今年も残り3か月切りましたね。月日が経つのはあっという間です。
勇者部部室--
クリスマス会も無事終了し、全員が思い思いの年末を過ごしている頃、
ゆり「はぁ。今年もあと少しで終わりだね。何だかんだで、あっという間だった気がするよ。」
あこ「去年は何してたっけなー。」
りみ「私はお姉ちゃんと、まったり過ごしてたよ。」
彩「わー!そういうの興味あるな!異世界で年越しを過ごすなんて初めてだから。」
りみ「そんな大した事してないよ。鍋焼きうどん食べたり、テレビ見ながらお菓子食べたりするくらいだよ。」
香澄「私達も同じです。年の瀬って言うけど、この時期は勇者部の活動も殆どないですから。」
中沙綾「そうだね。クリスマスまでが忙しい分、後は各自でのんびり過ごそうって流れだよね。」
りみ達の話す事一つ一つに目を煌めかせて食いつきながら聞いている彩。
花音「その辺りは、普通の子達と変わらないんだね。その方が楽で良いよ。」
彩「だね!花音ちゃんはのんびりするのが好きだもんね。」
千聖(彩ちゃんは巫女で大赦内で生活するのみ…。そのような事に憧れがあるのかもしれないわね……。)
千聖「本当に何もないのね。てっきり何かイベント事があるかと思っていたけれど…。」
ゆり「ふむふむ…。」
千聖の何気ない一言にゆりが何か頷く仕草を繰り返す。
千聖「?」
ゆり「つまり千聖ちゃんは、この時期も何かイベントをやるべき!って言ってるんだね?」
千聖「いえ、そんな事は一言も…。」
ゆり「良いよ良いよ、千聖ちゃんの想いはよく分かったよ。なら部長として動かないとね!」
首を横に振る千聖を意に介さず、ゆりは咳ばらいをし、
ゆり「みんな!ここにいないみんなにも直ちに召集をかけて!」
あこ「今からですか?」
りみ「そもそもお姉ちゃん…何するつもりなの?」
ゆり「ふふふ…よく聞いてくれたね!これより、勇者部による"合同・年越し準備会"を開催するよ!!」
ゆりはそう高らかに宣言し、何人かにみんなを呼んできてもらうよう頼んだのだった。
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中沙綾「それで、ゆり先輩。友希那さんや千聖さんは他の人を呼びに行きましたけど…。合同・年越し準備会は何をするんですか?」
沙綾がそのような疑問を持つ事は至極真っ当な事である。
ゆり「………うーん、何すれば良いのかなぁ?」
残った部員は雷に撃たれたような衝撃を覚えた。
りみ「お姉ちゃん、考えてなかったの!?」
ゆり「いやぁ…だって…ほら、その場の勢いって大事だよね。それに、せっかくこうして沢山人数がいるんだし、みんなで一緒に過ごしたいでしょ。」
中沙綾「…分かりました。内容はみんなで考えていきましょう。」
早速内容会議に入ろうとしたその時、部室のドアが開き誰かが入ってくる。
彩「あの、その会議に私も参加してもいいかな?」
ゆり「あれ、彩ちゃん?千聖ちゃん達と一緒に行ったんじゃなかったの?」
彩が言うには、千聖から準備会についてもう少し詳しく聞いてきて欲しい、との事だった。
彩「アイデアが決まってないなら、私も協力させて。」
香澄「勿論です!ゆり先輩、良いですよね?」
ゆり「そうだね!それじゃあ5人で決めちゃおう。」
香澄・沙綾・ゆり・りみに彩を加えた5人で会議がスタートする。
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香澄「でも、何をすればいいのかな?年越しの準備って。」
中沙綾「大掃除くらいしか思いつかないね。」
彩「……!」
彩は目を輝かせ、無言で掃除道具を準備しだす。それもその筈、彩の趣味は掃除。元の世界はゴールドタワー、この世界でも寄宿舎など手が空いている時はいつも何処かしらを掃除している。
ゆり「うーん、大掃除も勿論やるけど、みんなで楽しむイベントって感じじゃないかなぁ…。」
りみ「でも、他にあるかなぁ?この時期は大抵、テレビを観てるくらいしか…。」
彩「1つ提案しても良いですか?」
彩が手を上げて発言する。
ゆり「うん。アイデアがあるなら何でも言ってね。」
彩「みんなでおせちを作るのはどうですか?おせちは正月に欠かせないものだし。」
ゆり「よーし、それ採用!」
香澄「ゆり先輩、早い!」
ゆり「ほら、おせちならモノによっては日持ちもするし、元々年末に準備するものだしね。」
中沙綾「そうですね。おせち料理は縁起物ばっかりですし、みんなで作るのは良いかもしれないですね。」
香澄「縁起物?」
中沙綾「おせち料理は一つ一つ縁起が良いゲン担ぎの意味を持ったものなんだ。」
りみ「それ、私も聞いた事あるよ。黒豆は、マメに働けるよう健康にって意味だったっけ。」
中沙綾「そうだね。他には、伊達巻なら巻物に見立てて知識が増えるように、とかね。」
香澄「なるほどぉ…縁起の良さって意味でも、おせちは作った方が良いんだね。」
早速5人は準備にとりかかる。
りみ「私もおせち作り手伝わないと!」
ゆり「……。」
ゆり(ち、ちゃんと見てればりみでも…大丈夫、だよね…。)
一抹の不安を感じつつ、家庭科室へ移動するのだった。
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家庭科室--
中沙綾「食材は、大体こんなところだね。」
調理台に並べられた食材は卵に昆布、豆、栗、レンコン、牛蒡等々。どれもおせち料理には欠かせない食材である。買ってきた物もあるが、大半は蘭の畑から取ってきた新鮮な食材だ。
ゆり「これだけあれば、立派なおせちが出来るね。」
千聖「凄い量ですね…。おせちを作ると聞きましたけど、もうこんなに材料を集めたんですか?」
5人が材料集めをしている間に、呼びに行っていた千聖が戻って来る。
彩「千聖ちゃん、おかえり。」
ゆり「あれ?戻って来たのは千聖ちゃんだけ?」
千聖「すみません。外に遊びに出ていたり、他の用事があったりで人を集める事が出来ませんでした…。」
ゆり「まぁ急だったし仕方ないか。じゃあ、出来るところから先に始めちゃおう。」
りみ「じゃあ、私は…そうだ、牛蒡の皮むきからしようかな。まずは、泥を丁寧に洗い落として…。あれ?でも、皮をむくアレはどこかな…。」
中沙綾「りみりん、皮むきならいらないよ。牛蒡は、こうやって包丁の背を使って…。」
沙綾が包丁の背で牛蒡を擦ると、余分な皮のみが取れ、薄く皮が残る状態となる。
りみ「擦るだけで良いの?」
中沙綾「うん、表面を軽くね。牛蒡は皮の部分に香りや旨味があるから、この方が良いんだ。」
りみ「沙綾ちゃん、凄い!」
中沙綾「はい、りみりんもやってみて。」
りみ「あっ、本当だ。これだけで結構取れちゃうんだね。」
香澄「さーやぁ!豆はどうすれば良いの?」
中沙綾「待ってて、今行くから。」
彩「私達も手伝おう、千聖ちゃん。」
千聖「そうね。じゃあ、そこの里芋からやりましょうか。」
彩「うん!こんな風に千聖ちゃんと料理が出来るなんて…。私、今とっても楽しい。」
千聖「…そうね。元の世界でもこんな風に過ごせると良いわね。」
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作業開始から20分程経った頃--
友希那「ごめんなさい、ゆりさん。遅れたわ。」
リサ「ごめんごめん。今から手伝うね。」
道場に行っていた友希那とリサが戻って来る。
ゆり「友希那ちゃん、リサちゃん。来てくれたんだね。」
蘭「すみません。やっと畑の仕事がひと段落着きました。」
日菜「るん♪ってした物探しが戻って来たよ。」
有咲「なんだその用事は…。」
友希那達を皮切りに、次々と個々の用を済ませた人達が戻って来た。
ゆり「みんなありがとう。でも、おせち料理はもう人手が足りてるんだ。」
蘭「そうみたいですね。りみも充分戦力になってるみたいだし、これ以上入るとかえって邪魔になりそう。」
有咲「それじゃあ、別の事でもやっとくか?せっかく集まったんだから。」
中たえ「例えば?」
日菜「おせち以外の何かを作れば良いんじゃないかな。」
モカ・リサ「「あっ……。」」
日菜の一言を聞いて声を上げた者が2人。
友希那「おせち以外…なら年越しうどんね。」
蘭「聞き捨てならないですね、湊さん。年越しなら蕎麦で決まりの筈です。」
家庭科室の隅で2人のうどん・蕎麦議論が熱く展開され始める。
モカ「あー…やっぱりこうなっちゃったかぁ。」
その時、まるでこうなる事を事前に見越していたかのように高嶋が冷蔵庫から2つのボウルを取り出した。
高嶋「こんな事もあろうかとぉ…どどーん!こんなものを用意してみたよ!」
友希那「これは…。」
蘭「ボウルに麺が2種類…。」
片方のボウルには太めに切られた蕎麦。もう片方には細く切られたうどんが入っていた。
高嶋「お互いに歩み寄ったらどうかと思って、前もって作ってみたんだ。麺をうどんの太さにした蕎麦と、蕎麦の細さにしたうどんだよ!」
2人は早速実食を開始する。
友希那「……違うわね。細くてコシも無い…。これは単なる太めの素麺ね。」
蘭「……蕎麦はのど越しが命なのに、どう考えてもこれじゃ太すぎる…。」
味見した2人は箸をおき、再び議論を再開する。
友希那「こうなったら、自分たちで作るしかないようね。美竹さん、私はあなたをうどん党に変えるうどんを作ってみせるわ。」
蘭「私こそ、湊さんを蕎麦党に変える蕎麦を作ってみせます。」
これにはさすがの高嶋でも膝から崩れ落ちてしまう。
高嶋「がーん…良い考えだと思ったのに……。」
紗夜「高嶋さんは悪くありません。麺類の事はお二方に任せとけば良いんです。」
高嶋「紗夜ちゃーーん!!」
高嶋は泣きながら紗夜に抱きつく。
紗夜(高嶋さんを慰める……良いですね…。)
紗夜「高嶋さん、私達は宇田川さん達が始めた正月飾り作りを手伝いに行きましょう。」
高嶋「うぅ……そうだねぇ……。」
2人は隣の部室へと移動する。その時の紗夜の口元は何故だかとても緩んでいた。
有咲「だんだん何でもありになってきたな。私は…つゆでも作るか。」
日菜「私も手伝うよ。うどん用と蕎麦用で2つ必要になるでしょ?」
それぞれの個性は出ているが、なんだかんだで纏まりがあり目標に進んでいく勇者部なのだった。
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そこから更に20分程が経ち--
夏希「あー、遊んだ遊んだー。色鬼とか久しぶりにやったよね。」
小沙綾「かなり白熱したよね。おたえが言ったヴァーミリオン…だっけ?は未だに何色か分からないけど…。」
小たえ「赤とオレンジの中間だよ、沙綾。」
外で遊んでいた小学生組が部室に戻って来る。
あこ「帰って来たね。今、正月飾りのしめ縄を作ってるところなんだ。」
夏希「年越しの準備ですね!」
薫「しめ縄作りはやりがいがあるよ…。ほら、これは沖縄風のしめ縄だよ。」
薫が見せたしめ縄には昆布で巻いた炭とシーサーの飾りが沢山付いている。
高嶋「格好いい!!」
小沙綾「夏希、私達はどうしようか?こっちは充分人手が足りてるみたいだし…。」
3人は取り敢えず家庭科室へと足を運ぶ。
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家庭科室--
ゆり「りみ、そっちの煮物なんだけど、1回ざっとひっくり返してくれる?」
りみ「え?お鍋ごと!?……じゃなくて、そっか、焦げない様にだよね。」
中沙綾「りみりん、そこの竹串を持ってきてもらっていい?良かったら、そのまま煮え加減も見て欲しいな。」
りみ「うん。これを刺して固さを確認すれば良いんだよね?」
料理が出来る2人の指示をしっかり聞いて、りみはおせち料理作りの手伝いをしっかりとこなしていた。
夏希「おお…!りみさんがちゃんと料理してる…!」
小沙綾「色々な経験をして、腕前が上がったんだね。」
小たえ「年越しの料理と言えば……。」
たえは家庭科室の片隅をチラッと確認すると、
友希那「うどんはコシが命よ。もっと捏ねないと。」
蘭「蕎麦ののど越しは、均一な細さに宿る。最大のポイントは切り方…。」
友希那と蘭の白熱した蕎麦・うどん作りが繰り広げられている。
ゆり「あれ?夏希ちゃん達はいつからここに?」
夏希「今来たところなんです。何か手伝える事ありますか?」
ゆり「そうだなぁ…おせち料理は正直手が足りてるし、友希那ちゃん達の方に参加させるのは危険すぎるし……そうだ!沙綾ちゃんはお餅作れる?」
小沙綾「はい。もち米と、杵と臼があれば出来ます。」
ゆり「だったら丁度良かった。それを用意するから、お餅作りをお願いできるかな?」
3人「「「はい!!」」」
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花咲川中学、校庭--
花音「よい…っしょ、よい…っしょ、ふえぇぇぇ……。はぁ、はぁ…。ち、ちょっと待ってぇ…。」
声にならない悲鳴を上げながら、花音は臼を校庭まで運んでいた。
イヴ「松原、早く来-い!!」
花音「ふえぇぇぇぇっ!!!やっぱり私が臼でイヴちゃんが杵を持ってく分担は、間違ってないかなぁ!?」
イヴ「泣くな、しゃあねえな!ほら、この杵持て!臼は俺が運んでやるぁああ!!」
花音とバトンタッチし、イヴは臼を両手で持ち上げ物凄い勢いで運んでいく。
夏希「うわぁ!それ1人で持って来たんですか?イヴさんって、力持ちですね!」
イヴ「へっ、小学生にゃ無理だろうが、こちとら中学生様だ!」
花音「はぁ、はぁ…中学生でも1人でこれは無理だよぉ…。」
小沙綾「もち米も蒸し終わりましたから、花音さんもイヴさんも、一緒に餅つきしませんか?」
花音「私も途中まで臼を運んで疲れたから、餅つきは任せるねぇ…。」
イヴ「…私も……無理です…。もう…動けません……。」
運び終わった花音とイヴは力なく校庭にへたり込んでしまった。人格が変わっても体は1つ。もう一人のイヴでのツケが回ってしまったのだ。
小たえ「水辺に打ち上げられたクラゲみたいにぐったりしてますね。」
夏希「分かりました!じゃあ、私達に任せて下さい!」
小沙綾「ねえ、沙綾。ここからはどうすれば良いの?」
小沙綾「先に下準備をしないといけないから、ちょっと待ってて。」
そう言うと、沙綾はもち米を臼に移し、杵でもち米を全体的に軽く潰した。
小沙綾「……はい、2人とも準備終わったよ。」
夏希「よーし!それじゃあ行くよ、おたえ!!」
小たえ「任せて!」
夏希が勢いよく杵を振りかぶって餅をつき、たえが合間で餅をひっくり返す。
夏希「よいっしょー、よいっしょー!!」
小たえ「ぺったんぺったん!」
夏希「よいっしょー、よいっしょー!!おっ、段々餅っぽくなってきたよ。」
小たえ「ぺったんぺったん!夏希、そろそろ味見してみようよ。」
2人は一旦手を止め、餅を摘まんで口に頬張った。
夏希「……美味しい!!これがつきたてのお餅の味かぁ!」
小たえ「……ホントだ!何も味が付いてないのにほんのり甘い。お米の甘さがしっかり出てるよ。」
そんな2人の食レポを間近で見ていた花音は、
花音「…ごくり。わ、私もちょっとだけ、味見しても良いかなぁ…。」
小沙綾「はい。どうぞ。イヴさんも。」
花音「……本当だ!醤油とか無しでも十分に美味しいね!」
イヴ「……美味しいです。つきたてのお餅…勿論美味しいですけど、皆さんで食べた方がもっと美味しいですね。みんなで食べるの…とっても楽しみです。」
3人「「「はいっ!」」」
みんなが一致団結して取り組んだ"合同・年越し準備会"。元の時代へ戻る日はそう遠くないけれど、ここにまた一つ新たな思い出が追加されたのだった。