勇者部部室--
中たえ「………………。」
ある日の勇者部、部室の片隅でたえが真剣に何かを読んでいる。
ゆり「あれ?随分静かにしてると思ったら、雑誌を読んでたんだね。寝てるかと思ってたよ。」
中沙綾「今日はずっとあの調子なんです。」
香澄「何か面白い記事でもあるの!?」
有咲「おっ、何だ?おたえ、ちょっと見せてくれよ。………って、何なんだこの雑誌は!?」
たえが真剣に読んでいた雑誌には"大赦季刊誌・異世界号"と書かれていた。
一同「「「ええっ!?」」」
中たえ「あ〜〜、まだ途中だったのに。」
ゆり「大赦季刊誌って何!?」
一同が知らないのも無理はない。この雑誌は大赦向けに製作された、大赦職員が普段読んでいる雑誌で、大赦外に流れる筈のない代物だからだ。
リサ「あはは……。私も存在は知ってたけど、実際に見るのは初めてだよ。」
りみ「そんな物をどうしておたえちゃんが持ってるの?」
中たえ「え?だって私、この雑誌で日記を掲載してるから。」
その一言に再び一同は驚いた。
有咲「日記って何だよ!?」
あこ「そもそも、それってどんな雑誌なの?」
中たえ「季節の行事とか、人事異動とか、活動報告なんかが載ってるよ。」
その他にも、大赦内の様々な部署の紹介や、コラム、川柳等も載っている。
紗夜「大赦職員が………コラムや川柳ですか?」
美咲「どうしよう……すっごく読みたい。」
中沙綾「異世界って書いてあるのは、この世界に来てから作ったって事だよね。」
中たえ「そうだよ。元の世界じゃ大赦は厳しかったけど………どうやらこっちの世界に来て、何か色々とはっちゃけちゃった人が多くてね。」
六花「別世界での恥は掻き捨て……って事なんですかね…。」
蘭「ねえ、たえ。その雑誌って私達が読んでも構わないの?」
中たえ「大丈夫だと思うよ。別に機密情報は載ってないから。」
赤嶺「読んでみたい!」
一同は早速季刊誌に目を通すのだった。
--
神官『入赦2年目を迎えた神官でございます。本日は祭事担当神官の1日を御説明させていただきます。』
夏希「堅苦しいなぁ。全然はっちゃけてないよ?」
小沙綾「それは仕方ないよ、夏希。あくまでも、大赦発行の雑誌だし。」
神官『神官の朝は、5時に起床し身支度を整える事から始まります。朝の清掃を終えると、全神官が神樹様への祝詞を1時間唱え、その後に朝食となります。』
あこ「朝早すぎるよ!」
つぐみ「大赦の人達って何食べてるのかな?」
小たえ「あっ、隅っこに1週間分のメニューが載ってますよ。」
有咲「給食かよっ!」
薫「朝はめざし、お浸し、素うどん。昼は煮物、サラダ、素うどん………。」
燐子「とっても…質素なんですね……。」
神官『朝食後は祭事担当の私の場合、行事の日程確認、備品の手入れ、進行見直しの会議及び…巫女様方との相談の上、今後の方針と祭事の規模等を決定して参ります。これは余談となりますが……かつて瀬戸大橋に無数の風鈴を括り付けたのが、先任の祭事担当神官様達だと伺いましてーー』
夏希「っ!?ち、ちょっと待ってください!あ、あの風鈴って1個1個手で付けてたんですか!?」
夏希達が御役目を担っていた神世紀298年は、勇者システムに備わっている樹海化警報の代わりに、瀬戸大橋に括り付けられていた風鈴が鳴り響き、樹海化を知らせていた。
小沙綾「確かに考えてみれば……手作業の他に方法が無いのに、誰がやったかなんて気にした事無かったよ。」
小たえ「凄い労力!祭事の担当って、大変なんだね。」
紗夜「先程から、祭事担当と出てきてますが、他にも部署があるんですか?」
中たえ「はい。他の部署の記事もありますよ。特に面白かったのは……。」
そう言ってたえはサイバー課のページを見せる。
一同「「「サイバー課!?」」」
赤嶺「そんな部署まであるの!?」
神官『私共サイバー課は、主に神樹様のバイオデータを管理させていただく1係。大赦の機密データ管理の2係。そして勇者様がお使いになる勇者端末の調整管理の特殊係と、勇者システムの開発係に分かれます。』
香澄「勇者システム!いつもお世話になってます!」
りみ「当たり前だけど、人の手でやってたんだね…。」
彩「神樹様の力を、人が技術的に利用出来るよう、尽力してくれてるんだね。」
神官『また、紙面をお借りして恐縮ですが、本日は我々からお詫び申し上げたい事がございます。現在も稀に起きる事が確認されております、勇者端末におけるハッキングの件……動作異常から復帰するまでが非常に短時間の為ハッカー特定に困難を極め、解決の目処もなく、勇者様並びに関係各部署には御不便をおかけし大変申し訳なく思っております。』
有咲「………なぁ、これって……。」
ゆり「……もしかしなくても、そうだよね…。」
この件に関しては思い当たる事があった。香澄の誕生日近くに端末から聞いた事もない警報が流れた事があったからだ。そして犯人が誰なのかも大方の検討がついていた。
有咲「沙綾……だよな…。」
中沙綾「…………あはは…。」
中たえ「他には、質問コーナーもあるよ。例えば……。」
質問『異世界に召喚された時のお気持ちは?』
回答『選ばれた事に誇りを感じ、神世紀に生まれながらも歴代の勇者様方は勿論…特に、初代様に御仕え出来ます事栄誉をひしひしと感じずにはおられませんでした。』
友希那「そのように思ってもらえると、こちらも身が引き締まる思いね。」
質問『この御役目で心掛けている事は?』
回答『全ての神官がそうであるように、外敵と戦っておられる勇者様が、お健やかに穏やかにあられるよう、感謝の心と祈りを忘れぬ事です。』
ゆり「………うん、何だか大赦には色々と思う事もあるけど、こうして神官個々の言葉を聞いちゃうと…。」
中沙綾「感謝せずにはいられないですね…。」
大赦の考えに思うところがあったゆり達だったが、各々は勇者達の事を思って行動しているのだと改めて認識した一同は、大赦と神樹に向かって拝んだ。
美咲「ところで、この雑誌ってフルカラーなんだね。写真なんかも載ってるの?」
中たえ「あるよ。祭事や懇親会の集合写真とかだけど。」
写真が載っているページを開くと、そこには全員が同じ服装で同じ仮面を被った謎の集合写真が載っていた。
千聖「全員同じ仮面なのに、写真を撮る意味ってあるのかしら……。」
中たえ「あっ、あとね、今季の川柳募集のお題が"勇者"だったんだよ。」
ゆり「どれどれ……。」
『勇者服 デザイン巡り 揉めに揉め』
燐子「いきなり…俗っぽくなりましたね……。」
美咲「勇者服のデザインって、神樹の意思とかじゃなくて大赦のデザイナーが決めてたの!?」
『樹海化の 時間停止に 物思う 老化も止まり 若い美のまま』
蘭「タイムラグが積もりに積もると、年齢差って出るの……?」
中たえ「色々あるけど、私が注目したのは次の作品だよ。」
『日々上がる 戦闘データを 拝謁し 数字に見るは 妹の成長』
中たえ「名前は記載しないって決まりだけど、この妹って有咲の事だよね。」
有咲「は………はぁぁぁぁぁぁっ!?」
中沙綾「会えなくても、戦闘データを通じて見守ってるんだ。良かったね、あーりさ。」
香澄「良かったね、有咲!」
有咲「ちょまっ!?ななななな何言ってんだよっ!?そ、それより、たえが書いてる日記を見せろよな!」
中たえ「良いよ〜…………じゃーん!」
一同「「「おおっ!……………おお?」」」
堂々と開いたページに書かれていた日記には、飼っているウサギの事について、見開きに延々と書き連ねてあるそれはそれは濃厚な内容だったそうだ。