戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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激闘が去り次に待つのは気持ちと気持ちのぶつかり合い。迫るバレンタイン、その最中暗躍する1人の影があるのだった--




甘い気持ちのバレンタイン

 

 

傷だらけの状態になりながらも、何とか"凶攻型"を退けた夏希達が部室へと帰還する。

 

勇者部部室--

 

中たえ・中沙綾「「夏希!!」」

 

西側を守っていた薫達も無事に戻って来ており、全員で東側で戦っていた勇者達を出迎えた。

 

香澄「有咲、無事で本当に良かったよ!」

 

有咲「何とかな……。ボロボロだった。」

 

赤嶺「つぐちんも大丈夫だった!?」

 

つぐみ「夏希ちゃんが頑張ってくれたお陰だよ。」

 

そして有咲は東側で起こった出来事、夏希の満開について説明をする。

 

 

--

 

 

中沙綾「夏希が…満開を……。」

 

中たえ「友希那さんと同じ事が起こったんだ。」

 

リサ「取り敢えずみんな本当にお疲れ様。」

 

モカ「今はゆっくり休んで。神託でしばらくは襲撃も無いって。」

 

 

---

 

 

それからの数日、襲撃も無く勇者達は激闘の疲れを癒し、それぞれの日常を思い思いに過ごしていた頃、それは起こった。

 

 

--

 

 

2/13日、早朝。寄宿舎、彩の部屋--

 

彩「うーん…むにゃむにゃ……。」

 

まだ日が昇らない早朝、突然彩の耳元から声が聞こえてきだした。

 

?「彩……巫女の彩……。目覚めなさい…目覚めるんです…。」

 

ボソボソと響く声に彩は目を擦りながら耳を傾ける。

 

彩「ん…?おはよう。誰かな……?」

 

?「私は、今彩の夢枕に生えたてホヤホヤの神樹だよ。」

 

彩「えぇっ!?し、神樹様!?どうしよう、光栄です!」

 

神樹?「良い?よく聞いて、優秀な巫女よ。もうすぐ2月14日が来る。その日はバレンタインデー。勇者と巫女に各自2名限定でチョコレートを渡させるんだよ。」

 

彩「え!?わ、分かりましたけど…どうしてですか?」

 

神樹?「どうしてって……それは…えっと…それを行えば勇者部の連携がより深まるからだよ。そうすれば私も元気満タンになるんだ。」

 

彩「それはとても大事な事です!私からみんなに伝えます!」

 

神樹?「頼んだよ…優秀な巫女………。」

 

 

--

 

 

その日の朝、勇者部部室--

 

みんなが世間話をしている中、勢い良くドアが開き彩が入ってくる。

 

彩「みんな聞いて!もうすぐバレンタインだよ!」

 

友希那「突然どうしたのかしら?」

 

彩「それはね--」

 

早朝に起こった上記の出来事をみんなに話し出す。

 

 

--

 

 

りみ「ええええ………。」

 

有咲「そんな俗物的な神樹様がいるかぁーーー!」

 

彩「そんな筈は無いよ!」

 

この中で最も神樹を信仰しているのが彩だ。その為、彩は早朝の出来事を完全に信じてしまっている。

 

中沙綾「声を聞いたことは疑って無いけど……。」

 

そう言って沙綾はチラリとある人物に目をやった。

 

中たえ「………z z z。」

 

彩「みんな、どうかお願い!神樹様の為にチョコレートを!」

 

美咲「どうします、ゆりさん……。」

 

必死に頭を下げて懇願する彩に困惑しながら会議が始まった。

 

ゆり「どうするって言っても…多分その神樹の正体は十中八九たえちゃんだろうし…。」

 

有咲「何が起こるか分からねぇぞ…。」

 

その時友希那が、

 

友希那「なら私が付きっきりで花園さんを見張りましょう。」

 

あこ「良いんですか、友希那さん。」

 

友希那「そうすれば丸山さんの願いを聞き届けられるし、みんなの不安も解消されるでしょ?」

 

中たえ「ぇ……… z z z。」

 

こうして各自、バレンタイン用のチョコを作る為に部室を後にするのだった。

 

 

---

 

 

家庭科室--

 

花音「バレンタインかぁ。」

 

千聖「何でこんな事をしなくちゃいけないのかしら……。意味が分からないわ。」

 

ここでは今防人達がチョコ作りに勤しんでいる真っ最中。しかし、千聖だけうだつが上がらない様子。自らを研鑽する事のみに時間を捧げてきた千聖にとって、世間一般の流行はこの時はまだ理解し難かったのである。

 

彩「だからそれは、神樹様の為と、勇者同士の連携を深める為だよ、千聖ちゃん。」

 

千聖「そんな事で深まるのかしら……。」

 

彩「もちろんだよ!結局、神樹様は私の夢枕で小一時間語ってたんだけど……。」

 

イヴ「長いですね…。」

 

花音「楽しそうだし私は賛成だよ。千聖ちゃんは何か引っかかってるの?」

 

千聖「そう言う訳じゃないのだけれど……あまり気が進まないのよね。」

 

イヴ「どうしてですか?」

 

千聖「今まで人にチョコレートなんてあげた事ないし、あげる相手も思い浮かばないのよ。」

 

日菜「まぁまぁそんな事言わずに、取り敢えずみんなで作ろうよ!」

 

千聖「………そうね。1人で考えるよりはみんなでやりましょうか。」

 

少し考え千聖は了承する。

 

花音「そうだね。じゃは防人組はみんなで手作りだ!」

 

日菜「料理はやっぱ出来立てが1番って言うし、やっぱり当日の午前中がベストじゃない?」

 

千聖「じゃあ私はそれまでに誰に渡すか考えておくわ。」

 

 

---

 

 

そして時間は流れ2/14のバレンタイン当日、勇者部部室--

 

中たえ「………………。」

 

友希那「………………。」

 

リサ「あはは……。」

 

中たえ「あ、あの……ちょっとお花を摘みに…。」

 

友希那「……リサ。」

 

リサ「りょーかい。たえ、私が一緒に行くよ。」

 

中たえ「……これがマンツーマンディフェンス…。」

 

ただ今バレンタイン当日の朝9時。友希那はたえから一切目を晒さず、たえが動く際にはリサに同行させるという徹底ぶりで監視に臨んでいた。

 

友希那「花園さんにはみんながチョコを渡し終えるまでここにいてもらうわ。」

 

中たえ「えぇ………。」

 

友希那「丸山さんに妙な事を吹き込んだ罰よ。」

 

 

--

 

 

家庭科室--

 

千聖「溶かして固めるだけなのに、色んな材料が揃ってるわね。」

 

日菜「好みに合わせてコーヒーにココア、牛乳なんかを入れて自分だけの味を作るのも一興だよ。」

 

千聖「成る程ね…。」

 

彩「はぁ……はぁ…。泡立てって思ってたよりずっと大変だね……。」

 

花音「彩ちゃん、電動ホイッパーもあるよ。」

 

彩「ありがとう、花音ちゃん。でも手の方が想いが伝わると思って。」

 

千聖「そういうものなのかしら…って、日菜ちゃん!?」

 

千聖の横で日菜が何かをチョコに入れているのを見つけ驚いた。

 

日菜「ん、これ?かつお節だよ。」

 

千聖「何だか不味そうよ…。」

 

日菜「食べる前から不味って決めつけるのは良くないよ、千聖ちゃん。」

 

イヴ「美味しいんでしょうか……。」

 

日菜「どうだろう?初めてやってみたから分かんない。」

 

3人が日菜行動に狼狽えている中、彩は一生懸命本を見ながらチョコ作りに励んでいる。

 

彩「えっと……バットの上に置いた金型に、溶かしたチョコレートを流し込む…。」

 

イヴ「彩さん、その本私にも見せて頂いてもよろしいですか?」

 

彩「もちろん!」

 

5人が思い思いのチョコを作る為に奮闘していたのだった。

 

 

---

 

 

それから1時間後--

 

イヴ「凄いです……。」

 

千聖「信じられない……。」

 

千聖達4人は驚愕していた。日菜のチョコの圧倒的な美味しさに。

 

日菜「見たかぁ!私のチョコの凄まじさを!」

 

イヴ「カツオの旨味と香ばしさがチョコとベストマッチです!」

 

彩「凄いよ、日菜ちゃん!きっと貰った人は大喜びだね!」

 

日菜「そうだった!チョコは鮮度が命。早速渡して来よーっと。」

 

日菜は勢い良く家庭科室から飛び出して行ってしまう。

 

イヴ「そうでした…。私も渡してきます。」

 

花音「2人とも行っちゃったね。誰に渡すんだろう?私はもちろん千聖ちゃんに。はい。」

 

クラゲが描かれたラッピングに包まれたチョコを千聖へと渡す。

 

千聖「私?一緒に作っていたのに。」

 

花音「良いんだよ。千聖ちゃんにはいつも迷惑かけてばっかりだから。」

 

千聖「そう……。ありがと、花音。」

 

彩「千聖ちゃん、私からも受け取って。」

 

彩も千聖へチョコを渡す。ピンクのラッピングに包まれた可愛らしい音符型のチョコだ。

 

千聖「彩ちゃん……ありがとう。もちろんよ、遠慮なく頂くわね。」

 

一つ手にとって口へと運ぶ。

 

千聖「……美味しいわ。」

 

彩「本当!?」

 

千聖「ええ。彩ちゃんの優しい気持ちが良く現れているわ。これは……生クリームかしら?」

 

彩「うん!」

 

千聖「そうなのね………。やっぱり手作りは良いわね。私の想いも伝わると良いのだけれど……。」

 

今度は千聖が彩へチョコを渡す。

 

彩「え?私にくれるの?やったぁ!千聖ちゃんからの初めてのチョコレートだ!」

 

千聖「何だか気恥ずかしいけれど、防人組の癒しである彩ちゃんに感謝を込めて。」

 

彩「いただきます!……うん、美味しいよ!千聖ちゃんらしく控えめな甘さにちょっとした苦味が最高だよ!」

 

千聖「良かったわ。彩ちゃんには苦過ぎないか心配だったのだけれど、粉コーヒーを混ぜてみたのよ。」

 

彩「丁度良いよ。」

 

チョコだけでは味気ないと思ったのか、彩が戸棚からカップを用意しようとすると、

 

千聖「彩ちゃん、たまには私にやらせて頂戴。紅茶にする?それとも緑茶?」

 

彩「……ホットミルクにしない?」

 

千聖「やっぱり苦かったかしら?」

 

彩「えっと……ごめんね、後からちょっとだけ……。」

 

千聖「ごめんなさい…。来年はもっと研究するわ。」

 

彩「来年も私にくれるの?」

 

千聖「あっ………ええ、そうね。是非、リベンジさせてもらうわ。」

 

彩「ふふっ、今から来年が楽しみになってきちゃったよ。」

 

千聖「私もよ。」

 

 

---

 

 

三階、空き教室--

 

紗夜「これを私にですか?」

 

日菜「うん!同じ故郷で同い年。チョコが出来たら真っ先に渡そうと思ってたんだ。」

 

そう言って日菜はカツオチョコを紗夜に手渡した。

 

紗夜「そうは思わないけど…ありがとう。」

 

日菜「カツオ入りで美味しいよ。」

 

紗夜「っ!」

 

そう言われた瞬間、紗夜のチョコを口へとと運ぶ手が止まってしまう。

 

日菜「前にカツオが好きって言ってたよね?」

 

紗夜「そ、そうだけど…。本当にカツオが?」

 

日菜「絶妙にカツオ出汁をブレンドした日菜ちゃんオリジナルカツオチョコだよ!」

 

紗夜「出汁……。てっきり細かく刻んだカツオのお刺身でも入ってるのかと…。」

 

日菜「それだと日持ちしないし、溶かしたチョコで生煮えになっちゃうよ?」

 

紗夜「ありがとう、後で食べるわ。」

 

日菜「後で感想聞かせてね!それじゃあ、御先祖も探しに行かないと!」

 

そう言い残し、光の速さで日菜は教室を後にするのだった。

 

紗夜「忙しないわね…………美味しい。」

 

 

--

 

 

校庭--

 

千聖「有咲ちゃん………。」

 

有咲「千聖か……。どうしたんだ?」

 

互いに睨み合ったままその場を動かない。まるでこれから果し合いでも始まるかの雰囲気である。

 

千聖「……これをあげるわ。」

 

そう言って千聖はラッピングされた包みを有咲へ投げ渡す。

 

有咲「えっ、これってまさか……私にか!?何でだ!?」

 

千聖「理由は……一言では言えないけれど、初めて会った時から有咲ちゃんには色々と……。」

 

モジモジしながら千聖が話すなか、有咲は包みを開け入っていたチョコを一口頬張る。

 

有咲「お、美味しいぞ……。まさか…手作りしたのか?」

 

千聖「人が話している最中に物を口に入れるってどうなのかしら……。」

 

有咲「千聖が食べろって言ったんだろ!ったく…………美味しいよ、本当に。」

 

千聖「そ、それは良かったわね……。と、糖分は…適度に摂れば……体に良いって言われてるし……。」

 

有咲「わ、解ってるって………そんな事!私を誰だと………そ、その…あ、ありがと。」

 

必死に照れを隠しながら顔を真っ赤にして有咲は千聖にお礼を言い、

 

千聖「き、気に入ってくれて良かったわ……。」

 

千聖もまた顔を真っ赤にしながら返事を返すのだった。

 

 

--

 

 

夏希「ほうほう……照れながらも有咲さんと千聖さんの2人には確かな友情があるんですね………。」

 

そんな2人の様子をニヤニヤしながら遠目から眺めていた夏希。そこへ夏希を探していたイヴがやって来た。

 

イヴ「夏希さん…このチョコを受け取ってください。」

 

夏希「イヴさん!私にくれるんですか?嬉しいです!ありがとうございます!もう一個持ってるそのチョコは……あっ、もう1人のイヴさんにですね?」

 

イヴ「それも考えたのですが、いつ出てくるのか分かりませんし、手作りのチョコは日持ちしないと日菜さんが言ってましたから。ですから、これはもう1人の渡したい人に……。もう1人の私には諦めます……1人2個までとの決まりがありますから。」

 

少し悲しげにイヴは答える。

 

夏希「イヴさん、そんなにしょんぼりしないでください。市販のチョコだったら長持ちしますよね?」

 

イヴ「え?」

 

夏希「ルールより気持ちが大事ですよ!今から一緒に買いに行きませんか?もう1人のイヴさんのチョコ。」

 

イヴ「一緒にですか…?」

 

夏希「もちろんです。2人で選べばルール違反の罪も半分こです!ね?行きましょう!」

 

そう言いながら笑って手を前に差し出した。そしてその手をイヴは取り、

 

イヴ「はい……。夏希さん、ありがとうございます。」

 

2人は手を繋ぎながらチョコを探しに校庭を後にする。そんな姿を有咲と別れた千聖は遠巻きから眺めていた。

 

千聖「良かったわね………イヴちゃん。夏希ちゃんと友達になれて。」

 

 

 


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