チョコ--それはそれぞれが心に思っている気持ちを伝える為の手段。
そしてそれは約束の証--
2/13、牛込宅--
明日のバレンタインに備え、りみはゆりに手伝ってもらいながら渡す為のお菓子作りに勤しんでいた。
ゆり「そうそう。材料はmg単位できっちり計ってね。」
りみ「そうなんだね……。お姉ちゃん、いつもご飯を作る時は調味料とか目分量なのに、今日は違うの?」
ゆり「お菓子作りで目分量は絶対にやっちゃダメ。それだけ繊細だと思って作った方が良いよ。」
りみ「うん!………んん〜…バターが硬くて切れないなぁ。」
ゆり「そう言う時はバターナイフを少し火で炙って温めてからだとすんなり切れるよ。」
言う通りにやってみると、さっきまでびくともしなかったバターがいとも簡単に切る事が出来た。
りみ「…………凄いなぁ、お姉ちゃんは。」
ゆり「どうしたの?今更。」
りみ「私考えてたんだ。お姉ちゃんって、今の私の歳には家事全般ちゃんとマスターしてたんだなって。」
ゆり「………そうだね。」
大橋の事故で両親を亡くし、たった2人で生きていかなければならなくなった牛込姉妹。りみに苦しい思いをさせない為に、ゆりは必死で家事全般を覚えていった。
りみ「だから私もそうなると思ってたんだけど、全然無理。だから、お姉ちゃんは凄いよ。」
ゆり「バカだな。良いんだよ、りみは。ゆっくり伸び伸びと育ってくれれば。」
りみ「そんなのヤダよ。私も早くお姉ちゃんの隣に並びたい。」
ゆり「いつだっているじゃん、横に。ホラ、卵といて。」
りみ「うん!」
横で必死に卵をといているりみを見ながらゆり小さな声で呟く。
ゆり「………もうとっくに私なんか追い越してるよ、りみは。私なんかより……ずっとおっきい。」
りみ「ん?何か言った?」
ゆり「何でもない。それにしてもりみがマカロン作りたいって言うなんてねー。」
りみ「えへへ。女子力高いでしょ。」
ゆり「うんうん。誰にあげるの?」
りみ「今年は小学生の沙綾ちゃんにあげるつもり。いつもサポートしてもらってるから。」
ゆり「そっか。私もいつもお世話になってますって、するべき?」
りみ「や、止めてよぉ……。」
ゆり「あはは、うそうそ。」
りみ「でも、残りのもう一個はもちろんお姉ちゃんにあげるよ?」
ゆり「私は残りかぁ……。」
りみ「い、今のは言葉の綾だよぉ!」
ゆり「解ってるよ、冗談。私はりみの愛、いつだって忘れてないからね。」
りみ「うん。私もだよ、お姉ちゃん。」
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2/13、深夜。勇者部部室--
真夜中の誰もいない部室。そこへやってくる二つの人影。
リサ「一体どうしたの、友希那?こんな真夜中に部室を調べたいだなんて。」
友希那「夕方花園さんが何やら部室でゴソゴソとやっていたのよ。それで何か変な胸騒ぎがしたの。」
先祖と子孫で何か繋がるものがあるのだろう。
リサ「まさか……いくら何でもそこまで…。」
友希那「………そこよ。」
感覚を研ぎ澄ませ、友希那は部室の死角である棚に手を伸ばした。
リサ「こ、これは………隠しカメラ!しかも人感センサー付き!?」
友希那「やっぱりね…。そして机の裏にはきっと………あったわ、盗聴器ね。」
リサ「たえは用意周到だなぁ……。思わず感心しちゃうよ。」
友希那「まだ何か仕掛けてあるかもしれないわ。今夜中に全部探し出すわよ。」
その時、リサがとんでもないもの、いや、人を見つける。
リサ「友希那………。」
友希那「これは………想定外ね…。」
中たえ「………zzz。」
2人が見つけたのは寝息を立てて寝ているたえだった。
友希那「全く……こんな所で幸せそうに寝ているなんて仕方が無い子孫ね……。」
ロッカーから毛布を取り出して友希那はたえにかけてあげた。
リサ「そう言いつつも、ちゃんと毛布をかけてあげるんだね。ふふ……。」
友希那「………良いかしら、リサ。私はあなたに謝らないといけない事があるの。」
リサ「どうしたの?」
友希那「明日のバレンタインの事なのだけれど…。」
リサ「大丈夫だよ。他の人にどれだけ大量にチョコを貰っても、私がお礼するから。」
友希那「そっちでは無く……。いや、それもごめんなさい。けれど今年、私は花園さん達にあげたいと思っているの。だから2人に渡してしまうとリサの分が……。」
最後まで言おうとしたところでリサが友希那の口に人差し指を当てた。
リサ「しー………。」
友希那「リサ……?」
リサ「私に謝る必要なんか全然ないよ。ちゃんと解ってるから。」
友希那「そう……。いつもありがとう。」
リサ「その代わり、ホワイトデーは期待しちゃうよ。」
友希那「ええ、もちろんよ。」
リサ「友希那………。」
友希那「リサ………。」
2人は暗闇の中、静かに抱き合ったのだった。
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2/14、勇者部部室--
花音「やっと見つけました、ゆり先輩。」
ゆり「花音ちゃん。どうしたの?」
花音「これ、バレンタインのチョコです。受け取ってください。」
ゆり「わぁ、ありがとう!開けていい?」
中に入っていたチョコは、ホワイトチョコに蜜柑の粒を混ぜ込んだ山吹色のお菓子。
ゆり「美味しそう!それじゃあ1つ……。」
口へと運ぼうとした矢先、部室のドアが勢い良く開き、
美咲「ちょっと待ったー!」
中たえ「ちょっと待ったコールだ!!」
ゆり「美咲ちゃん……。もしかして美咲ちゃんも私に?」
美咲「ごめんなさい、違うんです。私は花音さんに渡しに来たんです。」
そう言って美咲はピンクの熊が描かれたラッピングを花音に手渡した。
花音「ふぇ!?私に!?」
美咲「はい、花音さんの生存本能にはいつも助けられてますからそのお礼--」
蘭「ちょっと待った…!」
美咲がチョコを渡そうとした直後、更に1人、蘭が全く同じ言葉を放ちながらドアを開け部室へやって来たのだ。
中たえ「ちょっと待ったコールアゲイン!!」
花音「ふぇええ!?もしかして蘭ちゃんも私に!?」
蘭「すみません、花音さん。私のチョコは美咲へなので…。」
美咲「へ……?私?」
蘭「勿論。いつも畑仕事とかお世話になってるから。」
モカ「らーんー。それは良いんだけど、ちょっと待ったの使い方違くない?」
蘭「え?」
モカ「普通は相手が被ってる時に言うじゃない?」
蘭「はっ………!」
友希那「……それにもう一つ言わせてもらって良いかしら?」
ゆり「なになに?」
友希那「折角部室に花園さんを留めているのに、どうしてみんなここに来てやり取りしているのかしら?」
ゆり「あははは………。それは確かにそうだね…。」
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校庭--
香澄・高嶋「「赤嶺ちゃんに私達から!」」
赤嶺「戸山ちゃんと…高嶋先輩から?」
香澄「高嶋ちゃんのチョコ枠を使って共同にしたんだ。」
高嶋「たえちゃんがそうしても良いって言ってたんだ。」
赤嶺「ありがとう……。後、これ私から……。」
少し照れながら赤嶺は香澄にチョコを手渡した。
赤嶺「これ、2人で半分こして食べて。」
香澄・高嶋「「赤嶺ちゃんから!?」」
赤嶺「うん。お返しって訳でも無いけど、どうしても2人には渡したくて。」
香澄「やったー!やっと仲間になれたもんね!赤嶺ちゃーん!!」
高嶋「私もー!!」
嬉しさのあまり香澄は達は赤嶺に抱きつく。
高嶋「あはは!今まではバーテックスしかくれなかったもんね。」
赤嶺「あ、もしかしてそれの方が良かった?まぁ、毎回気持ちは込めてたけど。」
香澄「あれも愛?」
赤嶺「多分ね。」
高嶋「きっと愛だよ!」
香澄・高嶋・赤嶺「「「あははは!!」」」
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一方その頃、勇者部部室前--
中たえ「みーなさーーーん!!勇者部湊友希那はここにいまーーーす!!」
何とトイレへ行こうと友希那と廊下へ出た途端、たえが大声で叫び友希那のファン達を呼び寄せ、脱出を図ろうとしたのである。
友希那「なっ、花園さん!?」
すぐに大勢のファン達が雪崩のように友希那目掛けてやって来る。
女生徒1「えっ!湊さん!?ずっと探してましたーー!!」
女生徒2「友希那さん、チョコレート受け取ってください!また是非、剣道部の助っ人に!」
女生徒達「「キャー湊さんよ!湊さんがいたわ!キャーキャーキャー!!」」
まるで星屑の様に雪崩れ込んでくる女生徒の大群に友希那は恐れ慄いてしまう。
友希那「ちょ……ちょっと待っ…!?」
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二階、空き教室--
高嶋「紗夜ちゃん……怒ってる?赤嶺ちゃんにチョコあげちゃった事。」
紗夜「怒ってはいませんよ。高嶋さんは…誰にでも優しい人だと知っていますから。」
高嶋「ホント?」
紗夜「ええ。私は……そんな高嶋さんだからこそ…。」
高嶋「え?」
紗夜「………いいえ、何でもありません。私は……忘れられてないでしょうかと思ってしまって…。」
高嶋「…忘れる訳ないよ。」
紗夜「え?」
高嶋「紗夜ちゃんへのチョコ、忘れるはずないでしょ?はい、どうぞ。徹夜で作ってきたんだ!」
宝箱を模した箱を紗夜へ渡す。
紗夜「て、徹夜ですか!?そんな……高嶋さん、ダメですよ!私には徹夜を禁じたあなたが……。」
高嶋「いーの!今日は特別な日なんだし、紗夜ちゃんに気持ちを伝えたかったから。」
そう言われ、紗夜は顔を真っ赤にして動揺してしまう。
紗夜「た、高嶋さん…!い、今なんと…?」
高嶋「え?特別な日?」
紗夜「た、高嶋さんの……き、気持ちだと…。」
高嶋「うん!それをチョコレートに込めたんだ。」
恐る恐る紗夜は宝箱を開けてみる。するとそこには、星や音符、ハテナマークにビックリマーク等の色々な記号が沢山詰まっていたのだ。
高嶋「気持ちを表す形をぜーんぶ入れたんだ!楽しい、嬉しい、驚き、キラキラ。全部ね!」
紗夜「ふふっ……高嶋さんらしいです。とっても。」
高嶋「本当は全部味を変えたかったんだけど、そこまでは無理だったんだ……ごめんね。」
紗夜「謝る事なんてありません。私は…市販のチョコで芸が無いですし……。」
高嶋「私にくれるの?市販のでも全然嬉しい!じゃあ、ここで一緒に食べちゃう?」
紗夜「そうですね。ですが……これだけあるとどの形から食べようか迷いますね……。星形…音符…花丸……あら?底に一つだけ違う形がありますね。」
高嶋「…………。」
宝箱の底にあった形とは--
紗夜「こ、これは……ハ、ハート!?」
高嶋「なんと 勇者紗夜 は "高嶋のハート" を 手に入れた!」
紗夜「っ!!!?」
高嶋「なーんてね♪」
紗夜「…そ、そして勇者紗夜 が レベルアップです!紗夜 の 勇気が1上がりました!」
高嶋「勇者が?」
そして紗夜は勇気を振り絞り高嶋へ今の気持ちを伝える。
紗夜「わ、私は……高嶋…さんの事が……だ…大……す…。」
"大好き"。そう言いかけた時だった--
女生徒達「「キャーキャー!待ってーー!湊さーーーん!私のチョコをーーー!!!」」
大勢の女生徒に追われている友希那が、紗夜達がいる教室の廊下の前を勢い良く通り過ぎて行ったのだ。
高嶋「何か騒いでる!って…友希那ちゃん!?何だろう?紗夜ちゃん、行ってみようよ!」
友希那を追いかけ高嶋は教室を出て行ってしまう。
紗夜「く………ど、どうしてですか…湊さん……!はぁ…。」
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勇者部部室前、廊下--
先程、もう1人のイヴの為にチョコを買いに行っていた夏希とイヴが、商店街から戻って来ていた。
イヴ「ありがとうございます…夏希さん。付き合っていただき。」
夏希「良いんですよ。困ったなぁ…私がお礼をしようと思ってたんですけどね…。」
イヴ「夏希さん?」
そう言って夏希はイヴにチョコを手渡す。
夏希「これ、イヴさんともう1人のイヴさんで半分こして食べてください。」
イヴ「私達にですか…?」
夏希「きっと、同い年の私がいたら対等に話せてたんですけど……ここにいる私はまだ小学生ですから。気を遣ってくれてますよね、いつも。」
イヴ「……………。」
イヴは何も言わなかった。自分の未来を知っていても、その未来を変える為に今も必死で抗い続け、それでも笑顔で接してくれる夏希にイヴはかける言葉が見つからなかった。
夏希「……そう悲しい顔をしないでください。だから、これは元の世界に戻ったら隣のクラスのイヴさんと友達になる約束の証です。」
イヴ「……っ!」
夏希「だから今後とも宜しくお願いします!」
イヴ「ありがとう……ございます。もう1人の私にも、確かに伝わったと思います。それでは、今日はありがとうございました。」
イヴと別れた夏希。そこへ沙綾がやって来る。
中沙綾「……………夏希。」
夏希「沙綾さん?どうしたんですか?」
涙目を必死で拭いながら沙綾は夏希を抱きしめた。
中沙綾「ううん………どうしてもチョコを渡したくてね。はいこれ、私から。」
夏希「やったぁ!!」
中沙綾「………夏希は本当に凄いよ。その小さな身体で周りに元気をいっぱいくれて……。前の戦いでも最後まで必死に頑張ってくれてみんなを……私達を守ってくれた…。」
夏希「それだけが私の取り得ですからね。」
中沙綾「夏希がくれる元気や勇気に……私は何一つ…お返しが出来てないよ。」
夏希「沙綾さん……何言ってるの。そんなもの、必要ある?」
夏希は沙綾を優しく撫で諭す様に呟く。まるで小学生の沙綾に言うかの様に優しく温かい言葉で。
中沙綾「え?」
夏希「お返しなんていらないんだよ。それが友達ってものでしょ?」
その言葉に耐えきれず、沙綾は涙が溢れてしまう。
中沙綾「………く……っ、ぅ………。」
夏希「泣いてる!?やっぱ大人になると涙脆くなるってホントなんだね。」
中沙綾「あはは…それは言い過ぎだよ、夏希。じゃあ、私はまだ用事があるから………またね。」
夏希「はい!」
沙綾と別れ、夏希は貰ったチョコを開けてみる。
夏希「どんなチョコなんだろ……これって!」
夏希が貰ったチョコには勇者装束姿の夏希が彫り込まれていた。
夏希「勇者の私だ!分厚い板チョコに彫ってあるんだ……!」
チョコを再び包みに戻し、沙綾が去っていった方向を見つめる。
夏希「………………またね。」