戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

169 / 326
文化祭後編のお話。

長かった記憶の旅路も遂に終わりが近付いて参りました--
もう少しだけお付き合い下さい。




神樹の記憶〜幸せの味〜

 

 

勇者部部室--

 

ゆり「さて、と。料理の方は目処が立ってきたから、後は内装と服だね。」

 

燐子「内装は…何か特別な事をするんですか…?」

 

ゆり「大掛かりな事はしないよ。ちょっとした飾りを作って、テーブルクロス敷いて、音楽かけるくらいかな。」

 

りみ「音楽なら任せて、お姉ちゃん。」

 

ゆり「うん、お願いね。」

 

美咲「となると、後は服?」

 

紗夜「エプロンで良いんじゃないですか?」

 

中たえ「それはダメだよ。折角だから可愛い服とかにしよう?」

 

紗夜「…面倒ですね…。」

 

次の瞬間、たえがニヤリと笑い、

 

中たえ「良いんですか、紗夜さん?高嶋さんに可愛い服着て欲しくないんですか?」

 

紗夜「うっ……⁉︎そ、それは…。」

 

紗夜の心は揺れ動く。まるで振り子の様に激しく。

 

高嶋「紗夜ちゃん?」

 

ゆり「紗夜ちゃんの心を弄ぶのは止めてね、たえちゃん。」

 

香澄「さーやは、どんな服が良いと思う?」

 

中沙綾「香澄は何着ても似合うよ!」

 

美咲「普通の喫茶店でしょ?普通のウェイトレスの格好で良いんじゃないですか?」

 

ゆり「……そうだね。メニューがメニューだし、服くらいは普通で良いかも。」

 

有咲「松茸が出る喫茶店は普通とは言えないけどな……。」

 

ゆり「よし!服も内装も決まったし、今日も試作するとしますか!」

 

中沙綾「まだメニューを増やすんですか?」

 

ゆりには別の目的があった。

 

ゆり「松茸松茸♪」

 

鼻歌混じりにゆりは家庭科室へと向かっていく、

 

中沙綾「沙綾ちゃん……。」

 

小沙綾「はい…。これはマズイかもしれないです…。」

 

沙綾はある事を危惧していた。そしてそれは翌日起こる事となる。

 

 

---

 

 

翌日、勇者部部室--

 

中沙綾「はぁ、困った…。」

 

香澄が部室に入ると、そこにはため息をついている沙綾がいた。

 

香澄「どうしたの、さーや。」

 

中沙綾「実は……食材が無くなっちゃったんだ。」

 

香澄「え?沢山採ってきたのに?」

 

中沙綾「そうなんだけど……。」

 

そう言いながら沙綾は視線をゆりへと向けた。

 

ゆり「ん?どうしたの?」

 

香澄「ゆり先輩!食材が無くなっちゃったみたいなんです。」

 

ゆり「…………。ショクザイガナイ?」

 

目が点になり片言になるゆり。

 

友希那「ちょっと待って。それは本当なの?あれだけの食材を、たった数日で?」

 

小沙綾「いえ、全部無い訳じゃないんです。足りない食材もある、というだけで…。」

 

千聖「何が足りなくなったの?」

 

小沙綾「いくつかあるんですけど……。1番は松茸です。」

 

りみ「松茸って……確かお姉ちゃん…。」

 

ゆり「………あ、あはは…。」

 

全員の視線がゆりへと向かう。

 

何故松茸が足りなくなったのか--

 

 

その答えは簡潔明瞭。昨日の試作でゆりが松茸を食べ過ぎてしまったからに他ならないのだった。

 

ゆり「……過去は忘れよう!現実を見ないと!問題は松茸をどうするか、だよね?」

 

ゆりは目を泳がせる。

 

有咲「釈然としねぇ……。」

 

彩「でも、ゆりさんの言う通りです。」

 

小たえ「また松茸狩りに出発だね。」

 

美咲「ちょっと待って。食べ物も大切だけど、他の準備はどうするんですか?」

 

リサ「だったら班を食材班と被服班に分かれようか。」

 

文化祭まで時間も限られている為、勇者部は部隊を2つに分けて行動していく事となった。

 

 

--

 

 

被服班サイド--

 

メンバーは美咲、中たえ、リサ、高嶋、小沙綾、燐子、モカ、りみ、彩、花音の10人。10人は折り紙でリースを作ったり、衣装を縫っている真っ最中である。

 

小沙綾「………。」

 

花音「凄い……。輪っかがどんどん出来上がっていくよ。」

 

彩「私も頑張らないと!」

 

高嶋「あ、あれ?燐子ちゃん、ここってどうなってるの?」

 

燐子「えっと…これはですね……。高嶋さん…これどうやって縫ったんですか……?」

 

高嶋「うぅ……。服縫うのって難しい…。」

 

困っていた高嶋に美咲が手を差し伸べる。

 

美咲「ちょっと見せてください。………ここを…こうして…。こんな感じっと……。」

 

美咲の手によりぐちゃぐちゃの縫い目が瞬く間に綺麗になっていく。

 

中たえ「魔法使いみたいだ。」

 

美咲「慣れだよ慣れ。」

 

リサ「こっちは問題無く終わりそうだね。向こうは、今頃山の中かな……。」

 

 

---

 

 

食材班サイド--

 

メンバーは香澄、中沙綾、有咲、ゆり、小たえ、夏希、友希那、あこ、紗夜、蘭、千聖、日菜、イヴ、薫。再び山に入っていく食材班。しかし、道中は以前来た時よりもバーテックスの数が増していた。

 

ゆり「どうしてバーテックスが増えてるの!?」

 

夏希「松茸採られて怒ったとか?」

 

中沙綾「それで増えてるんだね……。」

 

千聖「それはないでしょうね…。」

 

蘭「何か神託は無かったの?」

 

中沙綾「特には…。」

 

食材班はバーテックスを退けながら山道を登っていく。

 

あこ「場所はどうする?前の所は採り尽くしたよね。」

 

小たえ「任せて。今度は違うシロの所に行くよ。」

 

日菜「シロ?赤松じゃなくて?」

 

シロとは松茸の菌糸と赤松の根が一緒になった塊の事。松茸はこのシロに沿って生えているのである。

 

有咲「つまり、この前の場所以外にも松茸が生えてる場所があるって事だな。」

 

小たえ「はい。それと、違う場所も色々見た方がこれからの参考になると思います。」

 

ゆり「参考?」

 

小たえ「山全体のバーテックスが増えてるのか、それとも戦闘した場所だけが増えてるのかです。」

 

千聖「流石は初代勇者の子孫だけはあるわね…。それは今後に生きる重要な情報よ。」

 

紗夜「バーテックスがどれだけいようとも、全て倒すだけです。」

 

友希那「ええ。頼りにしてるわ。」

 

 

--

 

 

それから歩き続けて30分後--

 

小たえ「とうちゃーく。あそこが、シロがある場所です。」

 

たえが指した方向には予想通りバーテックスがたむろしていた。

 

有咲「やっぱいたな…。」

 

あこ「やっぱりバーテックスは松茸が好きなのかな?」

 

夏希「高級食材が好きなんですかね?」

 

小たえ「でも松茸食べてないね。」

 

友希那「どっちにしろ、松茸の収穫にはあのバーテックスを倒さないとね。」

 

蘭「邪魔なバーテックスには退場してもらいましょう。」

 

幸い前回よりも勇者の人数は多い。バーテックス殲滅には時間がかからなかった。収穫班は松茸を採取し、部室への帰路に着く。

 

 

--

 

 

勇者部部室--

 

香澄「ただいま!今回も大量だよ!」

 

中たえ「お帰り、香澄。こっちも大量だよ。」

 

部室の中央にはこんもりと山の様な折り紙の輪っかが積まれていた。

 

夏希「大量の輪っかだ……。っ⁉︎輪っかが動いた⁉︎」

 

山の様な輪っかから出てきたのは沙綾。沙綾は無心で作り続け気付けば輪っかの山に埋もれてしまっていたのだった。

 

小沙綾「……ふぅ。漸く抜け出せた。」

 

燐子「でも…そのお陰で途中から裁縫に移れました…。」

 

ゆり「飾りは十分だね。ウェイトレスはどう?」

 

美咲「勿論抜かり無しです。ちゃんと完成しました。人数分じゃなくて良いんでしたよね?」

 

ゆり「うん、大丈夫だよ。一度に全員着るわけじゃないし、全員分作るのは大変だから。」

 

材料に飾りに衣装。用意すべき物は全部揃った。

 

ゆり「はい!みんなのお陰で、最高の喫茶店が出来たよ。」

 

拍手喝采が起こる。

 

ゆり「まずは、料理班!」

 

中沙綾「メニュー、大丈夫です。」

 

小沙綾「材料も、十分間に合うと思います。」

 

ゆり「ありがとう!次は被服班!」

 

美咲「さっきも言ったけど、ちゃんと出来ました。」

 

ゆり「ありがとう美咲ちゃん!飾りは?」

 

中たえ「沙綾が頑張ってくれたから、沢山あるよ。」

 

ゆり「準備は完璧!後は一位を獲るだけだよ!みんな、お願いね!」

 

全員「「「おー!!!」」」

 

そして決戦の文化祭当日がやって来る--

 

 

---

 

 

文化祭当日、家庭科室--

 

香澄「オーダー入りました!松茸うどんセット2つでーす!」

 

有咲「こっちはコーヒーと羊羹のセットだ!」

 

喫茶店は大繁盛。家庭科室は限界ギリギリMAXで稼働していた。

 

ゆり「はーい!ちょっと待ってねー!……ふぅ、こんなに忙しくなるなんてね。」

 

中沙綾「嬉しい悲鳴ですね。」

 

ゆり「そうだけど……みんな、松茸頼みすぎじゃない?」

 

小沙綾「大丈夫です。まだまだ、在庫はあります。」

 

ゆり「在庫の前に、私達の体力が無くなりそうだよ……。」

 

中沙綾「何処かのタイミングで順番に休憩しましょう。」

 

りみ「注文持ってきたけど、休憩の話?だったら私が代わりに…。」

 

ゆり・中沙綾・小沙綾「「「まだ大丈夫!」」」

 

 

--

 

 

勇者部部室、喫茶店--

 

美咲「ん?今何か聞こえなかった?」

 

有咲「聞こえなかったぞ。口より手動かせ!」

 

香澄「えっとぉ……こっちはうどんじゃなくて蕎麦で…?あぁ、頭がこんがらがってきたぁ!」

 

予想を上回る忙しさでフロアもてんてこ舞いである。

 

美咲「あはは。……はぁ、楽しいなぁ。」

 

忙しいながらも、美咲の顔からは笑顔がこぼれていた。

 

 

--

 

 

家庭科室--

 

ゆり「そろそろフロアが交代の時間じゃないかな?」

 

リサ「次は友希那の番だね!これはシャッターチャンス逃せないよ…!」

 

全員が忙しなく動きながらも、勇者部みんなは笑顔に満ち溢れている。誰かの為に何かを成す。それが勇者部の仕事だから--

 

 

果たして勇者部は一位を獲る事が出来たのだろうか?

 

 

---

 

 

勇者部部室--

 

ゆり「みんな、飲み物は行き渡ったかな?」

 

全員「「「ありまーす!」」」

 

ゆり「それじゃあ…文化祭、お疲れ様!!」

 

全員「「「お疲れ様でしたー!!」」」

 

ただ今勇者部は文化祭の打ち上げ真っ最中。全員が全員の苦労を労いながらお菓子を食べて談笑していた。

 

りみ「喫茶店、大成功だったね、お姉ちゃん。結果は……残念だったけど。」

 

勇者部の喫茶店は全体二位の結果。一位とは僅差だった。

 

有咲「あれだけ忙しくて二位って、どうなってんだ。」

 

小沙綾「仕方ありませんよ……食材が無くなってはどうしようもないですから。」

 

沙綾が言う通り、喫茶店が一位を獲れなかったのは終了1時間前に全ての食材を使い切ってしまったから。その為早く閉めるしかなかったのである。

 

千聖「十分過ぎる程採ってきたつもりだったのに、まだ足りなかったのね…。」

 

ゆり「結局は野菜がちょっとだけしか残らなかったね。」

 

夏希「っ⁉︎なら余った野菜貰って良いですか?」

 

ゆり「別に良いけど、何に使うの?」

 

夏希「内緒です!」

 

夏希は沙綾とたえを見て笑った。

 

中沙綾「流石に腕が疲れました…。」

 

香澄「さーや、お疲れ!後でマッサージしてあげるね。」

 

中沙綾「ありがと。」

 

リサ「楽しかったね、友希那。」

 

友希那「そうね…。こんな楽しい文化祭が出来るなんて思っても見なかったわ。」

 

香澄「そうなんですか?」

 

友希那「ええ。文化祭を楽しむ余裕なんて無かったから…。」

 

香澄「そっか……。」

 

友希那の言葉で香澄は思い出す。西暦時代の事情を。

 

美咲「はい、暗い顔しない。時代的にパーっとやれなかっただけだから。」

 

蘭「だから、この文化祭は楽しかったよ。」

 

薫「目の回る様な忙しさだったけど、充実感のある、良い文化祭だったよ。」

 

モカ「時間が足りないくらいだったねー。」

 

西暦時代の勇者達は今までを思い返しながら、今日の文化祭の余韻に浸っていた。

 

 

---

 

 

文化祭から数日が経ったある日の午後--

 

夏希は沙綾とたえを家庭科室に呼び出していた。今、家庭科室には香ばしい香りが漂っている。

 

小沙綾「それにしてもどうしていきなり焼きそばなんて作ってるの?」

 

夏希「いやなんか分かんないけど、急に焼きそば作りたくなったんだよ。だから文化祭の打ち上げの時に余った野菜貰ったんだ。」

 

小たえ「夏希の焼きそば美味しそう!2人が羨ましいよ。私は料理出来ないからさ。」

 

夏希「焼きそばぐらいおたえでも簡単に作れるようになるよ。」

 

小たえ「さっすがは私達のお嫁さんだね。」

 

小沙綾「そうだね。夏希の将来の夢はお嫁さんだもんね。」

 

2人が夏希をからかうと、夏希の顔はみるみると真っ赤になっていく。

 

夏希「ふ、2人とも……まだそれを言うか…。」

 

小沙綾「いつまででも言うよ。いつか絶対に夏希にウェディングドレス着させるんだから。」

 

夏希「うぅ……想像しただけで恥ずかしくなってきた…。」

 

小たえ「普段はカッコ良くて、いざとなると可愛い。夏希は最強女子だね!」

 

夏希「逆の方が良くない?普段は可愛くて、いざとなったらカッコ良いってのがさ。」

 

小たえ「それは沙綾だよ。」

 

小沙綾「わ、私は……カッコ良くなんて…。」

 

自分にも飛び火してしまい、沙綾の顔も赤くなる。

 

夏希「カッコ良いよ!」

 

小沙綾「え?」

 

夏希「なんて言うのかな。いつもは女の子らしいけど、戦闘になったらバッチリ決めてくれてさ!」

 

小沙綾「そ、そうかな…。」

 

夏希「勿論、おたえも同じだよ。普段ふにゃふにゃしてても、変身したら流石私達のリーダーって感じだし!」

 

小たえ「照れるなぁ、夏希。」

 

3人が話している間に、夏希お手製の焼きそばが完成する。

 

夏希「よし、特性焼きそばの出来上がり!」

 

小沙綾・小たえ「「わぁー!!」」

 

小たえ「良い匂い!いっただきまーす!モグモグ……美味しい!!」

 

小沙綾「うん!流石夏希の焼きそばだね!モグモグ……香ばしい出汁の香りが堪らない!!」

 

夏希「どれ、私も。モグモグ……ん!我ながら上出来!!」

 

小たえ「私も焼きそば作れるようになりたいなぁ。」

 

夏希「それくらいなら私が教えてあげるよ。」

 

小たえ「本当⁉︎ありがとう、夏希!」

 

ここで沙綾がある提案をする。

 

小沙綾「そうだ!おたえが作れる様になったら、これを私達の恒例にしない?文化祭の打ち上げは焼きそば!」

 

夏希「良いけど、毎年だと飽きない?」

 

小たえ「賛成!夏希の焼きそばずっとずっと毎年食べたーい!!みんなで焼きそばの食べさせ合いっこだ!」

 

夏希「ははっ!そう言ってもらえると嬉しいよ。よし!それじゃあ来年も焼きそばだね!」

 

小沙綾「約束!」

 

小たえ「約束!」

 

夏希「約束!」

 

また一つ、勇者達に思い出が増えていく--

 

 

それはいつか、彼女達の心の支えになるかもしれない--

 

 

---

 

 

勇者部部室--

 

 

誰もいない部室。また一つ、記憶のシャボンが弾け、光となって消えていった。そろそろ記憶の旅路が終わる頃--

 

 

残るシャボンの数は9つ--

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。