戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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北側で奮戦する香澄達。しかし、そこへ中立神の新たな力が振り下ろされようとしていた--




災禍の堕天使

 

 

樹海、北側--

 

見渡す限りに樹海の広大な平野が広がっている。360°遮蔽物無し、不意打ちを受ける可能性は低いが、あらゆる方向から敵が襲って来る事が容易に予測出来た。

 

友希那「……分かった。無理しない範囲で守ってちょうだい。」

 

通話の相手は西側を戦っていた紗夜から。一度体制を立て直す為に部室へと戻ったのだが、再びの侵攻を巫女達が察知。最初ほどの侵攻では無いが神樹を守る為に勇者達は再び樹海で戦闘を行なっていた。

 

あこ「紗夜さん達の所ですか?」

 

友希那「ええ。向こうも頑張ってるようよ。」

 

香澄「私達も負けられませんね!」

 

ゆり「もちろん!」

 

やがて正面、左右から"防御特化型"、"爆発型"、飛行型"、そして"蟷螂型"のバーテックスの群れが近づいて来る。

 

中沙綾「私と美咲、あこの3人で援護します!香澄達5人は互いの背中を守りながら戦ってください!」

 

美咲「さて、やりますか。」

 

赤嶺「火色、舞うよ……。」

 

香澄「私達は絶対に勝ーつ!!」

 

 

--

 

 

襲いかかる1000は超える軍勢に対し、迎え撃つ勇者は8人。ここにいる誰もが熾烈な戦いになると思っていた。だが--

 

中沙綾「おかしい……。」

 

美咲「確かに…。」

 

先に気がついたのは後方から援護していた2人だった。

 

あこ「なになに?あこにも教えて?」

 

中沙綾「呆気なさ過ぎる……。」

 

美咲「攻撃も単調だし歯応えも無い。まるで私達に倒してくれと言わんばかり…。」

 

中沙綾「みんな、気をつけて!何かあるかもしれない!」

 

沙綾は戦局を伺いながら前線へ注意を促す。

 

 

--

 

 

友希那「はっ!」

 

香澄「てやーっ!」

 

大きな苦労も無くバーテックスの大群も半分程減るが、バーテックスは恐れる事無く勇者達へ突撃を繰り返す。

 

赤嶺「ふっ!」

 

ゆり「やっ!」

 

イヴ「おらぁ!」

 

向かって来るバーテックスを薙ぎ倒し光となっては消え--

 

香澄・赤嶺「「ダブル勇者……パーーーンチ!」

 

殴り倒しては消えるの繰り返し。しかし、樹海を包み込む空気は次第に重苦しいものへと変わっていく--

 

友希那(何かしら……この重く張り付くような空気は……。)

 

次の瞬間だった--

 

勇者達が攻撃を加えていないにも関わらず、"爆発型"が一斉に自爆しだしたのである。

 

香澄「きゃっ!?」

 

ゆり「何なの!?」

 

前線が煙に包み込まれ、沙綾達後方にいた3人も香澄達に合流する。

 

中沙綾「大丈夫、香澄?」

 

香澄「けほっ……けほっ…何とか大丈夫だよ…っ!?」

 

友希那「な!?これは……!」

 

突如香澄達の体が動かなくなったのだ。そして包み込んでいた空気が一気に鉛のように重くのしかかってくる。

 

イヴ「う、動かねぇ……。」

 

そして周りから星屑が集まりそれは新たな怪物へと姿を変えるのだった。

 

 

--

 

 

星屑が集まり生まれ出たその存在は中心に真っ赤な核を持ち、漆黒で流線型の躯体、さながら堕天使を思わせるような風貌をしていた。

 

あこ「何あれ……。」

 

中沙綾「まさか、中立神はあれを生み出す為に技とバーテックスを私達に倒させてたの!?」

 

美咲「バーテックスの怨念とでもいうの…。」

 

赤嶺「あ、あいつは……!」

 

じりじりとにじり寄って来る"新種"に対し、尚も体を動かす事が出来ない香澄達。

 

香澄「動いて……動いてよ!」

 

無理矢理動かそうとしても体は言う事を聞いてくれない。そして"新種"の核が赤黒く光り--

 

 

 

 

轟音が樹海へと響き渡ったのだった--

 

 

 

--

 

 

イヴ「ぐぁ……。」

 

ゆり「はぁ…はぁ……。」

 

爆発の衝撃で辛うじて体は動かせるようになったが、樹海に倒れ意識を保つだけで精一杯の香澄達。

 

赤嶺「みんな気をつけて。私の記憶が確かならあいつはヤバい…。」

 

香澄「赤嶺ちゃん……知ってるの!?」

 

赤嶺「あいつは"凶攻型"……。造反神は"レクイエム・フォルテ"って言ってた。倒されたバーテックスの怨念によって発生するんだって……。造反神でも作り出す事が出来なかったのに何で…!?」

 

中沙綾「中立神の力が造反神より大きいって事?」

 

香澄達は覚えてないが、"凶攻型"が生まれた原因は"刀使"がこの世界にやって来た事だった。"荒魂"の元となっている"ノロ"が中立神に力を与えていたのだ。"ノロ"が持つ負の神和性がバーテックスの怨念と交わり"凶攻型"が誕生したのである。

 

友希那「みんな、一気に倒すわよ!」

 

勇者達は倒れた体に鞭打って立ち上がり精霊を顕現させる。

 

友希那「来なさい、"義経"!」

 

あこ「来て、"和入道"!」

 

イヴ「来やがれ、"雷獣"!」

 

赤嶺「来い、"山本"!」

 

のだが、いくら呼んでも精霊は一向に現れなかったのだ。

 

あこ「えっ!?どうして!?」

 

イヴ「何でだ!?……来い!出ろよ"雷獣"!」

 

どんなに叫んでも"精霊"は顕現しない。

 

友希那「まさか……あいつが!?」

 

"凶攻型"の核が怪しく明滅している。

 

赤嶺「間違いない……。アイツが精霊の力を封じてるんだ…。」

 

狼狽えている隙に"凶攻型"はビームを撃ち込む。精霊バリアで辛うじて耐える事は出来ているが、凄まじい衝撃で吹き飛ばされてしまう。

 

赤嶺「うわぁっ!」

 

香澄「うっ……!精霊が使えないなら"満開"しかない!さーや、ゆり先輩、友希那さん行けますか?」

 

4人の満開ゲージは既に溜まりきっている。4人は赤嶺達を下がらせ一斉に満開を行う。

 

香澄「"満開!"」

 

白の羽衣を身に纏い背中のリングからは巨大な2つの拳。

 

中沙綾「"満開"!」

 

羽衣に加え巨大な空挺型の台座に乗り込む。台座の周囲には可動式の砲台。

 

ゆり「"満開!"」

 

2人と同じ羽衣を纏うが大剣の形状は変化していない。

 

友希那「"満開"!」

 

羽衣に加えて可動式の6つの刀が周りを浮遊している。現時点での勇者の最高戦力がここに集まった。

 

香澄・友希那「「これで!!」」

 

ゆり「どうだぁ!!」

 

目で合図を送り3人は突っ込む。"凶攻型"も近づけさせない為にビームで食い止めようとするが、

 

中沙綾「させない!」

 

砲台から放たれる砲撃がビームを押さえ込み、その隙に香澄は拳撃、ゆりは大剣で横薙ぎ、友希那は計7本の刀を真上から振り下ろす。

 

 

--

 

 

ゆり「ちょっとは堪えたんじゃない?」

 

だがダメージはあまり入っておらず、"凶攻型"を後ろへ下がらせた程度。

 

美咲「これでも駄目なの!?」

 

香澄「まだまだ!みんな、攻撃の手を止めないで!満開!勇者パーーーーーンチ!!」

 

中沙綾「大艦・巨大連撃砲!」

 

ゆり「撃滅・巨重斬!」

 

友希那「生生之大太刀!」

 

最大戦力の最大攻撃が"凶攻型"に炸裂。大気は震えて空が哭く怒涛の連続攻撃。

 

香澄「ふぅ……ふぅ…。」

 

ゆり「はぁ……。」

 

しかしそれですら"凶攻型"の動きを止めるには至らず、"凶攻型"の周囲を激しい光が包み込み爆発。再び8人は吹き飛ばされ満開も解除されてしまう。

 

香澄達「「「きゃあっ!!」」」

 

 

--

 

 

遂に起き上がる力も無くなってしまった8人の勇者。抵抗する気力が無くなったと思ってか、"凶攻型"は矛先を神樹へと向けようとしていた。

 

中沙綾「だ……ダメ…!」

 

香澄「神樹…様が……!」

 

"凶攻型"がビームを発射しようとしたその時、突如"凶攻型"に異変が起きる。発射を止め、小刻みに震えだしたのだ。

 

友希那「い…一体何が……。」

 

徐々に震えは大きくなっていき、一瞬震えが止まる。そしてドロドロと突然溶け出したのだ。

 

香澄達「「「……………。」」」

 

最大火力を以ってしてもびくともしなかった"凶攻型"が瞬く間に姿を消してしまい言葉を失う勇者達。

 

美咲「はぁ…た…助かった…?」

 

あこ「友希那さん達の攻撃が効いてたって事…?」

 

赤嶺「多分違う…。」

 

イヴ「じゃあ何だってんだ?」

 

赤嶺「中立神にとってみても"凶攻型"は完全じゃなかったんだと思う…。実験的な何か。完全だったら終わってた……。」

 

赤嶺の推測は的を射ていた。中立神にとってもこの襲撃は"凶攻型"を生み出す為の実験的な側面が強く、事実バーテックスと"ノロ"がまだ完全に馴染んでいなかった為形を保っていられなかったのだ。

 

友希那「はぁ…はぁ……。取り敢えず良かったわ…。体力を回復させたら周囲の索敵をしつつ一度部室へ戻りましょう。この事をリサ達に報告しなければならないわ。」

 

香澄「うん………。」

 

香澄は唇を噛み締めた。初めて歯が立たなかったからだ。例え敵が不完全であっても仲間と協力し、あまつさえ今持てる最大限の力を出したのに歯が立たなかった。勇者達は中立神の力を無残にも見せつけられてしまったのだった。

 

 

 

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