大赦--
勇者達はこの前での戦いで起こった出来事に関しての話し合いの真っ最中だった。中立神の想定外の強さに大赦の力を借りざるを得なくなった為だ。
りみ「私大赦って初めて来た……。」
ゆり「普段は裏方仕事専門だから。勇者がここに来るって事は滅多に無いんだよ。」
大赦の仕事は専ら勇者のバックアップ。神世紀の今となっては大赦から派遣されて来ているゆりや有咲、トップであるたえぐらいでしかここを訪れる者は少ない。勇者部は大広間に通され、暫く待っていると1人の神官がやって来た。
神官「お待たせして申し訳ございませんでした。」
来るやいなや神官は地面に頭をつけ、出来る限りの敬意を込め平伏する。そうするのも無理はなかった。西暦時代の伝説の勇者"湊家"に巫女のトップである"今井家"、神世紀の英雄"赤嶺家"に現トップである"花園家"。並の大赦神官なら恐れ慄いてしまう程の人物達が今一つの場所に揃っているのだ。
中たえ「この人には私達のアドバイザーとして意見してもらうよ。」
神官「何かありましたら何でもお尋ねください。」
小沙綾(あれ?この声何処かで……。)
リサ「じゃあ、ざっとおさらいしようか。この前の御役目、北側と東側で"凶攻型"が出てきた…。」
赤嶺「うる覚えの記憶にあったんだ。造反神も同じのを作ろうとしたみたいだけど失敗したって。」
千聖「あんなのが出てきたら私達の御役目も失敗してたかもしれないわね……。」
つぐみ「"凶攻型"が出た瞬間に私達の体が動かなくなったよね…。」
友希那「ええ…。それに精霊も出せなくなり、憑依していた精霊の力も消えていた。」
香澄「私達の満開でも決定打にはならなかったけど……夏希ちゃん達はどうして勝てたの?」
夏希「私も土壇場で満開出来たんです。ですけど香澄さんの言う通り倒すまではいかなかった。でもその時私達の時代ならではのシステムが発動したんです。」
リサ「それって……。」
リサは神官に目線を切る。それを察した神官は勇者達に説明する。
神官「"鎮花の儀"です。」
中沙綾「"鎮花の儀"……。」
中たえ「そっか…その手があった。」
2人は合点がいっているようだが、他のみんなはポカンとしている。神官は再び説明を続けた。
神官「"鎮花の儀"は神世紀298年の勇者であった花園たえ様、山吹沙綾様、海野夏希様の勇者システムに備わっていたシステムであり、"完全型"を完全に殲滅する事が出来ない勇者の助けとなる様、一定のダメージを与えた際にバーテックスを撤退させるシステムです。この世界では御三方の勇者システムも最新型となっている為、今まで"鎮花の儀"が発動する機会自体がありませんでした。」
小たえ「確かに私達でもバーテックス倒せてきたもんね…。」
夏希「"鎮花の儀"のお陰で私達東側は事なきを得たんです。」
その後も話し合いは続き、"凶攻型"に関して次のような事実が判明する。
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"凶攻型"
・勇者の動きを止める、精霊を封じる事が出来る。
・この2つは両立出来ない。
・"満開"は問題無く発動出来るが、決定打にはなっていない。
・寧ろ精霊の力があまり効かない。
・"鎮花の儀"で撤退させる事が可能。
・まだ不完全な可能性が高く、途中で消滅する可能性がある。
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リサ「ざっとこんな感じだろうね。」
ゆり「北側じゃ私達の満開4人がかりでも倒せなかった……。固すぎる防御力にはまだ何かがあるんだろうね…。」
神官「それについてですが…調べたところどうやら"未知の物質"が関係しているかもしれません。」
彩「未知の物質って?」
神官「まだ詳しくは判明していませんが、神樹様に似たような力……ですが負の側面が強いです。」
中たえ「負の力……。つまり精霊の力が相殺されてるって事かな。」
友希那「だから満開も効きにくかったのね…。」
現状勇者達が"凶攻型"に対抗する手段は"満開"しか無く、その満開も出来るのは神世紀勇者部の6人と友希那、夏希の8人のみ。そしてその満開でも決定打にはならず、対抗策は"鎮花の儀"だけ。
中たえ「切り札は夏希……。」
夏希「……そうなりますね…。」
友希那「海野さんは何があっても守らなくてはいけない…。」
彩「そしてもう一つの重要な事。高嶋さんが顕現させた精霊の二重憑依…。」
美咲「一度に2体の精霊を憑依させるって事だよね?それなら前の御役目の時に私が薫さんにやった事と同じ?」
薫「そうかもしれないね。」
モカ「でもその時は美咲ちんの精霊は美咲ちん、瀬田さんの精霊は瀬田さんがそれぞれ制御してたんでしょ?」
美咲「確かに…。そっか、今回は高嶋さん自身が持つ"一目連"と"酒呑童子"2体の精霊を自分の力だけで制御してるって事か。」
付け加えるのならば片方の精霊は通常より上位の精霊である。負担が大きい事は想像に難くない。リスクが無い異世界だから出来る所業なのだ。
あこ「現状でこの二重憑依が出来るのは美咲の"コシンプ"の力を借りるか、精霊を2体持っている香澄しか出来ないって事?」
中たえ「いや…それも私達なら出来る筈だよ。」
香澄「おたえ?」
中たえ「忘れちゃった?私達は元の時代で散華した後に精霊が増えてる筈だよ。」
香澄「そっか!」
香澄達は端末を取り出し精霊を呼び出した。香澄は"火車"、沙綾は"川蛍"、ゆりは"鎌鼬"、りみは"雲外鏡"、たえは"両面宿儺"、そして有咲は"鬼童丸"だ。
燐子「こんなに……凄いです…。」
中たえ「本来であれば私達はもっと沢山いるんだけど出せるのはこれが限界みたい。」
紗夜「もっととは?」
中たえ「香澄達は全部で4体、有咲と沙綾は5体、私は21体だよ。」
その数字を聞いた面々は驚愕する。精霊が増える事がどのような事を意味するかを理解しているからだ。満開も散華のリスクが無い異世界だからこそ何度も使用出来ている。
蘭「みんなも潜り抜けてきた修羅場が違うんだね。」
有咲「それはこっちの言葉だ。」
中たえ「精霊バリアも持たず戦い続けてきた御先祖様達の方がよっぽど凄いよ。」
その後も会議は続き、当面の目標は勇者達の戦力増強、特に香澄達の精霊特訓と"鎮花の儀"が使える沙綾とたえ、小学生組の満開修得に時間を費やす事となった。
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次の日、大赦訓練施設--
ここでは香澄達がもう一つの精霊を使いこなせるよう特訓をしていた。
香澄「はぁぁぁあっ!勇者キーーック!!」
炎を纏った飛び蹴りが訓練用精霊に命中、爆音が施設に響き渡る。
香澄「けほっ……けほっ…。」
有咲「やり過ぎだーー!」
香澄「うぅ……ごめーーん!」
中たえ「香澄は問題無く使いこなせてるみたいだね。」
中沙綾「元の世界でも使いこなしてたしね。」
そう言う沙綾はたえと会話をしながらファンネルを遠隔操作し動く的を的確に射抜いていた。
中たえ「そういう沙綾もでしょ。」
中沙綾「おたえだって。」
中たえ「えへへ…。」
香澄「あーー!おたえが2人いる!?」
香澄の目の前にはたえが2人に分身していた。これがたえの精霊"両面宿儺"の力。2倍にする力である。
中たえ「武器や、力。こうやって自分の存在だって2倍に出来るんだよ。」
中たえ「さすが切り札って言われるだけあるね。」
3人の特訓は順調に進んでいた。一方他の3人は--
ゆり「きゃっ!?」
真空の刃が明後日の方向へ飛んで行きゆりは尻餅をついてしまう。そしてその刃が有咲の頬を掠めた。
有咲「っ!?あっぶねー………。」
ゆり「痛たた……ごめんね、有咲ちゃん。」
有咲「ったくー。しっかりしろよなー部長。」
ゆり「そうは言ってもコツが中々掴めないんだよね…。コツあります?師匠。」
高嶋「師匠って!?私なんかまだまだ……。」
ゆり「そんな謙遜しなくても。」
ゆりは同じ風を操る精霊を持つ高嶋に指南を受けていた。一応高嶋の付き添いで紗夜もいる。
高嶋「風はビューンって感じじゃないですか。だからそれをもっとグワーっとしてシュピーンってやるんです。」
有咲「分っかんねえよ……。」
と有咲は思っているが、
ゆり「成る程……。確かにその方がやり易いかも。」
有咲「分かるのかよ!?」
ゆり「何となくね。」
紗夜「風は万能です。先程の様に刃にもなりますし、圧力をかければ仲間を守る盾にもなります。攻防が一体となっているゆりさんにとっては相性が良いかもしれませんね。」
ゆり「守るか……。」
脳裏に浮かんだのは先の戦いでなす術もなく倒れて行く仲間の姿。
ゆり(みんなは私が守る!それが部長のやるべき事だもんね。)
ゆり「よし!特訓再開!」
高嶋「頑張りましょう!」
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勇者達がそれぞれ特訓を開始してから1週間が経った頃--
香澄「神官の人から急に呼び出されたけど、何かあったのかなぁ。」
千聖「急な神託でもあったとか?」
中沙綾「そんな神託はありませんでしたけど……。」
香澄達勇者部は大赦へと呼ばれていた。暫く待っていると神官が何故か友希那とリサと一緒にやって来る。
中たえ「あれ、御先祖様?」
神官「皆様が特訓を始めてから暫く経ちました。そんな時に湊様から提案があったのです。」
紗夜「湊さんからの提案……。もしかして…。」
友希那「模擬戦よ。」
香澄達「「「模擬戦!?」」」
友希那「そうよ。私達は元の時代では良く仲間内でやっていたの。特に戸山さん達を中心に勇者部同士の模擬戦をこれから開催するわ。」
今回の模擬戦の中心となるのは香澄達神世紀勇者部の6人。それぞれが各1名、自分が戦いたい相手を選び真剣勝負を行う。武器は木製を使い満開の使用は禁止、だが特別に精霊の使用が許可されている。
花音「ほっ………。私達は今回は見学なんだね。」
痛い思いをしなくて済むとホッと胸を撫で下ろす花音であったが。
リサ「勿論選ばれなかった人達もまた後日模擬戦があるかもしれないから気を抜かないでよ?」
花音「ふぇぇ〜〜!?」
友希那「それでは戸山さんから戦いたい相手を選んで頂戴。」
香澄「うーーーーん………高嶋ちゃん!」
高嶋「私?
香澄「赤嶺ちゃんとは敵同士だったけど前に一騎討ちした事あったから、今度は高嶋ちゃんと勝負してみたいなって。」
高嶋「その勝負受けてたちましょう!」
香澄「負けないよ!」
リサ「次はゆりさんです。」
暫く考えた後、ゆりは1つ提案をする。
ゆり「りみ、私と一緒に燐子ちゃんとあこちゃんと勝負しない?」
りみ「2対2って事?」
あこ「それ良いかも!りんりん、やろうよ!」
燐子「うん…。友希那さん…それでも大丈夫ですか…?」
友希那「勿論よ。これは面白くなりそうじゃない。」
あこ「私達の力をドーン、バーンと見せてあげる!」
ゆり「あこちゃん達のコンビネーションと私達姉妹の絆の力、どっちが強いか勝負だよ!」
次に対戦相手を選ぶのは沙綾。
中沙綾「私は…美咲かな。相手してくれる?」
美咲「これはまたどういう風の吹き回し?」
中沙綾「遠距離近距離、両方に素早く対応出来る美咲と戦えば私ももっと強くなれそうかなって思ったんだ。」
美咲「……こりゃ手は抜けませんな。」
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有咲「次は私か……。」
中たえ「有咲は一択じゃないの?」
有咲「それもそうだな……。千聖!相手してもらおうか!」
イヴ「まぁ、こうなる事は予想出来た事だな。」
千聖「あら、強気のご指名ね。良いわ、返り討ちにしてあげる!」
リサ「最後はたえだね。」
中たえ「私は……御先祖様。友希那さんに勝負を申し込みます。」
赤嶺「伝説の初代勇者と現代最強の勇者の模擬戦……。」
つぐみ「見物になりそうだね。」
神官「それでは組み合わせは次の通りとなります--」
・戸山香澄vs高嶋香澄
・牛込ゆり、牛込りみvs宇田川あこ、白金燐子
・山吹沙綾vs奥沢美咲
・市ヶ谷有咲vs白鷺千聖
・花園たえvs湊友希那
神官「以上の5試合となります。尚、模擬戦開始は3日後。試合は2試合同時進行で行います。」
己をスキルアップさせる為に始まった勇者同士の模擬戦。前に河原で戦った帰るか残るかを懸けて戦った悲しい勝負では無い。勇者達の互いに胸を借りる覚悟で全身全霊を尽くす勝負が始まろうとしていた--