今回はクリスマス編の前半。有咲と千聖、日菜の勇者候補生のお話--
12月某日--
秋も過ぎ去り、外はすっかり冬模様になり始めた頃、ゆり達は悩んでいた。
ゆり「あー、まいっちゃった。まさかこんなに依頼が来るなんて、さすがに想定外だよ……。」
りみ「うん…。どうしよう、お姉ちゃん。」
そこへ、防人組の5人が部室に入ってくる。
千聖「どうしたんですか?ずいぶん深刻そうな顔をしていますが。」
彩「何か困った事でもあった?」
花音「ふぇええ!?勇者部崩壊の危機とか、そういう一大事!?」
イヴ「大袈裟です、花音さん…。」
日菜「落ち着きなって、花音ちゃん。それで、何があったの?」
中沙綾「それが、サンタさんになって子供達にプレゼントを配ってほしい、って依頼が多く来てて…。」
ここ数年、勇者部はサンタに扮して毎年近所の幼稚園などの子供達にプレゼントを配っているのである。最初は1.2個所だけだったのだが、毎年それが好評で回を重ねるごとにその噂が広まり、今では色々な幼稚園や地域の子供会から依頼が殺到しているのだった。
香澄「サンタの恰好をして、みんなにいーっぱいプレゼントを配りましたよねー!」
ゆり「今年はその依頼が多すぎて、サンタの人員が足りないんだよ。…そうだ、千聖ちゃん達に近くの幼稚園を担当してもらえると助かるんだけど…。」
千聖「ですが、それより鍛錬を優先したほうが…。」
千聖が渋る中、日菜が高らかに手を挙げ、
日菜「なんかルンッってきたよ!そのサンタ役、私がやるよ!」
有咲「うーん…日菜だけに任せるのは不安だな…。私も行くよ。人員調整しといて。」
日菜だけに任せるわけにはいかないと、有咲も手を挙げる。そこに食いついてきたのは、他でもない千聖だ。
千聖「むっ…有咲ちゃん。あなたが行くの?」
有咲「ああ。私も元の世界にいた時に、やった事あるしな。」
千聖「…有咲ちゃんがやるのね……。」
2人は共に施設で切磋琢磨したライバル。千聖は当然対抗心が出てくる。
彩「プレゼント配り、きっと楽しいと思うな。サンタ姿の千聖ちゃん、私も見てみたい。」
千聖「仕方ないわね。彩ちゃんもこう言っているし…。有咲ちゃんに出来るなら、私に出来ない筈がないわ。」
花音(…彩ちゃんへの甘さと有咲ちゃんへの対抗心を利用すれば、千聖ちゃんをある程度操作できる気がしてきたよ……。)
有咲「じゃあ、千聖、一緒に行くぞ!どっちが完成型サンタか、勝負だ!」
千聖「受けて立つわ!」
こうして、日菜・有咲・千聖の3人のプレゼント配りの幕が開く。
ゆり「完成型サンタって何かな…?ま、いっか。じゃあ、有咲ちゃん、千聖ちゃん、日菜ちゃん。お願いね。」
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次の日、勇者部部室--
放課後、サンタ役の3人は部室に集まり、作戦会議を始める。
有咲「さてと……それじゃ、どうやって園児達にプレゼントを渡すか話し合おう。」
千聖「どうって、普通にサンタの恰好をして、渡しに行けばいいんじゃないのかしら?」
有咲「そんなんで、近所の子供達が喜ぶと思うか?子供を舐めると痛い目見るぞ。」
日菜「あははっ、千聖ちゃんは意外に物を知らないね。サンタの作法は、寝ている間にこっそりと、だよ。つまり、幼稚園のお昼寝タイムを狙ってプレゼントを枕元に置いてくればいいんだよ!」
日菜は鼻高々に宣言するが、
千聖「プレゼントを渡しに行くのは、クリスマス会の最中よ…。」
日菜「えーーーっ!聞いてないよーー!私を嵌めたね、千聖ちゃん!」
有咲「いや、ゆりがちゃんと言ってただろ…。」
千聖「でも、とにかくサプライズ感は必要かもね。ただ渡すのではなく、何か驚くようなものが…。」
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その後も3人は意見を出し合ったが、中々グッとくるものが見つからない。
有咲「うーん…。誰かにアイデアを貰った方がよさそうだな。いつも色んなアイデアを出してくれる人となると…。」
有咲の頭に2人のたえが浮かぶ。
有咲「……いや、あの2人はやめた方がいいな…。他には…。」
3人はとある人物の部屋に訪れる事にするのだった。
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寄宿舎、燐子の部屋--
あこ「…で、りんりんの部屋に来たって事だね。」
千聖「それより、どうしてごく自然に燐子ちゃんの部屋にあこちゃんがいるのかしら…?」
燐子「いつもの事です…。」
3人は燐子にアイデアを求めに来たのだった。
燐子「プレゼントを配る…ですか…。そうですね…、私でしたら…この“クリスマス・キャロル“を読み聞かせますね…。」
あこ「さっすが、りんりん!難しい本で子供達を眠らせて、その隙にプレゼントを枕元に置くんだね!」
燐子「ち、違うよ…あこちゃん…!」
あこ「でも、そんな難しい本じゃ子供達寝ちゃうよ。あこだって寝ちゃうもん。」
燐子「うぅ…そうかもね…。でしたら…簡単な絵本ならどうでしょう…。サンタが登場する絵本を読み聞かせて…物語に合わせてサンタの皆さんが登場…というのは。」
日菜「なるほど、ナイスアイデアだよ。」
千聖「ええ。じゃあ、サンタが登場する絵本を探しましょうか。」
有咲「そうだな。早速図書室に直行だ。」
アイデアが固まったところで、三人は図書室へと足を運んだ。
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図書室--
早速3人はサンタが登場する絵本を探し始める。
千聖「2人共、これなんてどうかしら?“迷子の迷子のサンタさん“という絵本よ。」
日菜「どれどれ…。方向音痴のサンタが動物に助けられながら、目的地を目指すお話か…うん、ルンッってきた!」
有咲「それじゃ、絵本は千聖が見つけたのにするとして、あと決めなきゃいけないのは、役割分担だな。」
ここにきて新たな問題が発生する。
3人「「「………。」」」
3人の中で誰が絵本を読み聞かせるか。その事で言い争いが始まってしまう。
千聖「私が読むわ!」
日菜「私が読む!」
有咲「私だろ!」
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同時刻、図書室--
蘭「…って事で苺は野菜なんだ。」
モカ「へー。果物じゃないんだね。」
蘭とモカが野菜の図鑑を読んでいた最中、3人の言い争う声が聞こえてくる。
蘭「はぁ…。そこの3人、図書室では静かにしてください。」
3人「「「うっ…ごめんなさい。」」」
蘭とモカは3人が言い争っていた原因を聞く為、部室へ移動する事にした。
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勇者部部室--
蘭「それで、何をあんなに揉めてたんですか?」
有咲「それが…。」
有咲は蘭とモカにこれまでの経緯を説明する。
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蘭「なるほど…誰が読み聞かせを担当するかで揉めてたって訳だね。…3人とも、ちょっとだけ待ってて。」
そう言って、蘭は誰かに連絡を取った。
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10分後--
小沙綾「蘭さん、お待たせしました。」
小たえ「イネスからの駆け付けです。」
夏希「先輩達のお願いと聞きましたけど…何をやるんですか?」
先ほど蘭が連絡を取っていたのは小学生組だった。
モカ「蘭、何するの?」
蘭「3人には、これから小学生組の前で、朗読会をやってもらいます。小学生組3人を最も楽しませた人に、幼稚園での絵本朗読をやってもらいます。」
有咲「なるほどな…小学生を楽しませられないなら、幼稚園児達は尚更無理って事だな。」
日菜「負けないよーーっ!」
千聖「受けて立つわ!」
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先手、千聖から絵本の読み聞かせが始まる。
千聖「これは、とある方向音痴のサンタさんの…。」
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数分後--
小たえ「Zzz…。Zzz…。」
小沙綾「おたえが寝ちゃった…。」
千聖「ええ!?」
日菜「なんていうか…お昼ご飯食べた後の午後一番目の古典の授業みたいだよ。」
有咲「言いえて妙だな…。」
千聖「そんなに眠くなるなんて…。」
有咲「やっぱり固すぎる千聖の朗読は、子供には合わないんだな。次は私の番だ!」
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2番目、有咲が朗読を続ける。
有咲「方向音痴のサンタは聞きました。南はどっちになるんでしょうトナカイさん。トナカイさんは煙突が見える方向を見ながら答えました。僕も分からないけどあの煙突がある方へ行けばいいんじゃないかな?なるほど、確かにそうかもしれないと思ってサンタさんとトナカイさんは夜空を駆けていきました。その家には女の子…。」
夏希「す、ストップ!ストップです、有咲さん!」
小沙綾「読むのが速すぎて、ついていけません…。」
有咲「え、そ…そうか?」
蘭「朗読と音読はイコールじゃないよ。」
日菜「あははは!最後は、私だね!」
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最後に日菜の朗読が始まる。
日菜「ひぇぇぇ、急がないと夜が明けてみんなが起きちゃうよぉ!トナカイさん!トナカイさん!何とかならない!?」
夏希「おぉ…面白い!」
小沙綾「ま、間に合うのかな…。」
小たえ「物語に引き込まれていくよ。」
モカ「ふむふむ。3人とも凄く楽しんでるよ。」
蘭「これは…決まりですね。絵本の朗読役は日菜さんに決定です。」
有咲「負けを認めざるを得ない…。」
千聖「日菜ちゃんの感情こもった熱演が、子供達の心を掴んだのね…。」
これにて当日の役割分担は、朗読役に日菜。サンタ役に有咲と千聖で決定する。その直後、部室のドアが勢いよく開く。
ゆり「話は聞かせてもらったよ!」
有咲「ゆり!?」
中沙綾「私もいるよ。外で一部始終聞いてたから。」
ゆり「それじゃあ最後の仕上げだよ!せんせー!せんせー!」
ゆりが高らかに叫ぶと、今度は家庭科室の扉が開く。
香澄「じゃじゃーん!サンタ役の特別専任講師、戸山香澄だよ!」
ゆり「サンタ役をやるならキラキラな振る舞いを身につけないとね。香澄ちゃんはあまり意識しないで、今までどんな風にサンタをやってきたかを教えてあげてね。」
香澄「任せてください!まず最初に、子供達の前に登場する時!ババーンって感じで入ってくるんです!」
千聖「ば、ババーン…?」
香澄「ババーンの後は、キリッとして。でもすぐにパァァァっと明るい笑顔でプレゼントを配るんです!」
千聖「ババーン…キリッ…パァァァ……?」
千聖の頭に無数のハテナが浮かび上がる。
有咲「千聖、これが戸山さん家の香澄だ。慣れるしかない。」
一方日菜はと言うと、
中沙綾「こほん。では、日菜さんはこちらへ。」
日菜「え?私も何かやるの?私は朗読役だよ?」
中沙綾「サンタは多い方が子供達も喜びますから。そんな訳で、朗読が終わった後、一瞬で日菜さんもサンタになれるよう、早着替えを覚えてもらいます!」
日菜「ええ!?」
中沙綾「目標は2秒以内ですよ!」
3人の特訓は続き、いよいよ当日を迎える。
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幼稚園、控室--
千聖「ふぅ…これから本番ね。思ってた以上に緊張してきたわ。」
有咲「頼んだぞ、日菜。朗読が一番重要だからな。」
日菜「ちょっとやめてよぉ!プレッシャーで潰れそうだよ!」
日菜は胸に手を当てて気持ちを落ち着かせる。
日菜「大丈夫大丈夫…。あんなに練習したんだから。ふ、2人は知らないだろうけど、この日の為に秘密特訓を…。」
千聖「知ってるわよ、日菜ちゃん。」
日菜「え?」
有咲「ああ、そうだな。」
日菜「し、知ってたの?」
千聖「ええ。毎日、学校の屋上であれだけ大きな声で練習してたら、誰だって気づくわよ。」
有咲「そうそう。だから日菜の為にも失敗はできない。私達にとってのプレッシャーはそれだな。」
2人とも、日菜が影で一生懸命努力をしていた事を知っていた。だからこそ、2人は失敗できないと思っているのだ。頑張ってきた日菜の為にも。
日菜「有咲ちゃん…。千聖ちゃん…。心が通じ合ってるのを感じたよ。さすが幼馴染だね!」
有咲「……そうだな。」
千聖「そう言えばそうだったわね…。」
3人は小学生の頃から共に勇者選抜で切磋琢磨し合ってきた幼馴染。この勇者部の中では誰よりも長く付き合ってきた仲である。
日菜「私はその時、中学生だったけどね…。」
有咲「幼馴染は言い過ぎだけど、施設時代からだと一番付き合いが長いってのはそうだな。」
日菜「あの時代を共に過ごした3人で、努力して何かをやる…感慨深いよね。」
以前は1つの椅子を奪い合う関係だったが、今は同じ目標の為に同じ方向を向いて歩いている。これもこの世界に来たお陰なのかもしれない。
有咲「大袈裟だな。でも…確かに悪くないな。」
千聖「ええ。この世界のクリスマスだからこそ起こりえる、奇跡なのかもしれないわ。」
有咲「千聖がそんな事言うなんて、雪が降りそうだな。」
日菜「そしたらホワイトクリスマスでますます良いね!」
3人の緊張もすっかり解れたところで、出番の声がかかる。
日菜「みんな、頑張ろう!」
有咲「ああ!」
千聖「ええ!」
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本番が始まり、日菜の朗読はきっちりと園児達の心を捕らえる事に成功し、
千聖「じゃっじゃーん、サンタが来たよー!良い子のみんな、メリークリスマース!!」
千聖(香澄ちゃんの指導の下に会得したサンタ役、全力で演じてみせるわ…!)
有咲「でもでもー、サンタは私達だけじゃないんだー!どぅるるるるる、じゃじゃーん!!」
有咲(これが香澄流サンタ…!大分恥ずかしいけど…今回のイベントを成功させる為にも、やってやる!)
日菜「私もいるよー!3人の仲良しサンタが、プレゼントを届けに来たよー!!」
クリスマス会は園児達に大盛況のまま幕を閉じる。3人のやりきった笑顔が大成功を物語っているのだった。