戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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東側で戦う勇者達の前に現れる"凶攻型"次々に倒れる仲間を前にたましいの炎が覚醒する--

次回からバレンタイン編です。



たましいのほのお

 

 

樹海、西側--

 

最初の戦闘が始まってから2時間程が経ち、北側で起こった出来事が西側にいた薫達に伝わった。

 

高嶋「そんな……友希那ちゃん達が…!」

 

燐子「あこちゃん……!」

 

中たえ「"凶攻型"……まさか精霊の力を封じてくるなんて…。」

 

紗夜「取り敢えずこの辺りの敵は全て殲滅しました。話を聞く為にも一度今井さん達の所へ戻りましょう。」

 

薫「そうだね…。」

 

 

---

 

 

勇者部部室--

 

りみ「お姉ちゃん!香澄ちゃん!沙綾ちゃん!大丈夫!?」

 

部室に戻るやいなやゆり達に抱きつくりみ。精霊が封じられていたが、バリアは辛うじて機能していた為大怪我は免れたものの、香澄達は身体中に包帯が巻かれており痛々しい姿をしていた。

 

ゆり「何とかね……。今回は本当に運が良かったよ…。」

 

香澄「私達の力だけじゃどうにも出来なかった……。」

 

リサ「残りの戦場は東側……。"凶攻型"が出ない保証は無い……。」

 

高嶋「なら動ける私達が応援に行こうよ!」

 

薫「そうだね…。」

 

その時、リサ達に新たな神託が届く。

 

リサ「っ!?みんな、また西側……そして北側にバーテックスが!?」

 

満身創痍間近の勇者達にとっては凶報だった。やって来る敵は星屑のみのようだが、今この状況では一筋縄ではいかない。

 

彩「どうしよう!?」

 

リサ「薫達は西側に戻って!」

 

薫「でもそれでは北側が無防備になってしまう!」

 

赤嶺「お姉様……私が……行きま…痛っ!」

 

立ち上がろうとする赤嶺だが足に痛みが走り体勢を崩してしまう。

 

六花「赤嶺ちゃん!その身体じゃ無理だよ……。」

 

中沙綾「でも……どうすれば…。」

 

北側で戦っていた8人はどう頑張っても今戦える状態では無かった。そこでたえが提案する。

 

中たえ「大丈夫、沙綾。リサさん、私が北側に行きます。」

 

りみ「わ、私も!おたえちゃんと戦うよ!」

 

燐子「そうですね……。今出来る最善の策は私達の部隊を更に分けるしかありません。私も花園さんと一緒に行きます。」

 

迷っている暇は無い。手負いの勇者達が今出来る手段はそれしかない。

 

ゆり「りみ、たえちゃん…無理だけはしないで……。」

 

りみ「うん!」

 

中たえ「はい!」

 

 

---

 

 

樹海、北側--

 

香澄達が戦っていた場所までやって来たたえ、りみ、燐子。周りは先の戦いの傷跡がまだ残っており"凶攻型"の恐ろしさが容易に予測出来た。

 

燐子「お二方とも…敵が来ます…。」

 

彼方からやって来る星屑はまさにその名の通り凄まじい数で押し寄せる。3人は武器を構え星屑に向かって走り出した。

 

中たえ(夏希……有咲…負けないで……。)

 

 

---

 

 

樹海、東側--

 

夏希「な、何だあれ………。」

 

蘭「強……すぎる…。」

 

千聖「こ、このままじゃ……有咲ちゃんが……。」

 

 

--

 

 

山は抉り取られ、地形が書き変わり既に7人の勇者は立つ事もままならない状態で地に伏せ、"凶攻型"がそれを無慈悲に見下ろしていた。

 

有咲「くっ……!こんな所で負けてたまるか!私はバーテックスを倒す為に生きてきたんだよ!!」

 

東側で戦っている勇者の中で満開出来る勇者は有咲ただ1人。今、有咲は動けない仲間の為に満開し必死で"凶攻型"と渡り合っていた。

 

有咲「はあっ!このぉ!!」

 

"凶攻型"が放つビームを大剣で何とか躱しつつ一太刀一太刀攻撃を浴びせ続けるが、"凶攻型"は全く意に介さない。

 

有咲「完成型勇者舐めんなぁ!!」

 

無数の小刀の雨を浴びせ目眩しさせ、一瞬動きが止まった隙に"凶攻型"の視界から外れるように上へ飛び上がる。

 

有咲「満開・二双瞬滅斬!!」

 

二振りの剣が真っ赤なオーラを纏い"凶攻型"へ振り下ろされた。有咲渾身の刃が"凶攻型"を斬り伏せるが硬い体に阻まれ刃が食い込んだまま動かなくなってしまう。

 

有咲「硬てぇ……!」

 

直後中心の赤い核がドクンと胎動し光り出し--

 

有咲「まずい……!」

 

千聖「逃げて有咲ちゃん!」

 

眩い閃光と衝撃波が有咲を襲った--

 

有咲「うわぁあああっ!!」

 

一瞬で満開が解除され樹海に叩きつけられてしまう。しかし有咲との戦いで力を消耗したのか、精霊を封じていた力が同時に解かれ辛うじて動く事が出来るつぐみ、夏希、たえ、沙綾の4人が有咲と入れ替わるように前へ走り出す。

 

夏希「この野郎!」

 

小たえ「許さないよ!」

 

小沙綾「有咲さんの仇!」

 

つぐみ「今までの分を返すよ!」

 

4人は精霊を憑依させ"凶攻型"に立ち向かうのだった。

 

 

--

 

 

つぐみ「力を貸して、"玉藻前"!」

 

夏希「行くぞ、"鈴鹿御前"!」

 

小たえ「来て、"鉄鼠"!」

 

小沙綾「お願い、"刑部狸"!」

 

精霊を憑依させつぐみと夏希が前線、沙綾が後衛、たえが守り役とそれぞれが今出来る最善の動き方で連携をとり"凶攻型"を攻め立てる。

 

つぐみ(止まっちゃダメ…!相手に反撃させる隙を与えさせない!)

 

呪詛の力を宿した精霊刀を何度も何度も叩き込む。他のバーテックスを一撃で滅する力がある"玉藻前"でさえも与えるダメージは微々たるものでしかないが、間髪入れずに攻撃を続ける事で少なからずダメージは蓄積されていく。

 

夏希「だぁあああっ!!」

 

夏希も3本の斧を巧みに操りながら攻撃を繰り返す。巴模様の炎を撒き散らし轟音を唸らせながら重い一撃が"凶攻型"に入り、4人は徐々に"凶攻型"を後ろへ下がらせる。

 

小沙綾「攻撃はやらせない!」

 

前線の2人が攻撃されそうになれば沙綾が矢で"凶攻型"の意識を一瞬逸らす。沙綾への攻撃はたえが"鉄鼠"の防御力で防ぎ、2人に気を取られている間に前線の2人は更に攻撃を繰り出す。

 

千聖「3人の連携には目を見張るものがあるけれど……それについて来れるつぐみちゃんも凄いわね……。」

 

夏希「チームワークなら誰にも負けない!」

 

小沙綾「それが私達の強さ!」

 

小たえ「仲間を信じてお前を倒す!」

 

このまま行けば退けられるかもしれないとこの場の誰もが思っていた。だが"凶攻型"は無情にもその微かな希望すら摘み取ってしまうのだ。再び核が胎動し衝撃波が4人を襲う。

 

夏希達「「「うわっ!?」」」

 

次の瞬間4人の精霊憑依が解けたのだ。

 

つぐみ「どうして!?」

 

小たえ「精霊を封じる力だ……不味い!」

 

夏希「みんな、下が……っ!」

 

4人の足が止まった隙を"凶攻型"が見逃す筈もなく、漆黒の光弾を周囲に撒き散らし樹海に大爆発が起こる。

 

4人「「「きゃああああっ!!!」」」

 

 

--

 

 

つぐみ「うっ………。」

 

小たえ「ごほっ………!」

 

小沙綾「くっ……な、夏希…!」

 

3人は体を打ちつけ出血があるものの大事には至っていない。それもその筈。

 

夏希「…………。」

 

小たえ・小沙綾「「夏希っ!!」」

 

攻撃が炸裂する瞬間に夏希が3人を咄嗟に後方に押してダメージを最小限に抑えたからである。その代償に夏希が受けたダメージはかなり深刻だった。

 

夏希「うっ………。」

 

体を動かす事が出来ない夏希に"凶攻型"はトドメを刺さんとばかりに狙いを定める。

 

小沙綾「夏希!夏希!!」

 

小たえ「逃げて!」

 

意識が朦朧とする中で2人の声が微かに聞こえるのが分かった。

 

夏希(くそ……ここまでなの…?もうこのまま眠っちゃいたい……。何でこんな痛みに耐えてるんだろう…。)

 

意識を手放しそうになる中、浮かんでくる2人、いや4人の顔。

 

夏希(沙綾………おたえ………!)

 

 

--

 

 

夏希「私は運命を跳ね除けてみせる!!!死ぬだって!?私を舐めるんじゃないぞ!!私の力を見せてやる!運命を切り開く勇者のパワーを!!」

 

夏希「2人も私を信じて!!笑って現実に送り出せってね!運命変えてみせるから!」

 

 

--

 

 

夏希(くっ………!こんな所で倒れてらんない!何でだって?私は運命変えてみせるんだ!2人を笑って送り出してやるんだ!!)

 

その時、勇者装束の牡丹の花が赤く光を放ち出す--

 

夏希「私は海野夏希!勇者、海野夏希だぁ!!"満開"!!」

 

光に包まれ今ここに新たな花が大輪の花を咲かせたのだ。

 

 

--

 

 

夏希は白を基調とする神官装束に身を包み、四足歩行の巨大な獣のような台座の上に立っている。獣型の台座の4本足には夏希の武器である斧を模した鋭い爪が各腕に4本、計16本備わっている。

 

夏希「行くぞぉ!!」

 

両手に持つ球を操りながら台座を"凶攻型"へ向かわせ前足の爪で抉り取るように切り裂き攻撃する。

 

夏希「もうみんなには手出しさせない!」

 

力強く唸りを上げながら台座は"凶攻型"をガッチリと捕まえ。手負いの沙綾達から引き離す。

 

小沙綾「夏希!」

 

追いかけようと体を動かそうとした沙綾をそっとたえは遮った。

 

小たえ「今は夏希を信じよう、沙綾。」

 

小沙綾「………うん。」

 

 

--

 

 

"凶攻型"を沙綾達からある程度引き離し、夏希は再び攻撃を仕掛ける。

 

夏希「おりゃあっ!!」

 

一撃一撃が"凶攻型"をぐらつかせる程の威力を持つ。パワーだけなら満開の中でもトップクラスを誇る可能性を秘めていた。だが、"凶攻型"もただ黙ってやられる事は無くビームや光弾、衝撃波と怒涛の連続攻撃で夏希を苦しめる。

 

夏希「ぐぅ………!まだまだぁ!」

 

迫る攻撃を前足で防御しながら高く飛び上がり、"凶攻型"を上から押さえ込みマウントポジションを取る。

 

夏希「これならどうだぁ!!」

 

切り裂きの連続攻撃。だが核が無防備な台座の底面に衝撃波を放ち台座は大きく吹き飛ばされてしまう。

 

夏希「うっ………!」

 

満開には時間制限がある。1つ、また1つと牡丹の花びらが光を失い残りの花びらは2枚。夏希は次の攻撃に全てを込めた。

 

夏希「おおおおおおおっ!!これが人間の!私の!魂の炎だぁぁぁぁ!!"満開・天墜の斧鉞(ふえつ)"!!」

 

台座が縦に大きく回転し1つの大きな斧と化し炎を纏って"凶攻型"に突貫。負けじと"凶攻型"もビームを放つが、ギャリギャリと鈍い音を立てながら徐々に夏希は"凶攻型"へ接近。

 

夏希「負け………るかぁ!!」

 

そして遂に"凶攻型"を捉え爆発の轟音と共に煙が舞い時間が来た為夏希の満開が解除される。

 

夏希「はぁ………はぁ……ど、どうだ…。」

 

だが、煙が晴れた先にいたのは体が半分ほど砕けたものの、尚も動こうとする"凶攻型"だった。

 

夏希「ま、マジか………。」

 

しかしその直後、樹海に花びらが舞い始めた。そして"凶攻型"はいきなり踵を返して樹海の奥へと動き消えていってしまったのである。

 

夏希「そ、そうか……"鎮花の儀"か…。」

 

 

 

 

"鎮花の儀"--

 

神世紀298年の勇者システムにのみ備わっていたバーテックスを撤退させる儀式の事。夏希の時代では"完全型"バーテックスを倒すまでには行かないものの"鎮花の儀"を用いてある程度ダメージを与えたバーテックスを撤退させる事が出来た。異世界に来た時に勇者システムは最新のものにアップデートされ、夏希達でも"完全型"を倒す事が出来ていた。その為今の今まで"鎮花の儀"が発動する事がなかったのだ。

 

夏希「守れた…んだね………。」

 

一気に緊張が解けたのか、夏希は大の字になって樹海に倒れ込み目を閉じた。

 

 

--

 

 

?「……つき、な…つき!」

 

夏希「う……ん?」

 

どれだけ眠っていたのだろうか。動けるようになった沙綾に抱き起こされ夏希は目を覚ます。

 

小たえ「やっぱ夏希は凄いよ!」

 

千聖「本当ね。流石有咲ちゃんの先輩勇者だわ。」

 

有咲「そうだな。お疲れ、先輩。」

 

花音「本当に無事で良かったよぉ……。」

 

夏希「沙綾…おたえ…皆さん……やりました…。」

 

小沙綾「うん…うん!お疲れ様。みんなが待ってる部室に戻ろう。」

 

夏希「そうだね……。」

 

再び眠ってしまった夏希。完全勝利とまではいかないものの、今は乗り越えられた事への喜びを噛み締める勇者達なのだった。

 

 

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