突如夜の樹海に飛ばされた千聖達。今、新たな御役目の幕が開く--
神からの試練
樹海?--
千聖「はぁ……はぁ……はぁ…。」
白鷺千聖は怒っていた。見た事も無い場所、次々と襲い来る新種のバーテックスに逃げるしか無い状況に。
千聖(見たところ…ここは樹海の様だけれど、辺りは夜……そして今まで見た事が無いバーテックスの群れ……。私の体力も底をつきかけている…撤退しか選択肢が無い事が腹立たしいわ……。)
千聖は走りながら左右を見回すも目に付くものは蟷螂の様な昆虫型のバーテックスのみであり、勇者らしい人影は欠片も見られない。
--
幾ばくの間走り続けただろうか、どうやら千聖はバーテックスの群れを取り敢えずは振り切る事が出来たようだった。
千聖「はぁ…はぁ…全く……分からない事が多すぎる……。」
千聖は乱れる息を整えながらここまでの経緯を振り返ってみる。
千聖(確かに私は彩ちゃんや花音、イヴちゃんに日菜ちゃんと光の道を通って元の時代、神世紀300年のゴールドタワーへと戻った筈だった………。)
--
狭間の空間--
花音「本番失敗しちゃうんじゃないかと思ってホント緊張したよぉ……。」
イヴ「でも花音さんはミス無く出来ていましたよ。」
日菜「元の世界に戻ってもまたやりたいね。」
彩「そうだね。防人のみんなにも見てもらおうよ。あっ、出口が近付いてきたよ。」
千聖「みんな、覚悟は良い?これからまた防人としての任務が始まるわ。これからも"犠牲ゼロ"を目標に大赦を見返してやるわよ!」
4人「「「おーーっ!!」」」
--
千聖(光の出口を確かに5人で抜けたと思っていた。また防人としての御役目が始まると思っていたのに………。)
--
樹海?--
千聖「ここは……樹海………なの…!?」
--
千聖(気が付いたら夜の樹海に1人で立っていた……。暫く辺りを散策してみたけれど、出会すのは見た事も無いバーテックスばかり、倒しても倒してもキリが無いわ。)
千聖は宛てもなく歩き続け近くに敵がいない事を確認すると腰を下ろして大きくため息をついた。
千聖「ふぅ……。防人、白鷺千聖。状況を記録しておく。」
千聖は戦衣の録音機能を起動した。
千聖「再び樹海に飛ばされてからそろそろ12時間。この樹海はいつもと違う。ずっと、夜よ。通信も出来ずレーダーも反応しない。………仲間とも巡り合えない。更に新種のバーテックスも襲ってきている。そもそも何故いきなりこんな事になったのか。私達は造反神を鎮めた筈なのに……。」
まだ見ぬ仲間も同じ目に遭っているかと思うと治まりかけていた怒りがふつふつと込み上げてくる。
--
千聖「誰かーーーー!!いないのーーー!?」
数分間の休息の後、千聖は同じ状況に置かれているであろう仲間を探しに樹海を再び散策する。すると--
花音「ちーさーとちゃーん!」
突如何処からか花音が千聖を呼ぶ声が樹海に響き渡る。
千聖「花音っ!?花音!!」
千聖は花音の声を頼りに見回すも姿は見えない。
千聖「………まさか花音の幻聴が聞こえるまで精神が参ってるなんて…私もまだまだね。っ!?」
すると千聖の声を聞きつけたのか新種のバーテックスが千聖の周りに集まり出した。
千聖「……もう、叫べば寄ってくるのは敵ばかりね。怒りが湧いてくるわ。……迎撃する!」
千聖が銃剣を構えたその時だった。
?「……勇者パンチ!」
何処からともなく飛んできたパンチによって新種のバーテックスは吹き飛ばされる。
千聖「っ!?誰!?」
赤嶺「大丈夫?」
千聖を助けたのは先に元の時代に戻っていた筈の赤嶺だったのだ。
千聖「赤嶺香澄!?」
赤嶺「白鷺千聖。そっちも同じ状況みたいだね。気が付いたら私も夜の樹海にいた。」
千聖「一体これはどういう事なの!?」
赤嶺「ここで湧いてくる星屑達は私の言う事も聞いてくれないんだ。新しい何かが起こってる………ともかくまずは協力してこいつらを倒そう!」
千聖「分かったわ。…まさかあなたと一緒に戦う事になるとはね。」
千聖は状況を打破する為、赤嶺と共にバーテックスの群れに立ち向かっていくのだった。
--
千聖「はあっ!」
千聖は銃剣で新種を斬りつけるも、鎌の様な前脚で受け止める。
千聖「くっ、こいつらやっぱり今までのバーテックスより強い!」
千聖は距離を取り今度は銃で狙い撃つも、新種は羽を広げて空を滑空し銃弾を躱していく。
千聖「くっ……!ならこれでどう!来なさい、"尊氏"!!」
千聖は自身の精霊である"尊氏"を憑依させ再び新種に向かって斬りかかる。"尊氏"の能力は武器の性能の底上げ、この状態なら並のバーテックスなら豆腐の様に切り裂く事が出来る。だが--
千聖「そ、そんなっ!?」
新種はそんな事意にも介さず千聖向かって突っ込んでいき剣劇を鎌で受け止めるのだった。
千聖「精霊憑依の力でも切り裂けない!?」
狼狽る千聖だったが、そこへ赤嶺の声が。
赤嶺「そのままそいつ抑えてて!」
新種の背後から赤嶺が飛びかかり、
赤嶺「勇者パンチ!」
無防備な新種の脇に渾身のパンチを喰らわせ新種は光となって消滅する。
千聖「助かったわ。」
赤嶺「このまま力を合わせて殲滅するよ!」
千聖「ええ!」
--
千聖が新種を押さえつけ、赤嶺がトドメを刺す。即席のコンビプレーでなんとか新種の群れを退けた千聖達。
赤嶺「はぁ…。敵、いなくなったね。」
千聖「あなたでも操れないと言っていたけれど、何が起きているの。」
赤嶺「それが私にも全然分からないんだ。正直、人に会えてホッとしてるよ。」
千聖「そうね……それは私もよ。」
千聖が夜の樹海に迷い込んでから半日以上が経っている。正直人と話さない事で2人の精神状態も満身創痍になっていた。
赤嶺「お互いに把握している情報を出し合おう。」
--
赤嶺「んーお互い知っている情報は同じだね。訳も分からないままココにいる。」
千聖「造反神は鎮めた筈。それなのに、何故また樹海が。」
赤嶺「心当たりが無いんだ。というか、私、記憶が少し朧になってるんだよ。」
赤嶺は自分状況を話し始める。どうやら赤嶺は自分の事や香澄達勇者の事などの基本的な事は覚えているのだが、以前の様なこの異世界の謎に関する事や神に関する知識がごっそり抜け落ちてしまっているのだ。
千聖「成る程ね。今回の状況と何か関係があるのかしら?」
赤嶺「……とにかく今はこの状況を切り抜けなきゃ。水と食料の問題を解決しないとね。」
千聖は樹海に実っている謎の果実を手に取った。
千聖「いよいよ試すしかないわね。この果実を。」
赤嶺「ね。この夜の樹海にある果実。食べられそうだよね。」
千聖「怪しすぎて食べたくはなかったけど、このまま何もしなければ倒れる。やむを得ないわね。……一応バーテックスの一部を飲んだ人はピンピンしてるから。」
赤嶺「それは朗報。ならいけるかもしれないね。よーし、これでも毒物に関する知識はあるんだ。毒味しつつ食べてみるよ。」
赤嶺は千聖から果実を受け取る。
千聖「毒物に関する知識……それは本当なのね?」
赤嶺「うん。」
千聖「香澄の名がつく人はこういう時に身体を張りそうなのよね。」
赤嶺「身体を張るのは確かだけど、強がりじゃなくて本当に知識はあるよ。」
赤嶺はそう言って果実の毒味を開始する。
赤嶺「ペロッ……。うん。ペロッ……うん。」
千聖「ど、どう?」
赤嶺「……うん。ウーロン茶的な味がするね。いけるいける。さ、千聖もどうぞ。」
千聖「………大丈夫そうね。ありがとう、赤嶺。」
赤嶺「お安い御用だよ。さて、軽く休んでいこっか。」
千聖「そうね、このままじゃ倒れるわ。交代で見張りつつ寝ましょう。」
赤嶺「…じーっ………。」
赤嶺の視線が千聖に刺さる。
千聖「ど、どうしたのかしら?」
赤嶺「千聖ってなんか良いね。こういう時もいつもピッとしてて安心出来る。」
千聖「それはこっちの台詞よ。味方だと頼もしいわね赤嶺。まず、あなたが寝て。見張ってるから。」
赤嶺「うん。じゃあお言葉に甘えて。」
最初は千聖が見張りを買って出て、赤嶺が眠りにつくのだった。
--
赤嶺「Zzz………。」
千聖「よっぽど疲れていたのね……。」
赤嶺「Zzz……。つぐちん……ロック……。」
千聖「…ふふっ………。」
--
3時間後--
赤嶺「ふーっ。休憩終わり、っと。探索続けようか。」
通常の時刻であるならば、とっくに朝になってもおかしくはないのだが、樹海は相変わらず夜のままだ。
千聖「ひたすら夜なのね、ここは。」
赤嶺「千聖は寝てる時、彩ちゃんの名前を呟いてたよ。」
千聖「巫女が同じ状況になっていたら大変だから心配なのよ。リサちゃんやモカちゃんも……。そういうあなたも誰かの名前を呟いていたわよ。」
赤嶺「あっ、それ多分つぐちんとロックだ。」
千聖「つぐちん……は確か、あなたの時代での仲間よね?」
氷河つぐみ--
赤嶺が御役目についていた神世紀72年での相棒であり、氷河日菜の先祖である。
赤嶺「そうだよ。つぐちんとロック……朝日六花。3人で組んでたんだ。いつかみんなにも紹介したいよ。」
千聖「日菜ちゃんの先祖はどういう人なのか興味は尽きないわ。」
赤嶺「良い子だよ。友達友達。」
そこへ、
花音「ちーさーとちゃーーん!!」
再び花音の叫び声が何処かから聞こえた。
千聖「っ!?また幻聴!?」
赤嶺「ううん、幻聴じゃない。私にも聞こえた。」
千聖「!!!」
花音の叫び声が幻聴でないと分かるや否や千聖は声が聞こえる方向へ走り出した。
---
樹海、別の場所--
花音「ふぇええええ!?助けて千聖ちゃーーん!!もう訳分からないよぉーー!!」
花音は迫り来る新種から千聖の名前を叫びながら逃げ惑っていた。
イヴ「ギャーギャー言うと疲れるだけだって言ってるのにピーチクパーチクと。いいか、俺とお前が合流出来たんだ!他のみんなとも会えるに決まってる!」
花音は自分の勘を頼りに今より少し前にイヴと合流する事が出来ていた。しかし、新種との戦いは防戦一方となってしまい、千聖と同じで逃げるしか手立てはなかったのである。
花音「そうは言うけど、もう精神の限界だよ!気力も無くなっちゃうよぉ!」
イヴ「くっ、次から次へと虫の様にゾロゾロと!」
花音「いよいよマズイよ、千聖ちゃーーーん!!」
イヴ「だぁーーーっ!そうやって白鷺に甘えるな!今アイツだって大変かもしれねぇんだ!こっちが助けに行くぐらいの気持ちでいろ!分かったか!?」
2人は全速力で逃げるものの、新種は更に数を増やしていく。
イヴ「ちっ、更に増援か。こっちは中々スリリングだぜ白鷺。しょうがねぇ……。」
イヴは急に方向転換し、新種に向かって突撃しだした。
花音「イ、イヴちゃん!?」
イヴ「お前だけでも先に行け、ここは俺が食い止めてやる!!」
花音「で、でも!!」
イヴ「こういうのは俺の役目だ!お前は直感信じて誰かと合流しろ!!さっきも言ったろ。俺と合流出来たんだ。他の奴とも合流出来るだろ。行け!!松原!!!」
花音「うぅぅ………。」
花音はイヴに背を向けて走り出す。イヴの思いを汲んだのだ。
花音(イヴちゃん、待ってて!!助けを連れて必ず戻ってくるから…!)
--
イヴ「行ったか……。アイツにはアイツにしか出来ない事がある…だから、これは俺にしか出来ねぇ事だ!!来い"雷獣"!!!」
イヴは自身の精霊である"雷獣"をその身に憑依させる。
イヴ「来いよ、虫けらども!!こっから先は一歩も通しやしねぇぞ!!!」