次回、きらめきの章完結--
勇者部部室--
巫女達は静かに祈り続けていた。彼女達に戦う力は無い。神樹の意思を言葉にし、無事に戻って来られるよう祈る事しか出来なかった。
モカ(蘭……信じてるから…。)
モカは蘭の無事を祈り続ける。見つけた夢を共に叶える為に--
彩(千聖ちゃん……みんな……神樹様、どうか御加護を…。)
彩は勇者の、防人の無事を祈り続ける。大好きなみんなの為に、そして千聖自身の目標の為に--
六花(香澄さん…つぐみさん……2人なら、必ず…。)
六花は鏑矢の勝利を祈り続ける。四国の戦いの無い平和な日常を守る為に--
リサ(あこ…燐子…紗夜…香澄……そして友希那……。私待ってるから。みんななら必ずやってくれるって……。)
そしてリサは祈り続ける。奇跡を起こす為に、愛する人の為に--
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樹海--
燐子「はぁ……はぁ……っ!」
りみ「香澄ちゃんだって頑張ってる筈……!だから私だって……!」
つぐみ「……流石に苦しくなってきたかな……。」
樹海に降り立ってから20分程が経過していた。りみ、つぐみはまだしも、精霊を憑依し続けている燐子は体力の限界が近づいている。
紗夜「白金さん!無茶はしないでください!」
高嶋「そうだよ!私達はまだ頑張れるから、少し休んで!」
下がるよう促すが、燐子は聞かず冷気を放出し続ける。
あこ「りんりん!!!」
燐子「ごめんね……あこちゃん…皆さん……。これは私の我儘なんです…。まだ…やれます…!やらせてくだ…さい!」
赤嶺「つぐちんも無理しないで!」
つぐみ「ありがとう、香澄ちゃん……。でも、心配要らないよ……香澄ちゃんが頑張ってるだから…ライバルである私が先に倒れる訳ない…よ。それに、子孫が見てるんだもん。カッコいいところ見せないとね。」
日菜「御先祖様……!」
限界を超えて力を出し続ける3人。しかし状況は更に悪くなる。星屑に加え、"超大型"、"爆発型"、"蟷螂型"といったバーテックス群が迫ろうとしていたのだ。
ゆり「あはは……開いた口が塞がらなくなっちゃうよ…。」
有咲「バテたなら私に任せて休んでても良いんだぞ。」
ゆり「冗談キツいよ、有咲ちゃん……!やっと体が温まってきたところ……。後輩を差し置いて先輩が休める訳ないでしょ。りみも頑張ってる……部長の力舐めないで!」
イヴ「相手してやるよ……どっからでもかかってきやがれ!!」
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拭い去る事の出来ない死への現実に押しつぶされそうになる夏希、蘭、そして友希那。残された千聖と香澄にもその魔の手が迫ろうとしていた。
香澄「夏希ちゃん!蘭ちゃん!!」
千聖「友希那ちゃん!」
3人が崩れ落ちていく様を香澄と千聖も見せつけられている。
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中立神の空間、香澄サイド--
香澄?「汝は他の為に自らの命を賭けられるか……?」
香澄「!?」
その質問には聞き覚えがあった。刀使である少女、柊篝から聞いたあの言葉。
香澄「………………。」
香澄?「問い方を変えよう……汝の命で世界が救われるとしたら……汝は自らの命を差し出せるか……?」
香澄「…それで確実に世界が救えるんですか?」
香澄?「然り……。」
香澄「その前に、仲間に相談します。」
香澄?「では誰にも相談出来ないとしたら……?呪いの類を用い……。」
答えが出ない。勇者部五箇条を誰より信じてきた香澄に、最大の障壁が迫ろうとしている。頭を抱える香澄に、中立神は不敵に笑って香澄の頭に手を翳しビジョンを見せつけた。
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勇者部部室--
香澄「えっと、じゃあ、あのね!じつは私、あの日……。」
香澄「っ!?」
浮かび上がる炎の刻印--
香澄「っ……!っ!!」
沙綾「どうしたの、香澄?」
香澄「う、うん…やっぱ何でもないや。」
車に跳ねられるゆり--
香澄「あっ…ああっ……。」
香澄(あの時、私がゆり先輩に相談しなければこんな事にはならなかった…。私のせいだ。私のせいで…。)
香澄「ゆ、勇者部5箇条!なるべく諦めない。私はみんなが助かる可能性に賭けてるんだよ!」
ゆり「あなたが生きる事を諦めてるじゃない!」
香澄「勇者部5箇条!成せば大抵何とかなる!成さないと何もならない!」
ゆり「香澄ちゃん!!5箇条をそういう風に使わない!!!」
香澄「私は、私の時間のあるうちに私の出来る事をしたいんです!だからこうしてみんなにきちんと相談しました!」
たえ「これじゃあ報告だよ、香澄。相談しなきゃ…。」
香澄「相談してるよ!!!」
有咲「香澄、その…とにかく、無理すんな……。」
香澄「無理してないよ!!」
有咲「ご、ごめん…。」
香澄「勇者らしく、私らしくしてるよ!!」
りみ「待って…。」
ゆり「香澄ちゃん!みんながここまで言って、まだ分からないの!?」
香澄「だから!他に方法がないからこうなっているんです!!」
りみ「待ってよ…。なんで…なんでこんな……、ケンカなんて…っ…うぅっ………。」
香澄「私は……。私には本当に時間が無くて…。もう…。っ!?あぁ……っ…!?」
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中立神の空間--
香澄「今の光景は!?」
香澄?「未来の一部だ……。汝が話せば代わりに親しい仲間が傷付く……。」
香澄「そんな……!」
絶望に打ち拉がれる中、香澄は六花が言っていた言葉を思い出していた。
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パーティ会場--
六花「勇者は騙された事よりも、疑った自分の気持ちを恥じる人達ですから。」
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それに似たようなものだ。勇者部にいる全員が自分が傷付く事より、他人が傷付く事が許せない。しかも自分が原因で仲間が傷付く。何よりも残酷で心が抉られる程の痛みに香澄の胸は締め付けられる。
香澄「はぁ……はぁ…!」
香澄?「汝はそれでも相談するのか……?友を犠牲にしてまで……。」
香澄「嫌だ……嫌だよ!私のせいでみんなが傷付くなんて!私は………私……は…。」
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中立神の空間、千聖サイド--
千聖?「汝の強さとは何だ?何がそこまで汝を駆り立てる?」
千聖「……………。」
千聖?「勇者ですら無い汝は、何故そこまで抗おうとするのだ……?」
千聖は静かに目を閉じる。中立神からの問いが頭の中を駆け巡った。
千聖(………ここまで数えきれないくらい沢山の出来事があったわね……。)
頭の中にはこれまで千聖が辿ってきた道程が蘇って来る。
千聖(勇者候補生として血の滲む様な特訓を重ね、勇者に選ばれず挫折を味わった……。怒りに囚われた私を待っていたのは"勇者"では無く、"防人"と呼ばれる傘下に入り、勇者の下請けの様な御役目の日々……。)
千聖?「どうした……?答えられな--」
千聖「………ちょっと黙ってなさい。」
千聖?「何……?」
千聖「何度も……何度も何度も何度も!!何上から目線で全てを悟った様な物言いしてるのよ!」
神の意思に従う勇者では無いから--
決して神を認めず、神を信じない千聖だから--
千聖「その傲慢な態度が気に食わない!人間はね、神が引いたレールで誘導されなくても、自分達の意思で道を選び歩けるの!未来に進んで行けるの!」
人には無限の可能性がある。幾つにも枝分かれする道を人は自分で選び突き進んでいく。その選択肢が人知を超えたチカラを齎す事だってある。それを時には運命、時には奇跡と呼んできた。
千聖「たかが人でもね……それが何十人も集まれば、大きな力を生み出すの!昔の私じゃ絶対にそれに気が付けなかった……。」
たった1人で、余計なものを全て捨てて、我武者羅に突き進んだ千聖を待っていたのは何もない空っぽの自分だった--
千聖「だけど、イヴちゃんと出会って……日菜ちゃんと出会って…花音と出会って…彩ちゃんに出会ってその力の強さを知った。そしてこの異世界で更に多くの仲間と呼べる人達と出会い、繋がってきた。さっき言ったわね……私の強さが何なのかって。繋がり、思いを託し託される事よ。その力で私達はあなたを、神の想定を超える力を生み出せるの!!」
千聖?「繋がり……。それが断たれればどうなる……?簡単に切れる脆弱なものに過ぎないのではないか……?現に汝以外の勇者はどうだ……。」
再びビジョンが現れる。そこに映っていたのは蘭、夏希、友希那、そして香澄が力無く震え絶望している瞬間。
千聖「香澄ちゃん!みんな!!」
千聖?「叫んでも汝の声は届かない……。」
それでも中立神の忠告も無視し、千聖は4人を呼び続ける。
千聖「あなた達の………あなた達の繋がりはいなくなったら切れてしまう……そんな軟弱なものだったの!?」
張り上げた声が闇の中に虚しく響き渡る--
しかしその時、小さな奇跡が起こった--
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中立神の空間、友希那サイド--
友希那「…………これ…は……?」
目に留まったのは落としてしまった生太刀。その生太刀から今にも消えてしまいそうだが淡く、温かな光を放っている事に気が付いた。
友希那?「何……?」
友希那「……っ!」
手に取るとじんわりと温かな光が友希那を包み、それを通して微かに声が聞こえた。それは届く筈の無かった千聖の声--
千聖「胸に手を当ててみなさいよ!!みんなが託した繋がりは……思いは…"そこ"に確かにあるでしょ!?」
そっと胸に手を当ててみる。すると浮かんでくる大切な人の姿と声。
亡くなってしまった友希那のクラスメイト達--
友希那(そうね……それが私が戦い続ける理由……。)
自分の子供に友希那と名付けた母親--
友希那(その名に恥じないよう、格好悪いところを見せる訳にはいかないわ……。)
生太刀に帯びる光が徐々に明るさを増していく。
諏訪の英雄、美竹蘭--
友希那(美竹さんがあの時託してくれた覚悟と思い……確かに私の心にあるわ……。そしてあこ、燐子、紗夜、香澄、リサ……そしてこの世界で出会えた大切な仲間達………。沢山の思いが、絆が繋いで繋ぎ合わさって、1つの輪になって……。)
友希那?「この力は……まさか……!」
そして友希那は立ち上がる。その顔に絶望は最早存在しない。輝きに満ちた瞳で、自分の姿を模した中立神に生太刀を突き付けた。
友希那「見失うところだった……。私は独りなんかじゃない。"ここ"に!私の心には託してくれた人達が生きている!例え死んでしまったとしても……託した思いが誰かの心にある限り、決して死ぬ事は無いのよ!そしてこの力もそう!」
"義経"を呼び出す友希那。すると"義経"に生太刀から発せられていた光が集まり、その姿を変えていく。
友希那「この"刀使"の力も託された繋がりの力よ!!」
衛藤可奈美が元の世界に帰る際に、生太刀に込めた刀使の力。その力が"義経"に新たな力を宿す。そして姿が変わった"義経"の名を叫び、憑依させる。その名は--
友希那「降りよ、"大天狗"!!」
爆炎を纏った翼を羽ばたかせるその姿は、まさに魔王そのもの。その翼で宙に飛び上がった友希那は生太刀で大きく何もない空間を切り裂いた。その瞬間何かが軋む音が響き、何も無い空間に幾つものヒビが入り始めたのである。
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異変は他の場所でも起こっていた。
中立神の空間、蘭サイド--
蘭?「馬鹿な……。」
蘭「これは……この声は湊さんの…!」
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中立神の空間、夏希サイド--
夏希?「空間が……破壊される……!」
夏希「友希那さん……そうだ…私の胸には!」
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中立神の空間、香澄サイド--
香澄?「神を祓う力……!」
空間にヒビが入り、隙間から光が差し込み闇を明るく照らし出す。
香澄「温かい光……可奈美さんの?ううん、この可奈美さんだけじゃない……!」
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中立神の空間、千聖サイド--
千聖?「有り得ない……!一体何故……!?」
千聖「分からないのかしら?これが人間が生み出せる奇跡の力。今人間の力が、あんた達神の想像を超えたのよ!」
今、空間を隔てていた壁が壊され、バラバラになっていた5人が1カ所に集まった。
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中立神の空間--
夏希「蘭さん!香澄さん!」
蘭「白鷺さん!そして湊さんも!」
香澄「友希那さん……その姿は…!」
千聖「見失っていたものに気付けたようね、友希那ちゃん。」
友希那「ええ……。白鷺さんのお陰よ。」
役目を終えたのか、"大天狗"の憑依が解け、生太刀に帯びていた光が収まっていく。
千聖「そう。防人の私が支える事になるなんて……。これじゃあどっちが勇者か分からないわね。」
夏希「えへへ…手厳しいですね……。」
蘭?「崩れかけていた心が元に戻っている……これが繋がりの力……!」
蘭「そう……例え私がいなくなったとしても……その意思は誰かにきっと受け継がれていく。誰かが絶対にゴールしてくれるって信じてるから。」
夏希?「汝は……汝らは……それを信じられるというのか……?」
夏希「当たり前だ!私の一歩が誰かの背中を押せるのなら、怖いものなんか何もない!」
託されたバトンは繋がり、未来へと受け継がれていく。
友希那「小さな力が束になって、大きな力を生み出した。時代も時間も違う私達が、この場所に会している事も奇跡なのでしょうね。」
友希那?「汝が新たな力を開眼した事ですら有り得ない程の"奇跡"な筈……。」
千聖「そうね。防人のシステムで"満開"が出来た事も。これはもう"奇跡"とは呼べないわね。」
香澄?「"必然"だとでも言うのか……。」
香澄「勇者部五箇条"なるべく諦めない"!!そして勇者部五箇条"成せば大抵何とかなる"!!諦めなければ打開の道はきっと切り開けるから。」
その言葉を聞き、5人を模した光は徐々にその姿を散らしていった。そして真っ暗闇の虚空から無機質な声が響き出す。何かを悟ったかの様に。
中立神「それが……汝らの強さか……。あやつを打ち倒すだけの事はある……。今の汝らから伝わってくる……これが……そうか……。」
夏希「あっ!身体が光った!?」
千聖「みんなの元に帰れるのかしら。」
5人を包む光が強くなり、この世界から姿を消すのだった。
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樹海--
高嶋「きゃあっ!?」
紗夜「高嶋さん!くっ!」
侵攻してくるバーテックスは更にその勢いを増していき、その圧倒的な物量に押し潰されていく勇者達。
美咲「"爆発型"を狙うよ、沙綾ちゃん!爆風で他のバーテックスも巻き込める筈!」
小沙綾「了解しました!」
あこ「りんりん、これ以上はりんりんが!」
燐子「はぁ………ぐっ……!」
侵攻開始からもうすぐ1時間が経とうとしている。遂に燐子に限界が訪れ、"雪女郎"を解除。力無く樹海に倒れ込んでしまう。解除された事でつぐみが吸収していた"雪女郎"の力も解けてしまった。
つぐみ「まずい!」
薫「燐子ちゃん!」
吹雪の壁が消えた事で、バーテックスは一斉に攻撃を動けない燐子に定め出す。その時だった--
上空を爆炎が包み辺り一帯のバーテックスがその姿を一瞬で散らしてしまう。
中たえ「この力は……まさか。」
友希那「流石よ、燐子。よくここまでみんなを守ってくれたわね。」
バーテックスを屠ったのは"大天狗"の爆炎だった。倒れている燐子を友希那はそっと抱きかかえる。
あこ・高嶋・紗夜「友希那さん!!」「友希那ちゃん!」「湊さん!」
友希那「待たせてごめんなさい。」
小たえ「御先祖様が来た……って事は!」
全員が端末を確認すると少し遅れてやって来る香澄達4人の位置がはっきり示されていた。
香澄「おーーーい!さーやーー!みんなーーー!」
中沙綾「香澄!!」
小沙綾「夏希!良かった…。」
夏希「ごめんごめん!ヒーローは遅れてやって来るってね!」
花音「ふえぇぇぇっ!!!千聖ちゃーーーん!今度こそ本当に死んじゃうかと思ったよぉーー!」
千聖「はいはい、よく頑張ったじゃない。」
美咲「美竹さんも、無事だったんだね。」
蘭「何とかね。それにしても、湊さん…速すぎますよ。」
再会の感動も束の間、バーテックスの侵攻はまだ止まっていない。彼方から再び空を覆い尽くす様な大群が向かって来ていた。
千聖「みんな、あの大群を退ければ全ての御役目完了よ。」
夏希「全員揃ったんです!絶対にやり遂げて見せます!」
蘭「ここまでみんなが繋いできた思い、絶対に無駄にしない。」
友希那「ええ。神に今見せてあげましょう。人間は守るべきものがあれば、無限に強くなれる事を!」
香澄「最後の戦いだ!私達はどんな時でも絶対に諦めたりなんかしない。私達は勇者だから!!」