戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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日々の特訓の無理が祟り体調を崩してしまった燐子。そんな燐子を治す為、あこはかつて体験した記憶を頼りに愛媛の山へ行こうとするのだがーー

誇りは姫百合の、絆は紫羅欄花の花言葉。




思い出のアルバム〜絆と誇り〜

 

 

勇者部部室--

 

中沙綾「香澄、パン食べる?」

 

香澄「食べる!いっただきまーす!モグモグ……うーん!美味しいなぁ!」

 

彩「千聖ちゃんも食べる?」

 

千聖「え?わ、私は大丈夫よ。」

 

彩「そっかぁ………。」

 

千聖「……やっぱりいただこうかしら。」

 

束の間のひとときが流れている。御役目がなければ、年相応の中学生としての日常を送っている香澄達。しかし、何やら燐子の様子がおかしかった。

 

燐子「………………。」

 

あこ「どうしたの、りんりん?」

 

燐子「……へ?別に何でもないよ…あこちゃん。」

 

いつもなら笑顔を見せるのだが、今日の燐子は何処か上の空だった。

 

りみ「何処か具合が悪いとか…。顔色も良くない様に見えますよ?」

 

燐子「大丈夫ですよ…。」

 

あこ「気分が悪いの?熱は?今日はもう寮に戻った方が良いよ。」

 

燐子「うん…そうするね……。」

 

あこに促され、燐子は部室を後にする。部室から出る燐子をあこは心配そうに見つめていた。

 

赤嶺「風邪でも引いたのかな?」

 

あこ「……………。」

 

つぐみ「風邪には、生姜にニンニク。ネギなんかも効くよ。」

 

六花「心配ですね……後でお見舞いに行ってみよう?」

 

あこ「うん……。さて!あこの分のパンは何処かなー。いっただっきまーす!」

 

みんなからの心配を他所に、あこはいつも通り元気に振る舞っていた。

 

友希那「…………。」

 

 

---

 

 

翌日、燐子の部屋--

 

その後燐子の具合が悪化し、ベッドから起き上がる事が出来ない状態にまで深刻化してしまっていた。

 

イヴ「燐子さん、大丈夫でしょうか……。」

 

千聖「熱も上がってしまってお粥も喉を通らないみたい。今は取り敢えず水分だけ与えているわ。」

 

燐子「はぁ……はぁ……み、皆さん…すみません……。」

 

高嶋「気にしないでゆっくり休んで。みんなが交代で看病するから。」

 

蘭「果物を絞ったジュースでビタミンを摂らないとね。」

 

みんなが心配して部屋にやって来た中、いつもなら真っ先に居るであろうあこはこの場にいなかった。

 

紗夜「こんな時に宇田川さんは何処へ行ったのかしら?」

 

夏希「私も探したんですけど、朝から姿が見当たらないんです。」

 

小沙綾「いつものあこさんだったら、ずっと付きっきりで傍にいる筈なのに……。」

 

ゆり「このまま回復しないようなら、病院に連れて行かないとだけど…。」

 

美咲「これじゃあ歩くのは無理ですね。みんなで支えるかしないと…。」

 

中たえ「じゃあ、いつでも車出せるように手配しておくよ。」

 

燐子「はぁ…大丈夫です……。病気とかでは…多分…ないので……。」

 

花音「病気じゃない筈ないよ!こんなに辛そうなのに……。」

 

中沙綾「誰かがこうなる事は、想定しておくべきだったかもしれない……。」

 

赤嶺「どうして?何か思い当たる節があるの?」

 

沙綾が語るに、中立神の試練が始まって以来、夜の時間が長くなり、日照時間が今までよりずっと少なくなってしまっていた。人は日光を浴びる事によって生きている為、日照時間が少なくなれば、自律神経が乱れ、体調不良になってしまう事もあるのだ。

 

まして、元々身体が強くない燐子は、少しの事で体調を崩してしまう。その反動が来てしまったのだ。

 

香澄「どうしたら良いんだろう……。」

 

 

---

 

 

花咲川中学、渡り廊下--

 

一方その頃、あこはと言うと、リサ達巫女と話をしていた。どうやらあこは切羽詰まっているようだった。

 

あこ「無理を承知で頼んでるんです!大赦には内緒にしておけば良いでしょ!?」

 

リサ「そうはいかないよ…。何度も言ってるけど、"カガミブネ"の私的利用は禁止されてるんだから。」

 

あこ「そこを何とかお願い、リサ姉!」

 

あこは土下座までしてリサ達に"カガミブネ"を使わせて欲しいと頼み込んだのだ。

 

モカ「土下座までするなんて、一体どうしたの?」

 

彩「そこまでして"カガミブネ"を使おうとするなんて、何処へ行こうとしてるの?」

 

あこ「愛媛の山まで連れてって欲しいんだよ!」

 

リサ「それはまたどうして?理由を教えてよ。」

 

あこ「その山に行けば、りんりんを治せる物が手に入るかもしれないんだよ!」

 

六花「かも…って、確かな事じゃないの?」

 

あこ「う……。確実…とまでは。」

 

リサ「困ったなぁ…。大赦へ話を通すにしても、それじゃあ説得力に欠けちゃうし……。」

 

あこ「大赦を説得してる暇なんて無いよ!こうしてる間にもりんりんは苦しんでるのに!」

 

親友を助ける為に、あこはどうしても譲らなかった。しかし、巫女も大赦所属の身。独断で即決する事は出来ない。

 

彩「そう……だよね…。とにかく行ってみて、大赦には後で連絡するっていうのは…?」

 

六花「ダメです。無許可で"カガミブネ"を出して、使っている最中に複数箇所で敵が出てきたらどう言い訳するんですか?」

 

あこ「うぅ………わ、解ってる。けど!」

 

六花「解ってるとは思えないよ、あこちゃん。頭に血も登ってるみたいだし。」

 

モカ「あこちん…とにかくもう少し待ってよ。私達の判断だけじゃどうしようもーー」

 

あこ「うぅぅぅ………。もう良いよ!!」

 

そう言って、あこは走り去ってしまった。

 

彩「あこちゃん!ど、どうしよう、リサちゃん。」

 

リサ「大赦へ行こう。どこまで出来るか解らないけど、やれる事は全力でやるべきだから。」

 

 

---

 

 

駅--

 

学校を飛び出し、あこは自力で愛媛の山へ向かう為、駅へと来ていた。しかし、切符を買おうにもカードの残高が不足しており、切符を買えずにいた。

 

あこ「大赦支給のお小遣い使いすぎちゃった!」

 

途方に暮れている最中、あこに声をかける人物が。

 

友希那「切符代は私が出すわ。」

 

あこ「友希那さん!?どうして…。」

 

友希那「必死の形相で学校を飛び出して行くのだもの。後をつけて正解だったわ。リサも承知よ。」

 

あこ「ありがとうございます!」

 

友希那「さぁ、行くわよ。急いでいるのでしょう?」

 

友希那の助けを借り、あこは愛媛へと出発した。

 

 

---

 

 

愛媛、とある山奥--

 

あこ「確か……この辺りだったような…。もっとあっちだったかな……。」

 

2人はかれこれ2時間近く山奥を歩いているが、目的の物はまだ見つかっていなかった。

 

友希那「せめて、何を探しているのか教えてくれないかしら?」

 

あこ「腰の曲がったお婆ちゃんか、泉を探してください。」

 

友希那「人なのか泉なのかどっちなの?」

 

あこ「この山は、あことりんりんが勇者になったばかりの頃に来た事があったんですけど……。」

 

足を止め、あこはその時の事を友希那に話すのだった。

 

 

--

 

 

2015年、8月某日--

 

夏の日差しが照りつける中、あこと燐子は愛媛の山奥を歩き回っていた。

 

燐子「はぁ…はぁ……。あこちゃん、待って…。さっきから同じ所をばかり周ってるよ…。迷ってないかな…?」

 

あこ「ま、まっさかぁ!あこが迷う訳ないよ。それにしても何だか不気味な森だね。」

 

その時、木陰から急に声が聞こえる。

 

老婆「不気味とは失敬じゃのぉ。」

 

あこ「うわぁーーー!ビックリしたぁ……。」

 

老婆「こんな所で人に遭うなんて珍しいねぇ。お前さん方、こんな山奥で何をしとるんじゃ?」

 

あこ「トレーニングだよ。りんりんに体力をつけてあげようって思って。」

 

燐子「お婆さんは…お一人でハイキングですか…?」

 

老婆「いやぁ、山菜採りに来たんじゃけど、滑って足を挫いてしまってのぉ。少し休んどった。」

 

あこ「そっかぁ。だったらあこがおぶってあげるよ。ほら、乗って!」

 

老婆「構わんどくれ。今は世の中が危険な時じゃ。いずれ年寄りは邪魔になる。気にしなさんな。」

 

あこ「何言ってるの!歳なんか関係ないよ?目の前で困っている人がいるのに放っておけないよ!」

 

燐子「そうです…。それに…邪魔だなんて事ありません…。お年寄りの知恵は…私達子供世代の宝なんですから…。」

 

この言葉に関心したのか、老婆は風呂敷から竹筒を取り出しあこに手渡した。

 

老婆「ええ子らじゃ。お礼に秘密の霊水を分けてやろう。」

 

燐子「霊水…?」

 

老婆「この山には、万病に効く水の湧く泉があってな、ワシだけがその場所を知ってるんじゃ。ワシは化け物と戦う事も、お前さん方を守る事も出来んけん、せめてそれくらいはなぁ。」

 

あこ「お礼なんて良いんだよ!その水はお婆ちゃんが飲んで、早く良くなってね!」

 

燐子「そうです…。私達はそのお話だけで…今日が素敵な思い出になりますから…それで充分です…。」

 

老婆「ハハハ、欲が無いのぉ。じゃがこの先、もし困ったら、いつでもこの霊水を汲みにおいで。」

 

 

--

 

 

愛媛、とある山奥--

 

友希那「万病に効く霊水……。」

 

あこ「りんりん、もう半月くらいずっと具合が悪かったんです。」

 

友希那「っ!?でもそんな素振りは少しも…。」

 

あこ「無理してたんです…。りんりん、みんなよりずっと体力ない事を気にしてて…ずっと自主トレしてたんです。」

 

燐子はずっと気にしていたのだ。他の人より病弱で、体力も無い自分がみんなに追いつけるよう。みんなをもっと守れるよう、中立神の試練が始まってからずっと人目につかず鍛えていたのである。

 

あこ「だから、りんりん前よりずっと強くなったでしょ?」

 

友希那「ええ。てっきり戦闘慣れしたのかと思っていたけれど、燐子なりに努力してたのね。だけれど……。」

 

あこ「解ってます…。水で病気なんか治る筈がないって。でも……あこ思うんです!あの日に聞いた霊水だって言えば、きっとりんりんも元気になるんじゃないかって。」

 

友希那「それはそうだけれど…あこ、あなたさっき言っていたわよね?"勇者になったばかりの頃"だって。」

 

ここは異世界だけれども、時代は神世紀。あこの話は西暦なので、少なくともそれから300年は経ってしまっているのだ。泉はとうに枯れ果てているのかもしれないのだ。

 

あこ「え………?あぁぁぁぁぁ!!!どうしよう!このままりんりんの体調が戻らなかったらどうしよう!?」

 

友希那「落ち着いて、あこ。」

 

あこ「りんりん、元々身体が弱くて子供の頃は入院もしてて……それがずっとりんりんの負い目だったんです…。自分も勇者だからって弱音は吐かないし、自主トレの事も恥ずかしいから黙っててって……。だからあこも今までよりりんりんと外に行くようにしたし、りんりんも部屋で本を読んでるより楽しいって言ってくれて…それが良い事だって思ってました。だけど……あんな風に寝込んだりして…もし、また入院って事になったら…。」

 

友希那「確かに、西暦時代よりも燐子は明るく活発になったわ。だけど、どこか無理がかかっていたのではないかしら?」

 

あこ「体力が無くて勇者失格だって言われるのをりんりんは怖がってるんです。だから具合が悪いのを隠してまで……。最後まで一緒に戦うんだって。足を引っ張らないで技も磨いて…とにかく頑張るって……言ってたんです。でも、りんりんは体力が無くたって頭も良いし!こんな事で勇者失格だなんて事ないですよね!」

 

縋り付くように必死で話すあこ。しかし友希那はこう言い放つ。

 

友希那「………………失格だとしても構わないわ。この世界には他に何人もの勇者がいるのだから。」

 

あこ「なっ………!?友希那さん!それでもリーダーなんですか!!りんりんを見捨てるんですか!!?」

 

冷たく言い放つ友希那に対し、あこは友希那に掴みかかろうとする。しかし友希那はこう付け加えた。

 

友希那「……無理をして勇者どころか、普通の生活もままならなくなったらどうするの?」

 

あこ「え……?」

 

友希那「大切なのは1人の戦闘員では無く、私達の友人である白金燐子の存在じゃないの?」

 

あこ「友希那さん……。」

 

友希那「それともあこは、燐子が勇者だから大切にしてるとでも?」

 

あこ「それは絶対に違います!あこはりんりんがりんりんだから!りんりんがりんりんなだけで大好きなんです!!どんなに弱くても、どれほど強くなっても、りんりんはあこが守る!ずっと守るってあの時から誓ったんです!!」

 

友希那「………なら早く帰って傍に居てあげる事よ。それが燐子にとっては1番の薬の筈でしょ?」

 

あこ「友希那さん………そう…ですね。そうします!」

 

その時、友希那の端末にリサから通信が入った。しかし電波が悪いのか雑音が酷く聞き取れない。

 

友希那「通信が乱れてる?あこ、ちょっとここに居て頂戴。もしもし、リサ…?」

 

友希那はリサと通信する為に1人移動した。1人になったあこ。すると辺りが急に暗くなり始めたのだ。

 

あこ「あれ?急に暗く……。」

 

そして突然あこの後ろから声が聞こえる。

 

?「嬢ちゃん。」

 

あこが振り返ると、そこにいたのはあの時に出会ったお婆さんだったのだ。

 

あこ「お婆ちゃん!?」

 

老婆「そんなに心配しなさんな。きっと元気になるけんねぇ。」

 

あこ「どうして!?……でも、そんな筈は……。」

 

突然の事で頭がこんがらがってしまうあこ。それもその筈、300年も経っているのに、目の前にいるお婆さんは以前遭った時となんら変わっていないのだから。

 

老婆「これからも………どうか四国の事を頼みしたよ……勇者殿。」

 

あこ「えぇっ!?何であこが勇者だって事を……。」

 

するとあこの声を聞きつけ、友希那が走って戻ってきた。

 

友希那「どうしたの?あこ。」

 

あこ「友希那さん!変なんです!このお婆ちゃんが………っていない!?」

 

あこが再び振り返ると、既にお婆さんの姿はなかった。そして何故かあこの手には、さっきまで持っていなかった竹筒が握られていたのである。

 

あこ「この竹筒……水が入ってる。まさかこれって!」

 

友希那「さっきから何を言っているの?リサが大赦を説き伏せたから、今から"カガミブネ"で迎えに来てくれるそうよ。」

 

あこ「友希那さん!りんりんは絶対に良くなります!そして今までよりもっと強くなります!この水で!」

 

友希那「………そうね。」

 

あこ「きっと勇者の味方の神様が霊水をくれたんです!あこ、その事をりんりんに教えてあげるんです!」

 

友希那「さぁ、早く行きましょう。あこのその笑顔があれば燐子もすぐに良くなるわ。」

 

あこ「はい!!りんりーーん!今行くからねーー!!」

 

霊水をくれたお婆さんが誰なのか、そもそもそれは本当に霊水なのか、それは誰にも分からない。しかし、後日燐子は元気を取り戻し、今までよりも元気になった。

 

これは互いを想い合い続ける2人に起こった、少し不思議な、だけど本当にあったお話--

 

 

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