奥沢美咲の休日は優雅なコーヒータイムから始まる。誰にも邪魔されず、1人静かに香りを嗜む。これこそが最高の時間。
だったのだがーー刺すような視線、急に流れ出すナレーション。誰かが美咲をストーカーしている!?
日曜日、とある喫茶店ーー
美咲「ふぅ……この季節になると、昼間でも大分寒くなってきたよねぇ…。まぁ、北海道ほどじゃないけど。」
試される大地、北海道とまではいかないものの、12月の四国も中々に寒い。今、美咲はウィンドウショッピングの休憩がてら、イネスの喫茶店へと1人やって来ていた。
美咲「ブレンド…あ、やっぱ違う。今日はカフェオレ下さい。この雑誌読んでも良いですか?ありがとうございます。」
?「北の勇者、奥沢美咲は休憩を兼ねて喫茶店へと足を運ぶ。」
美咲「はぁ……良い香り…。」
?「芳しい珈琲を飲みながら、ファッション誌に目を通し、流行をチェックするのが楽しみだ。」
美咲「う〜ん、何か食べようかな…。フレンチトー……いや、フルーツサンド下さい。」
?「辛味好きだからとは言え、朝から決して激辛ラーメンを食べたりするような事はしない。何故なら……奥沢美咲はでらオシャレさんなのですから。」
美咲「ちょっと!さっきから何なんですか!?勝手にナレーションしないで!」
美咲は声色を上げると、陰に隠れてナレーションをしていた人物が顔を出した。
六花「バレてしまいましたか……。」
美咲「流石にバレますよ!何でさっきから私の事をつけ回してるんですか!理由は何ですか?」
六花「目的ですか?……これと言って無いんですけどね。」
ペロッと舌を出して六花は笑う。
美咲「無いんですか!?」
六花「強いて言うなら……興味本位…ですかね。」
美咲「はぁ……私なんかつけ回しても、面白くも何とも無いですよ。そういう訳で、失礼します。」
フルーツサンドとカフェオレを一気に口に含み、そそくさと美咲は喫茶店から出ようとするが、六花はそれを遮った。
六花「ま、待って下さい!」
美咲「私よりも尾行しがいがある人は沢山いますよ。」
六花「とある偉人さんもこう言ってますよ。"面白き こともなき世を 面白く"って。」
美咲「貴重な休日が台無しになりそう……。」
ーーー
イネス、洋服屋ーー
美咲「……………。」
一歩も引かない六花に美咲が遂に折れ、渋々美咲は他の店を勝手に回る事にしていた。
六花「軽食を済ませると、奥沢美咲は洋服を見て回る。色とりどりの洋服に癒される時間。彼女はオシャレさんの自分を取り戻していた。」
美咲「だから…ナレーションはいらないって。」
六花「と、奥沢美咲はひとりごちた。」
美咲「1人じゃないし!せめてストーカーするなら黙っててください。」
2人が押し問答をしていると、生地屋の店員が美咲を見つけ駆け寄って来た。
店員「あぁ、奥沢さん。良い時に来たわね。この前言っていた生地、入ったわよ。」
美咲「え?本当ですか。早速見せてもらっても?」
店員「勿論!さ、どうぞどうぞ。」
六花「ふむ………。」
ーー
数分後ーー
美咲「よし、買います。お約束通り半額にしてもらっても良いですか?」
店員「ええ。その代わり、作った服は後でマネキン用に頂くって事で契約成立ね。」
美咲「すみません、助かります。」
美咲は以前からこのお店で生地を買い、その生地で作った服を展示用にあげているのだ。お金は一切貰わない。完全に自分の趣味でやっている事。数々の勇者部イベントで培われた裁縫テクニックをここで活かしているのである。
店員「奥沢さんの服評判良くって、レイヤーさん達に聞かれるの。これは作ってくれるのかって。ねぇ、本当に売ってみない?良ければうちの店が間に入るけど。」
美咲「いえいえ、まだ中学生ですし。それに、期限内に完成出来る自信もないですから。」
店員「そっかぁ、残念。でも良いわ。勇者部で何かある度に、恩恵受けさせてもらってるしね。」
美咲「持ちつ持たれつって事で。今後もお願いします。」
店員からの勧誘をやんわりと断り、美咲は店を後にするのだった。
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六花「成る程………。」
美咲「……何か?」
六花「しっかりしてますねぇ。成る程、そうやって勇者部のイベント衣装は出来てたんですね。」
美咲「ま、まぁね。」
六花「ゆりさんは知ってるんですか?」
美咲「知らないと思いますよ。言った事無いですし。」
六花「どうして言わないんですか?」
美咲「言う必要も無いから。もう観察は終わりました?私、もう帰りますよ。」
その場を急いで去ろうとする美咲の腕を、六花はギュッと握る。
六花「待って下さい!」
美咲「何なのぉ!?」
ーーー
イネス、フードコートーー
美咲「もぐもぐ……で、本当に何でストーカーしてるんですか?」
2人はフードコートへと移動していた。お店でたこ焼きを買い、食べながら六花は遂にストーカーをしていた理由について話し出す。
六花「実はですね……もぐもぐ………私、奥沢さんに興味があるんです。」
美咲「まぁ、そうでしょうね。そうでもない限りストーカーなんかしないだろうから。」
六花「勇者部の中で、奥沢さんだけが変わった"オーラ"をしてるんです。」
美咲「オーラ?」
六花「私、見えるんです。巫女ですから。」
美咲「ほ、本当?」
六花「はい。他の皆さんは色とりどりなんです。赤に青、オレンジ、黄色、紫と様々。でも、奥沢さんだけは違ってました。"白"。色が無かったんです。」
美咲「…………っ!」
六花「だから気になったんです。どうしてかなって。」
美咲「雪国育ちだったから……ってオチは無しですよ?」
六花「違います。何でしょう……もっと………怒らないでくださいね?"寒い"感じなんです。」
美咲「……………。」
美咲は黙って六花の意見に耳を傾けていた。
六花「皆さんと違って、奥沢さんはいつも客観的なんです。常に一歩引いて物事を考えています。クールって言ってしまえば聞こえは良いですが、常にどこかで罪悪感が付き纏っている………違いますか?」
美咲「……。」
六花「それが第一印象でした。ですが、ある時その色が変わった事があったんです。大食い大会の日でした。突然、奥沢さんのオーラに燃えるような色が付いたんです。ですが、終わった途端にまた元の白に戻ってしまいました。そんな人普通いますか?」
美咲「知らないですよ…。」
六花「興味深かったんです。奥沢さんはどちらかと言えば、勇者より鏑矢に向いています。」
美咲「そうかも……ですね。私、他人を信用するのはまだまだ初心者だから。」
六花「………出来れば聞かせてもらっても良いですか?」
美咲「………分かりました。」
そうして美咲はこの異世界に来る前の出来事、北海道での寒い日々について六花に語るのだった。
ーーー
六花「………成る程。北海道はそれほど過酷な環境に…。それなら客観的視点が身につくのも道理です。」
美咲「そうは言うけど、朝日さん。あなたも私と同類ですよね?案外目の奥は笑ってない時がたまにありますよ?」
六花「むっ……まぁ、仕方ないですね。類は友を呼ぶって言いますし。」
美咲「巫女な分余計にタチ悪いと思いますよ。勇者を扇動出来るんですから。」
煽る用に美咲は六花に言うが、六花は何かを思い出すかの様に顔色が変わってしまう。
六花「扇動…ですか……。私にそれが出来てたんですかね……。」
美咲「え?」
六花「鏑矢の御役目です。つぐみさんが失敗してしまったと聞いて、私結構凹んだんです。香澄さんにつぐみさん、そして私……強固な一枚岩だった筈の私達が、どこで間違ったんだろう………私の読み違いかなって。」
美咲「あ………いや、それは…。」
六花「だから私は、せめて此処では失敗しないよう、前よりも注意深く皆さんを観察する事にしたんです。どんな人なのか。何が出来ないのか。何に揺らいでしまうのか……。出来るだけ把握していないと、最後に泣くのは自分ですから。」
美咲「その一環で私をつけてたって事か…。それは理解しました。それで?何か解りました?」
六花「そんな事、すぐには解りませんよ!」
美咲「解らないの!?」
美咲・六花「「ふっ………ははははっ!!」」
六花「ですが、思い違いには気付きました。白は色が無いって事じゃない。白も立派な色なんだなって。」
美咲「色………。」
六花「熱いのも冷たいのも、対極にあれば反対が恋しくなってしまうのが道理です。奥沢さんが独りでいたかったり、仲間といたいって思う事は、我が儘ではなくて、真っ当な事なんです。白はどんな色にだってなれるんですから。」
美咲「朝日さん………。」
六花「難しく考えたらダメです。私達はまだ子供なんですから。」
美咲「そうですね。」
六花「私、今度から何かあったら奥沢さんに相談しますね。だからその視点、変えないでください。」
美咲「え?」
六花「奥沢さんの目にしか見えないものがあるかもしれませんから。」
そう言い残し、六花は去って行った。1人残された美咲は胸に手を当てて目を閉じる。
美咲「全くもう………。こういうのも、案外悪くないかもな。」