。お、お待たせ…しました……。何で…しょうか……?」
燐子は既に満身創痍である。
紗夜「作戦を聞きたかっただけなのですが、大丈夫ですか?」
燐子「氷川さん…あれ?気のせいでしょうか…?先程より元気になったみたいですね…。」
紗夜「ええ…。私が落ち込んでる所なんて、誰も見たくは無いでしょうから。」
燐子「そうですね…。みんなも、高嶋さんも…。」
紗夜「高嶋さんには笑っていて欲しいですし…もし、高嶋さんも同じ気持ちなら…。」
燐子「高嶋さんも…氷川さんには笑顔でいて欲しい筈です…絶対…!」
紗夜「寂しいのは変わらないけれど、一緒に頑張りましょう、白金さん。」
燐子「はい…!」
高嶋もあこも2人には笑っていて欲しい筈。2人の帰りを笑顔で迎える為にも、紗夜と燐子は戦いに臨むのだった。
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小沙綾「殲滅完了です!お疲れ様でした。」
夏希「さっ、帰ってトランプの続きでもやろう!」
小たえ「それも良いけど、先にお風呂に入りたいな。」
ゆり「私達も帰りますか。もう準備は出来てるからね。」
紗夜「え、準備……?」
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牛込宅、リビング--
食卓にはゆりお手製の料理が沢山並べられていた。
紗夜「こ、これは…。」
ゆり「お腹が減っては笑顔になれぬ!さ、いっぱい食べてね!」
紗夜「料理上手なのは知っていましたが、これは……凄いですね。」
りみ「いくらなんでもこれは作りすぎだよ、お姉ちゃん。私も紗夜さんも少食なのに。」
ゆり「私が食べるから大丈夫!紗夜ちゃん、手は洗った?」
紗夜「え、ええ…。」
ゆり「なら、オッケー!冷めないうちに食べてね。」
2人は料理を食べ始めた。
りみ「あ、紗夜さん。ドレッシング取ってもらえますか?」
紗夜「はい、どうぞ…。」
ゆり「口に合うかな?」
紗夜「ええ……美味しいです。………家族の食卓って、こんな感じなんですね。騒々しいですが………なんだか楽しいです。」
紗夜は胸に手を当てて呟く。今目の前に広がっている光景は、紗夜が今まで味わう事が出来なかった暖かい光景。みんなにとっては当たり前の光景かもしれないが、紗夜にとっては初めての、至福の時間--
紗夜「いつか……高嶋さんとも……こんな感じになれたら…良いですね…。」
ゆり「またいつでも来てね。今度は高嶋ちゃんと一緒に。」
紗夜「………ええ、是非。フフッ。」
自然と笑顔が溢れる。離れ離れで過ごす事も、たまには悪くない--
かもしれないと思う紗夜なのだった。