戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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春の物語その1です。

この話を含め神樹の記憶は残り7話で完結となります。長々とお付き合い頂き本当にありがとうございました。





神樹の記憶〜変わらないもの〜

 

 

勇者部部室--

 

香澄「うーん、風が気持ちいいなぁ。」

 

中沙綾「ホントいい天気だよねー。」

 

香澄「こんな日はさーやのパンが一層美味しいだろうね!」

 

中沙綾「そんな事もあろうかと…。」

 

そう言うと沙綾はカバンを取り出し、パンを香澄に手渡した。

 

香澄「もぐもぐ……美味しぃ〜!幸せだなぁ!」

 

あこ「あっ!良いなぁ。あこにも頂戴!」

 

燐子「私も…食べても良いですか…?」

 

中沙綾「沢山ありますからどうぞ。」

 

りみ「……沙綾ちゃんのパンを食べると、心がほっこりするね。」

 

沙綾はカバンからパンを次々に机の上に置いていく。焼きたての芳ばしい香りが部室内に充満し、匂いにつられて他の人達もパンを食べ始めるのだが、

 

友希那「………。」

 

友希那だけは部室の窓から外を眺め物思いに耽っているのだった。

 

イヴ「…どうかしましたか?」

 

友希那「ええ。いつの間にか桜が咲いている……。季節が過ぎるのは早いと思ったの。」

 

蘭「そうですね。畑の準備をしないと。モカ、食べ終わったら畑に行くよ。」

 

モカ「今から行くのー?」

 

蘭「うん。良い苗が手に入ったんだ。薫さんは先に行ってる。」

 

モカ「分かった。先に行ってて。」

 

千聖「……蘭ちゃん達は変わらないわね。」

 

友希那「変わらない……そうね。」

 

そう言って友希那は部室から出て行ってしまった。

 

香澄「?」

 

 

---

 

 

花咲川中学、屋上--

 

友希那「………。」

 

香澄「友ー希那さーん!」

 

友希那「戸山さん。何かしら?」

 

香澄「リサさんに頼まれたんです。ここ最近、ずっと友希那さんが上の空だから話を聞いて来て欲しいって。」

 

友希那「そう……リサったら…。」

 

すると香澄は軽く咳払いをし、リサの真似をしながら話を続ける。

 

香澄「コホン……本当は私が言って話を聞くのが一番なんだけど、私に頼ってばかりだと友希那の為にならないからさー。って事なんです。」

 

友希那「リサがそんな事を?」

 

香澄「はい。友希那さん。何か悩み事ですか?私でよかったら何でも言ってください。」

 

友希那「……考えていたの。この世界の事を。」

 

香澄「この世界の事ですか?」

 

友希那「ええ。私達がいた時代から数百年は経った今でもこの世界は続いている。季節は巡って、こうして穏やかな春がやって来ている。……私達が命をかけて守った"未来"がここにあると思うと………何だか琴線に触れるものがあるの。」

 

香澄「おぉ……難しいけど、なんかカッコいいです!」

 

友希那「ふふ…。本当に私達の香澄にそっくりね。」

 

一陣の風が吹き桜の花びらが屋上に舞い降りる。この屋上からも沢山の桜の花を眺める事が出来た。

 

香澄「屋上から見る校庭の桜は綺麗ですね!」

 

すると桜を見ていた友希那が突如何かを思い出した様に話し出す。

 

友希那「確か…私達の時代に、たった一本だけ咲く枝垂れ桜があったのだけれど……戸山さんは心当たりあるかしら?」

 

香澄「枝垂れ桜ですか?」

 

友希那「ええ。幼い頃にリサと2人で見たのよ。あの桜はまだ残っているのかしら?」

 

香澄「友希那さんの思い出の桜ですかぁ。私も見てみたいです!探してみましょう!」

 

 

--

 

 

早速香澄は枝垂れ桜を探す為に友希那から情報を引き出す。

 

香澄「友希那さん、その枝垂れ桜が咲いていた場所は分かりますか?」

 

友希那「ごめんなさい。それがはっきりとは覚えていないのよ。確か近くに神社があった事は覚えているのだけれど……。」

 

?「それは綾川の枝垂れ桜だよ。」

 

何処からともなく桜が咲いていた場所を答える声が。

 

香澄「リサさん!?」

 

リサ「あはは…。今回は手助けしないで成り行きを見守ろうって思ってたんだけどね…。我慢出来なかったよ…。」

 

友希那「リサ……ありがとう。」

 

香澄「本当に友希那さんとリサさんは仲が良いんですね。」

 

リサ「そりゃ、私が友希那を育ててきたって矜恃があるからね。」

 

リサは胸を張って得意げに語る。

 

リサ「ところで、綾川の枝垂れ桜だけど、時代が変わってるから正確な場所までは分からないんだ。なんたって西暦の時点で樹齢200年くらいだからまだ残ってるか……。」

 

香澄「悩んだら相談です!他の人にも色々と聞いてみましょう!」

 

香澄達はまず初めに沙綾の元へと訪ねる事にした。

 

 

---

 

 

山吹宅--

 

中沙綾「……確かに西暦の時代には綾川っていう町があったみたいです。」

 

沙綾はパソコンを見ながら答える。

 

リサ「場所は分かる?」

 

中沙綾「場所はですね……ここからかなり離れた場所ですね。徒歩で行くのは難しい距離です。」

 

香澄「でも変身すれば……。」

 

中沙綾「勇者姿は目立つから、御役目以外で変身するのはあまり良くないと思うよ。それなら、大赦にお願いして車を出してもらった方が良いんじゃないかな?」

 

香澄「さっすがさーや!」

 

リサ「じゃあ、私が頼んでみようか。」

 

直後、樹海化警報が鳴り響く。

 

香澄「っ!?こんな時に!?」

 

リサ「みんな!戦闘準備お願いね!」

 

 

---

 

 

樹海--

 

蘭「全く……作業中の敵襲は勘弁して…。」

 

薫「早く倒して畑に戻ろうか。」

 

蘭「はい。折角サトウキビの苗が手に入ったんですからね。」

 

花音「サトウキビ…?」

 

花音の一言で薫の動きが止まってしまう。

 

美咲「………え?」

 

花音「イヴちゃん、知ってる?」

 

イヴ「名前の響きからして、おやつみたいですね。」

 

どうやらイヴも分かってないようだ。それもそのはず、サトウキビは主に沖縄で作られている。四国しか残されていない神世紀では、他県の文化に触れる事が出来なかったのだ。

 

美咲「微妙に当たってるけど……。」

 

蘭「まさか…神世紀の人達がサトウキビを知らないなんて…。」

 

夏希「サトウキビ…沙綾は知ってる?」

 

小沙綾「確か西暦の時代に沖縄を中心として栽培されてたものだよ。」

 

薫「あぁ……サトウキビ…儚い…。」

 

ゆり「はい、そこまで。手早くバーテックスを退治しちゃうよ。」

 

 

--

 

 

香澄「うーん……。」

 

中沙綾「どうしたの、香澄?」

 

香澄「勇者になって走っていくのはダメ…車を出してもらうのも気が引けるって事だから……。」

 

香澄は枝垂れ桜を見に行く方法について悩んでいた。

 

香澄「さーや、何か良い方法無いかな?」

 

中沙綾「考えればあるはずなんだけど……。」

 

香澄「何かあったような気がするんだよね……。行きたいって思えば行けるやつが…。」

 

友希那「戸山さん…気持ちは嬉しいけれど、無理をしてまで見たいものではないわ。気にしないでちょうだい。」

 

香澄「ですけど…。」

 

友希那「今は目の前の戦闘に集中するわよ。」

 

香澄「………はい。」

 

するとそこにたえがやって来る。

 

中たえ「どうかした、香澄?」

 

香澄「……そうだ!おたえだ!」

 

たえの姿を見て何か閃いた香澄。

 

中たえ「?」

 

香澄「友希那さん。枝垂れ桜の近くに神社があったって言ってましたよね?」

 

友希那「え?ええ。」

 

香澄「それです!!」

 

友希那「それがどうかしたのかしら?」

 

香澄「友希那さん!枝垂れ桜見れますよ!」

 

 

--

 

 

バーテックスとの戦闘が終わり、勇者達の緊張の糸が切れる。

 

ゆり「ふぅ……。さすがに疲れたよ…。」

 

戦闘終了を確認出来た事により樹海が光に包まれ始める。

 

香澄「……もうすぐ樹海化が解ける。さーや!友希那さん!こっちへ!」

 

中沙綾「香澄?」

 

友希那「戸山さん?」

 

解ける直前に香澄は沙綾と友希那を近くに来るよう呼びかけた。そして友希那にこう伝える。

 

香澄「友希那さん、イメージして下さい!枝垂れ桜の近くにあった神社の事を!」

 

友希那「………。」

 

 

そして、樹海化が解ける--

 

 

---

 

 

神社--

 

友希那「ここは……。」

 

中沙綾「香澄?」

 

香澄達三人が戻った先はいつもの様に花咲川中学の屋上ではなく、初めて見る神社だった。

 

香澄「やった!成功だよ!!」

 

中沙綾・友希那「「え?」」

 

香澄は元の世界で、バーテックスとの戦いが終わった後たえが香澄と沙綾の2人を瀬戸大橋跡に呼んだ時と同じ事をやったのだ。樹海化が解ければ勇者達は必ず祠のある場所へと飛ばされる。香澄はそれを利用して枝垂れ桜の場所へと飛んだのである。

 

香澄「おたえが私とさーやを呼んだ時みたいに、枝垂れ桜がある神社に行きたいって思えば行けるかもって思ったんだ!」

 

友希那は辺りを見回してみた。

 

友希那「そう……この神社だわ。」

 

香澄「あっ!友希那さん、あそこ!」

 

友希那「え?」

 

香澄「あれが、友希那さんが言っていた桜じゃないですか?」

 

三人は一際大きな桜の木の元へと歩き出す。

 

 

--

 

 

友希那「この桜………はっきりと覚えているわ。ずっとここに咲いていたのね。」

 

それは確かに友希那があの日見たのと全く同じ枝垂れ桜。その姿は神世紀になっても力強く、そして一際大きな存在感を放っていた。

 

中沙綾「立派な枝垂れ桜ですね…。」

 

香澄「西暦の時代で樹齢が200年だったから……えぇっ!?500年も生きてるの!?」

 

枝垂れ桜の寿命は長いと言われている。とある枝垂れ桜は樹齢2000年もあったとの記録がある程だ。

 

友希那「何百年経っても、変わらずにここで咲いていたのね………たった独りで…。」

 

香澄・中沙綾「「………。」」

 

香澄と沙綾はその圧倒的な存在感の枝垂れ桜に思わず言葉を失って魅入っていた。

 

友希那「……2人共ありがとう。今度はリサ達にも見せてあげたいわ。」

 

香澄「そうですね、次はみんなで来ましょう!」

 

友希那「みんなが心配するといけないわ。そろそろ戻りましょうか。」

 

枝垂れ桜を後にしようとした時、突如三人の足が一斉に動きを止める。

 

香澄「帰りの事まで考えてなかったぁ!!」

 

友希那「……困ったわ。」

 

香澄「えっと………。」

 

中沙綾「"カガミブネ"使いますか?」

 

友希那「そうね。ある意味非常事態だものね。」

 

それから部室に戻った3人は、心配していたリサに叱られるのだが、それはまた別のお話である。

 

 

 

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