戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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今回は美咲の話。

長々と続きましたが、石紡ぎの章、残り3話で完結となります。

最後は西暦組、防人組、神世紀組の三部構成です。




心の温もり

 

 

狭間の空間--

 

奥沢美咲は1人光の道を歩いていた。

 

美咲「はぁ……。みんなの前では大見得切って帰ったけど、いざこうなってみると寂しいもんだなぁ。」

 

すると美咲の隣に"コシンプ"が現れる。

 

美咲「あら?どしたのコシンプ?……私を励ましてくれてるんだ。ありがと…大丈夫。後悔はしてないから。」

 

美咲は"コシンプ"に話しかけながら歩みを進めて行く。

 

美咲「それにしても、あの時のみんなの笑顔は……忘れられそうにないよ。」

 

歩きながら美咲は思い返す。旅立つ前の出来事を。

 

美咲「あの笑顔を守る為にも……いっちょ頑張りますか!ね、コシンプ。」

 

コシンプ「……。」

 

美咲「お、嬉しい事言ってくれるじゃん!」

 

 

---

 

 

勇者部部室--

 

ゆり「次は美咲ちゃんの番だよ。何かやりたい事はある?」

 

美咲「うーん……。」

 

これまで順々にみんなのやりたい事をやってきた香澄達。次は美咲の番なのだが、いざやりたい事は何かと聞かれると返答に困ってしまう。

 

美咲「……そうだ!」

 

しばらく唸って考えた後、美咲はとある事を思い付く。

 

香澄「やりたい事決まった?」

 

美咲「うん。私がみんなに感謝するパーティを開きたい。」

 

美咲のまさかの一言に勇者部全員が驚きの声をあげる。

 

中沙綾「良いの?普通なら祝われる側なのに。」

 

りみ「そうだよ、美咲ちゃん。」

 

美咲「良いの良いの。最初に決めたでしょ。みんなのやりたい事をやって行こうって。これが私のやりたい事。」

 

リサ「確かにそうだけど……。」

 

千聖「まさかそんなトンチをきかせてくるなんて思いもよらなかったわ。」

 

美咲「でしょ。だから、ここは私の意を汲んでよ。それに私は祝われるより祝う方が好きだから。」

 

ゆり「うーん。それが美咲ちゃんのやりたい事なら…。」

 

美咲「じゃあ決まりだね!私プレゼンツ"みんなに感謝を伝えるための会"楽しみに待っててよ。」

 

そう言い残し、美咲は部室を後にするのだった。

 

高嶋・リサ「「………。」」

 

 

---

 

 

フードコート--

 

早速美咲はパーティの計画を練り始めた。

 

美咲「取り敢えず……ケーキは外せないよね…。作り方を検索…っと。」

 

端末を操作しケーキの作り方を検索すると、数多くのレシピがヒットした。

 

美咲「……これは選ぶのだけで時間がかかりそうだよ。」

 

そこに高嶋とリサがやって来る。

 

高嶋「あれ?美咲ちゃん、こんな所にいたんだ。」

 

リサ「ヤッホー、美咲。」

 

美咲「高嶋さんにリサさん。買い物ですか?」

 

高嶋「そうなんだ。美咲ちゃんは何してたの?端末で何か見てたみたいだけど…。」

 

美咲「ああ、これね…。実はパーティ用のケーキを作ろうと思ってまして、レシピを調べてたんです。」

 

リサ「お、良いじゃん良いじゃんケーキ。」

 

美咲「でも、レシピが多すぎて何を参考にしようか迷っちゃいましてね。」

 

美咲は照れ笑いで答える。

 

リサ「なら、ケーキ作り私達に手伝わせてよ。ケーキなら作った事あるしさ。」

 

高嶋「そうだよ、美咲ちゃん!」

 

二人は顔を見合わせて答える。実は二人は買い物で偶然鉢合わせたのでは無かった。美咲の事が心配になった二人はこっそり美咲の後をつけていたのだ。

 

美咲「確かに二人に手伝ってもらった方が助かりますけど…。みんなに感謝を伝える会なのに、手伝ってもらう訳にはいきません。」

 

美咲は首を横に降る。美咲の意思は固かった。

 

高嶋「でも…。」

 

それでもめげない高嶋。その高嶋の肩にリサはそっと手を乗せる。

 

高嶋「リサちゃん……。」

 

リサ「分かった。でも、これだけは忘れないでね。」

 

美咲「ん?何ですか?」

 

リサ「私達みんなも、美咲に感謝してるんだからさ。」

 

美咲「あっ……。」

 

リサ「じゃあケーキ作り頑張って!分からない事があればいつでも相談してね。」

 

そう言ってリサはフードコートを後にする。

 

高嶋「あっ、リサちゃん!……美咲ちゃん。悩んだら相談だよ!」

 

高嶋もリサの後を慌てて追いかけて行ってしまう。

 

美咲「みんなも……か。これは下手なケーキ作って出す訳にはいかなくなったね。」

 

美咲は自分の両頬を軽く叩きレシピ選びを続けるのだった。

 

 

--

 

 

一方で美咲と別れた高嶋とリサ。

 

高嶋「これで良かったのかな…。」

 

リサ「大丈夫だよ、香澄。」

 

高嶋「でも…。」

 

リサ「親友を信じて見守る事も親友の役目だよ。」

 

 

---

 

 

次の日、家庭科室--

 

美咲「……ふぅ。腕が疲れるよ…。電動ミキサー使ってても流石に大変だ…。」

 

美咲は一人家庭科室でケーキのメレンゲを作っている。親友の助けを借りるのを拒んでまでやっているのだ。弱音は吐けなかった。

 

美咲「さて、と。次は粉の分量を計らないとね。」

 

すると突然コシンプが現れる。

 

美咲「なんだぁ?お腹すいて出てきたの?精霊は食べられないよ。」

 

コシンプ「………。」

 

美咲「応援してくれてんの?ありがと。見栄切った手前だもん。美味しいケーキ作らないと。」

 

美咲はコシンプに話しかけながら黙々と作業を続けていた。

 

 

--

 

 

高嶋・香澄「「…………。」」

 

一方、部室からは2人の香澄が美咲の様子をドアの隙間から覗いていた。

 

ゆり「こうも美咲ちゃんが一心不乱に頑張るのって今まで無かったよね。」

 

友希那「そうね。いつもは後方支援だし、自ら進んで何かをするような人では無かったわ。」

 

薫「……変わったんだよ、彼女は。」

 

高嶋「変わった?」

 

1人、元の時代での美咲を知っていた薫はその時に交わした約束を破って香澄達に語り出す。

 

薫「彼女…美咲は元の世界には帰りたがっていなかった。それは元の世界が"寒かった"からだ。」

 

小沙綾「寒かったって…北海道は元々寒いはずですけど……。」

 

薫「文字通りの意味さ。」

 

夏希「どういう事ですか?」

 

薫「美咲が御役目をしていた北海道では迫り来る星屑の恐怖からか市民は些細な争いを繰り返していた。圧政をしく権力者、あまつさえ美咲の勇者の力を奪おうとする人さえもいた。そんな中、美咲はたった1人市民を守る為に戦い続けていたんだ。」

 

彩「そ、そんな事が……。」

 

紗夜「…………。」

 

薫「相談しあえる友と呼べる者もおらず、いつしか美咲の心は冷え切ってしまったんだ。」

 

香澄「そんな中、この世界に召喚された…。」

 

有咲「そりゃ帰りたくなくなる筈だな……。」

 

薫「だがみんなと触れ合い、共に戦っていく中で美咲の心の氷は段々と溶けていき、今やっと心の底から親友の為に何かしたいという気持ちが生まれたんだ。」

 

燐子「そうだったんですね……。」

 

紗夜「大切な人の為に……分かる気がします。」

 

 

--

 

 

再び家庭科室--

 

美咲「よし……後はスポンジが焼けるのを待つだけだね…。」

 

美咲は大きく深呼吸して椅子に座り込んだ。

 

美咲(この世界にやって来て、毎回何かしらこうしてみんなで色んなパーティしてきたっけ。……ここに来てから、楽しい事ばっかりで、毎日があっという間に過ぎていったな…。)

 

ふと頭に浮かんできたのは今までここで過ごしてきた思い出の数々。

 

美咲(いきなり知らない異世界に飛ばされて、土地を取り返す御役目をやる羽目になって……。正直最初はかなりしんどかったけど、一緒に戦ったり、笑い合ったり出来る仲間が出来て……。梅雨時の過ごし方も教えて貰ったっけ…。)

 

美咲(こんなに楽しい毎日を過ごしてると、元の世界に戻ったらきっと寂しいって思ってた……。実際元の世界に戻ったら命を落とす人もいる…正直私も怖い……。だけど、それでも運命を変えるって言って戻る事を選択した夏希や美竹さん。そんな人の熱い思いを聞いてると本当に何とかなるんじゃないかって、今は思える……。)

 

美咲(だから……これは私からの恩返し!私の心を暖めてくれたみんなへのささやかなプレゼント……。)

 

その時、オーブンがスポンジの焼き上がりを知らせる音を鳴らす。

 

美咲「よし!完成までもう一息だ!コシンプ、声援宜しくね!」

 

コシンプ「………。」

 

 

---

 

 

次の日、勇者部部室--

 

香澄達が部室に来ると、机の上に何かが置かれていた。

 

あこ「あれ何だろう?」

 

燐子「白い封筒……何が入ってるのかな…?」

 

ゆりは封筒を手に取る。封筒の裏には"みんなへ"と書かれた宛名。

 

ゆり「ふむふむ……。これは美咲ちゃんからの招待状だね。」

 

紗夜「招待状ですか?」

 

手紙にはこう書かれていた。

 

 

--

 

 

"大切な勇者部の親友達へ。

 

 

これからみんなで私の為のパーティを開きます。

 

 

プレゼントとかは要らないから、みんなで気兼ねなく参加してください。

 

 

待ってます。"

 

 

--

 

 

日菜「あはは。美咲ちゃんらしいや。」

 

イヴ「みんなで私の為の……中々聞かない言葉です。」

 

花音「プレゼントは要らないって書いてあるけど……。」

 

香澄「でも折角だから何かしら持って行きたいなぁ。」

 

みんなが悩む中、リサが部室に入って来た。

 

リサ「ちょうど良かった。みんな揃ってるね。実は、こんなプレゼントを思い付いたんだけど…。美咲の為にも、力を貸してくれないかな。」

 

そうしてリサは香澄達に考えていた事を説明する。

 

 

---

 

 

空き教室--

 

美咲「みんな、今日は集まってくれてありがとうございます!私からみんなへの感謝の気持ちを込めて、おもてなししちゃいます!」

 

教室には飾り付けもしっかりされてあり、ケーキ以外にもいくつか料理が用意されていた。

 

友希那「逆な気もするけれど…もてなされる事にするわ。」

 

燐子「飾り付けも…素敵です…!」

 

美咲「ありがと。柄にも無く頑張っちゃったよ。自分で言い出したパーティだからね。」

 

高嶋「ケーキも手作りだなんて凄いよ!」

 

中沙綾「それに料理も。お疲れ様。」

 

美咲「いやぁ……お口に合えば良いんだけど。」

 

みんなは料理を食べ始める。

 

あこ「うん!すっごく美味しいよ!」

 

夏希「はい!いくらでも食べられますね、これ!」

 

美咲「あはは……。そう言ってもらえるとなんか照れるなぁ…。」

 

香澄「うん……うん…。本当に美味しいよ。美咲ちゃんの心がこもってる…。」

 

美咲「そう?それなら頑張って作った甲斐があったよ。」

 

 

--

 

 

パーティも終盤に差し掛かってきた頃--

 

リサ「コホン!ここで勇者部みんなから、美咲にプレゼントがあるよ。」

 

リサは美咲の前にプレゼントの包みを見せる。

 

美咲「えぇ!リサさん、プレゼントは要りませんって手紙に書いてあったのに。」

 

リサ「そんな事言わないで、受け取ってよ。」

 

プレゼントを美咲に手渡す。

 

美咲「アルバム…ですか?」

 

美咲に手渡されたのは一冊のノート程の大きさのアルバムだった。中を開くと--

 

美咲「これは……みんなとの思い出の写真がいっぱい…。」

 

アルバムにはこの世界でみんなと過ごして来た思い出の写真の数々。

 

リサ「みんなで少しずつ写真を持ち寄って作ったんだ。」

 

美咲「………。」

 

美咲は何も言わずアルバムの写真に目をやる。

 

リサ「………ねぇ、美咲。どうしてこんな物をって思ってるよね?」

 

美咲「すみません、バレちゃいましたか。みんなの気持ちは嬉しいんですけどね…。」

 

美咲もリサもこの世界で得た物や記憶は持って帰れない事は理解している。だからこそ美咲は何故リサ達がこれをプレゼントとして渡したのか分からないでいた。

 

リサ「少し強引かと思ったんだけど、美咲に伝えたい事があったからさ。」

 

美咲「え……?」

 

リサ「そう。……何があっても忘れられないような記憶を持とう…ってね。」

 

美咲「何があっても…忘れられない記憶…。」

 

香澄「そうだよ!頭では消えちゃうかもしれないけど……心の中で強く思ってる事は絶対に消えない…。心に残り続けるって事!」

 

中沙綾「そうだね。現に私だって忘れてた事あったけど、心の中には強く残ってた事あったし。」

 

中たえ「そうだね……。」

 

美咲「そっか……。そうだね…!」

 

美咲はアルバムを胸に抱き寄せ、一筋涙を流す。

 

美咲(忘れない……!忘れるもんか!この世界で出会ったみんなを。心に刻みつけるから……。)

 

 

---

 

 

花咲川中学、屋上--

 

パーティが終わった後、美咲は薫に呼ばれ屋上へと来ていた。

 

美咲「話って何ですか?」

 

薫「ああ。美咲に謝らなければいけない事があるんだ。」

 

美咲「どうしたんですか?突然。」

 

薫「美咲と私がこの世界にやって来た時、美咲は自分の過去を私に話してくれたよね。」

 

美咲「……はい。」

 

薫「その事を勇者部のみんなに話してしまったんだ。すまない……。」

 

薫は包み隠す事無く、美咲に約束を破ってしまった事を謝った。

 

美咲「………。」

 

しばし無言の時が流れる。

 

美咲「……なんだ、そんな事だったんですか。もっと深刻な事かと思いましたよ。」

 

思いがけない美咲の反応に、薫はきょとんとしてしまう。

 

美咲「……この世界に来た当初だったら凄く怒ってたかもしれなかったですけど、今となっては逆に話してくれて良かったですよ。これで隠し事無く、帰れますから。」

 

薫「美咲……。変わったね…。」

 

美咲「え?」

 

薫「ここに来た当初より見違えるようだよ。今の美咲は光り輝いているよ。」

 

美咲「そうですか?」

 

薫「ああ。」

 

美咲「………ふふっ。」

 

薫「ふっ……。」

 

美咲・薫「「あははははははっ!!」」

 

美咲「なーんだ!だからみんなこんなアルバムをプレゼントしてくれたんですね。」

 

薫「そうさ。無粋だったかい?」

 

美咲「いや、最高のプレゼントですよ。例え持って帰れなくても、忘れる事は出来なさそうです。しっかり心に刻んでおきましたから。」

 

外はすっかり日が沈み、満天の星空が2人を包み込んでいた。

 

薫「そうか。……初めて話した時もこんな夜空だったね。」

 

美咲「そうですね……。」

 

薫「北海道と沖縄……。真逆の場所だけれど、生きている時代は一緒だ。私達はこの星空でいつも繋がっているよ。」

 

美咲「ええ……。時々夜空を見上げで思い出してみますよ。……ここで出会えた素敵な親友の事を!」

 

薫「出会えて良かったよ、美咲。」

 

美咲「私もです。本当にありがとうございました。」

 

澄み渡る夜空の下、2人は硬い握手を交わすのであった--

 

 

---

 

 

狭間の空間--

 

美咲(忘れない……忘れるもんか。あんな最高の思い出、忘れる事なんて出来ないよ…。)

 

異世界での最後の時を思い出し、歩みを進めていく美咲。そして、出口に辿り着く--

 

 

美咲「……この先を越えれば、また寒空の北海道だね、コシンプ。」

 

コシンプ「………。」

 

美咲「……うん、そうだよね。」

 

 

美咲は歩みを進める--

 

 

美咲「もう、寒くないもんね--」

 

 

美咲は光の中に消えていく--

 

 

一歩踏み出す美咲の顔は笑顔だった--

 

 

 

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