戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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何故勇者達は再び異世界に集められたのか、その謎が明らかに。

そして新たなる仲間も--




予想外の誤算

 

 

新しい謎、夜の樹海--

 

取り敢えずのところ、勇者部は巫女達に神託が降りてくるのを待つ事となった。

 

勇者部部室--

 

〜〜〜♪

 

突如勇者部の端末が一斉に鳴り響く。勇者達の騒めきが部室を包み込む。警報が鳴り響く、即ちバーテックスが再び攻めて来た事を意味するからである。

 

有咲「じ、樹海化警報!?」

 

蘭「造反神は鎮めた筈なのに樹海化警報だなんて。」

 

ゆり「ともかくみんな早く準備して、何が起こるか分からないから。」

 

勇者達は緊張の面持ちのまま、樹海へと消えていく。

 

 

---

 

 

樹海--

 

勇者達は樹海へ辿り着くのだが、樹海は以前とは雰囲気が違っていた。

 

香澄「あれ?ここって樹海だよね?」

 

蘭「地面も今までとは少し違うね。」

 

そこは夜が支配する樹海。千聖達が半月もの間彷徨っていた樹海である。

 

中沙綾「これが…千聖さん達が言っていた夜の樹海なの……。」

 

イヴ「そうです。私達が飛ばされた所と見た目は同じです。ですが……。」

 

燐子「今回は今まで私達が戦っていた樹海が夜の樹海へと変化した…。」

 

日菜「今までの慣れ親しんだ常識は通用しないかもね。勝手にここの果実は食べないようにね。」

 

勇者達は円陣を組んで、互いの背中を守りながら辺りを確認する。

 

花音「みんなと一緒でホッとしてるよ。1人で飛ばされた時は本当に大変だったもん。」

 

香澄「大丈夫だよ、花音さん!」

 

花音「香澄ちゃん……。」

 

暫く様子を伺っていると、樹海が段々と騒めき立つ。バーテックスが勇者達に狙いを定めて襲ってくる合図だ。

 

美咲「来たよ!うじゃうじゃいる。」

 

小沙綾「見た事が無いバーテックスもいます!形状からして恐らく千聖さん達が話していた"蟷螂(とうろう)"かと。」

 

形状がカマキリに似ている事から"蟷螂型"と名付けられた新種が"新型"と"防御特化型"を引き連れて襲い掛かってくる。

 

燐子「あの"蟷螂型"は…指揮官のような立場なのでしょうか…。」

 

薫「戦い方は千聖から教わっている。敵わない相手ではないね。」

 

紗夜「話は簡単です。今まで通り迎撃しましょう。」

 

紗夜は夏希の肩に手を当てて意気込んだ。

 

夏希「はい、紗夜さん!また戦いなんてびっくりだけど、やるぞー!」

 

あこ「その意気だよ、夏希!あこと合わせて!」

 

赤嶺「こうして動きがあったって事は彩ちゃん達に神託が来てるかもしれない。」

 

友希那「敵を倒して状況を打開するわよ!」

 

勇者達はそれぞれ武器を構え戦闘態勢を取る。戦闘は3人の香澄。

 

香澄「赤嶺ちゃん、よろしくね!」

 

高嶋「香澄トリオ、行くよーっ!」

 

赤嶺「お、おーっ。」

 

 

--

 

 

夏希「くらえっ!!」

 

双斧が轟音を上げて"蟷螂型"に迫るが、タイミング良く鎌を振り上げ夏希の斧を弾き飛ばす。

 

夏希「いっ!?」

 

次の行動に夏希が動けない隙を狙って"蟷螂型"は連続して斬りかかる。

 

小沙綾「夏希、鎌に気をつけて!」

 

夏希「っと!分かって……るよっ!」

 

紗夜「来なさい"七人御先"!」

 

夏希に気を取られている内に背後から六人の紗夜が攻撃するが、堅牢な表皮に攻撃が阻まれてしまう。

 

紗夜「やはり節を狙うしか……。」

 

中沙綾「紗夜さん、私が援護します!」

 

沙綾が遠距離からスナイパーライフルで狙撃するが、"蟷螂型"は鎌から斬撃を飛ばして沙綾の攻撃を逸らす。

 

千聖「っ!?こんな攻撃今までのアイツからは出てこなかったわ!」

 

中たえ「……っと、バーテックスが勇者との戦闘を通して進化してるって事かな?」

 

バーテックスが進化している--

 

これまでの御役目では無かった事が勇者達を戸惑わせる。

 

赤嶺「そんなの関係無いよ。」

 

赤嶺が"山本"の力を駆使しながらみんなを叱責する。

 

赤嶺「敵が進化するからって何?敵がパワーアップするのなら、こっちもそれ以上のパワーアップすれば良いんだよ。みんなは造反神の試練を超えてみせた。力を合わせればどんな試練だった乗り越えられる。みんなは私にそれを証明してくれたんだよ!」

 

赤嶺の叱責を受け、1人、また1人と勇者達に活力が戻ってくる。

 

友希那「……そうね。こんな所で立ち止まっていたんじゃ未来には進めないわ!」

 

有咲「流石私達と戦ってただけはあるな。説得力が違う。」

 

香澄「そうだよ!みんな、勇者部五箇条!」

 

勇者達「「「なるべく、諦めない!!!」」」

 

ここから勇者達の怒涛の反撃が始まる。

 

 

--

 

 

友希那「一気に駆け抜ける!八艘飛び!」

 

"義経"を憑依した友希那が目まぐるしい速さで樹海を飛び回り撹乱させ、

 

りみ「"満開"でのワイヤーなら!私が動きを止めます!」

 

"満開"したりみがワイヤーで敵の鎌を封じる。

 

ゆり「りみ!"満開"は強力な力だけど、使うのは程々にね。」

 

りみ「うん。」

 

燐子「いくら何でも…"あそこ"なら効く筈です……。」

 

"雪女郎"を憑依した燐子が金弓箭の矢が"蟷螂型"の顔面に命中する。

 

夏希(燐子さん……綺麗な顔してなんてエグい攻撃を……。)

 

香澄「赤嶺ちゃん!」

 

高嶋「私達3人でトドメ行くよ!」

 

赤嶺「わ、分かった…。」

 

3人の香澄は高嶋の"一目連"の力で高く飛び上がり、拳を構える。

 

香澄「行くよ!!勇者パンチ!」

 

高嶋「トリプル!!」

 

赤嶺「えっ!?え、えっと……クラッシャー!」

 

樹海が轟音と共に唸りを上げるのだった--

 

 

--

 

 

有咲「はぁ…敵、全滅…だな…。」

 

蘭「何とか倒せたね…。」

 

美咲「油断しないで。まだ来るかもしれない…。」

 

勇者達は警戒態勢を解かず辺りの様子を伺う。そのまま数分が経過したが、敵の増援が現れる事無く樹海化が溶け元の世界へ戻っていく。

 

花音「はぁーっ。今回はすぐに帰れるよ。お風呂に入りたいなぁ。」

 

 

---

 

 

勇者部部室--

 

小沙綾「夏希よし、おたえよし。神樹館全員揃ってます。」

 

千聖「ふぅ、誰1人欠ける事無く、みんないるわね。」

 

夏希「今回、新しい敵はいましたけど、やってくる事は前までと同じでしたね。」

 

彩「みんな、お疲れ様。赤嶺ちゃんも。」

 

みんなにお茶を出しつつ、彩は帰ってきたみんなを労う。

 

赤嶺「こうして彩ちゃんにお疲れ様を言ってもらえるのは嬉しいね。」

 

モカ「こっちでも神託あったよ。」

 

リサ「みんなが落ち着いたところで説明するね。」

 

 

--

 

 

数分後--

 

リサ「よし、それじゃあ今回の神託について説明するね。」

 

一頻り落ち着いたところでリサが今回の神託の説明を始める。

 

中沙綾「いつもこういう役回りで大変ですね、リサさん。」

 

リサ「なんて事ないよ。戦うみんなと比べればね。心強い巫女の仲間もいるし。」

 

モカ「奥の人達聞こえるー?」

 

部室として使っている家庭科準備室は普通の教室よりも少し狭い。6人にんなら広く感じるこの部室も今となっては25人の大所帯だ。全員がギリギリ入りきれるレベルである。

 

薫「聞こえているよ。夏希ちゃんも聞こえてるかい?」

 

薫は頭上の夏希に声をかける。少しでも部室を広く使う為に肩車をしているからだ。

 

夏希「はい。やー薫さんの肩車は嬉しいなー。」

 

赤嶺「流石お姉様。冴えてるー。」

 

小たえ「御先祖様の肩車だ。」

 

友希那「ふふ、あまり動かないで頂戴ね。」

 

同じ理由でたえも友希那に肩車をされている。

 

中たえ「あれ羨ましいなぁ。有咲。」

 

有咲「だぁーっ!私に強請るな!おたえの方が背ぇ高いだろ!」

 

日菜「"氷河家"の肩車なんてそうそう無いよ、沙綾ちゃん。」

 

小沙綾「あ、ありがとうございます日菜さん。」

 

りみ「うぅ…。小学生のみんなが肩車されるのは分かるけど、なんで私まで…。」

 

ゆり「りみをかつげてお姉ちゃんは嬉しいよ。りみの成長も嬉しいけど、たまにはこうしたいの。」

 

小学生組に混じって何故かりみも肩車されていた。

 

イヴ「こんなにすし詰めですが、落ち着けている自分に少し驚いています。」

 

紗夜「その気持ちは分かります、若宮さん。」

 

香澄「こうやって赤嶺ちゃんと神託を聞く日が来るなんてね。」

 

高嶋「嬉しくて思わず万歳しちゃうな。バンザーイ!」

 

赤嶺「今回は力になるよ。あまり大事じゃないといいんだけど。」

 

リサ「みんな大丈夫みたいだね。それじゃ説明を始めるよ。」

 

彩「今回の異変に造反神は関係無いみたいなんだ。」

 

友希那「……っ!」

 

造反神は関係無い。彩のその一言で友希那の脳内にある映像がフラッシュバックする。

 

 

--

 

 

友希那「……?外が何かおかしいわ。昼間なのに、やけに月が大きく……。」

 

 

--

 

 

友希那「……中立神ね。」

 

リサ「そう。赤嶺が前に私達に話してた中立神によるものなんだ。」

 

中立神--

 

今日日本には数多くの神が存在している人類を滅さんとする"天の神"。地の神の集合体である"神樹"その"神樹"の中に存在していた"造反神"。そして、"天の神"にも"神樹"にも属さない"中立神"--

 

そもそも造反神を鎮める御役目自体が中立神が天の神サイドに加勢をしないようにする為の自作自演であった。それが功を奏し中立神は人間の可能性を認めるに至ったのである。

 

モカ「造反神を鎮める御役目を見守ってた中立神は、私達に物凄く興味を示したみたいで。」

 

リサ「だから今度は中立神の試練が始まったって事なんだ。」

 

あこ「えぇー!?でも確か中立神はあこ達の戦いを見て分かってくれたんだよね?」

 

あこの言う通り、中立神は人間を認め、今後も中立を貫くと以前説明されていた。

 

リサ「そうなんだけど…興味の示し方が大きくて。」

 

彩「自分自身による試練を行いたいって。そういう神託なんだよ。」

 

モカ「でも、この試練を乗り越えれば中立神は中立を貫くどころか味方してくれるって。」

 

この御役目を達成すれば中立神は味方になる。それはとても心強い事ではあるが、逆を返せばもし失敗する事があれば、中立神は敵に回るという事でもある。

 

小沙綾「神が味方を…!じゃあ神樹様としても中立神の申し出を受けたって事ですか?」

 

リサ「そう。この世界は神樹様の中という基本的な事は変わらないんだけど、中立神の干渉を大きく受けてるから少し勝手が違ってくるんだ。」

 

モカ「例えば夜が長いって特徴かな。他は今までとは変わらないみたいだけど。」

 

リサ「平たく纏めるとこんな感じかな。」

 

高嶋「その試練の内容は、どういうものになるんだろう?」

 

彩「今回は元の世界と同じ様に神樹様の防衛だよ。」

 

バーテックスが進行してきて樹海化する。それを勇者達は迎撃する。今回は領土奪還では無く本来の御役目と同じ神樹の防衛。

 

紗夜「分かりやすいのは良いですね。……何か仕掛けてくる可能性はありますが。」

 

美咲「つまり新たな神様の新たな御役目はあるけど、私達はまだこの世界にいて良いって事ですよね?」

 

リサ「そうなるね。今は中立神の力が流れているお陰で神樹様の力もそれほど目減りしないみたい。」

 

その言葉を聞いて美咲は思わず口元が緩んでしまう。

 

美咲「相当嬉しいアクシデントですね、これは。」

 

中たえ「そうだね。記憶を持って帰る術は中々見つからなかったから。延長戦……って言うよりは、もう一試合かな。やるのは歓迎だよ。」

 

千聖「しかも、それで中立神が味方になる可能性があるなら、何よりね。…勝手に試練が始まってるのが何とも言えないけれど。」

 

ゆり「ホントにいつも一方的なんだから…。」

 

イヴ「とにかく、もう試練が始まっているのならやり遂げるしかありません。」

 

花音「うんうん。まだまだみんなで一緒にいようね。」

 

美咲「中立神からの御役目は分かったとして、色々意見を交換しましょう。」

 

蘭「この御役目が終わっても、みんなが戻る時間軸は変わらないんですよね?」

 

リサ「うん、そこは変わらないよ。」

 

ゆり「記憶を残す方法を探しつつも、またみんなでやっていく感じだね。」

 

彩「"カガミブネ"も前と変わらない条件で使えるよ。」

 

夏希「よし!少しでも状況が良くなるようにまた頑張るぞ!ね、沙綾。」

 

小沙綾「……うん、夏希!」

 

蘭「そんな事で湊さん、まだまだ暫く宜しくお願いします。」

 

友希那「ええ。こちらこそ宜しくお願いするわ、美竹さん。」

 

みんなが気持ちを新たにしたところで花音がとある疑問を口にする。

 

花音「ところでなんだけど、どうして私達"だけ"が樹海に放り出されたんだろう?」

 

夜の樹海に突然飛ばされたのは防人組5人と赤嶺。他の勇者達は同じ目に遭っていない。何も分からず6人は半月もの間夜の樹海を彷徨っていた。下手をすればそこで全滅の可能性すらあったというのに。

 

イヴ「……赤嶺さんは、以前の御役目で皆さんに力を貸すのが1番最後でした。そして私達はその御役目の終盤でこの世界に来ました……。」

 

日菜「つまり、私達だけ未知数なところが多いから改めて一度試されたって事?」

 

赤嶺「それをクリアしたから私達はみんなと同じ土俵に立てた、か。成る程ね。」

 

香澄「赤嶺ちゃんの記憶が一部曖昧になっちゃったのも、それが原因なのかな?」

 

赤嶺「だろうね。今回は私も御役目を受ける側だから。」

 

燐子「何だか今回の神様…中立神は本当に人間に興味津々の様ですね……。」

 

紗夜「クリア報酬が楽しみですね。…ただ。神は神。造反神と同じで、容赦が無い所は容赦しないと考えるべきでしょう。」

 

有咲「千聖がもし放り出された空間でやられたとしても助けはしなかった、って事だろうな。…まぁ千聖がいたから、そのもしもは有り得ないだろうけどな。」

 

千聖「勿論よ。とは言え初手からやりたい放題ね、中立神は。」

 

中たえ「ある意味、神樹様と中立神が今は協力してるって事だよね?」

 

小たえ「それはもうやりたい放題来るよね。気を付けなきゃ。」

 

美咲「そうだね。容赦の無い神様って事を忘れず、全力でやって行こうか。」

 

小たえ「ところで、改めて試練を出してくるという事は、敵の強さも上がるって事だよね?」

 

今までと同じ強さなら御役目の意味がなくなってしまう。必然的にこれからも敵の強さが上がってくる事が予想出来る。

 

リサ「中立神の力も加わって敵の強さは更に上がると思う。だから、今回の御役目は赤嶺"達"も参戦出来るそうだよ。」

 

赤嶺「私…"達"?」

 

モカ「そのとーり!更なる御役目の為に、こっちも増援を呼べるよ。」

 

更なる増援。赤嶺香澄と同じ時代を生きた仲間が新たに合流する事となる。

 

香澄「わー、やったね!」

 

中たえ「つぐ……。氷河つぐみだよ、日菜さん。」

 

日菜「偉大な"氷河家"の先祖!!今からるんってしてきたよ!!」

 

モカ「もう暫くすれば到着するみたいだよ。」

 

赤嶺「つぐちん…ロック…。それをすっごく心待ちにしつつ……んん、ごほん、ごほん。」

 

赤嶺は軽く咳払いをしてみんなの前に出て改めて決意表明する。

 

赤嶺「みんな、赤嶺香澄だよ。今回は私も全力でみんなをサポートするから、宜しくね!」

 

友希那「味方になるとこれ程頼もしい事はないわね。宜しく、赤嶺さん。」

 

蘭「これまで通りまた生活していく訳だけど、一つお願いがあるんだ。記憶を残す方法とか色々と調べ物は続くだろうけど、それで切迫し過ぎないで欲しい。」

 

友希那「美竹さん……。」

 

蘭「これまで通り、みんなで楽しい事も普通にやっていきたい。」

 

香澄「そうだね!勇者でいる為には精神状態も大事大事!」

 

リサ「それじゃあ部長に最後はビシッと締めてもらおうかな。」

 

ゆり「うん…だけど、たまには香澄ちゃんが締めて。前回の立役者なんだから。」

 

ゆりに挨拶をパスされ、香澄がみんなの前に出る。

 

香澄「……はいっ!私達の…新しい冒険が、今始まります。1人1人が支え合って、乗り越えましょう!勇者部!!」

 

全員「「「出動!!」」」

 

勇者達が決意新たにする中、丸々と大きな満月はただただその行く末を見守っている--

 

 


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