勇者部部室--
ある日の昼下がり、部室にあるパソコンがとあるメールを受信する。
香澄「あれ?さーや、パソコンにメールが届いてるみたいだよ。」
中沙綾「新しい依頼のメールかな。」
有咲「どうせまた幼稚園からの依頼じゃないのか?」
中たえ「有咲、顔がにやけてるよ。」
有咲「に、にやけてねーし!」
りみ「ふふっ、有咲ちゃんは子供達に人気だもんね。」
有咲「そんな事ねーよ。私はただ……どんな事でも完璧にやってるだけで…。って、依頼は何なんだ、沙綾。」
気不味くなったのか、有咲は咄嗟に話を元に戻した。
中沙綾「メールの依頼主によると……。」
読もうとしたその時、タイミング良くゆりが部室に入って来た。
ゆり「みんな、注目だよ!某有名旅館のPRに、私達勇者部にご指名が入ったんだ。」
中沙綾「それって……。」
奇しくも勇者部に送られてきたメールも全く同じ内容だった。
ゆり「メールでも来てたんだね。私には一足先に電話で連絡が来てたんだけど。」
中たえ「温泉のPRって事は、ポスターとかになるって事かな?」
夏希「すっごい!勇者部からスター誕生ですね!」
小沙綾「それにしても、老舗旅館に全員招待なんて太っ腹ですね。」
しかし、ここで一つの大きな問題があった。
ゆり「みんなー、盛り上がってるところ悪いんだけど、ここで残念なお知らせだよ。」
りみ「どうしたの?お姉ちゃん。」
ゆり「老舗旅館はここから遥か遠く、高知にあるんだよ。」
香澄「それなら、"カガミブネ"を使えば良いんじゃないですか?」
ゆり「確かにそれを使えばすぐなんだけど、基本は戦闘時に使うものだから、私的で利用するのはね……。」
中沙綾「"カガミブネ"が使えないなら、長期間全員でここを離れるのは危険ですよね。」
ゆり「そうなんだよね…。」
各々意見を出し合うものの、これと言った名案が出ないまま時間だけが過ぎていく。
千聖「それなら、私達防人組が居残りを担当します。いざという時でも、勇者の力があれば半日もかからず戻って来れる筈です。万が一敵が本気で襲ってきたとしても、防衛に長ける私達なら、持ち堪える事が出来るわ。」
有咲「確かに千聖の案は合理的だけど……。」
香澄「ダメです!」
千聖「香澄ちゃん?」
香澄「勇者だからとか、防人だからとか関係なく、今はみんなで勇者部なんですから。」
有咲「確かに香澄の言う通りだな。」
ゆり「流石香澄ちゃん!それじゃあ、折角の良い話だけど、今回は諦めて、いつも通り活動しようか。」
仕方なく勇者部は今回の依頼を断るという選択肢を選ぶのだった。
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翌日、勇者部部室--
次の日、ゆりは大赦から呼び出しがあった為朝早く大赦へと足を運んでいた。
りみ「お姉ちゃん、何しに大赦へ行ってたの?」
ゆり「それがね、昨日の老舗旅館PRの件、大赦が許可するから全員で行ってきて良いって!」
ゆりの一言に全員が驚いた。
千聖「本当に良いんですか?」
ゆり「大人達が許可してるんだから大丈夫だよ。折角なんだから楽しもう!」
ーーー
バスの中ーー
彩「大赦に貸切バスを出してもらえるなんて、流石はゆりさんですね。」
千聖「彩ちゃん、山道でバスが揺れるけど、乗り物酔いは大丈夫?」
彩「大丈夫だよ!」
一方で、
あこ「ぬわーーーーっ!」
紗夜「宇田川さん、挙動が単純だわ。ババを持ってるのはあなたですね。」
高嶋「流石紗夜ちゃん!」
リサ「負けた人は罰ゲームだからね!友希那も頑張って!」
はたまた一方で、
夏希「あっ、ここのバスカラオケがついてる!香澄さん、何かテンションの上がる曲、歌ってください!」
香澄「うん!盛り上げちゃうよ!」
楽しい時間はあっという間に過ぎ、バスは旅館へと到着するのだった。
---
旅館--
小沙綾「立派な旅館ですね!」
ゆり「取り敢えず大部屋に荷物を置いて、宿の人に挨拶したら、自由行動タイムね。」
一同「「「はーい!!」」」
あこ「りんりん!お土産見に行こう!」
燐子「いきなりお土産は早いよ……あこちゃん。」
美咲「ここの売店、中々充実してたよ。私も一緒に行きますかね。」
蘭「モカ、温泉に行ってみよう。」
モカ「オッケー。」
各々は時間が来るまでそれぞれの時間を満喫する為に行動を開始する。
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1時間後--
ゆり「あれ?あれは最新型のマッサージチェア!日々の疲れを癒すのにはもってこい………と思ったら先客がいるね。」
中たえ「ゔ〜〜〜……この小刻みに打ち付ける揉み玉……至高の時間だよぉ〜〜〜。」
先に来ていたたえがトロトロに溶けそうな顔をしながらマッサージチェアに座っていた。
ゆり「お隣失礼するね。」
中たえ「あ゛〜〜〜ゆりざん〜〜。気持ちいいですよぉぉぉ〜〜。」
ゆり「どれどれ……成る程…ご、ごれは………くはぁ……。」
体に合わせたマッサージは瞬く間にゆりを至高の世界へと誘っていった。
ゆり「こうしてると、あの時の事を思い出すね。」
中たえ「私の歓迎会をした時でしたっけ。」
ゆり「そうそう。あの時は色々と2人きりで話したよね。」
2人はその時の出来事を思い出すーー
ーー
旅館ーー
沙綾の心を救い、"融合型"を打ち倒した勇者部。その結果香澄はその身体の殆どを散華させてしまった。
しかし、湊友希那の精霊に導かれ、香澄は意識を取り戻し束の間の平和が戻った。そこへ同じく散華から回復したたえが勇者部に所属する事となる。今勇者部はこれまでの労いとたえの歓迎会も兼ねて以前訪れた旅館へ再び来ていたのだ。
ゆり「いや〜それにしてもこのマッサージは気持ち良いなぁ。」
たえ「本当ですねぇ〜〜。」
ゆり「あれ?たえちゃん。寝たんじゃなかったの?」
たえ「そうなんですけど、有咲が抱きついてきて目が覚めちゃったんです。」
ゆり「あぁ、有咲ちゃんって抱きつき癖があるからね。前にここに来た時も抱きつかれちゃったっけ。」
たえ「ん〜、その時はゆりさんが抱きついてたって前に香澄から聞きましたけど……。」
ゆり「そうだったかなぁ……。そういえば、たえちゃんは今回の件、ご家族には何か言われなかった?」
たえ「大丈夫でした。楽しんできなさいって。」
ゆり「良かった。入部して間も無いし、初めての外泊だったから。」
たえ「すぐ馴染めたのはみんなのお陰です。」
ゆり「そう?それはたえちゃんの性格って気がするけど。」
たえ「そうでもないです。………それにしても、ゆりさんは凄いです。」
ゆり「何が?」
たえ「ゆりさんはいつもみんなの事考えてるんですね。今回の歓迎会もみんなの為ですよね?戦いは終わったって一区切りつける為に。」
ゆり「大それたものじゃないけど、折角の機会だったから。」
散華した全員の身体機能は回復した。そして香澄も意識を取り戻した。今回の歓迎会は戦いと日常を切り離す為の一種の儀式の様なもの。
たえ「きっとみんな喜んでますよ。うーん……ゆりさんと比べると、昔、勇者をしてた時の私は、あまりリーダーっぽくなかったかも。」
ゆり「そんな事ないよ。バーテックスを退けて世界を守ったんでしょ?たえちゃんは誰にも文句を言われる事ないくらい、頑張ったよ。それに……私だって、リーダーとして立派だったかなんて聞かれたら…簡単には頷けない。」
たえ「どうしてですか?」
ゆり「自分から誘った勇者部の……本当の目的を最初に打ち明ける事が出来なかった。あの時は、私達が勇者に選ばれなかったら、このまま話さないでおこうって思ってた。それに、勇者に選ばれた後も……りみの指が動かなくなって、もう元には戻らないって思った時は………。」
自分がりみの夢を奪ってしまったーー
そう思ってしまったゆりは自分を抑える事が出来なくなり、大赦を潰そうとするまでに至ってしまった。自分が切っ掛けで他人を巻き込んでしまった事が、ゆりはどうしても許す事が出来なかったのだ。
ゆり「あの時は香澄ちゃん達が止めてくれなかったら、本当に何をしてたか分からない。」
たえ「ゆりさんは悪くないです。」
ゆり「え?」
たえ「大事な家族が…友達が傷付いたら……"満開"の危険性が分かってて秘密にされたら、怒って当然だと思います。」
ゆり「たえちゃん……。」
たえ「私達の時は、幾つもあるグループから勇者が覚醒するんじゃなくて、初めから勇者になる人間として選ばれたんです。」
2年前、たえ達3人は戦う事の危険性や御役目の重さも理解していた。今みたいに"精霊"も実装されていない中、御役目で命を失う可能性がある事も。
ゆり「…………。」
たえ「だから夏希が死んじゃった時も、凄く…すっごく悲しかったけど、理不尽だとは感じなかった。」
だからこそ、たえはあの時沙綾にあえて真実を話し"選ばせた"のだ。"知っている"という事の重要性を、たえは誰よりも理解していたから。
たえ「大赦はもっとゆりさんや香澄を信頼すべきだった。きっと、"満開"の危険性を知ってても、みんなは戦ってただろうし。」
ゆり「………香澄ちゃんも同じ事を言ってた。」
たえ「…香澄らしいな。それに、戦いの危険を知ってるからこそ、日常をより大切にする事が出来る。友達と一緒に笑い合える時間が、掛け替えの無いものだって分かるから。だから、どんなに危険でも、酷い事でも………大赦はみんなに全部を話しておくべきだった。」
ゆり「うん………。」
たえ「ねえ、ゆりさん…。戦いが終わって、ゆりさんは…この日常が凄く大切だって、前よりもずっと思うようになりましたよね?」
ゆり「………うん、今は前よりももっと、みんなと過ごす時間が大切だって思える。」
たえ「きっと、勇者部のみんなもそう思ってる筈です。だから、私達は、もっともっとこの日常を楽しまないといけないと思うんです。だから………ゆりさんは自分の事を責めて暗い顔をしないで、ずっと笑顔でいた方が良いって思います。」
ゆり「………ふふっ、何か私が慰められてるみたい。私の方が歳上なのに。」
たえ「歳上でも、勇者としては私の方が先輩ですから。」
ゆり「先輩か………。」
この時、ゆりは不思議な気持ちになった。思えば最年長でずっとみんなを引っ張っていったゆり。ゆりには今のように自分の愚痴を聞いてくれる様な先輩がいなかったのだ。
ゆり「ありがとね………たえちゃん。」
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旅館--
中たえ「ちょっとしたリーダー談義でしたね。」
ゆり「だね。」
そこへ沙綾を探していた香澄がやって来る。
香澄「おーい、さーやー!何処行ったんだろう……って、あれ?ゆり先輩におたえ。」
ゆり「香澄ちゃん。誰か探してるの?」
香澄「はい。さーやを探してたんです。」
中たえ「沙綾なら少し前に向こうの中庭で見たよ?」
香澄「本当!?ありがとう!あれ?おたえ何か良い事でもあった?」
中たえ「どうして?」
香澄「……何か笑顔だから。」
中たえ「ふふっ……。」
たえとゆりは互いに顔を見合わせる。
中たえ「秘密。」
ゆり「秘密だね。」
香澄「?」
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旅館、ゲームコーナー--
紗夜「……………。」
鋭い目で真剣にゲームの筐体を動かしているのは紗夜。それをキラキラした目で高嶋が見ていた。
高嶋「紗夜ちゃん凄い!結構古いゲームなのに、どんどん敵を倒してる!」
紗夜「私もこれは久しぶりに見ました。昔のゲームはシンプルですが、不思議な味わいがありますね。」
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旅館、レクレーションルーム--
有咲「はあっ!」
千聖「せいっ!」
一方こちらでは勇者達による卓球勝負で盛り上がっている。今試合をしているのは有咲と千聖。互いに一進一退の勝負を繰り広げていた。
有咲「くらえっ!完成型スマッシュ!!」
千聖「させないわっ!」
コーナーギリギリのスマッシュを千聖はバックハンドで弾き返す。
花音「ふえぇぇぇっ!?球が早すぎて目で追えないぃ〜〜〜!」
彩「千聖ちゃんも有咲ちゃんも頑張って!」
もう一方の卓では日菜とリサが勝負をしていた。
日菜「ていやーーーっ!」
リサ「あはは……。日菜、卓球は球が卓にバウンドしないと得点にならないよ?」
友希那「サーブ交代よ。」
リサ「じゃあ、いっくよぉ……はいっ!」
日菜「絶好級!くらえっ!日菜ちゃんるんっ♪てきたスマーッシュ!!」
猛烈なスピードで球がネットに突き刺さる。
リサ「ほい、私の勝ちだね。」
日菜「えぇ〜〜〜っ!?」
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旅館、廊下--
イヴ「薫さん……。」
夏希「バスタオルにお風呂セット。ひょっとして、薫さんも温泉ですか?」
薫「あぁ。折角旅館に来たんだ。温泉に入らないと勿体ないからね。」
夏希「私達もです。折角ですから、私達もご一緒していいですか?」
薫「勿論だよ。沙綾ちゃんとたえちゃんは一緒じゃないのかい?」
夏希「2人は温泉街に行っちゃったんです。1人で行くのもなんだから、イブさんを誘ったんです。」
イヴ「私も行こうと思っていたので丁度良かったです。」
3人は早速脱衣所へ行くと、どうやら先客がいたようだった。
蘭「瀬田さんに、夏希、イヴも。」
モカ「3人とも温泉?」
りみ「良かったら、一緒にどうですか?」
薫「是非ご一緒させてもらおう。」
6人は早速温泉に浸かる。全身をお湯が包み込み、身体の芯から温まってくるのが分かる。
夏希「薫さん………覚悟!」
突然夏希が薫目掛けてお湯をかける。
薫「ふっ……それをやってしまったら、やり返される覚悟があるとみた。」
すかさず薫もお湯を夏希にかけ返す。
夏希「あはははっ!薫さん、やりますねぇ!じゃあ次は、潜水で勝負してください!」
薫「沖縄の海で育った私に潜水で勝負するとは、中々勇気があるね。手加減はしないよ?」
夏希「臨むところです!イヴさん、審判お願いしますね。」
イヴ「任せてください。2人とも楽しそうです。温泉は凄いですね!」
この後、薫は温泉の中に10分潜り続け、夏希に格の違いを見せつけるのだった。