ゴールドタワー--
ここは大赦から少し離れた所に聳え立つゴールドタワー。この世界では立ち入りが禁止されているその場所の一室で、1人の神官がパソコンを叩いている。画面にはよく分からない数式や難しい言葉の羅列が所狭しと表示されていた。しばらく時間が経過し扉をノックする音が聞こえ、2人の少女が入室する。
神官「御足労かけて申し訳ございません。」
声からして模擬戦で審判をした神官である事が分かった。最敬礼の姿勢で神官は2人の少女を招く。それもその筈、2人の少女はこの大赦にて最高の権力を持つ人物。
リサ「研究は順調に進んでますか?」
神官「はい、問題なく。模擬戦と"凶攻型"のデータを解析しある程度は目処が立ちました。これなら今井様と花園様が考えているシステムも機能すると思われます。」
中たえ「ありがとう、一時はどうなるかと思ったよ。確かに"鎮花の儀"は"凶攻型"に対する今のところ唯一の対抗手段。だけど……。」
リサ「それは被害を先延ばしにするその場凌ぎの手段にしかならない…。それじゃあ"中立神"は納得してくれない。」
中たえ「これは御役目であると同時に中立神からの試練…。私達は"凶攻型"を倒し鎮めるなければならない。人の可能性を見せる為に。」
記憶を持ち越す手段を探す事も大事な事ではある。だがそれと同時に中立神が天の神側につく事を防ぐ、静観してもらうようにする事が勇者としての御役目。造反神が最後に天の神を模して出てきた時、たった1柱の神ですら地を裂き理を変える程の力を持つ存在。それに加えて中立神の力も加わってしまえば勇者達に勝ちの芽は無くなってしまう。
神官「はい。ですがシステムとして確立させるにはもう少し時間が必要です。」
中たえ「分かってる。それが完成するまでは"鎮花の儀"で凌ぐよ。これからも"凶攻型"は出現する筈。力を合わせて戦いながら"凶行型"のデータも録るよ。」
神官「それに……。」
神官は何かを言おうとしたが、リサがそれを遮る。
リサ「良いの。これは"私達"が決めた事だから。」
神官「………くれぐれも無理はなさらぬ様。」
中たえ「……分かってる。帰りを待ってくれる人達がいるんだもん。」
神官「………。」
それ以上言葉は言わなかった。2人の間には今でも変わらぬ繋がりがあるから。
---
勇者部部室--
同時刻、巫女を除く勇者達もこの先"凶攻型"に立ち向かっていく為に話し合いをしていた。
千聖「1番厄介なのは精霊の力を封じられてしまう事ね。」
有咲「ああ。動きを止める攻撃も厄介だが、それ以上に精霊を封じられたら対抗する術がねぇ。」
燐子「あの攻撃も封じられる範囲がある筈です……。その距離を見極めて私達後衛が攻めるのが一番だと思います…。」
赤嶺「それが1番だろうね。」
"鎮花の儀"が有効だと判明してからすぐさま大赦は小学生組を除いた勇者システムにオミットされた"鎮花の儀"のシステムを組み込んだ。これで今のところ倒せはしなくとも、誰でも多大なダメージを与える事が出来ればバーテックスを撤退させる事が可能となった。
美咲「後は"満開"が出来る8人を中心に戦っていくしか無いか。」
紗夜「そうでしょうね。それにしても、あの"凶攻型"の硬さの源は何なのでしょうか。」
小沙綾「確か神官の方が言ってましたね。"未知の物質"……"負の力"だって。」
その時樹海化警報が鳴り、会議は中断される。
ゆり「みんな、気を抜かないで。いつ"凶行型"が出てきても大丈夫なように行こう。」
香澄「分かりました!」
---
樹海--
樹海へ着き、勇者達は端末で敵を確認する。
燐子「敵の数は……大体2000程度といったところでしょうか…。」
あこ「何か最近敵の数やけに多くなってるよね。」
薫「この御役目も大詰めまで来てるって事じゃないかな。」
蘭「それなら良いんですけど…。」
中沙綾「"爆発型"、"飛行型"は後衛が相手します。」
友希那「前衛は"蟷螂型"、"防御特化型"、"超大型"を相手するわよ!」
友希那の号令を合図に香澄達は前へ出る。1箇所に全員が固まらないよう常に3人から4人のチームを組んでバーテックスを倒していく。
高嶋「トリプル!」
赤嶺「勇者…。」
香澄「キーーーック!」
模擬戦や訓練を通し勇者達も強くなった。最初は手も足も出なかった"蟷螂型"に対してもタイマンで破るまでになっている。
イヴ「おらぁぁぁっ!来た当初は散々いたぶってくれたなぁ!」
"蟷螂型"に並々ならぬ執念を燃やしているのはもう1人のイヴ。防人と赤嶺が飛ばされた夜の樹海で花音を逃す為に1人戦いボロボロにされた記憶が蘇る。
イヴ「ぶちかますぞ"雷獣"!くらいなっ!」
銃剣の鋒に電気を流し"蟷螂型"の脚を一刀両断。分厚い鎧も関係なく一撃で叩き伏せた。
千聖「やるじゃない、イヴちゃん。」
イヴ「当然だ!もう文字通り蟷螂同然だ!」
--
一方では--
有咲「うりゃあぁぁぁ!」
星屑を切り刻みながら"防御特化型"を相手取る有咲。突出しすぎないよう周りを常に確認しながら攻め続けていた。
美咲「市ヶ谷さん、援護いる?」
有咲「いらねーよ!こんな相手、私だけで十分だ!行くぞ"鬼童丸"!!」
そう叫ぶと有咲の傍にフードを被った小さな小鬼が現れる。
有咲「雁字搦めだっ!」
刀を地面に刺すと、"防御特化型"を取り囲むかのように躑躅の紋様が出現し、そこから"防御特化型"目掛けて鎖が伸び巻きついたのだ。
有咲「締めるぞ!」
鎖が"防御特化型"をどんどん締め上げミシミシと音を立て堅牢な装甲を砕き脆弱な部分が露わになる。
有咲「これが進化した完成型勇者の実力だぁ!」
もう一振りの刀で脆弱な箇所を切り裂き一撃で葬り去る。
香澄「有咲凄い!」
有咲「どんなもんだ!」
大分数を減らして来た勇者達であったが、彼方からは湯水の如く星屑が襲いかかってくる。大きな力を持たない星屑だが、その数に目に物を言わせて攻め立てる人海戦術が星屑の最も嫌らしい戦術である。
美咲「ったくぅ……際限ないね、この敵は。」
あこ「勇者は根性だ!"成せば大抵何とかなる"んだよね、沙綾ちゃん!」
中沙綾「そうそう。あこも大分勇者部に染まってきたじゃん。」
疲れた体に鞭打ち、勇者達は星屑掃討戦へ挑んでいく。
---
勇者部部室--
リサ「遅れてごめんね!」
勇者達が樹海へ移動してから10分程が経ち、リサが部室に勢い良く入って来た。
彩「大丈夫だよ、リサちゃん。今のところ変わった事は起きてないから。みんな頑張って戦ってる筈だよ。」
モカ「そうです。それにリサさんには大事な役目があるんですから。」
六花「そうですね。今井さんに大役を押し付けてしまってすみません。」
リサ「良いよ良いよ気にしないで。みんなの気持ちは同じでしょ。"勇者達を助けたい"って気持ちはさ。」
その一言に3人の巫女達はゆっくり頷いた。
リサ「大丈夫。まだ"アレ"は間に合わないけど、"鎮花の儀"で時間稼ぎは出来る筈だから。」
六花「問題は中立神が痺れを切らさないかどうかですね…。」
目下の問題が山積みではあるが、今の巫女達に出来る事は勇者達の無事を祈り、帰ってきた時の万全のケアだ。
リサ「私達が今出来る事を精一杯やろう。」
彩「そうだね。みんなが帰って来た時の為に、うどんと蕎麦いっぱい茹ででおかないと。」
モカ「賛成ー。」
六花「やりましょう!」
4人は家庭科室へと足を運ぶのだった。
---
樹海--
戦いが始まってから40分程が経過した。周りのバーテックスは大方殲滅する事が出来、残りは未だ牙を剥き出し襲い来る星屑の集団。
あこ「んもぅーーー!うじゃうじゃとしつこいよーー!」
小沙綾「あこさん、愚痴が出るうちはまだ大丈夫です。」
あこ「それは分かってるけどさぁ。何かもっとこう………必殺技でズガーーーン!とか出来ないの?」
燐子「ダメだよあこちゃん……。まだ"凶攻型"が出て来てない…。下手に大技を使うとその時に対処出来なくなる…。」
後衛が肝心な時に動けなくなってしまうと最初の作戦が全て水泡と化してしまう。長期戦になっても燐子は冷静に周りを見ながら戦況を分析していた。そして遂にその時がやって来る。
燐子「……!?皆さん…来ます…!」
周りの空気が重く張り付くのが分かった。まだ目視では確認出来ないが、それなのにその圧倒的な威圧感を肌で感じる。
高嶋「これが……"凶攻型"…。」
薫「この感覚…まるで深海にいるかの様な息苦しさを感じるね。」
前回三手に分かれた際、西側で戦っていた高嶋達だけは"凶攻型"に遭遇しておらず、今回が初対面となる。
友希那「全員あの中心のコアの明滅に気をつけて!」
注意喚起した直後、"凶攻型"のコアが鈍い光で明滅しだし、自身の周囲を無差別に爆発させた。
花音「ふぇえええ〜〜っ!?!?何これ死んじゃうよぉ〜!!」
紗夜「飛んでる星屑も関係なしですか。」
その後も"凶攻型"は周囲を爆撃しながら目の前の勇者達を歯牙にも掛けず神樹に向かって前進し続ける。
有咲「みんな、反撃の隙を与えんな!りみ、りみのワイヤーと私の"鬼童丸"で足止めするぞ。」
りみ「うん!」
2人は"凶行型"の左右に位置取り、りみはワイヤーで、有咲は鎖で"凶攻型"を雁字搦めにする。
りみ「う……うぅ…!」
有咲「ぐぬぬぬ………!」
渾身の力を込めて縛り上げ若干移動速度が低下するが長い時間は保たないと見ている誰もが分かった。
香澄「有咲!りみりん!」
有咲「構うな!攻撃の手を緩めるなっつっただろ!」
高嶋「行こう、戸山ちゃん!行くよ"一目連"、"酒呑童子"!!」
二重憑依で駆け上がる高嶋。突風で加速させながら嵐の如くパンチの連打を"凶攻型"に浴びせかける。
高嶋「うりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃぁぁ!!」
赤嶺「私達も続くよ、つぐちん!来い"山本"!」
つぐみ「うん!力を貸して"玉藻前"!」
続け様に呪いの力を源とする2人の蹴りと斬撃が命中。並のバーテックスならこの一撃で消滅する筈なのだが、"凶攻型"にはびくともしない。
つぐみ「くっ……!やっぱり呪いの力が負の力に相殺されてる…!」
決定打を打てない勇者達。そして再び"凶攻型"のコアが明滅を始め今度は周囲を光が包み込んだ。
有咲「まずい!みんな離れろ!」
光を放った直後、"凶攻型"に巻きついていたワイヤーと鎖が消滅。精霊の力を封じてきたのだ。
紗夜「高嶋さん!」
高嶋「紗夜ちゃん来ちゃダメ!紗夜ちゃんも精霊が使えなくなっちゃう!」
今精霊の力が使えないのは"凶攻型"の周囲にいる有咲、りみ、高嶋、赤嶺、つぐみの5人。その5人に"凶攻型"からの爆撃光撃が炸裂する。
有咲・赤嶺「「ぐわぁぁぁっ!」」
りみ・高嶋・つぐみ「「「きゃぁぁっ!」」」
バリアも封じられた5人は攻撃をモロに受け吹き飛ばされてしまう。しかし5人の犠牲は無駄では無かった。分析した燐子が後衛から指示を送る。
燐子「10m…10mです……!満開が使えない人はその距離を保って攻撃してください…!」
5人が決死の覚悟で燐子に渡した情報。このチャンスを無駄にする訳にはいかなかった。
中沙綾「香澄!ゆり先輩!おたえ!友希那さん!夏希!私が援護するから攻めて!!」
香澄「分かった!みんな、行くよ!」
6人「「「"満開"!!」」」
満開出来る6人は先のバーテックスとの戦闘でゲージが溜まりきっている。一斉に満開し"凶攻型"に反撃を開始する。沙綾は後衛から砲撃し、たえと友希那はそれぞれ中衛から槍状と刀状のビットを展開しオールラウンドに攻撃。残りの3人は白兵戦で"凶攻型"との戦闘を繰り広げていた。
香澄「反撃の隙は与えない!」
ゆり「みんなが作ったこのチャンスを逃さない!」
満開が使えない勇者達は邪魔してくる星屑を加勢させないように"凶攻型"と一定の距離を保ちながら迎撃していく。
夏希「このぉっ!」
ゆり「負けるかぁ!」
大剣と4本の鉤爪が"凶攻型"をしっかりと捉えた。
ゆり「巨重斬!」
夏希「天墜の斧鉞!」
地を砕く程の一撃が"凶攻型"に炸裂するも、損傷箇所を直ぐに修復してしまう。
香澄「まだまだぁ!勇者パーーーンチ!!」
すかさずゼロ距離からコア目掛けての勇者パンチが命中するがバチバチとコアを守るバリアに阻まれる。が、"凶攻型"を大きく後退させる事には成功する。
香澄「くっ………見るからに弱点っぽいのに…。」
ビームを放ちながら前進する"凶攻型"。香澄は追加された両肩の巨大な手で前へ行かせない様必死で押さえ込む。
香澄「ぐっ………うぅぅ……!」
友希那「はぁぁぁあっ!」
中たえ「いっけぇぇぇぇっ!!」
中衛で援護していた2人も前衛へ上がり攻撃を続ける。
中沙綾「ダメージは蓄積されてる!もう少しです!」
あと一息。だが"凶攻型"にはもう一つの手が残されていた。"凶攻型"が再度光を放つと香澄、たえ、友希那の動きが止まる。
友希那「ぐっ…動けない……。」
香澄「力も入らない……。」
動けない香澄達を爆発で吹き飛ばし"凶攻型"は神樹に向かって一直線に突き進んでいく。
中沙綾「もう満開が保たない…。」
沙綾が前へ出ようとしたその時、有咲が沙綾を止める。
有咲「沙綾はそこから援護!私とりみでやる!」
りみ「うん!いけぇぇぇぇぇっ!」
意識を取り戻し満開したりみが無数のワイヤーで"凶攻型"を繭の様に包み込む。抜け出そうと"凶攻型"はビームを放とうとするのだが、何故かビームは発射されなかった。
ゆり「これは……"雲外鏡"の力?」
有咲「そうだ。"雲外鏡"の跳ね返す力で今アイツは自分で自分を攻撃してるんだ。」
バーテックスの負の力と勇者の正の力は反発し合ってしまう。なら負の力と負の力がぶつかったらどうなるだろうか。反発し合う事なく、互いが互いを傷付けるのだ。やがて自分自身の攻撃を受けた"凶攻型"は動かなくなってしまう。
りみ「有咲ちゃん、今だよ!」
有咲「任せろ、りみ。四双瞬滅突!」
ワイヤーを一部緩めコアを露出させたりみ。有咲はそこ目掛けて4本の刀をコア目掛けて突いた。
有咲「この前の仕返しだぁぁぁ!!」
バリアが突撃を阻むが、自身の攻撃で耐久力も落ちていた為、バリアを貫き刀がコアに命中。貫きはしなかったが大打撃を与える事に成功する。そして遂に全勇者システムに再搭載された"鎮花の儀"が発動するのだった。
---
勇者部部室--
辛勝だった。ほんの僅かでも気を緩めればどうなっていたか分からない。だけどあの"凶攻型"に対し初めて一矢報いる事が出来たのだ。この事実が勇者達に一時の頑張る力を与える。
千聖「みんな……無事かしら?」
有咲「あぁ。何とか追い返したぞ。」
彩達は疲れ切った勇者達に、うどんを振る舞いながら傷の手当てをする。
彩「千聖ちゃん、大丈夫?」
千聖「ええ。私は大丈夫よ。私より前線で戦ってた香澄ちゃん達を見てあげて。」
六花「結構やられたね、2人とも。」
赤嶺「流石は中立神ってとこだね……痛てて。」
つぐみ「何とか私達でも戦える手段があれば良いんだけどね。」
追い返す事が出来たとはいえ敵は"凶攻型"たった1体。1体相手に満開が使える勇者8人がかりで満身創痍に成る程の相手。一時は勝利を噛み締めていた勇者達だったが、突きつけられた現実は非常に重たいものだった。
リサ「………みんな、聞いて欲しい。」
リサがみんなに話し始める。
リサ「今の状況が続けば、いずれ中立神は痺れを切らして天の神側についちゃう。」
友希那「悔しいけれど、リサの言う通りね。"鎮花の儀"をいくら使った所でそれは私達の力じゃない。私達の実力でこの状況を打ち破らなければこの先勝機は……無い。」
リサ「今回の襲撃で中立神はきっと"凶攻型"の数を増やしてくる……だから、今大赦ではそうなった時の為に打開策を計画してる。」
香澄「打開策?」
中たえ「そう。ゴールドタワーでね。」
千聖「ゴールドタワーですって!?」
リサ「作ってるシステムの名前は"ヤチホコ"。"凶攻型"を覆っている未知の物質。あれは"負の力"を纏っている。赤嶺とつぐみが持つ精霊の力が相殺されるなら、逆に"正の力"で中和出来るんじゃないかって思ったんだ。」
つぐみ「確かに赤嶺ちゃんの"山本"と私の"玉藻前"の呪いの力は相殺されてた…。」
赤嶺「でも正の力をどうやって……ってまさかリサちゃん!?」
正の力は清らかな力。それを持つ事が出来る者は--いや、者達は巫女において他ない。
リサ「うん。今度は"私達"がみんなを助ける番。もう……誰も傷付けさせないから。」