神官「湊友希那様が戦闘続行不可能により、模擬戦、最終戦。勝者は花園たえ様です。」
ふらふらと覚束ない足取りのたえに香澄達が駆け寄り惜しみない賛辞を送る。
ゆり「もう……本当に無茶しすぎ。」
中たえ「えへへ……すみません。」
中沙綾「言いたい事は言えた?」
中たえ「………うん。」
みんなの肩を借りながらたえは友希那の元へと歩いていく。同じく友希那もリサの肩を借りて立つのが精一杯であり肩で息をしている。
中たえ「御先祖様……。」
友希那「まずは謝らせて頂戴。あなたの事を蔑んだ様に焚きつけてしまって。」
中たえ「謝らないでください。本当の事ですから…。」
友希那「でも…。」
中たえ「自分でも分かっていたんです。いつもみんなより一歩下がってしまう自分に。初めての御役目で体の殆どを散華してしまった時、私は終わる事の無い連鎖に諦めを抱いていたのかもしれません。」
友希那「花園さん……。」
中たえ「だけど、私は1人じゃない。今はこうして楽しい事や苦しい事を分かち合える大切なズッ友がいます。勿論御先祖様だってそうです。御先祖様との試合で私はその事を思い出せました。本当にありがとうございました。」
お礼を言って手を差し伸べるたえ。友希那は笑ってたえの言葉を受け取り、その手を握るのだった。
神官「皆様、模擬戦大変お疲れ様でした。闘われた勇者様は後日検査の為に病院へと向かわれてください。本日の戦闘データを解析し、今後の御役目に役立てる様、私共大赦一同、全身全霊で取り組んで参る所存でございます。」
そう言い残し神官は訓練場を後にした。
中たえ「頼りにしてます。安芸先生…。」
香澄「ん?おたえ、何か言った?」
中たえ「ううん、何でもないよ。」
ゆり「よーし、みんな注目!」
香澄「どうしましたか?ゆり先輩。」
ゆり「今日はみんな体を休めて、明日みんなで模擬戦お疲れパーティをしようと思うんだけど、どうかな?」
紗夜「それは構わないですが、模擬戦を行なっていない私達が参加しても宜しいんですか?」
ゆり「そんな細かい事は気にしなくて大丈夫だよ!みんなでパーっといこう!!」
勇者部一同「「「おーーー!!!」」」
パーティと聞き楽しさで胸躍らせる勇者達。しかし、この時は誰も思っていなかった--
このパーティが模擬戦以上に熾烈を極めるものになるとは--
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翌日、勇者部部室--
ゆり「みんな、試合の疲れはとれたかな?」
香澄「バッチリです!」
友希那「問題無いわ。」
ゆり「よし、じゃあこれからパーティの準備をするんだけど…何か食べたいものとかあるかな?」
夏希「はいはい!どうせだったら何か変わった物が食べたいです!」
小沙綾「変わった物?満漢全席とか?」
夏希「まんかんぜんせき?うーん……何かこう普段食べた事ない珍味…とか。」
夏希の言葉でみんなが一斉に珍味について考える。
燐子「珍味というと……鮒鮓とかカラスミ…とかですか…?」
千聖「コノワタとかクチコとかもあるわね。」
あこ「1つも分かんない…けど、何か美味しそう!」
蘭「分からないのに美味しそうって…その判断危険だよ。」
日菜「でも珍味って結構な値段するよ?」
中沙綾「そうですね。それに手に入れるのも大変そう。」
イヴ「でも、私も少し興味があります。」
みんなが二の足を踏む中、1人の人物がある提案をする。
六花「…それなら1つ面白い催しがあるんですよ。」
千聖「何かしら?六花ちゃん。」
六花「………"闇鍋"です!」
勇者部一同「「「"闇鍋"!?」」」
闇鍋--
それは明かりを遮断した暗い部屋の中でそれぞれが持ち寄った食材で鍋をするというスリル満点の鍋である。
中たえ「何を食べるか分からないからドキドキだね。」
高嶋「何だか面白そう!私それやってみたい!」
誰もが初めて経験するという事も相まってか1人、また1人と六花の意見に賛成する人が現れパーティは"闇鍋"という事で万事決定する事となった。
六花「それでは、ルールを説明しますね。」
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1.持ち寄る食材は1人一品まで。
1.食べられる物に限る。
1.うどんや蕎麦等の麺類は禁止。
1.生きている物は禁止。
1.液状の物も禁止。箸で掴める物に限る。
1.具材を投入したら絶対にかき混ぜてはいけない。
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六花「以上です。」
淡々と説明する六花。一同はそのルールに唖然としていた。
つぐみ「食べられる物に限るって……当たり前だと思うんだけど…。」
六花「前にやった時に、鍋の中に下駄やカエルを入れた人がいたんです。」
その話に更に唖然となる一同。
香澄「カエルって食べられるの!?」
有咲「そこかよっ!!」
薫「生きている物はダメなんだね…儚い。」
りみ(か、薫さん…何を入れようと思ったんだろう…。)
以上のルールを踏まえ、一同は買い出しを開始するのだった。
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勇者部部室--
必要な物を全て準備し部室を暗幕で暗くして一切の光を遮断。今この場を照らしているのはコンロの淡い炎のみ。光源から離れてしまえば表情さえも分からなくなってしまう。
小たえ「あはは!暗くて何か面白いよ。」
鍋の出し汁は煮干しとカツオ、そして昆布の合わせ出汁。そしてつけダレはポン酢に胡麻ダレ、エスニック等豊富なバリエーションで揃えている。
六花「では、まずは1人づつ買ってきた食材を鍋の中へ入れます。前にも言いましたがその際絶対にかき混ぜたりしたらダメです。」
1人づつ慎重に鍋の中へ具材を投入。軽めの音や重たい音等様々な音が響き、部室内に緊張がはしる。
友希那「……何か凄そうな物が入った音がしたわよ。」
りみ「な、何かが何切れも入ってる音がするよ!?」
花音「日菜ちゃんが持ってきたカツオじゃない?」
日菜「ちょっとー花音ちゃん!詮索はダメだよ。」
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数分後--
鍋の中の具材が丁度良く煮立った頃、部室に匂いが広がっていく。
イヴ「良い匂いがしてきました。」
あこ「もう良いんじゃない?早く食べようよ!」
六花「それでは、予め決めておいた順番で食べ始めます。実食開始です!」
トップバッターは香澄。
香澄「1番、戸山香澄。いただきまーす!じゃあ……これだ!」
具材を箸で取りポン酢につけて口へと運ぶ。
香澄「もぐもぐ……もぐ?んんん?」
夏希「ど、どうですか?香澄さん……。」
香澄「歯応えがコリコリしてて舌に滑らか……あっ、"イカ"だ!誰か入れた?」
六花「…あっ、それは多分"タコ"ですね。私が入れた"たこ焼き"だと思います。」
香澄「でも、衣が無かったよ?」
小沙綾「出汁を吸った事で崩れて分離したのかもしれませんね。」
蘭「それじゃあ"たこ焼きの衣"だけ食べる人も出てくるんだよね……。」
つぐみ「それに視覚が遮断されてる暗闇だと、味や食感も普段とは違ってくる筈だよ。」
千聖「これは……意外と感覚を研ぎ澄ませる訓練になるんじゃないかしら。怪我の功名ね。」
美咲「何で怪我する前提なんですか……。」
みんなが考察を進めていく中、順番はたえへと移る。
中たえ「次は私ー。……これっ!もぐもぐ……むむっ!?」
燐子「ど、どうしたんですか……!?」
中たえ「これ"カツオ"だ。胡麻ダレにつけちゃったよ…。ポン酢で食べたかったな。」
引き当てたのはカツオ。みんなの視線が自ずと日菜へ集まった。
日菜「……ん?何だか色んな視線を感じるけど、入れたのは私じゃないよ?」
つぐみ「入れたのは私です。子孫と見せかけて先祖。日菜さんが警戒させるのを読んで私が入れたんです。」
日菜「わぁ〜!流石御先祖様だ!」
友希那「成る程ね…。食材が不明だと、つけダレとの組み合わせも判断がつかないと言う訳ね。」
蘭「何かちょっと燃えてきたかも。」
モカ「何でやる気になるか分からないなぁ…。」
次の順番はあこ。あこはお玉を手にして大きな具材を一気に掬い上げた。
あこ「あーん!ん?ぶぇあ〜。これ"ミカン"だよぉ〜!かーのーんー!!」
花音「あっ、同郷のあこちゃんが引き当ててくれるなんて何だか嬉しいな♪美味しいでしょ。」
あこ「美味しくなーーい!皮ごとだし生煮えだし、胡麻ダレにつけちゃったから舌触りゾるゾるだよ……。」
紗夜「……胡麻ダレだけは遠慮しておきます。」
次は有咲の番。無難にポン酢を手に取りなるべく小さい具材を選び取っていく。
有咲「……これだっ!」
箸で摘むが何故か重たく中々持ち上がらない。
有咲「重っ!ぐ、ぐぬぬ……。何だこれ。パク…ッ。」
中沙綾「有咲、大丈夫?」
有咲「ん…こぇ…モッチャ……モッチャ……"
ゆり「私だよ。美味しい?」
有咲「おいひぃけど!らいたぃ……フモッ。あんひゃぁ……モッチャ……モッチャ……。」
喋りたいのに餅で口が塞がれて上手く話す事が出来ない。
美咲「なっ!?餅でツッコミのエースがツッコミ封じの状態事態に!」
つぐみ「次は私だね。無心で一気に箸で摘んで……一気に食べる!」
イヴ「どうでしょう、つぐみさん。」
つぐみ「…………ふっ、ふふふ。これは……これは、中々…。」
食べてすぐつぐみは悶え始めてしまう。そして額には自然と汗が滲みだしてくる。
日菜「御先祖様?何食べたんだろう。ちょっと貰うね?あーん。…………うわっ!?辛いよこれ!」
つぐみ「ふっふっふっ…………ゴクゴクゴクゴク。」
あまりもの辛さでつぐみは笑いながらコップの水を勢い良く飲みほした。
高嶋「何か水を飲む音が凄いよ!」
赤嶺「つぐちんがこんなになるなんて……。何を食べたんだろう?」
美咲「多分だけど、私が入れた"鷹の爪入り餃子"かな。」
モカ「混ぜるの禁止なのは、そういう物が入ってるからだったんだね…。」
リサ「みんな汁!汁を揺らしちゃダメだよ!そっと取って!」
部室内が一気に戦々恐々とする。まだ闇鍋は始まったばかりである。
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夏希「やっと私の番だ!お腹ペコペコだよ。ひょいと取って……パクッ。んんん……んん!?ほぎゃーーーーっん!すっぱ辛すっぱーーーーい!"うめぼひ"ーー!」
小沙綾「あっ、私が入れた"梅干し"だ。」
エスニックのタレにつけてしまったせいで辛さと酸味のなんとも言えないマリアージュが口の中に広がる。
千聖「次は私ね。私はポン酢で……。んん……もぐもぐ…も………ぐ。んぅぐ…っふ…あ、ぐぅぅ……甘ぃ…あ…"あんこ"…。」
ポン酢に浸して食べるあんこ。日常では決して出会う事の無い組み合わせに脳が混乱してしまいそうになる。
香澄「それ私が入れた"ぼた餅"だ!」
燐子「ぼ……"ぼた餅"ですか……。」
香澄「だって美味しいんだもん。」
ゆり「あ、あんこ……。私には当たりませんように。」
頬を叩き気合を入れたゆりは震える手で鍋に箸を入れる。
ゆり「ぱくっ……。もぐもぐ………うぼぁあ!?甘ぁああーーーバナ…"バナナ"!?」
薫「おや、ゆりが食べてくれたんだね。儚い味だろ?」
ゆり「バカーーーーー!少しは考えてよー!うぐぐ………。」
そして順番は友希那へと回ってくる。
友希那「次は私ね。箸先に集中して……無難な物が良いけれど。………これは"イチゴ"ね。甘酸っぱいわ。」
彩「私が入れた物だ!大好きなんだ♪」
ミカンにバナナにイチゴ。やけに果物率が高いこの闇鍋。スタートしてから1時間程が経過し、一同は闇鍋の真の姿に恐怖する事となる。
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紗夜「………時間が経ってきた事で鍋が煮立って甘い匂いが強くなってきましたね…。」
六花「そうなんです。後になればなる程出汁が煮立ってきて匂いが変化するのが闇鍋の醍醐味なんです。さて、次は誰ですか?」
モカ「私でーす。どれにしよーかな…これ!もぐもぐ………おっ、"椎茸"だ……けど…確かに甘い汁で味が斬新。」
最早普通の食材ですら果物の甘い汁を吸ってしまいなんとも形容し難い味へと変化してしまっている。
イヴ「では、参ります。もぐ…………これは"お肉"で………す。」
イヴ「うげっ……何だこの味!?責任者出てこい!!」
王道である肉ですら、イヴが思わずもう1人の人格に変わってしまう程残念な味へと変化してしまった。もう1人のイヴの怒号がこだまする中、迫りくる順番に恐怖する者が1人。
りみ(ど、どうしよう………。このままだとどんどん美味しくなくなってきちゃう……。)
赤嶺「続けて大丈夫なのかな……。これ以上煮詰ったら大変なこ……。」
その時、ガスが切れコンロの火が消え部室が真っ暗闇に包まれてしまう。
花音「ふぇえええ〜〜!?真っ暗で甘い匂いで死んじゃうよぉ〜!!」
ゆり「すぐ変えるから、ちょっと待ってて。」
暗闇の中置いた場所を思い出しながら手探りで探しガスを交換。再びコンロの火がつき淡い光が広がった。ここまで約30秒程の出来事である。
ゆり「よし、じゃあ次は誰かな?」
六花「やっと私の番ですね。では……いただきます。………うん、皆さん大袈裟ですね。普通に美味しいですよ。もぐもぐ……。」
流石の立案者。顔色声色1つ変えずに美味しそうに食材を堪能している。
燐子「………そうですか?極限まで煮詰まって…却って美味しくなったんでしょうか……。」
蘭「…よし、この流れで私も当たりを引き当てる。…………もぐ。"ソーセージ"だ。」
その時だった--
急に蘭の声がピタッと止み、バタンと"何か"が倒れる音が響く。
モカ「蘭?味の感想、もう終わったの?」
そして順番は紗夜へと移り--
紗夜「次は私ですね。ではこれをいただきます。………もぐ…本当ですね。意外と……--」
そして今度は紗夜の声が止んで、再びバタンと倒れる音が。
高嶋「紗夜ちゃん?何食べたの?美味しかった?不味かった?」
高嶋が紗夜に尋ねるが紗夜から返事は返ってこない。そして魔の手は六花にも--
六花「お二方とも味の感想はさいろまれはっきぃ……れれ?変…れすね……。舌らひびれ…れ………ゴハぁ……ッ!」
聞いた事も無い程の断末魔をあげながら六花も倒れてしまったのだ。流石に異常を感じ闇鍋を一旦中止して部室の電気をつけるとそこに広がっていたのは3人が白目を向いて気絶しているとんでもない現場だった。
紗夜・蘭・六花「「「あああ……あううううう…あうぁぁぁ……。」」」
言葉にならない呻き声で3人の体が小刻みに震えている。
有咲「白目向いて3人倒れてるぞ!?一体何があったんだ!?」
千聖「まさか、さっきの暗闇に乗じて誰かが鍋に毒を持ったんじゃ……。」
あこ「まさかバーテックスの仕業!?」
全員が狼狽る中、1人の人物が自白する。
りみ「ごめんなさい!ごめんなさい!!私がやりました!!!」
ゆり「りみ!?」
そう。りみはコンロの火が消えたたった30秒程の間に、こっそり鍋に調味料を注ぎ足して味を整えようとしていたのである。
小たえ「本当だ。調味料とタレの瓶が"全部空"になってます。」
つぐみ「で、でも!それはおかしいです。たかが調味料とタレを全部入れただけでこんな風になっちゃうなんて。」
つぐみがそう反論するのも当たり前である。だがそれがりみには出来てしまうのだ。りみは壊滅的に料理が出来ないから。
中たえ「あ、あはは……それが出来るんだよ。」
ゆり「どうして………10回に1回は普通に美味しい物が作れるまでになってたのに……。」
夏希「確率が低い!」
紗夜・蘭・六花「「「あああ……あううううう…あうぁぁぁ……。」」」
千聖「まるで魔女の儀式ね……。」
高嶋「紗夜ちゃん!みんなもしっかり!目を開けて、意識を保って!!」
1番先に意識が回復したのは六花だった。ふらふらと起き上がり、狂った様に笑いながら話す。
六花「ふ………あはは…あはは!面白くなってきましたね…。勝負はまだこれからです!」
彩「ま、まだ続けるの!?」
六花「勿論です!ですが今からは明かりをつけたままです。普通に危険ですから。」
花音「ふぇえええ〜!?こんなの闇鍋じゃなくて地獄鍋だよぉ〜!!」
六花「お残しは許しません!甘いの辛いの、みんなが得意な物を食べるんです。」
蘭「そそそそそそうです。たたた食べ物をををそそそそ粗末にしたらららババチがあたたたた。」
紗夜「ああああう…あうううう……あうぁぁぁ………。」
りみ「うああああーーーーーん!ごべんだざーーーーい!」
ゆり「だ、大丈夫!何とか修復してみせる!見えてるならどうって事ない筈!」
香澄「そうですね!"成せば大抵何とかなります"!」
その後勇者達は各自が好きな味を担当し、闇鍋をキチンと残さず全部食べたのだった。