戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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今年最後のお話です。6章終盤と7章でのリサの誕生日回が回想として出てきます。

勇者部に突如届いたリサが倒れたとの知らせ。どうやらリサは何かをしようとしてたらしく--



今年から始めたこの物語も気がつけば200話を超えました。読んで頂いた皆様に最大限の感謝を。来年もまったり続けていきますので、どうか宜しくお願い致します。




巫女としての矜恃

 

 

寮、友希那の部屋--

 

友希那「……もう朝なのね……あら?」

 

朝目を友希那が目を覚ますといつも机に置いてある筈の靴下が置いてない事に気がつく。

 

友希那「……リサ…出しておくの忘れたのかしら……。」

 

クリスマス会から数日が経ったが、ここ最近リサの様子が変なのだ。毎日朝早くと夜遅くに何処かへ出かけている。直接聞こうとはするのだが、かなり思い詰めた顔をしているので中々話しかけられないまま今日まで来たのだった。

 

友希那「……仕方ないわね。」

 

カバンを片手に今日も友希那は部室へと向かう。

 

 

---

 

 

勇者部部室--

 

高嶋「おっはよー!!」

 

あこ「おはようございますー!!」

 

燐子「おはようございます……!」

 

友希那が部室へ着いてから少し経つと、高嶋とあこ、そして燐子が元気良く部室へ入ってくる。

 

友希那「3人ともおはよう。」

 

部室に着いてすぐ、燐子が友希那の違和感に気が付いた。

 

燐子「ゆ、友希那さん、どうしたんですか…!」

 

燐子の目線は友希那の足元へ向いている。それもそのはず、寒さ厳しい冬の朝にも関わらず友希那は靴下を履いていないからだ。

 

美咲「素足に上靴って…お洒落を履き違えてますよ。」

 

有咲「誰が上手い事を言えと…。」

 

友希那「……これは、今朝リサがいなくて靴下のしまってある場所が分からなかったのよ。」

 

蘭「湊さん…リサさんがいないと靴下ひとつ探せないんですか……!?」

 

千聖「友希那ちゃん。他人に衣類の管理をさせるのはどうなのかしら?自己管理は徹底しないとダメよ。」

 

友希那「反論のしようもないけれど、リサはもう他人とは言えないのよね……。」

 

その一言に香澄が食い付いた。

 

香澄「友希那さんとリサさんって親戚だったんですか!?あ、それとも家族ですか!?」

 

友希那「そういう事では無いわ……。」

 

その時、彩とモカの2人が血相を変えて部室へ走り込んで来た。

 

彩「た、大変だよ!今、大赦から連絡が来て!」

 

モカ「リサさんが倒れたって!」

 

友希那「何ですって!?」

 

ゆり「倒れたって、どういう事!?状況は?」

 

モカは息を整えて状況の説明をする。

 

モカ「詳細は不明なんですけど、修練場の滝で昏倒していたところを発見されたみたいです…。」

 

中沙綾「修練場の滝って、確か大赦内にある最も水温が低くて高低差がある滝だよね…。」

 

季節は真冬、しかも早朝。水温を考えれば体感温度はマイナスにも達するだろう。修練とはいえ何故リサがそんな事をしていたのだろうか。

 

蘭「どうしてそんな場所で…?」

 

夏希「友希那さん、すぐに行っ……!?」

 

リサの元へ行くよう夏希が促そうとしたそのタイミングで樹海化警報が鳴り響いたのである。

 

りみ「そんな!こんな時に!?」

 

一同が最悪なタイミングでの襲撃に戸惑う中、友希那は冷静に言い放つ。

 

友希那「…樹海化よ。出撃するわ。」

 

あこ「えっ!友希那さん、どうして…。」

 

襲撃しようとする友希那をみんなが引き止める。

 

中たえ「友希那さんは残って、大赦へ行ってください!」

 

日菜「そうだよ。戦闘は私達だけで何とかするから。」

 

だが、それでも友希那は最初の言葉を撤回しなかった。

 

友希那「そうはいかないわ。私は西暦組のリーダーよ。何があっても、御役目は全うするわ。」

 

高嶋「でも、リサちゃんが大変なんだよ!?」

 

小たえ「御先祖……ちょっと冷たいです…。」

 

みんながそう思う気持ちも分からなくは無い。友希那もそれを十分承知していた。

 

中たえ「…私は残るよ。ゆり先輩、みんな……任せて良いかな?」

 

小沙綾「勿論です。」

 

ゆり「うん。じゃあたえちゃん達と巫女の2人は大赦に行って詳しい事を聞いてきて。」

 

4人は駆け足で部室を後にする。

 

花音「友希那ちゃん、本当にそれで良いの?」

 

友希那「……勇者が守るべきは身内で無く無辜の市民よ。リサもそれを承知の筈だわ………行くわよ!」

 

ゆり「友希那ちゃん……。」

 

紗夜「皆さん、こういう時の湊さんは止めても無駄です。私達に出来る事は、一刻も早くこの戦闘を終わらせる事です!」

 

高嶋「…解ったよ紗夜ちゃん。みんな、行こう!」

 

ひとまずリサはたえ達に任せつつ、一同はバーテックス殲滅の為に樹海へと急ぐのだった。

 

 

---

 

 

大赦--

 

戦闘を終わらせた友希那は大赦の廊下を駆けていた。

 

友希那「はぁ…はぁ……。思ったよりも手こずってしまった……。リサ…無事でいて…!」

 

リサが寝ている部屋の前まで辿り着いた時、ちょうど出てきた彩とたえと鉢合わせになる。

 

友希那「丸山さん、たえちゃん!リサの容態は!?」

 

彩「そ、それが、ビックリするくらい熱が高いんだよ。それで、さっき大赦の霊医師が注射を……。」

 

小たえ「発汗も酷いから、もう着替えが足りなくて!私と彩先輩で洗濯に行ってきます!」

 

そう言い残し、2人は足早にその場を後にした。

 

 

--

 

 

病室--

 

友希那「リサ!!」

 

リサ「ハァ………ハァ……………。」

 

病室ではリサが大量の汗をかいて、息も絶え絶えの状態で横になっていた。

 

友希那「これは……一体何があったの…?」

 

モカ「それが…どうやらリサさんは、ここ数日朝早くと夜遅くに滝行をしてたみたいなんです……。」

 

友希那「そんな………。それじゃあ、あの時のリサは……。」

 

友希那の不安は現実のものとなってしまったのだ。あの時声をかけておけばこんな事にはならなかったかもしれない--そんな感情が友希那の頭の中を駆け巡っていた。

 

モカ「リサさんは大赦の神官が連続しての滝行は危険だって止めるのも聞かなかったって……。」

 

友希那「それで……体力を消耗した結果がこれ……。どうしてこんな無茶な事を…。」

 

通常、巫女が滝行をする行為は自身の力を高める事なのだが、リサは何故ここまでして力を求めたのだろうか。

 

モカ「……考えられる事は、神託の精度を高める為…もしくはそれ以上の事……。」

 

友希那「それ以上?」

 

モカ「まさかとは思うんですけど、下される神託を聞くんじゃなくて、こっちから神樹様に話しかけようとしたとか…。」

 

中たえ・友希那「「え!?」」

 

モカ「い、いくら何でもそんな畏れ多い事をリサさんがする訳……。」

 

中たえ「…………!」

 

今のモカの一言で、たえにとある考えが頭をよぎった。

 

友希那「神樹と対話するのは、巫女が普段からしている事。神託が一方通行なのは分かるのだけれど、巫女から話しかけてはいけないの?」

 

神樹も神様が集まって姿を変えた存在であり、普段いくら人類の味方をしているとはいえ、こちらから神樹へ話しかける行為は本来御法度とされるもの。人が自分の考えや希望を神様に直接訴える行為そのものが直訴と同義なのである。

 

中たえ「直訴は………やってしまえば最悪の場合死罪にも成りかねない行為だよ…ね。」

 

友希那「死罪!?なら、これは神樹がリサに与えた罰だとでも言うの!」

 

モカ「落ち着いてください湊さん。今のはあくまでも仮説で、本当にそうだとは……。」

 

リサ「ハァ……ハァ…………うぅ。」

 

リサは苦しそうにうなされている。友希那はリサの手を握り励ましの言葉を贈る。

 

友希那「リサ!しっかりして、リサ!」

 

中たえ「…………ごめん、モカ。悪いんだけど、席を外してくれないかな?」

 

モカ「え…?分かった。それじゃあ私はこれで……。」

 

2人きりにする為にたえはモカを部屋から追い出した。自分の考えを友希那に伝える為に。

 

友希那「花園さん…… ?」

 

中たえ「……私の…せいかもしれません。」

 

友希那「花園さんの…?どうして、そう思うのかしら。」

 

中たえ「……友希那さんは知ってるよね。この異世界での御役目が終わった後の事……みんなが御役目を全うして、ここから元の世界に帰る時にどうなるのか……。」

 

友希那「ええ……赤嶺さんが敵だった頃に聞かされたわ。ここで手に入れた物、記憶は全て無かった事になる……と。」

 

 

--

 

 

赤嶺「さてさて、何処から話そうか。まずは現状だね。もうだいぶ高知を取り戻した訳で、後は高知の残りを取り返して、最後に造反神を鎮めれば御役目終了だよ。で、倒せば鎮めたって事で御役目終了。全員が元の世界に戻るんだよーー」

 

赤嶺「--"全ての記憶を失ってね"。現実世界に記憶を持って帰る事は出来ない。」

 

 

--

 

 

"全てが無かった事になる"--

 

造反神との最終決戦前に赤嶺から言われた事であり、"記憶を持って帰る"事は勇者部一同が今現在2度目のチャンスである中立神からの試練の中で見つけようとしている重要な事柄なのだ。

 

中たえ「そう……。物も…記憶も…全部無くした状態で文字通り、元に戻っていく…。私は以前からその考えに至っていて、リサさんの誕生日の時に話したんです。」

 

 

--

 

 

中たえ「私がいつもイベントを計画してるのは、ある理由があるんですけど…。」

 

リサ「勿論知ってるよ。」

 

中たえ「え?」

 

リサ「多分だけど、物だと………元の世界に持って帰れないかもしれないって事でしょ?みんなが帰る時の事を考えて、物より思い出を……って考えてくれてたんだよね?」

 

中たえ「そこまで解ってるのなら、どうして……。」

 

 

--

 

 

中たえ「……そして、リサさんも私と同じ考えに至ってました。」

 

 

--

 

 

中たえ「きっと……この世界から戻ると、みんな色んな事があると思うんです…。だからこそ、ここでは………思い切り…思いっ切り楽しい思い出を作っていきたいんです。」

 

リサ「たえ……。」

 

中たえ「だって………思い出は、ピンチの時に力になるから。ここにいる誰もが、そばにいないとしても…その思い出が、きっと勇者を助けるから!」

 

リサ「その通りだね…。カメラとかは持って行けないだろうけど、その分大切な思い出を、私は………。心のレンズに写してくつもりだよ。」

 

中たえ「……無理しないでください、リサさん。もう、リサさんなら解ってますよね?」

 

リサ「……………多分ね。」

 

中たえ「だったら………私のしてる事が自己満足で自己矛盾だって、そう言いたくないんですか?私がさっきから、自分に言い聞かせてるみたいに喋ってるなって、少しも感じないんですか?」

 

リサ「………私の考えが解らないって、さっきたえは言ってたよね?」

 

中たえ「……はい。」

 

リサ「心配ないよ。思い出は物みたいに………記憶みたいに、消えたりしないから……絶対。」

 

中たえ「確信…あるんですか?」

 

リサ「頭では忘れるかもしれない。でも、みんなの心に刻まれた想いまでは、絶対に消える事はないから。それくらい、勇者の心は強いんだから!知らなかった?」

 

 

--

 

 

中たえ「勇者は強いから……記憶は無くしたとしても…心に刻まれた思い出があれば、それはみんなの強さとして残る筈だって…笑顔で。でも、それは私が泣きそうだったからかもしれない。本当はリサさんも怖かったんだとしたら、私……!」

 

感情が昂りそうになるたえに対し友希那は

 

友希那「………たえ。」

 

親が子を慰めるかの如く優しく抱きしめたのである。

 

中たえ「え……?」

 

友希那「今も泣きそうよ。あなたはそんな事を抱え込んでいたのね。可哀想に……。」

 

頭を撫で力強く抱きしめる。友希那の言葉でたえの緊張が遂に緩み、

 

中たえ「友…希那さ……、う、うぁあ……!」

 

子供の様にたえは泣き出してしまった。

 

友希那「もう大丈夫よ。それを聞いてどう感じどう動くかは、リサ自身が決める事。たえに責任は無いの。たえは悪くないのよ。」

 

中たえ「うぅ……っ、で、でも……。」

 

その時、リサが目を覚まし起き上がったのである。

 

リサ「友希那の言う通りだよ………。」

 

中たえ「リサさん!」

 

友希那「気が付いたのね。」

 

リサ「うん……薬がだいぶ効いてきたみたいだよ……。心配かけてごめんね………。」

 

中たえ「うぅ……リサさん、リサさーーん!ごめんなさい………ごめんなさい!」

 

リサ「謝らないで……私は大丈夫だから。」

 

友希那「リサ…あなたは神樹に直訴しようとしたの?」

 

リサ「………………失敗しちゃった。」

 

友希那「そう………。」

 

リサ「ごめんね、たえ……。本当は私も怖かったんだ……全部無になっちゃう事が。だから…せめて、命懸けで戦う勇者に一片の思い出だけでも……残してあげて欲しくて……。神樹様に対して身勝手な申し出をしたんだ…。でも、それは………不遜すぎる態度だったみたい…。」

 

友希那「私達の記憶を残すよう、進言しようとして神樹の怒りを買ったという訳ね…。」

 

リサ「招集に従って、命を賭して戦った挙げ句に………全てを失うなんて…あんまりだから……。」

 

巫女として出来る事はただただ勇者達の無事を祈って帰りを待つ事。それがどんなに心細い事か。しかし、それを聞いた友希那は静かにリサを叱り付けた。

 

友希那「…………勝手な真似をするものではないわ。」

 

中たえ「友希那さん……!」

 

リサ「………ごめんなさい。」

 

中たえ「酷いです……友希那さん。リサさんは私達勇者の、みんなの気持ちを考えて…!」

 

友希那「…………それで、リサ1人がこんな目に遭って、私が皆が喜ぶと思ってるの?」

 

リサ「友希那……。」

 

友希那「丸山さんや青葉さんを巻き込まず、単独で事に臨んだのはこうなると解っていたからじゃない?」

 

リサ「…………。」

 

リサは無言で頷いた。

 

友希那「忘れたくない……忘れられたくもない。だけど…私達の使命は人々を守る事。自身の楽しみを得る事では無いわ。」

 

湊友希那はいつもそうである。愚直に、ただ真っ直ぐに--人々を守る為に自身の全てを捧げている。それが初代勇者、西暦の風雲児である湊友希那なのだ。

 

リサ「友希那は……本当に強いね流石は勇者だよ、それに引き替え私は………。」

 

友希那「……………解らないの?リサ。私が強いのは"勇者だから"では無いわ。」

 

リサ「………え?」

 

友希那はリサの手を握り、真っ直ぐ目を見つめこう答えた。

 

友希那「いつも祈って、待っていてくれるあなたがいるからこそ……生きて帰る為に、戦い続けられるのよ。」

 

リサ「っ………!その言葉だけで……私は幸せだよ…。でも、だから……だからこそ私は、自分の出来る事を精一杯やりたい……!友希那やみんなの為に。だからお願い…!もしもこの御役目が終わる前に何の手立ても見つけられなかったら、その時は……。もう一度、神樹様に語り掛けたい…。チャンスを頂戴!最後まで……諦めたくない。」

 

リサは深く頭を下げる。全ては勇者を守る為--人々を守る勇者を守る為にリサは今出来る精一杯の事を全力でやろうとしていた。

 

友希那「…………それがリサの、巫女しての矜恃なのね。ならもう止めはしないわ。だけど……、その時は決して1人でやらないと約束して。そして、これだけは忘れないで。私は記憶も、楽しみも、他の何もいらない。だから無茶だけはしないで。お願い。あなたがいてくれないと……湊友希那は勇者ではいられないのだから。」

 

そう言って友希那はリサを抱きしめる。

 

リサ「友希那………私……。」

 

リサも友希那を抱きしめ返す。

 

友希那「いいの………何も言わないで。」

 

リサ「私……私は………一生をかけて友希那を……支えていくから…。」

 

友希那「………分かっているわ。」

 

中たえ「2人とも……本当に強いなぁ。本当に…素敵な絆だよ………尊すぎるよ。」

 

友希那「ところで……私の靴下は何処にしまってあるのかしら?」

 

リサ「え?」

 

友希那「リサがいないと靴下も履けない人だと皆に笑われてしまったわ。何処にしまってあるの?」

 

リサ「だーめ。それは私の大切な御役目だから絶対に教えないよ。」

 

友希那「そ、そんな……。」

 

その時、部屋の扉が開き、洗濯に行っていた2人とモカが入ってくる。

 

小たえ「あっ!リサさん気がついたんですね!」

 

彩「良かった!心配したよ!」

 

リサ「たえちゃん、彩にモカも心配かけちゃってごめんね。」

 

モカ「いえいえー。それより気分はどうですか?」

 

小たえ「あのね、うどんを柔らかく煮てきたんだ。食べられますか?」

 

リサ「ありがとね、食べれるよ。」

 

友希那「リサは横になってて。私が食べさせてあげるわ。」

 

彩「何だか2人とも夫婦みたいだね。」

 

モカ「本当だね。」

 

仲睦まじい2人。お互いの想いを改めて確かめ合い勇者達は進んでいく--

 

 

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