描写ぐだぐだご容赦ください。
模擬戦当日--
ここは大赦地下にある戦闘訓練施設。対人戦闘用に"赤嶺家"がかつて作らせた大赦で1番広い部屋である。様々な場所での戦闘を想定出来るよう、コントロールパネルで岩場や浜辺、山岳等好きな場所を設定する事が出来る。
神官「それでは只今より模擬戦第一試合、戸山香澄様vs高嶋香澄様、及び第二試合、山吹沙綾様vs奥沢美咲様の試合を始めます。第一試合は施設地下一階、第二試合は施設地下二階で行われます。」
名前を呼ばれた4名はそれぞれ位置につき両者見合って構えをとる。
香澄「胸を借りるつもりで行くね、高嶋ちゃん!」
高嶋「どんと来い!戸山ちゃん!」
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美咲「まあ、指名されたからにはしっかりやりますよ。」
中沙綾「宜しくね、美咲。」
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神官「勝敗はどちらかが戦闘不能になるか"参った"と言うまで。それでは……試合開始です。」
恙無く説明が済まされ試合開始のゴングが鳴る。両試合戦うフィールドは岩場。すぐに試合が動いたのは香澄達だ。
香澄・高嶋「「勇者ぁ………パーーンチ!!」」
両者手始めに放った勇者パンチがぶつかり合い大気が震える。奇しくもこの光景はかつての赤嶺との一騎討ちと同じだった。
香澄「ぐ…ぐぬぬぬっ……。」
高嶋「初手は互角………だけど!」
パンチが拮抗したと悟るやいなや、高嶋は足技に切り替え香澄の足をはらい体勢を崩しにかかった。
高嶋「足元がお留守だよっ!」
香澄「うわっ!?」
体勢が崩された香澄に対し高嶋は容赦無く腹部にパンチを当て、香澄は吹き飛ばされて岩盤に激突する。
香澄「うぐっ……!」
高嶋「でりゃあぁぁ!」
香澄「まだまだぁ!」
怯んだ香澄に追撃を仕掛ける高嶋。しかし香澄はそれを紙一重で躱してカウンターを仕掛けクリーンヒット。
高嶋「うっ……!?」
吹き飛ばされるものの、何とか体勢を整え再び構えをとる両者。一瞬でも気を抜けば一気に試合終了まで持っていかれる勝負に見ている勇者達にも緊張がはしる。
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紗夜「高嶋さん!?」
友希那「流石は戸山さんね。顔面に来たパンチを受け止めるのではなく躱して香澄に一発お見舞いするなんて。」
赤嶺「先輩……高嶋ちゃんも源流なだけあって流石だけど、戸山ちゃんも全然負けてない。寧ろ追い抜くまであるかもね。」
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一方地下二階、沙綾vs美咲--
中沙綾「くっ……!」
美咲「ほれほれ!そんなに逃げ回ってたら勝負にならないよ。」
遠距離から次々に槍を投擲する美咲。沙綾も負けじとライフルで応戦するものの、槍の重い一撃を逸らす事が出来ずに躱すだけで精一杯になっていた。
中沙綾(私と美咲との距離はざっと見ても10m以上は離れてる……。それを何も無しに肉眼で動き回る私を正確に狙ってくる美咲の視力がずば抜けている……。)
実際沙綾もその気になれば槍の軌道を逸らす事なら難なく出来るのだが、ライフルの特性上止まって狙いを定めないとしっかりとした威力を出す事が出来ないのだ。
中沙綾(近付く隙を作る……それなら!)
沙綾は岩陰に隠れ"川蛍"を召喚し武器をライフルから遠隔誘導攻撃端末…ビットへと切り替える。
中沙綾(このビットでなら…!)
4機のビットが四方に展開し美咲に狙いを定める。
美咲「え?」
ビットからレーザーが照射され美咲はそれを躱すのに気がとられてしまう。訓練用の為当たっても少しの衝撃があるだけで痛みはそれほど無いのだが、体は反射的に攻撃を躱してしまう。
美咲「ちょっ!?こんな攻撃あり!?」
中沙綾「これも精霊の力だよ。今のうち!」
狼狽えている隙に岩陰から岩陰へと移動し徐々に沙綾は美咲との距離を詰めていく。
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りみ「沙綾ちゃん、接近戦出来るのかなぁ。」
ゆり「どうなんだろう……って、問題無さそうだよ。」
りみ「え?」
何かに気が付いたゆり。沙綾の手に持つライフルの先に木剣が括り付けられていたのである。
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ビットに気を取られているうちに剣先が届く間合いまで近づいて来た沙綾。だが、美咲は四方八方から降り注ぐ光弾を槍で捌きつつ沙綾の攻撃に対処していく。
中沙綾「くっ……。ここまでの攻撃でも詰めきれない…!」
美咲「……っと!私も美竹さんとまではいかないけど、1人で戦い抜いてきたから……ねっ!」
と言うものの、実際のところ美咲は極寒の大地で広範囲を1人で守りつつ、何も無い時には穴を掘り続けてきた。敵を捌く能力は蘭に若干劣るものの、体力と持久力に関して言えば蘭の数倍上をいく。
美咲「それに……はぁっ!」
ビットを槍で弾き柄の部分で沙綾を突き飛ばす。
中沙綾「きゃあっ!?」
美咲「バリアの無かった頃の私は1発1発の攻撃が致命傷になっちゃう。だから危機回避能力も優れてる……よっ!」
槍を沙綾へと投げ飛ばす。威力は低いとは言えもの凄い速さで向かってくる槍を受ければかなりのダメージを負ってしまう。
中沙綾「っ!?避けられない……!」
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地下一階、香澄vs高嶋--
香澄「はぁ……はぁ………。」
高嶋「はぁ……ふぅ…。」
勝負はほぼ互角と言っても過言では無い。片方がパンチを繰り出せば、もう一方もパンチで応戦し、キックを繰り出せば、キックで相撃つ。
香澄「撃ち合いじゃ勝負がつかない……こうなったら……。」
高嶋「精霊同士のぶつかり合いだよ……。」
香澄は"牛鬼"と"火車"を。高嶋は"一目連"と"酒呑童子"を共に呼び出した。先に動いたのは高嶋の方。
高嶋「行くよ、戸山ちゃん!これが私の今の全力!力を貸して!"一目連"!"酒呑童子"!」
精霊の二重憑依を成し遂げる高嶋。木製の手甲の為、大きな変化は無いが"酒呑童子"の禍々しいオーラを放ちつつその周りを"一目連"の風が包み込んでいた。
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紗夜「これが高嶋さんの今の全力……。」
赤嶺「前に戦った時よりずっと強くなってる……。」
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大気が震えビリビリと焦がす様なオーラが対面にいる香澄に伝わっていた。
香澄「凄い…凄いなぁ、高嶋ちゃんは。強くなる為に、みんなを守る為にいつも一生懸命で……。だけど、私だって…。」
"凶攻型"に蹂躙され地に伏せてしまった事を思い出し拳を強く握りしめる。
香澄「私も立ち止まっていられない…。みんなが切り開いてきた道を…私も……行くよ、"牛鬼"…"火車"!」
呼応するかの様に香澄の横に"牛鬼"と"火車"が現れ、淡い光を放ち香澄と1つになった。直後香澄の両手足が炎を纏い始める。"火車"の能力はあこが持つ"輪入道"と同じで炎を操る力。だが、"輪入道"より攻撃的な側面が強い。
高嶋「はぁっ!!」
"一目連"が放つ風をブースターに利用して高嶋はとてつもない速さで香澄目掛けて突っ込みながら右手を大きく振りかぶり、
高嶋「勇者パンチーーーッ!!」
"超超大型"を一撃で粉砕する威力を持つ"酒呑童子"の力に"一目連"の超スピードがプラスされたパンチが香澄の目の前に迫る。香澄もその全力に応えるかの様に、思いっきり右拳を高嶋に突き合わせる。
香澄「勇者ぁぁぁ…パーーーンチ!!」
ぶつかり合う両拳が一進一退に鬩ぎ合い、香澄に纏っていた"火車"の炎が"一目連"の風の力でその大きさを増していた。凄まじい暴風は炎すら掻き消すが、中途半端な力だと炎を手助けしてしまう。
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赤嶺「若干……本当に若干だけど戸山ちゃんの方が押してる…!」
紗夜「………っ!」
握る拳に力が入る。高嶋への想いが溢れてくる。紗夜は思っている言葉を脳で考える事無く反射的に口にする。
紗夜「……高嶋さん!頑張ってください!もう一息です!!」
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紗夜の声援が耳に入り、体の奥から力が湧き出てくるのが分かった。二重憑依による疲労で"参った"と何度も口に出してしまいそうになる。しかし、紗夜の声援が高嶋に力を与える。
高嶋「紗夜ちゃん……。戸山ちゃん!私は負けなぁぁぁいっ!!」
高嶋を纏う暴風の勢いが増し、香澄の炎を掻き消さんとばかりに唸りをあげ、香澄の拳を徐々にではあるが押し返す。
香澄「うぐっ………ぐぅ……!」
一歩。また一歩と香澄が後退する。だが、香澄もまだ諦めてはいない。目に宿った光は消えてなかった。
香澄「高嶋ちゃんは…本当に強いよ…。だけど私も負けられない!負けたくない!勇者は……根性だっ!!!」
次の瞬間、香澄の体が光を放つ。そしてその傍らには"牛鬼"の姿があった。
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紗夜「っ!?一体何が……。」
友希那「もしかしたらあれが"牛鬼"の力なのかもしれないわね…。」
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友希那の推測は正しかった。香澄が纏っている炎はあくまでも"火車"の力。"牛鬼"の力では無い。"牛鬼"が持つ本来の力。それは--
香澄「おおおおおおっ!」
押されかけていた香澄が高嶋の勇者パンチを押し返し、そしてそのままの勢いで吹き飛ばした。"牛鬼"が持つ力とは使用者が諦めない限り、無限に力を与え続ける"香澄"の勇者としての在り方を体現した力。諦めない限り香澄は立ち上がる事が出来るし、どんな困難にも立ち向かう事が出来る。
いつかの未来に於いて、高嶋が神樹と偶発的に"神婚"した事が切っ掛けとなり"牛鬼"が生まれる事となった。"牛鬼"が持つ力は高嶋の力そのものと言っても過言では無い。言わば高嶋は自分の力が上乗せされた香澄の勇者パンチに吹き飛ばされてしまったのである。
高嶋「っ!?きゃあぁぁぁぁっ!!?」
吹き飛ばされた勢いそのままに岩盤にぶつかる高嶋。受け身を取る暇すらなくその衝撃で二重憑依が解けてしまう。
高嶋「うっ………うぅ…痛た……。」
なんとか上体を起こした高嶋であったが、目の前には拳を眼前に突きつける香澄の姿があった。
香澄「はぁ………はぁ………。」
ここからの逆転は不可能。そう悟った高嶋は両手を上げ、笑って言い放つ。
高嶋「ま、参ったぁ……。」
その一声を聞いた途端、香澄も緊張が一気に解けその場にへたり込む。
香澄「や、やったぁ……!」
高嶋「流石戸山ちゃんだよ……。私の完敗だぁ…。」
香澄「高嶋ちゃんも本当に強かったよ……。ふっ……。」
高嶋「ふっ………。」
香澄・高嶋「「あはははっ!!」」
互いの健闘を称え合い天井を仰いで笑い合うのだった。
神官「模擬戦、第一回戦。勝者は戸山香澄様です。」
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地下二階、沙綾vs美咲--
中沙綾「はぁ……うぅ…!」
転がっていた小石に躓き運良く致命的なダメージを避ける事が出来たが、美咲が放った木槍は沙綾の腹部に命中。痛みを堪えながら必死で岩陰に隠れたものの再び身動きが取れなくなっていた。
美咲「小石に躓いてダメージを減らすなんて運が良いんだか悪いんだか。まぁでもこれでチェックメイトじゃないかな。」
その場で動かずに沙綾の攻撃を捌いていた美咲は最早沙綾は動けないと悟ったのか少しずつ沙綾が隠れている岩陰へと近付き始める。勿論美咲は周りへの警戒を怠っていない。
中沙綾(はぁ…はぁ…どうする……。もう動く事もままならない……。)
必死で考えを張り巡らせる沙綾。考えている間にも美咲は近付いて来る。
中沙綾「……………これしかない…か。」
覚悟を決めたのか、沙綾は岩陰を盾にしてライフルを構える。沙綾が動いた事に美咲も気付いていた。
美咲(仕掛けてくるね……。多分これが最後の一撃になる……。それを真っ向から捻じ伏せて勝利の芽を摘ませてもらうよ。)
木槍を握る力が強くなる。周囲への警戒を強める美咲。互いが互いの行動を悟られない様に。終わりの時が近付こうとしていた。
中沙綾("青坊主"……"川蛍"……力を貸して!)
沙綾の願いに応えるかの様に、二体の精霊が沙綾を取り巻き、沙綾自身では無く武器であるライフルに宿った。
美咲「何やっても同じ。その岩ごと砕いて終わりだよ。」
木槍を構えた次の瞬間、美咲がいる場所の左右の岩が爆発。石の礫が美咲を取り囲んだ。
美咲「な、何これ!?」
咄嗟の出来事に一瞬美咲の動きが止まる。その隙を沙綾は見逃さなかった。
中沙綾「主砲、一斉発射!!」
ライフルの引き金を引き、2つのビットと合わせて3発の光弾がひと塊の光弾となり美咲目掛けて発射される。
美咲「くっ……!槍を投げようにも礫が邪魔で投げられない!?」
沙綾は四つあるビットのうち二つを左右の岩陰に隠し、美咲が近付いた直後にビットから光弾を発射、礫を撒き散らして弾幕を張ったのだ。
中沙綾「捉えたっ!」
美咲「や、やばっ!?」
岩場のフィールドに爆発が起こり2人が煙に包まれる。
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りみ「み、見えない!?」
ゆり「どっちが勝ったの!?」
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暫くの後、煙が消えるとそこには立っている人影が1つ。
美咲「はっ………はぁ…あ、危なかったぁ……。」
美咲だった。美咲は光弾が当たる直前、避けられないと悟り槍を回転させて盾を作り威力を多少軽減させていた。更に運が悪い事に、牽制用に飛ばした石礫も美咲の盾となってしまい、威力が更に下がってしまったのだった。必死に編み出した攻撃をしのがれ、力を使い果たしてしまった沙綾は降参を宣言する。
中沙綾「流石は美咲だなぁ。参りました。」
美咲「本当に間一髪だったよぉ……。」
2人は互いに握手を交わし、神官が勝者の名前を宣言する。
神官「模擬戦、第二回戦。勝者は奥沢美咲様です。30分のインターバルを挟んで3回戦と4回戦を行います。」
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沙綾と美咲が施設を後にすると先に終わっていた香澄達が出迎えた。
香澄「お疲れ様。残念だったね、さーや。」
りみ「惜しかったね、沙綾ちゃん。」
ゆり「良くやったよ。どっちが勝ってもおかしくなかったね。」
中沙綾「負けちゃったけど、良い訓練になったよ。戦闘のバリエーションが増えたかな。」
香澄「次はりみりんとゆり先輩ですね。頑張ってください!」
ゆり「勿論!私達姉妹の力を見せてあげよう。」
りみ「うん!」
中沙綾「有咲も頑張って。」
有咲「おう。行ってくる。」
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30分後--
フィールドが岩場から切り替わり次のフィールドは浜辺。先程と違い障害物が無い為下手をすれば一瞬で勝負がついてしまう可能性もある。
神官「模擬戦、第三回戦。牛込ゆり様・牛込りみ様vs宇田川あこ様・白金燐子様。並びに模擬戦、第四回戦。市ヶ谷有咲様vs白鷺千聖様。フィールドへお願い致します。」
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地下一階--
あこ「ドーンと一気にやっちゃおう、りんりん。」
燐子「無理は禁物だよ……あこちゃん。」
あこ「分かってるって。りんりんがいれば無敵だよ!」
ゆり「言ってくれるね!私達も負けないよ、りみ。牛込姉妹、出動!」
りみ「お、お手柔らかに行こうね。」
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地下二階--
千聖「施設ではずっと一緒だったけれど、こうして本気でやり合った事は今まで無かったわね。」
有咲「そうだな………。」
千聖「それだけかしら?」
有咲「互いにもう言葉は要らないだろ?後はコレで語り合おう。」
千聖「ふっ……有咲ちゃんらしいわね。そういうの嫌いじゃないわ!」
神官「それでは、試合開始です!」