近くの公園--
晴れ渡る青空の下、小学生組の3人が公園で遊んでいた。ジャンケンをして勝った人が階段を上がっていく遊び。この風景だけを切り取ると、そこにいるのは戦いなど知らない純真無垢な少女達。
小沙綾・小たえ・夏希「「「じゃんけんぽん!」」」
夏希「勝った!パ・イ・ナ・ツ・プ・ル!」
小沙綾・小たえ・夏希「「「じゃんけんぽん!」」」
小沙綾「私の勝ち!チ・ヨ・コ・レ・ー・ト!」
小たえ「むぅ〜、私も負けないよ!」
小沙綾・夏希「「あははは!」」
そんな小学生組を少し離れた所で見守っている人達がいた。中学生の沙綾とたえだ。
中たえ「楽しそうだね。」
中沙綾「私達も混ざる?」
中たえ「ううん、このまま見ていよう。」
中沙綾「え?」
中たえ「だってね、沙綾。あの子達に混ざっても………今の私はもうあんな風に笑えないって思っちゃうんだ。」
中沙綾「おたえ………。」
今目の前にいる3人は2人の過去。まだ残酷な運命を突きつけられていない、平和な日常を歩いてきた自分自身の姿。
小沙綾・小たえ・夏希「「「じゃんけんぽん!」」」
小たえ「グーで勝ったよ!えっと、グーは確か……グ・ミ!」
夏希「おたえ、勝ったのに全然進んでないぞ!」
小たえ「あはは……まだまだぁ!」
3人の笑顔がたえにはとても眩しく見えた。
中たえ「楽しかったね…….あの頃は本当に。」
中沙綾「……そうだね。」
中たえ「たった2年前なのに…昔の自分はとっても眩しいよ。」
中沙綾「私達3人が輝いて見えるね。」
中たえ「ちょっと辛気臭くなり過ぎかな。」
中沙綾「たまには良いんじゃない?」
中たえ「沙綾も言うねぇ。」
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20分後--
夏希「よーし、次はダルマさんが転んだをやろう!」
小沙綾「ふっふっふ……。私必勝法を編み出したから負けないよ!」
小たえ「2人も一緒にやりませんか?」
笑顔でやって来た自分を見て、たえは笑う。
小たえ「あれ?どうして笑ってるんですか?」
中沙綾「おたえ、眠いんでしょ。私、混ざってくるね。夏希、沙綾ちゃん!いーれーて!」
そう言って沙綾は夏希達の元へ駆け出した。2人きりにする為に。
中たえ「沙綾に気を使わせちゃったかな。」
小たえ「たえさん、何か私に言いたい事でもあったりします?」
中たえ「流石は私。でも、特に話があるって訳でもないんだ。」
小たえ「?」
中たえ「それじゃあ、取り敢えず私達はお昼寝でもしようか。」
踵を返した瞬間、小学生のたえがふと口を開く。
小たえ「たえさん、私ずっと思ってた事があるんですけど、言っても良いですか?」
中たえ「え?勿論だよ。なになに?」
小たえ「私、このまま同じ毎日を過ごしたところで、2年後にたえさんになる訳じゃないよね?」
中たえ「え?」
単なる偶然かもしれない。しかし小学生のたえは2年後の自分の姿を見て、今の自分と未来の自分に違和感ある事に直感で気付いたのだ。
小たえ「ただ2年たっただけじゃ、私はたえさんにはならないなって思ったんです。」
中たえ「……そっか。」
小たえ「何かが……あったんですよね?私が私に言おうかどうか迷っちゃうくらいの何か…凄い事が。」
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2年で色々な事があった。夏希が亡くなり、沙綾を守る為にたった1人で20回以上も満開を繰り返し、身体の殆どを神に捧げ、それでも死ぬ事さえ出来ずにただベッドの上で過ごす毎日ーー
数々の悼ましい出来事は、たえの心境を変えてしまうには充分過ぎる程だった。
中たえ「………びっくり。自分なのにね。今、今の私は……たえちゃんみたいに、そんな真っ直ぐ純粋に人の目を覗き込む事は出来ないな。」
小たえ「………………。」
たえは考える。言うべきかどうかを。言ったところで記憶に残るかどうかは分からない。だけど、言えば"何か"は変わるかもしれない。
中たえ「あの……ね。」
言おうとしたその時だった。」
小たえ「大丈夫ですよ。」
中たえ「え?」
小たえ「言わなくて大丈夫です。」
中たえ「………どうして?聞くのが怖い?」
小たえ「それもありますけど……私、大丈夫だと思うから。」
中たえ「何が?」
小たえ「きっと……大変な事が2年間であったっていうのは解るんだ。でも、たえさんが今ここにいるから。だから、私だって大丈夫です。」
未来は変えられるかどうかは分からない。だけど、未来の自分が今こうして目の前に存在している。だから頑張れる。
小たえ「たえさんが乗り越えられたんです。私だって乗り越えて見せます。私だけがズルしたら、夏希や沙綾に叱られちゃいますから。」
中たえ「たえちゃん……大人だなぁ。私ってこんなに大人だったかなぁ。」
小たえ「偉い?」
中たえ「うん、偉いよ。偉いよ私。私より偉いよ私!」
自分で自分を褒めあっている光景。側から見ればこれ程までに違和感がある光景はないだろう。
夏希「あの2人は何やってるんだ?」
小沙綾「さあ?」
中沙綾「ふふっ、2人にしか分からない事があるんだよ。きっと……。」
?「おーい!」
その時、遠くから小学生組を呼ぶ声が耳に届く。その声の主はあこだった。きっと夏希を探しに来たのだろう。
あこ「探したよ、夏希。これからアイスを買いに行くんだけど、みんなも行く?」
夏希「あこさん!アイス?勿論行きます!」
中たえ「私達も行こっか。」
小たえ「行こう行こう!」
中沙綾「私は少し休憩するよ。白熱しちゃったから。」
小沙綾「私も休憩します。」
夏希「2人共、もう疲れたの?」
あこ「だったらあこ達が買ってくるから、ちょっと待っててね!」
中沙綾「ありがと。行ってらっしゃい。」
あこ達4人は2人の沙綾を残し、コンビニまでダッシュで駆け出していくのだった。
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公園--
残った2人は近くのベンチに腰を下ろした。外は暑いが木陰に入れば日差しも抑えられ、時折吹き抜ける風が気持ちが良い。
小沙綾「全く……夏希は元気だなぁ。」
中沙綾「ふふっ…。」
小沙綾「どうかしましたか?」
中沙綾「ううん、何でもないよ。」
暫しの沈黙が続き、ふと沙綾が口を開いた。
小沙綾「沙綾さんって……時々大人みたいな顔しますよね。」
中沙綾「え?そうかな。」
小沙綾「そうです。たった2年しか違わないのに、何だか……。」
奇しくも沙綾が口にした事は、先程たえが口にした内容と全く一緒の質問だった。
中沙綾「うーん……私は自分が大人だなんて少しも思ってなんだけどなぁ。」
小沙綾「たった2年で私は沙綾さんみたいになれるんでしょうか……。なれなくてがっかりされたら…。」
頭の中で自分の考えをまとめ、未来の自分は過去の自分に話しかける。
中沙綾「沙綾ちゃん……。これから先、沙綾ちゃんの身には大変な事が、沢山やってくる。その度に…もう、駄目かもしれない…立ち上がれないって、何度も何度も思うんだ。」
共に過ごしてきたかけがえのない記憶を失い、歩けなくなり、変わり果てた友人と再会し残酷な真実を突きつけられ、涙を流す事が沢山あったーー
中沙綾「だけどね………。沙綾ちゃんは乗り越える。必ず、乗り越えられるんだ。」
小沙綾「どうやって……?どうして沙綾さんはそんなに強いんですか?」
中沙綾「うん、それはね………。」
頭に浮かぶのはもう1人の掛け替えのない存在。失意の淵に立たされても、自らを顧みず、闇の中から必ず自分を探し出してくれる星の様な輝きを持つ存在。
?「おーーーーい!さーやーーー!」
その名を口にしようとした時、丁度その当人がやって来た。
小沙綾「香澄さん……?」
中沙綾「ふふ……その内分かる時が来るよ。でも……それが私の時より、早く来て欲しいって思うのは、我儘過ぎる望みなのかな…。」
香澄「じゃじゃーん!2人にアイスのお届けものだよ!」
中沙綾「ありがと。でも、どうして香澄が?」
夏希「コンビニで偶然会ったんです。それで一緒に食べようって事に。」
あこ「やっぱり美味しいものはみんなで食べるのが1番だよね!」
中たえ「あこ、もう食べてる。」
小沙綾「そんなに勢いよく食べたら汚れちゃいますよ。これ使ってください。」
香澄「さーやちゃん気が利くなぁ。」
眩しく笑いかける香澄。それを見た沙綾の頬が少し赤くなる。
小沙綾「そ、それ程でもないですよ……。ありがとうございます。」
小たえ「おやつ良ければ全て良し!アイス美味しいね、夏希、沙綾。」
夏希・小沙綾「「うん!」」
1人で駄目でも、仲間と一緒ならきっと大丈夫。どんな困難だって乗り越えられる。だって掛け替えのない存在がそれを証明してくれたから。