戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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頑張る前の小休止です。イヴ誕生日会からの続きのお話。

いつも読んでくださりありがとうございます。ブックマーク感謝しております。




本当の家族

 

 

"ヤチホコ"--

 

"八千矛(ヤチホコ)"と書かれる様に数多の矛を意味し、"大国主"の別名とも言われている。矛は攻撃に使う槍の矛では無く、祭祀に用いられる道具の事。

 

ゴールドタワーを巨大な送信機として使い地下にある装置に巫女が入り、巫女の祈りによって高まった巫力を自身の肉体を回路としてバーテックスに放射するシステムである。

 

一度発動出来れば"凶攻型"といえど負のエネルギーを相殺される事により急激に弱体化すると予測されるが、強力過ぎるエネルギーの負荷に何の力も持たない巫女が受け止めなければならないのだ。

 

友希那「エネルギーの負荷を受け止めるって……まさかリサが!?」

 

リサ「そうだよ。モカや彩、六花にも負担がかかるけど……私達は決めたんだ。これ以上友希那達に重荷を背負わせたくないって。」

 

蘭「本気なの、モカ!?」

 

モカ「うん、もう決めたんだ。私も一緒に戦うよ。今までずっと蘭の背中を見てたけど……今度は私も蘭の横で戦うから。」

 

千聖「彩ちゃんも……なの?」

 

彩「黙っててごめんね。もし話したら千聖ちゃんは絶対に反対すると思ったから……。」

 

千聖「当たり前じゃない!」

 

彩「でも!でも……"凶攻型"が出てくる度に千聖ちゃんやみんながボロボロになって帰って来る……。それなのに私はただみんなが無事であります様にって戦いの度に祈るだけ。そんなのはもう………嫌なんだ。」

 

赤嶺「ロックも同じ考えなの?」

 

六花「はい。赤嶺さんやつぐみさんだけに辛い思いはさせません。私も背負わせてください……いや、背負います!」

 

巫女達の決意は固かった。今更止めるよう説得したところで逆効果になってしまうだろう。

 

ゆり「分かった。だけどこれだけは約束して。自分自身の命を最優先にして。自分を犠牲にしようだなんて絶対に考えないで。」

 

リサ「……分かりました。それにみんななら、私達に負荷をかけすぎない様に素早く殲滅してくれるって信じてるから。」

 

友希那「……言ってくれるじゃない…。」

 

蘭「当たり前ですよ。」

 

千聖「勿論よ。犠牲は絶対に出さない。出させない!」

 

リサ「うん!完成まであと少し。その時は頼りにしてるよ。」

 

 

---

 

 

勇者部部室--

 

それから1週間程経った。バーテックス襲来の神託も無く、勇者達は緊張に包まれながらも久々に年相応の学校生活を送る事が出来ていた。

 

美咲「はぁ〜やっと1週間が終わったよ。寮に戻ってゆっくりテレビでも見ようかな。それじゃあまた明日。」

 

花音「週末に敵が来ませんように…。それじゃあ、私も帰るね。」

 

香澄「みんなお疲れ様。私も帰ろっと。さーや、行こ!」

 

中沙綾「うん。今行くね、香澄。」

 

友希那「今夜は何を食べましょうか?何か食べたいものはあるかしら?」

 

中たえ「ハンバーグ!」

 

友希那「そうしましょうか。」

 

リサ「それじゃあ、今日はリサさんが腕によりをかけて作っちゃうよ。たえちゃん、行くよ。」

 

小たえ「待って待ってー!おいてかないでー!」

 

それぞれが家路に着く中、仲睦まじくしている友希那達の姿をジッと見つめている1人の少女がいた。

 

イヴ「……………。」

 

紗夜「あら?若宮さんはまだ帰らないのですか?」

 

イヴ「たえさん達は………一緒に晩ご飯を食べるのでしょうか?」

 

紗夜「あぁ……。湊さん達は最近週末によくあの様に集まっているそうですよ。側から見れば家族の様ですね。」

 

イヴ「そう………ですか…。」

 

心の奥に秘めたモノを感じ取った紗夜。紗夜はイヴの誕生日を祝って以来、自分と同じ境遇を持つ彼女にシンパシーを感じていたのだった。

 

紗夜「……………若宮さん。もし宜しければ、今日--」

 

イヴ「…………?」

 

紗夜はイヴを連れある人の家へと向かうのだった。

 

 

---

 

 

 

牛込宅--

 

ゆり「はーい、どちら様………って、あれ?紗夜ちゃんとイヴちゃん。2人ともどうしたの?」

 

呼び鈴を鳴らすとゆりが自宅の扉を開け2人を出迎える。そして紗夜はゆりにこんな頼み事をする。

 

紗夜「突然押し掛けてしまい申し訳ありません。突然なのですが………今夜、一緒に過ごさせて頂いても宜しいでしょうか?」

 

ゆり「え?」

 

イヴ「………………。」

 

突然の事に驚くゆりだったが、イヴの様子を見たゆりは紗夜の意図を理解したのか、申し出を快く承諾する。

 

ゆり「大丈夫だよ。さ、入っ………?」

 

招こうとした時、ゆりの端末に薫からメールが入る。

 

ゆり「ごめんね、メールだ。…………薫からか。」

 

 

---

 

 

差出人:瀬田薫

―――

宛先:牛込ゆり

―――

件名:儚い子猫ちゃんへ

―――

やあ、ゆり。元気にしているかい?今日、とても儚い魚が釣れたんだ。是非、ゆりに捌いて欲しくてね。構わないかい?

 

 

---

 

 

ゆり「丁度良い。りみー!ちょっと来てー!」

 

りみ「どうしたの、お姉ちゃ……あれ?紗夜さんにイヴちゃん!?こんにちは。」

 

ゆり「今からイヴちゃん連れてお使い頼めるかな。途中で薫と合流して、一緒に帰って来て。」

 

りみ「分かった。」

 

イヴ「え………?」

 

すんなり内容を飲み込んだりみに対して未だに状況が飲み込めていないイヴ。

 

紗夜「私は行かなくて良いのですか?」

 

ゆり「紗夜ちゃんは私の手伝いをお願いね。今日は海鮮鍋だよ。」

 

りみ「やったぁ!行こう、イヴちゃん。」

 

イヴ「え………は、はい。」

 

りみに手を引かれイヴはスーパーがある方角へと消えていった。

 

ゆり「さて、薫に返信して………りみには買い物リストを送信……と。これでオッケー。」

 

紗夜「いつもながら迅速な対応ですね。」

 

 

---

 

 

スーパー--

 

薫と合流したりみとイヴはゆりから送られてきたリストを頼りに材料の買い出しを始めていく。

 

薫「そうか……今日は海鮮鍋を。丁度良かったよ。」

 

りみ「いえ。薫さんが魚を捕まえたからそうなったんだと思います。ね?イヴちゃん。」

 

イヴ「え?そ、そうですね…。」

 

りみ「えーっと………足りない調味料は、これと、これ……で、"後は適当にお願い"って、お姉ちゃんったら。」

 

薫「イヴちゃん。好きな食べ物はあるかい?」

 

イヴ「私は………何でも。」

 

りみ「今夜は他に何が食べたいかとかある?」

 

イヴ「分かりません……。特に…無いです。」

 

話が続かない。会話が途切れ途切れになってしまう。

 

りみ「あっ、そっか。防人はゴールドタワーに食堂があるって言ってたから、自分でメニューを考えないんだ…。」

 

薫「防人になる前はどうしていたんだい?やはり、家族と一緒かい?」

 

イヴ「…………独りでした。いつも菓子パンとかピザとかを適当に食べてました。」

 

りみ「えっ!?毎日!?」

 

イヴ「はい………。」

 

仕方のない事だった。防人以外では紗夜にしか話した事がない自分自身の過去について。

 

薫「それは……体には良くないね。」

 

イヴ「お腹が満たされればそれで良かったんです。何でも………食べられれば。」

 

りみ「で、でもラーメンは好きなんだよね?」

 

イヴ「はい。ラーメンは独りでも温かいですから。どんぶりの中だけを見ていられるので大好きです。」

 

2人は敢えて深くは立ち入ろうとはせず、それでもイヴに寄り添うように話を続けた。イヴもそれが何故かとても心地良いと感じるのだった。

 

薫「…………なら、この中華麺を買おう。海鮮鍋の最後はラーメンだね。」

 

りみ「そうですね!」

 

イヴ「最後………?鍋の後に入れるんですか?」

 

りみ「みんなで食べるラーメンも美味しいよ!後、デザートも買って帰ろう!」

 

薫「他にお菓子も幾つか買って帰ろうか。」

 

りみ「ですね♪イヴちゃん、選んで選んで!」

 

イヴ「私が……選んで良いんですか?」

 

薫「勿論さ。イヴちゃんが選んだお菓子を、みんなで食べよう。」

 

イヴ「わ、分かりました!えっと……えっと……これが良いでしょうか……?それとも………。」

 

2人の事を忘れて夢中でお菓子を選び出すイヴ。その姿はまるで宝探しをする子供の様。側から見ればこの3人は家族の様に見えるのだった。

 

 

---

 

 

一方、牛込宅--

 

紗夜「こんな感じでしょうか………。」

 

ゆり「うんうん、いい感じだよ。大分上手くなってきたね。」

 

2人はりみ達が帰ってくるまで、鍋に入れる具材の下拵えをしていた。まだ不器用ながらも紗夜の料理スキルは以前とは見違える程だ。

 

紗夜「そうですか……?包丁はまだ少し慣れませんね。」

 

ゆり「大丈夫、上等上等!」

 

紗夜「…………………。」

 

具材と睨めっこをしている紗夜にゆりは前に2年生が林間学校に行った際、家に無理矢理連れてきた事を交えながら話しかける。

 

ゆり「…………紗夜ちゃんが次に来る時は、高嶋ちゃんを連れて来るものだと思ってたよ。」

 

 

--

 

 

紗夜「ええ……美味しいです。………家族の食卓って、こんな感じなんですね。騒々しいですが………なんだか楽しいです。いつか……高嶋さんとも……こんな感じになれたら…良いですね…。」

 

ゆり「またいつでも来てね。今度は高嶋ちゃんと一緒に。」

 

紗夜「………ええ、是非。フフッ。」

 

 

--

 

 

紗夜「確かにあの時はそんな事を言いましたね。………何故だか若宮さんを放っておけなかったんです。」

 

ゆり「……………変わったよね、紗夜ちゃん。」

 

紗夜「私が…ですか?」

 

ゆり「うん。すっごく周りが見えてて、自分に出来る事を判ってきたって感じがするよ。黙々と1人でゲームしてると思ってたら、ちゃんと先輩らしくなってるよ。」

 

彼女はこの世界に来る事で変わる事が出来た。自分だけでは無く他人を思いやり、思いやられ--先輩として接する事で凍りついていた彼女の心は徐々に溶けていった。

 

紗夜「そ、そんな事は………。ただ……若宮さんは私と似ている部分がありますから。若宮さんも知っていた方が良いと思ったんです。穏やかな空気と言いますか……。」

 

ゆり「ありがとね、紗夜ちゃん。」

 

紗夜「どうしてゆりさんが……。お礼を言うのはこちらの方です。」

 

その時、自宅の呼び鈴が鳴りりみ達が帰って来る。

 

ゆり「お、帰ってきたね。はいはーい!お帰り。」

 

イヴ「…………はい。」

 

ゆり「こらこら、"はい"じゃなくて、お帰りって言われたら"ただいま"でしょ。」

 

イヴ「あ……………………た、ただぃ…………ま。」

 

りみ・薫「「ただいま。」」

 

ゆり「よろしい!早く入ってうがい手洗いね!すぐにご飯にするよ。」

 

イヴ「……………………。」

 

"ただいま"。何気ない一言なのに、それが何故かイヴの胸をキュッと締め付ける。

 

りみ「イヴちゃん?どうかした?」

 

イヴ「私…………初めてです。」

 

りみ「ん?何が?」

 

イヴ「家に帰って、誰かに……"お帰り"と言われた事が。」

 

誰にとっても当たり前の事がイヴにとっては当たり前の事では無かった。誕生日を祝われた時もそうだった。当たり前を感じれる事。それが何よりもイヴにとっては新鮮で嬉しいものなのだ。

 

りみ「イヴちゃん……………。行こう。アイスとデザート冷蔵庫にしまわなくちゃ!」

 

イヴ「……はい!」

 

 

--

 

 

りみ「大きなクーラーボックスがあると思ったら……。」

 

ゆり「まさか……幻の魚、クエを持ってくるなんて!」

 

薫「小ぶりでも大きいから、ぶつ切りにして持ってきたよ。」

 

イヴ「凄いです……!」

 

紗夜「こんなに沢山あるのでは、食べきれないかもしれませんね。」

 

ゆり「フッフッフ。そう思う?甘いよ!いっただきまーす。」

 

一目散に鍋に箸を伸ばすゆり。見る見るうちに鍋の具材がゆりのお腹の中へと消えていってしまう。

 

りみ「はっ!皆さん、早くしないとお姉ちゃんに全部食べられちゃいます!」

 

紗夜「若宮さん、適当に取り分けたので食べてください。」

 

薫「うん……アジのつみれも儚くて最高だよ、イヴちゃん。」

 

イヴ「いただきます……パク。ハフハフ…ッ!」

 

口に入れた途端魚介の出汁が染み込んだクエの濃厚さが口いっぱいに広がった。野菜も出汁を吸っていてまさに最高の一品。

 

りみ「イヴちゃん、どう?」

 

イヴ「…………美味しいです。とっても美味しくて……温かいです。」

 

ゆり「うん、美味しいは正義!みんなもどんどん食べて!」

 

りみ・紗夜・薫「「「いただきます。」」」

 

りみ「っ!この帆立甘くて美味しいです!サザエもコリコリでめっちゃ美味しい!」

 

紗夜「本当ですね。お刺身も新鮮で歯応えがあります。瀬田さんに感謝ですね。」

 

薫「みんなで囲む食卓に温かい食事……この時をみんなで味わう事が出来て私も嬉しいよ。」

 

りみ「イヴちゃんイヴちゃん!ご飯の後はデザートもあるからね!」

 

イヴ「……はい!」

 

ゆり「そうだね。デザートを食べながら映画でも見て今日はリビングに布団敷いてみんなで雑魚寝だね。」

 

イヴ「?あの………どうして私はここに泊まるんですか?」

 

りみ「今日からイヴちゃんも名誉姉妹だからだよ!」

 

イヴ「名誉姉妹………ですか?」

 

紗夜「私もそうなんです。どんどん増えますね…牛込さんの家族。」

 

イヴ「家族?血が繋がっていないのにですか?」

 

薫「血縁なんて小さな事さ…。」

 

イヴ「そうなんですか?」

 

薫「ああ。この世界では………これが本当の家族でも別に良いんじゃないかい?」

 

イヴ「これが………本当の…………。」

 

イヴは周りを見回す。周りには紗夜、薫、ゆり、りみ。みんながイヴを笑顔で、温かい笑顔でゆっくり頷いた。自分を受け入れてくれた--イヴはそれがたまらなく嬉しかったのだ。

 

イヴ「あ、あの………!」

 

ゆり「ん?どうしたの、イヴちゃん。」

 

イヴ「私………私は……また…ここに、帰って来ても良いんですか?」

 

ゆり「……当たり前でしょ?ほらほら、もっと食べて!おかわりは?」

 

イヴ「…………はい!いただきます!」

 

満面の笑顔で笑うイヴ。そんなイヴの笑顔を紗夜は嬉しそうに眺めるのだった。

 

 

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