弱い自分を守る為に生まれたもう1人の自分。
だけど、ふと思う。自分が強くなったら、もう1人の自分はどうなってしまうんだろう?
樹海--
彼方から湯水の如く湧いてくる擬似バーテックスの群れ。勇者達は互いに死角を補いながら戦線を維持している。
中沙綾「"超大型"の背後に敵影接近中!ここからは狙えないです!」
ゆり「っ!?前衛から誰か回り込んで!!」
りみ「私は無理!星屑が多すぎるよ!」
高嶋「友希那ちゃん!そっちから行ける!?」
友希那「くっ……!ダメ…阻まれて間に合わない!」
勇者の数が20人以上に増えたとはいえ、数で押してくるバーテックスを相手取るにも限界が来てしまう。
香澄「パンチじゃアイツに届かない!っ!?ビームが来るよ!?」
あこ「ならあこの旋刃盤で!」
燐子「あこちゃん…ダメ……!薙ぎ払われたら防ぎきれない…!」
"超大型"の影に隠れていた"大型"バーテックスは離れた距離から勇者達に狙いを定め、今まさにビームが撃たれようとしていた。その時、1人の勇者、いや、防人が前に出る。
イヴ「そこ………です!」
前に立ったのは、"雷獣"を憑依させたイヴ。"大型"バーテックスの発射口目掛け銃剣で狙いを定める。
引き金を引くと同時に爆音が鳴り響いた。雷で銃弾を加速させたレールガンが命中。"大型"は爆発し、その爆風に他のバーテックスも巻き込まれる形で消滅するのだった。
花音「ふえぇ…イヴちゃん凄いよ!トドメの1発が見事に決まったね。」
イヴ「ふぅ…間一髪でした。」
千聖「良くやったわ、イヴちゃん。最近、腕を上げたようね。」
ここ最近では、イヴの成長は目を見張るものがあった。最近の戦闘ではもう1人のイヴも4回に1回程しか現れていない。
有咲「もう1人に負けず、鍛錬を怠ってないみたいだな。」
蘭「良い傾向だね。やるじゃん、イヴ。」
イヴ「そんな事はありません…。」
香澄達がイヴを持て囃している中--
日菜「………………イヴちゃん?」
日菜だけが、イヴの態度に違和感を感じているのだった。
ーーー
勇者部部室--
赤嶺「ふぅ…。自分で操ってるのと、前に回って戦うのじゃ、やっぱ勝手が違うね。」
あこ「でしょでしょ!あのビームをドバーン!って撃ってくる敵なんか最悪だよ!」
中たえ「ゴチャゴチャしてて見えないと、正面から当たっちゃうもんね。」
小たえ「でも、今日はイヴさんのお陰で助かっちゃいました。」
ここでも全員がイヴを褒め称えている。しかし、肝心のイヴ本人の姿は部室になかった。
蘭「あれ……そのイヴは?」
花音「そういえば……日菜ちゃんもいないよ?」
千聖「変ね………。」
ーーー
花咲川中学、屋上--
同時刻、イヴは屋上で黄昏ていた。
イヴ「……………はぁ…。」
そこに日菜がやって来る。
日菜「やっぱりここにいたね、イヴちゃん。」
日菜はイヴの隣にやって来て、暖かい紅茶が入ったコップを渡した。
イヴ「これは……紅茶ですか?」
日菜「そう!身体が温まるよ。」
イヴ「…………。」
コップを手に持ち、風で揺れる水面をじっと見つめるイヴ。
日菜「………どうしたの?そんな顔で考え事なんかして。」
イヴ「私が……私が強くなって、自分一人で戦えるようになったら……もう1人の私はどうなるんでしょうか…。」
日菜「え?もう1人のイヴちゃん?」
イヴ「もう1人の私は、私を守ってくれています。ですが……私が守られる必要の無い人になったら…。」
イヴは気にしていたのだ。元々は自分が弱かったから。痛みを受け続けていたから。そこから逃れる為に、イヴはもう1人の自分を生み出した。
しかし、この世界に来てイヴは強くなった。もう1人のイヴに頼る必要もない程に。だからイヴは自分が強くなる度に気にしていた。このままだと、もう1人の自分がいつの間にか自分の中から消えてしまうのではないかと。
日菜「それを気にしてたの?まぁ、まずは紅茶飲んでよ。あったまるよ。」
イヴ「はい……。ゴクッ……少し苦いですね。」
イヴのコップに砂糖を入れながら、日菜は自分の考えを話す。
日菜「もう1人のイヴちゃんの事を心配する必要は無いと思うよ?」
イヴ「どうしてですか?」
日菜「だって……はっ…はっ………はっくしょんっ!!」
話そうとした直後、日菜のくしゃみがイヴにかかってしまい--
イヴ「だぁーーーっ!何やってんだテメー!!」
日菜「ご、ごめんねぇ、イヴちゃん!!」
もう1人のイヴが現れ、日菜に掴みかかったのだった。
--
数分後--
イヴ「ったく……散々な目に遭ったぜ……。」
日菜「そ、それはこっちの台詞だよ……。」
日菜は身嗜みを整え、改めてイヴに向き合った。
日菜「でも、イヴちゃん。さっきの私達の話は聞いてたでしょ?」
イヴ「あぁ……。俺はよ……俺が必要なくなるってんなら、それはイヴにとって、良い事じゃねーかって…。」
もう1人のイヴはそう呟きながら、紅茶を一口啜る。
イヴ「甘すぎるな。砂糖入れ過ぎだ。」
日菜「でも、イヴちゃんはもう1人のイヴちゃんを大切に思ってるよ?それでも、自分が消えた方が良いって思うの?」
イヴ「…………俺みたいなのは、いねえ方が……健全だろ。」
日菜「健全ねぇ……もう1人のイヴちゃんからそんな言葉が出るなんて意外。」
イヴ「るっせーな!!………俺は、イヴの弱さをカバーする為のバリアみてーなもんだ。その俺が消えるって事は、イヴの前から辛い事や痛い事が無くなるって事だろ?だったら、アイツにとっちゃ、それが1番幸せで真っ当な事なんじゃねーか?」
日菜「そんなものかな……?」
イヴ「俺はな、イヴに味方が1人もいなかった時に生まれたんだ。身体の痛みも、心の痛みも肩代わりしてアイツを守って、救ってやるためだけにな……。」
日菜「………。」
そしてもう1人のイヴは、日菜に防人になるまでの経緯を話す。日菜はここで初めてもう1人のイヴが出来た経緯を知る。最初は少し驚きはしたが、日菜はイヴの言葉をしっかり噛み締める様に聞き続けていた。
イヴ「俺だけがイヴの味方で、イヴの友達で、俺だけが、イヴの理解者だった……。でも今は違うだろ………俺だけじゃねぇ。勇者部の連中がいるしなぁ……。俺が守らなくたって、イヴを大切にしてくれる奴らがそこら中にいて、超サイコーってやつだ。そろそろ用済み。お役御免って事でもそいつぁ、喜ばしいってもんじゃねーか。」
もう1人のイヴの考えを全部聞いた後、日菜は口を開く。
日菜「イヴちゃん……。前から思ってたけど、ちょっと抜けてるところあるよね。」
イヴ「んだとテメーーー!?」
日菜「もう1人のイヴちゃんは何も解ってない!」
掴み掛かろうとするイヴに対し、凛とした態度で日菜は吐き捨てる様に言い--
イヴ「なっ…………!?」
優しくイヴを抱き締めるのだった。
イヴ「な、何しやがる!離しやがれ!」
顔を赤くしながら、離れようともがくが、それでも日菜は抱き締める事を止めない。
日菜「もう1人のイヴちゃんは、イヴちゃんを通してずっと私達を見てきたんでしょ?だったら……解って当然だと思うよ。」
イヴ「何をだよ……。」
日菜「千聖ちゃんをはじめ、防人のみんな。共に戦ってくれる勇者や、巫女のみんなが、イヴちゃんだけじゃなく………もう1人のイヴちゃんの事も大好きなんだって事。」
イヴ「…………っ!!」
日菜「私は許さないよ。簡単に消えた方が良いなんて口走る事は絶対に。」
イヴ「けどよ………俺がいる限りイヴは本当に強くなれーんじゃねえか……。」
日菜「だから、そうやって割り切ったふりで誤魔化そうって?勝手に消えるなんて絶対にダメだからね。もう1人のイヴちゃんも、勇者部の仲間なんだから。」
イヴ「お……俺も…?」
その時、屋上のドアが開き、千聖達防人のメンバーがやって来る。
千聖「日菜ちゃんの言う通りよ。」
イヴ「し、白鷺……!」
千聖「2人とも突然いなくなるんだもの。探すのに苦労したわ。」
花音「日菜ちゃんの言葉、すっごくカッコ良かったよ。」
彩「うんうん!日菜ちゃんは私達が思ってた事をちゃんとイヴちゃんに伝えてくれたんだね。ありがとう!」
千聖「イヴちゃん。もう1人のあなたの存在が良いか悪いか、私達には判断出来ないわ。でも、一つだけ言えるのは……イヴちゃんも、もう1人のイヴちゃんも………掛け替えのない私達の大切な仲間よ。」
イヴ「なっ……!」
次の瞬間、顔を真っ赤にしたもう1人のイヴは引っ込み、イヴが表に出てくる。
イヴ「………どうして顔が熱いのでしょうか…。」
日菜「イヴちゃん、安心して。もう1人のイヴちゃんは突然、消えたりなんか絶対にしないから。」
イヴ「そう……なんですね…。ありがとうございます…日菜さん。私……もっと強くなります…なってみせます!もう1人の私に、痛みだけじゃなくて…楽しい事も沢山味わって欲しいですから。」
日菜「うん!私達も同じ気持ちだよ。だよね?」
千聖「ええ。」
花音「だね!」
彩「うん!」
掛け替えのない仲間が周りには沢山いて、そして自分の中にもいる。イヴは高鳴る胸に手を置き、目を閉じるのだった。