戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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練習したかどうかも定かでは無いまま、勇者部はそれぞれの幼稚園で劇を始める事になるのだが--

次回はもう一度クリスマス回です。




混沌の人形劇ー開演ー

 

 

花咲川中学近くの幼稚園--

 

蘭「ゆ…勇者様、大事なウサギをた、助けてくんろ。オラもお供するずら。」

 

イヴ「私も連れて行ってください。きっと役に立つはずです。」

 

蘭(な、何で私だけ訛ってるの……。)

 

Aチームは今正に本番の真っ最中。滑り出しは中々のようである。

 

りみ「私の妖精を連れて行きなさい。きっと助けになる筈です。」

 

赤嶺「私がいれば魔女の魔法も怖くないよ。さ、行こう。」

 

高嶋「おお、これなら百人力だ!きっとウサギも助けてあげられるだろう!」

 

 

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舞台裏--

 

燐子「中々皆さん仕上がっていますね…。」

 

中たえ「そうですね。みんな頑張って練習してきましたから。」

 

 

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物語もいよいよクライマックスに突入。ここまで目立ったミスもなく魔女の登場シーンへと移っていく。

 

紗夜「ふ、ふふふ……よく来た勇者よ。私はお前を愛している!」

 

 

--

 

 

舞台裏--

 

燐子「え…?」

 

中たえ「あれれ…?」

 

 

--

 

 

高嶋「農民の大事なウサギを返してもらうぞ!それはそうと……僕も同じ気持ちだ!」

 

紗夜「えっ!?ほ、ホントですか……?」

 

高嶋「え、あれ?」

 

モカ「きゅ、きゅい〜きゅっきゅっきゅっ〜」

 

イヴ「う、ウサギさん……私にぞっこんラブだなんて…。」

 

蘭「え?………え?」

 

蘭(イヴ何やってるの!?)

 

モカ「きゅ〜?」

 

イヴ(蘭さん、ここは周りに合わせましょう。さあ、蘭さんも。)

 

蘭「うっ……。お、オラもそんだ!ウサギさぁに、ラブラブちゅっちゅずら…。」

 

イヴに背中を押され、仕方なく蘭も周りに合わせアドリブで展開していく。

 

モカ「きゅ〜。」

 

 

--

 

 

舞台裏--

 

燐子「は、花園さん……こ、これは一体……?」

 

中たえ「あ。間違えてみんなにボツにした台本渡しちゃった。」

 

 

--

 

 

りみ「確かにボツになるのも仕方ない内容だね……。」

 

赤嶺「みんな暗記してないから、台本をそのまま読んで混乱してるみたい。」

 

美咲「あはは……どうする?」

 

りみ「二度と同じ失敗を繰り返さないように、私が頑張らないと……!美咲ちゃん、困った時は音楽です!」

 

唯一経験があるりみが機転を利かせて美咲に音楽の指示を出す。

 

美咲「任せて!」

 

美咲は戦闘BGMを流して強引にラブロマンスから軌道修正をかける。

 

りみ「みなさん、このまま何とかアドリブで話を元に戻してください!お姉ちゃんがいない今……私が…私が何とかしないと!」

 

紗夜「届け、この想い!……じゃありません。勇者よ、受けてみよ!我が全力の魔法!」

 

赤嶺「いいえ、あなたの熱い想いはこの私が!……じゃなかった、魔法は私が跳ね返すよ!」

 

 

--

 

 

舞台裏--

 

中たえ「うんうん、何とか起動修正出来たね。」

 

りみ「その調子です、みなさん!」

 

燐子「……………。」

 

2人がホッとしている中、燐子だけが複雑な想いで劇を見ていた。

 

 

--

 

 

高嶋「ならばその想い、全力で受け止め………じゃなかった、来い、魔女よ!成敗して--」

 

燐子「…成敗しちゃダメです……!」

 

珍しく感情的になった燐子が舞台裏から出てきたのである。

 

全員「「「えぇ〜〜〜〜!?」」」

 

中たえ「燐子さん!?ど、どうしました?」

 

燐子「魔女の熱い想いに…勇者高嶋は応えるべきなんです……!」

 

りみ「演出がボツ台本の方を気に入っちゃった!?り、燐子さん、落ち着いて--」

 

燐子「さあ、勇者高嶋…!魔女の熱い想いに応えてあげてください!」

 

園児達「「頑張れ勇者〜!魔女も頑張れ〜!」」

 

美咲「あははっ!観客もノリノリみたいですよ?」

 

高嶋「わ、分かった!ならばこの胸で受け止める!おいで、魔女!」

 

高嶋は両手を広げ紗夜を受け止める準備に入る。

 

りみ「そ、そんな!高嶋さんまで!」

 

紗夜「た、高嶋さ……いえ、勇者!全力で受け止めて下さい!ラブメテオ……クラーーーッシュ!!」

 

紗夜はそう叫んで高嶋向かって思い切りダイブするのだった。

 

赤嶺「ラブ…メテオ…?」

 

高嶋「ぐはっ……!これが…君の……ラブ、メテオ……。ドサッ。」

 

紗夜「ゆ、勇者様ぁーーーっ!!」

 

中たえ「こうして、素直な気持ちを打ち明けた魔女は、勇者といつまでも幸せに暮らしました、とさ。」

 

蘭「とっぴんぱらりのぷう。」

 

モカ「何それ…。」

 

りみ「お姉ちゃん……やっぱり、ダメだったよ。後はBチームの成功を祈るしか……。」

 

 

---

 

 

一方でBチームの舞台--

 

香澄「さあ、魔王と魔女よ!地の利を得たぞ!覚悟しろ!」

 

花音「勇者様!」

 

千聖「勇者様!」

 

有咲「勇者様、勇者様、勇者様、勇者様、勇者様!!はぁ…はぁ…。」

 

中沙綾「どうか、魔王と魔女を倒し、王国をお救い下さい!」

 

夏希「ケッケ…!そうはイカの一夜干し!魔王様は強いんだぞぅ!」

 

彩「そうです!魔王様にかかれば勇者なぞ蟻を踏み潰すかの如くです!」

 

リサ「あなた、今日の晩ご飯は勇者と姫スープにしましょう。それともスープにするのは……わ・た・し?」

 

友希那「……?そ、そうね。私の魔法で勇者と姫を煮込んでやるわ!」

 

香澄「君は選ばれし者だったのに!もういい、魔王!かかってこい!」

 

 

--

 

 

舞台裏--

 

あこ「リサ姉が変なアドリブ入れたけど盛り上がってきたね!……よし、ここで音楽スタートだよ!」

 

薫「任せてくれ。」

 

薫は再生ボタンを押す。すると--

 

 

--

 

 

香澄「えっ?」

 

友希那「あら?」

 

かかった音楽は勇ましいBGMでは無く軽快な沖縄民謡だった。

 

夏希「ケケ?」

 

 

--

 

 

舞台裏--

 

あこ「えーー!?」

 

薫「ふっ……間違えて個人的な音楽ファイルを入れていたようだよ。」

 

あこ「嘘ーー!ど、どうするの〜!」

 

薫「どうするもこうするも……この曲が流れたらやる事は一つしかないさ。」

 

あこ「ゴクリ……。」

 

薫「踊るしかないね。」

 

そう言って薫は舞台に上がり軽やかにリズムに合わせて踊り出したのである。

 

 

--

 

 

香澄「踊るしか……!?うん、踊るしかないよ!さーやも友希那さんも、みんな踊ろう!」

 

友希那「と、戸山さん!?」

 

中沙綾「………そうだね香澄。香澄が踊るなら、私も踊るよ!」

 

友希那「山吹さんも!?」

 

香澄につられて沙綾も薫の真似をして踊り始める。

 

薫「ふっ……これも儚い…。」

 

小たえ「薫先輩、ノリノリだぁ!私も踊るー!」

 

リサ「友希那、私達も踊ろう!」

 

友希那「り、リサまで!?」

 

リサ「踊る勇者に見る魔王。これはやっぱり踊らないと損だよ。」

 

友希那「それは少し違う気がするのだけれど……はぁ、こうなったら破れかぶれね…。何なのかしら…。」

 

壇上では勇者に姫、魔王に魔女が軽快な沖縄民謡に合わせて踊っている混沌とした状態。一方の園児達はというと--

 

園児達「「ぴ〜ゆ〜い、ぴ〜ゆ〜い、ぴっぴっぴっぴ♪」

 

誰が教えたでも無くリズムを取って一緒に盛り上がっていたのだった。

 

中たえ「こうして、民謡の楽しさに目覚めた勇者と魔王達はその後も歌い踊り、幸せに暮らしましたとさ。」

 

夏希「………どうするの、これ。」

 

 

---

 

 

次の日、勇者部部室--

 

りみ「はぁ……。」

 

夏希「あ、りみさん。その様子だと、りみさんのチームも?」

 

りみ「……という事は、夏希ちゃんのチームも?」

 

夏希「……お察しの通りです。」

 

りみ・夏希「「……はぁ。」」

 

そこへゆりが笑顔でやって来る。

 

ゆり「みんなお疲れ様。どうだったかな?燐子ちゃん達の方は?」

 

燐子「え…!?そ…それはもう…大盛況でした……。」

 

中たえ「完璧だったよね?」

 

2人は動揺を必死で隠しながら答える。

 

ゆり「ホント?良かったよ。台本が間違ってたって聞いたから心配したんだよ。」

 

中たえ・燐子「「うっ……。」」

 

ゆり「じゃああこちゃん達の方は?」

 

あこ「えっ!?……まぁ、楽しかったよね!」

 

小たえ「はぇ!?あ、ハイ!すっごく楽しかったです!」

 

こちらも動揺を顔に出さないように答えた。

 

ゆり「そうなの?なんか薫が選曲間違えたって聞いたけど。」

 

小たえ・あこ「「ううっ!?」」

 

重い空気が部室内を包み込んでいた。

 

ゆり「……ぷっ!あっはは!どうしたの、みんなして暗い顔しちゃって!」

 

りみ「だって……お姉ちゃん…私達、今回も……。」

 

ゆり「今日ね、両方の幼稚園からお礼の電話やメールがさっきから引っ切り無しに来てるんだよ。」

 

みんな「「「……へ?」」」

 

ゆり「ちょっと意味が分からない感想もあったけど、また是非やって欲しいって!」

 

その一言でさっきまで部室中を包み込んでいた重苦しい空気が歓声へと昇華したのである。

 

友希那「信じられないわ……。自刃して詫びようかと思っていたのに…。」

 

有咲「介錯なんてしないぞ…。」

 

ゆり「さすが勇者部だよ!次回は私もちゃんと参加するからね!」

 

ゆり「あ、あはは……。」

 

こうして混沌とした人形劇は幕を降す事となる。物事どう転ぶか分からない。今回劇を通してそれを大いに学んだ勇者部なのであった--

 

 

 


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