ある時、3人の香澄は紗夜が友希那に告白している場面に出会してしまった。
"好き"。その言葉が、全ての悲劇の引き金だったのだ。
花咲川中学、校庭の花壇--
今、ここでは3人の香澄達が園芸部の手伝いで鉢植えに植わった花の植え替えを手伝っている。
香澄「……これで最後かな。」
高嶋「広い花壇に移って、何だかお花も喜んでるみたいだね。」
赤嶺「花の植え替えなんて初めてやったけど、案外楽しいものだねぇ。」
最後に水を撒いて手伝いは終了。以前モカが植えた百日草もしっかりと育っていた。
香澄「よし、じゃあ部室に戻ろうか……あれ?」
帰ろうとしたその時、香澄は校庭を走っていく紗夜の姿を見つけた。
紗夜「………。」
香澄「紗夜さん?どうしたんだろう?」
高嶋「校庭で見かけるなんて珍しいけど、体育当番なのかも。手伝いに行こっか。」
香澄・赤嶺「「りょーかい!」」
3人は紗夜の後を追って用具倉庫まで行くのだった。
---
用具倉庫外--
香澄「用具倉庫だ。ここに入ったのかな?紗夜さ--」
香澄が紗夜を呼ぼうとした瞬間、赤嶺が香澄の口を塞いだ。
香澄「むぐぐ!?」
赤嶺「待って!何か話し声が聞こえる。」
3人はドアの外から耳を澄ませた。するとどうやら中には紗夜の他にもう1人いるようだった。
?「どうしたのかしら、急に改ったりして。」
話し方から察するに友希那だった。
--
用具倉庫内--
紗夜「こんな事は良くないと……解ってはいるんです……。」
友希那「何の話かしら?」
紗夜「ですが、ずっと悩んでばかりで…ベッドに入ってからもこの事ばかりを考えてしまうんです……。」
友希那「どういう意味なの?」
紗夜「あの…ですね………湊さん……。あ、あなたが…………………"好き"。」
友希那「なっ!?」
--
用具倉庫外--
香澄・高嶋・赤嶺「「「えっ!?」」」
驚くのも無理はない。少し前まで2人はセーブデータの件でかなり険悪な雰囲気になっていたからだ。驚きを隠せない3人を他所に、中での会話は進んでいく。
--
用具倉庫内--
友希那「紗夜、あなたが何を言ってるか解っているの?今更そんな事を言うなんて……。」
紗夜「仕方ないじゃないですか……。」
友希那「仕方ない?私を困らせて、どうするの。」
紗夜「解っています!それでも無理なんです……。お願いします…湊さんが………"好き"。」
--
用具倉庫外--
香澄「こ、これって……あのー……。」
赤嶺「高嶋先輩……?」
2人は高嶋の方を見る。すると、高嶋の目からハイライトは消え、呆然とその場に立ち尽くしていた。
高嶋「えっ!?あぁ………えっ?あぇっ?」
2人は気が動転している高嶋を、何とか部室まで連れて帰るのだった。
---
勇者部部室--
部室に戻った香澄達は、すぐに今までの事を部室にいた人達に報告する。
燐子「そんな……氷川さんが湊さんを……!?」
中沙綾「何か理由があるかもしれないよ。だって………それって…。」
香澄「そそそそそそれでどどどどどどどうしよう!?やっぱり、りりりりりりさリサさんに報告………。」
イヴ「ひっ……。」
有咲「香澄!!お前死ぬ気か!?」
美咲「たまたま巫女が大赦に行ってるから良かったけど、軽率すぎるって!」
花音「ふえぇ〜〜〜!わ、私今日は早退します〜!!」
当然の事ながら、部室も大荒れになってしまっていた。逃げ惑う者、目を閉じ、神樹に祈りを捧げる者。阿鼻叫喚とは正にこの事だった。
千聖「花音、落ち着きなさい。扉1枚隔てていたのでしょう?聞き間違いって事もあるかもしれないわ。」
赤嶺「それは無いよ。だって私も聞いたんだから……。」
つぐみ「そ、そうだね……。私達鏑矢は諜報に長けてるから…。赤嶺ちゃんが聞いたなら、聞き間違いなんて有り得ないよ…。」
あこ「じ、じゃあ………ホントって事ですか!?」
部室にいる全員が高嶋へと視線を向ける。
高嶋「や、やだなぁ……みんな。紗夜ちゃんにだって、好きな人の1人や2人や……10人や………100人。」
りみ「高嶋さんがこんな事になるなんて、初めての事ですよ……!」
香澄達は取り敢えず今後の事について話し合いを始めるのだった。
--
小沙綾「それで……これから私達はどうすれば……。」
薫「紗夜の最後の台詞に、友希那は何て答えたんだい?」
日菜「そ、そうだよ!友希那ちゃんが断ってれば、リサちーだって命までは獲らない筈だよ!」
赤嶺「それは……その…。」
3人は事の顛末を最後まで聞いてはいなかった。何故なら、気が動転してしまった高嶋をその場から引き剥がすので精一杯だったから。
イヴ「流石に断る一択だろ!大体アイツらちょっと前まで仲悪かったじゃねーか!」
中沙綾「それだったら、どうして告白なんて?」
高嶋「告………白…………?」
あこ「でもでも、セーブデータの件はもう仲直りしたみたいだし……それに、その後は紗夜さんと友希那さん、なんだか2人でいる事多くなってる気がしませんか?」
燐子「あ、あこちゃん……こういう時は鋭いんだね……。」
その後も話し合いは展開されていくが、堂々巡りしていくだけで時間は過ぎていった。
--
千聖「これって、私達だけで話し合っても答えなんて出ないんじゃないかしら?」
美咲「確かに……私達が紗夜さんを諫める事も、湊さんに苦言を呈する事もおかしな話ですけど…。」
千聖「どうせ聞かなかった振りをするのなら、話し合いなんて無意味よ。」
有咲「合理的な正論だけど、人間味無いな。」
千聖「え?」
そう言って、有咲は高嶋の方に目線を向ける。
高嶋「……………………へっ!?あ…あぁ!私なら、全然平気!なーんて♪」
花音「それじゃ全然平気じゃないよぉ!」
その時だった。巫女達が大赦から戻って来てしまったのである。
リサ「ただいま!」
香澄達「「「ぎ、ぎゃあぁぁぁっ!?」」」
リサ「な、何事!?」
モカ「緊急事態ー?」
香澄「大変な事が!!」中沙綾「何でもないんです!!」
リサ「い、今何て?」
彩「ど、どうしていっぺんに喋るの!?」
中たえ「これは……西暦組に任せるしかないかな。付き合いの長さを武器にしてもらって。」
あこ「ず、ずるいよぉ〜!!」
意を決して、燐子がリサに質問を投げかける。
燐子「あ、あの……今井さん…。例えば……あくまで例えばなんですけど…誰かが湊さんにその………愛の告白をしたとしたりしたら……どうなさったりなられられますか…?」
美咲「燐子先輩の日本語がおかしくなってる……。」
リサ「はあ?急にそんな質問するなんてどうしたの?」
燐子「す、すみません……冗談なんですすみません…!!」
リサ「そうだなぁ……告白するなら個人の自由で、当然の権利だと思うよ?」
燐子「で、ですよね……。」
リサ「だけど……。」
香澄達「「「っ!?」」」
見た目からしたら普段のリサとは何ら変わらない。しかし、香澄達は本能で感じ取ってしまった。リサの内側から漏れ出る邪悪な気配を。
リサ「どこの誰がしたのかは、把握しておきたいかな。」
あこ「それで…仮にですけど……仮にですよ!?もし、友希那さんの答えが……私もす--」
リサ「私も?」
あこ「ひえぇぇぇ!?違います違います!もしも保留にした場合はどうするんですかぁ!?」
リサ「それは、友希那が満更でもないって事だよね?うーん……。」
花音「まさか、吊るすって事は……。」
リサ「それは無いよ。」
花音「だよね…。」
リサ「抹殺だね。」
花音「ふえぇぇーーー!だよねーー!」
リサ「紗夜にお願いして、あの鋭い鎌でサックリ……なんてね。」
あこ「うわぁぁぁぁぁっ!そんなの相手がその紗夜さんだったらどうするんですかぁ!?」
遂に禁断の言葉を口にしてしまったあこ。同時にリサの顔から笑顔が消えた。
リサ「え?」
イヴ「ば、馬鹿野郎!恐怖のあまり妙な事を口にするんじゃねーよ!!」
リサ「何だかみんな変だよ?あれ?どうかしたの?香澄。」
高嶋「………………………………。」
香澄「た、高嶋ちゃんはいつもこんな感じですよ!?」
美咲「それは流石に無理があるよ……。」
--
それから数分、沈黙の時間が続いていた。何人かがリサと話して気を逸らしている内に、残った人達で今後について集まって話し合いをしている。
有咲「ど、どうすんだ?そのうち2人とも帰ってくるぞ!?」
りみ「ど、どうするって言われても……臨機応変に対応するしか…。」
ゆり「そうだよね…最終的にどうなったのか分からないんじゃ……結果を待つしかないよ。」
中たえ「でも、もしその結果が最悪だった場合は?万が一に逃げ道確保しときます?」
中沙綾「それって、友希那さんと紗夜さんが"付き合う"って事!?」
有咲「馬鹿!声がデカい…………ひぇ!?」
中沙綾「えっ……?」
次の瞬間、沙綾は背後に寒気を感じる。恐る恐る沙綾は後ろを振り返った。
リサ「今………何て言ったの?」
そこには薄ら笑いを浮かべたリサが、音も立たずに立っていたのだ。
中沙綾「ひいぃ……!!」
流石に隠しきれなくなった為、燐子とあこは急いで友希那と紗夜に連絡を取り、部室まで来てもらう事にするのだった。
--
数分後--
紗夜「これは一体何事ですか?」
リサ「…………。」
花音「リサちゃんが黙ってると……怖いよぉ……。」
リサ「……喋ってても怖いんだよね?」
花音「っ!?」
美咲「湊さん、隠し事はやめてください。私達、もう全部知っちゃったんです。」
友希那「どういう事?」
紗夜「私達はこれからやる事があるので、急いでいるんですが。」
美咲の言っている意味が分かっていない2人。
燐子「やる事……まさか…かけ落ちですか……!」
友希那・紗夜「「えっ!?」」
あこ「それは……あまりに勝手すぎますよ!せめて…香澄には一言あって然るべきじゃないんですか!?」
高嶋「良いのあこちゃん!友希那ちゃん、とっても素敵だし、カッコいいし、魅力的だから!だから………好きになったって当然だよ…。」
紗夜「なっ………そんな……!?ま、まさか高嶋さんまで、そんなにも湊さんの事を………くっ………うぅっ……あぁぁぁぁ!!」
リサ「……………友希那と……紗夜が…………アハハ……紗夜と………友希那が……………。」
高嶋の思いがけない一言により、事態は更に混迷を極める事となってしまう。
ゆり「今度は、紗夜ちゃんと高嶋ちゃんが友希那ちゃんの取り合いに!?り、リサちゃんが何か唱えてるーーー!!」
しかし、事態はすぐに解決する事となる。この場にいない人物が1人だけいた。その人物が痺れを切らしてやって来たからだ。
蘭「ちょっと!どれだけ私を待たせるつもりなんですか!?」
モカ「あ、蘭だ。」
蘭「陽の高い内にって約束しました…よ……ね…?って、何ですかこの重たい空気。」
彩「そ、それが……紗夜ちゃんと友希那ちゃんがね--」
彩は事の顛末を蘭に話す。それを聞いた蘭、そして友希那と紗夜も驚愕するのだった。
友希那・紗夜・蘭「「「愛の告白!?」」」
赤嶺「だって、言ったよね?紗夜さん。友希那さんに、"好き"って。」
紗夜「それのどこが告白なんですか!」
りみ「それはいくらなんでも、言い訳にはなってない気が…。」
蘭「ちょっと、紗夜さん。話が違いますよね?確か私は、紗夜さんに"鋤"を頼んだ筈ですけど。」
友希那「そうよね。それなのに、紗夜は直前になって"鍬"を担当するって言ってきたのよ。」
紗夜「よく考えたら、私は"鋤"なんて持った事も使い方もよく知らないんです。しょうがないじゃないですか!」
友希那「私もそうよ!」
これによって全ての点が繋がり線となった。紗夜があの時言っていた"好き"とは、愛しているという意味の"好き"では無く、畑仕事で使う"鋤"だったのだ。
高嶋「"好き"じゃなくて"鋤"………。」
蘭「そう。先週、ボードゲームで賭けをしてて、私が勝ったから2人に農作業の手伝いを頼んだんです。」
香澄・赤嶺「「じゃあ告白じゃなかったの!?」」
香澄達の勘違いだと分かり、一気に身体の力が抜けたのか、勘違いしていた全員が腰を抜かしてしまう。
リサ「あは……あははははっ!!そーんな事だろうと思ってたよ!」
リサは1人、高らかに笑いながら友希那に抱きついた。
あこ「う、嘘ですよ……!絶対に紗夜さんをヤル気だった筈です…!」
紗夜「ええっ!?」
高嶋「紗夜ちゃん、ゴメンねゴメンね!私のせい!私が変な感じになっちゃってたから!」
慌てて紗夜に駆け寄る高嶋。一連の事態はこれにて終了--かと思いきや。
六花「あの、高嶋さん。さっき友希那さんの事を褒めてましたけど、あれは本心なんですか?」
六花の一言で紗夜とリサの瞳から光が失われる。
リサ・紗夜「「そういえば……。」」
高嶋「あっ………えっと……なーんてっ!テヘッ♪」
燐子「お、お願いですから……今日はもう…休ませてください………。」
その後2人を鎮める為に、高嶋は紗夜と。友希那はリサとデートをする事になったのだが、それはまた別のお話。