戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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これでRASを除くバンドリメンバー全員登場させる事が出来ました。ひまりと麻弥は匂わせ程度ですが…。




約束の言葉を胸に

 

 

空き教室--

 

何やら教室で何人かが集まって話をしている。メンバーは花園たえ、今井リサ、青葉モカ、丸山彩、そして朝日六花の5人。一見纏まりが無い集まりに見えるが、全員に共通している事といえば"大赦"に属しているという事である。

 

六花「こうして皆さんと色々大赦について話が出来るとは思ってもいませんでした。様々な考え方、参考になります。」

 

"7.30天災"以降、世界を守る為に活動を続けている"大社"もとい"大赦"。世界を滅ぼすバーテックスから人類を守るという変わらない一貫した使命を果たそうとしている一方で内部での考え方、在り方は時代を経る毎にその姿を変えていった。

 

中たえ「それはもう色々だよ。私の時代とロックの時代だと200年以上違うからね。」

 

モカ「200かぁ。江戸幕府の盛衰ぐらいだよね。」

 

リサ「元の時代にここでの記憶を持って帰る事が出来れば、このあたりも上手く手を加えられると思うんだけどね。ふぅ……中々ままならないんだよねぇ。」

 

全部を何とかしようとする事はリサの良いところでもあるが、同時に悪いところでもある。その手腕で後々に大赦のトップへと昇り詰めるのだが、神樹に直談判をした際には一人でやろうと突っ走り倒れてしまう事もあった。

 

六花「後々が良い時代になるようにもちろん努力はします。ですが、基本はその時代その時代の人が何とかする筈です。自分の未来まで責任を持つという事も、それはそれである意味おこがましい事なのではないでしょうか。」

 

それに対して六花は常に目の前の事に全力を尽くすタイプだ。先の事はその人に任せるけれど、自分の手の届く範囲に関して言えば全力で事を成す。六花は冷静にリサに対してアドバイスを送った。

 

六花「……と言っても私の考えなんですけどね。これぐらい力を抜いて考えないと、潰れてしまいますよ?」

 

5人の中で唯一の3年生である六花は達観したようにリサに話す。

 

リサ「……ありがとう、六花。」

 

そんな姿をリサはある人物に重ねていた--

 

 

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西暦2019年、大社、修練の滝--

 

リサ「……………。」

 

明日香「……………。」

 

ここでは今巫女達が修行の為に滝垢離をしている真っ最中。中でも目を引くのは二人の巫女、今井リサと戸山明日香だ。たった5人しかいない勇者に対し巫女の総数は勇者達の倍以上存在する。その中でもこの2人は巫女の中で3本の指に入る程の力を持っている。

 

明日香「………さ、寒い…。」

 

リサ「まだ入ってから2分しか経ってないよ……。」

 

寒さに身を震わせる明日香に対し、リサは時折笑顔を見せながら滝に打たれている。本来であれば心頭滅却の為の修行なのだが、リサの頭の中には四国の勇者達のリーダーである湊友希那の事でいっぱいだった。

 

リサ(友希那…大丈夫かな……。自分で見つけろなんて突き放しちゃったけど、やっぱり心配だよ。)

 

少し前の御役目の際、友希那が突出し過ぎたせいで敵に囲まれてしまい、それを助けに来た高嶋香澄が入院するという事になった。その際に友希那は氷川紗夜から強く言われてしまったのだ。

 

 

--

 

 

紗夜「これが…あなたの引き起こした結果です。何故こんな事になったか…あなたは分かっていますか!?」

 

友希那「私の突出と無策が原因よ…。」

 

紗夜「違います…!やっぱり、まだ分かってませんか!?1番の問題はあなたの戦う理由…。」

 

友希那「……。」

 

紗夜「怒りで我を忘れるのも!周りの人間を危険に晒して気付きさえしないのも…!!あなたが復讐の為だけに戦っているだけだからです!!!」

 

 

--

 

 

リサ(でも、こればっかりは友希那が自分1人で見つけないといけない事。それを見つける事が出来れば友希那は……みんなはもっと強くなれる……。)

 

そんな事を考えているうちに時間は流れ、1時間の滝垢離が終了。2人は真まで冷え切った身体を温める為に併設されている大浴場のドアを開ける。

 

 

--

 

 

大浴場--

 

明日香「はぁ……この湯気だけでも今は最高だよ。」

 

リサ「大袈裟だなぁ、明日香は。」

 

2人が入ると、そこには既に1人先客がいた。身長は湯船に浸かっているせいで分かりにくいが、おそらく2人よりは高く、スラっとした体系、そして何より目を惹くのはその長く赤い髪である。

 

リサ「先に来てたんだね--"巴"。」

 

明日香「こんにちは、巴さん。」

 

巴と呼ばれる少女は2人の姿から声をかけられる立ち上がり挨拶を交わす。

 

巴「2人とも修行お疲れさん。あったまっていきな!気持ちいいぞ!」

 

まるで自分がここの大地主のような振る舞いで2人を湯船へ招く。2人は掛け湯を行い巴の待つ湯船へと腰までゆっくりと浸かった。

 

明日香「生き返ります〜……。」

 

リサ「極楽ってのはこの事を言うんだろうね〜……。」

 

すっかり2人の気分はお年寄りである。

 

リサ「それより巴。身体は大丈夫なの?」

 

巴「はい、今は気分が良いんです。2人が滝垢離中って事を神官から聞いたんで修練がてらここで待ってたんですよ。」

 

明日香「そうだったんだ。じゃあ結構長い時間ここにいたんだね。のぼせないでよ?」

 

巴「分かってるって。」

 

彼女、宇田川巴も巫女の1人であり、本来であるなら巫女は神に仕える者として日々身を清める為に滝垢離をするのだが、彼女だけはそれを免除されている。何故なら巴は身体があまり強くないからだ。ちょっとした事ですぐ身体を壊し風邪を引いてしまう。因みに苗字があこと同一ではあるが、姉妹ではない。だって似てないでしょ?ねぇ。色々と。

 

明日香「でも、巫女の能力は結構高いんだから凄いよね。よっぽど神樹様に好かれてるんだろうね。」

 

巴「そ、そんな事ないよ!」

 

顔を赤らめ謙遜するが、事実力はこの2人に負けず劣らずであり、先に述べた3本の指に入る最後の1人がこの巴である。

 

巴「身体が弱いから滝垢離のかわりにこうやって湯に浸かってるけど、私はそれで充分な気もするよ。儀式の簡略化とかあるだろ?例えば神社の手水とかさ。」

 

何かと巴は例える際に神社を良く題材に挙げるが、それもそのはず巴の実家は神社でありそのせいもあってか宗教的な物事に詳しいのだ。

 

リサ「へぇーそういう簡略化も良いね。こんど大社の神官達に言ってみようかな。こんな寒い時期にまで滝垢離すると風邪ひいて身体にも良くないし。」

 

明日香「あ、それ助かりますね。」

 

巫女の中でもトップの実力を持つリサ、大社でも1番重要である巫女の一声があれば要求は通るだろう。

 

リサ「それに、もしダメなら私だけでもやるよ。」

 

明日香「え?それってリサさんだけがやるって事ですか?」

 

リサ「そうだよ。」

 

みんなの為なら自分の身を厭わない。そんな事をリサは平然と笑顔で言い放つ。

 

明日香「はぁ……。それ、リサさんのダメなところです。何でも1人でやろうとする。少しは自分の事も大切にしてあげてください。私もやりますから。」

 

巴「そうですよ、リサさん。私も何か力になれる事があれば手伝いますから、遠慮なく言ってください!」

 

リサ「……ありがとう。」

 

 

--

 

 

入浴後--

 

巴「ところで、紗夜さんはどうですか?」

 

巴はリサに会うと毎回同じ事を尋ねる。何故なら、紗夜を勇者として見つけ出したのはこの巴であり、同じ様にリサは友希那を、明日香は燐子とあこを"7.30天災"の時に見つけ出している。絶望の淵を一緒に渡った者として気がかりになるのは至極当然の事である。

 

リサ「そうだなぁ……。」

 

リサはその都度巴に紗夜の近況を全て話していた。巴もその度に体調の事や御役目での戦果、最近しているゲームの事を事細かに聞き、それを頭の中に留めておいてメモをする。紗夜と会った時の会話の話題にする為に紗夜がやったゲームは出来る限りプレイしているのだ。

 

明日香「本当、巴さんは紗夜さんの事が気になるんですね。」

 

巴「当たり前だよ!なんたって私の勇者だからさ。」

 

明日香「そういえばいつも丸亀城にいるのに、どうして今日は大社にいるんですか?」

 

髪を乾かしながら明日香はリサに尋ねる。

 

リサ「もうすぐ友希那達勇者が結界の外を調査する事になってるから、その為の打ち合わせだよ。」

 

明日香「……本当にやるんですね。」

 

明日香は顔を滲ませる。間も無くバーテックスが四国に総攻撃を仕掛けてくる事を巫女達は知っていたからだ。結界の外の調査はその後に行われる。例え勝利出来たとしても結界外にはバーテックスが蠢く未知の領域。全員が無事で帰って来れる保証はどこにも無い。

 

明日香「心配じゃないですか?友希那さん達の事。」

 

リサ「そうだね、信頼してるけど心配が無い訳じゃない。だから私も一緒に行く事にした。」

 

明日香「えっ!?危ないですよ!?」

 

驚くのも当然だ。巫女は勇者と違い戦う力を持たない。バーテックスに襲われたら嬲り殺しにされるのがオチである。

 

リサ「神樹様からの神託がある可能性もあるけど、巫女は通信の為に最低でも1人は同行しないとダメなんだ。」

 

明日香「でもっ……。」

 

言葉を吐き出そうとする明日香を巴が制した。

 

リサ「それに……みんなが帰ってくるのをただ待ってるのは、もっと辛いから……。」

 

そう呟いたリサの瞳には涙が溜まっており、今にも泣きそうなのを堪える様に身体は震え、握る拳に力が入っていた。

 

 

---

 

 

大社宿舎、リサの部屋--

 

夜遅く、リサの部屋をノックする音が響く。リサがドアを開けるとそこにいたのは巴だった。リサは巴を部屋へ招き入れココアを用意する。

 

巴「突然すみません、押し掛けちゃって。」

 

リサ「全然気にしてないよ。それにしても珍しくね。」

 

宿舎の消灯時間は夜9時。それ以降に出歩く事は持っての他なのだが、巴は消灯時間を破ってまでもリサの部屋を訪れたのだ。リサにはその巴の行動理由に薄々気がついていた。

 

リサ「……遠征の事?」

 

巴「はい。」

 

さっきの場で巴は口を挟む事は無かったが、それでも内心リサの事を気にかけていたのだ。

 

巴「私はリサさんが羨ましいです。」

 

リサ「え?」

 

巴「他人の為に自らを顧みず、常に周りを良くしていこうとするその行動力と姿勢。リサさんは私の尊敬する巫女です。」

 

リサ「巴……。」

 

巴「ですが、同時にそれは嫌いなところでもあります。」

 

リサは黙って巴の言葉を聞いている。

 

巴「もっと自分を大切にしてください。滝垢離の時もそうでした。他の巫女の為に自分1人が請け負うって。もっと力を抜いて考えていきましょう。全てを自分1人で何とかしようとすると潰れちゃいますよ。」

 

リサ「………うん、そうかもしれないね。じゃあ、もし私に何かあったら助けてね?」

 

巴「もちろんです!でも、先ずは約束してください。絶対に無事に戻って来るって。」

 

リサ「約束!」

 

 

---

 

 

空き教室--

 

モカ「リサさん?ボーッとしてどうしたんですか?」

 

六花「私何か気に触るような事言っちゃいましたか?」

 

気がつくと2人がボーッとしていたリサを心配しているところだった。

 

リサ「ううん!何でもないよ。でも…。」

 

彩「でも?」

 

リサ「さっき六花に言われたのを聞いて、ちょっと昔の事を思い出したんだ。」

 

六花「何ですかそれ、気になります。」

 

リサ「ふふっ、内緒。」

 

リサはウインクをしながら答えた。

 

六花「うぅ……。」

 

リサ「いつか時間があったら話してあげるよ。」

 

六花「絶対ですよ?」

 

リサ「うん……約束!」

 

 


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