今年もこの季節がやってきた。1年に1度の相手に想いを伝えるその日が。
しかし、今年は一味違う。無人島でそれぞれがそれぞれの想いを伝え合う。まるで異世界での御役目が終わる事を暗示しているかの様に。
勇者部部室--
中たえ「ねぇ、みんなー。今地図見てるんだけど、そろそろ慰安旅行でもどう?」
あこ「それ良いね!旅行して沢山遊んで、美味しいもの沢山食べれば、あこの士気も右肩上がりだよ!」
つぐみ「私も賛成かな。」
リサ「そだね。久しぶりの慰安旅行は、きっと大赦も許してくれる筈だよ。」
季節は2月の頭。幸い勇者部への依頼も落ち着いており、出かけるには絶好の機会だった。
香澄「やったー!今度は何処に行けるんだろう?」
蘭「どうせなら、初めて行く所が良いかな。」
美咲「あと、温泉は外せないかな。」
中たえ「分かった。場所選びと大赦への説得は任せて。」
そして各々は準備をする為に解散する。この時、この旅行が波瀾万丈なものになる事は、数名を除き知る者はいなかった。
ーーー
寄宿舎、赤嶺の部屋--
日課のトレーニングを済ませ、寝ようとしていた時、赤嶺の端末に着信が。
赤嶺「はい………またその話?何度も言う様だけどそんな簡単には…………え?今なんて……!?しょうがないなぁ。でも、覚悟しておいてね。アレは相当難しい事なんだから……。はぁ………。」
仕掛け人の準備は水面下で着々と進んでいた。
ーーー
翌日、勇者部部室--
友希那「…………。」
部室に入ってくるや、神妙な顔つきで友希那は両手に抱えていた基盤を机に広げた。
千聖「友希那ちゃん、これは……何かしら?」
友希那「これは部室に仕掛けられてた隠しカメラと盗聴器よ。見覚えはない?」
そう言うと、友希那はたえ達の方を向く。
中たえ・小たえ「「な、何の事でしょう…?」」
イヴ「………2月…そうでしたか。」
そう。時期は2月--もうすぐやってくるのだ。バレンタインが。
紗夜「今年はもう動いていたのですか。ですが、湊さん。成果をあげたのに、どうして渋い顔をしてるのですか?」
友希那「少なすぎるのよ。部室だけじゃなく、校舎中を探したのだけれど、これしかなかったわ。」
詰め寄るも、たえ達は知らぬ存ぜぬな顔をしている。
友希那「シラを切り通すならそれでも良いわ。………今日からバレンタインまであなた達2人は簀巻きよ。」
りみ「それはいくらなんでも早すぎないですか!?まだ2月が始まってすぐですよ!?」
友希那「みんな、今年はバレンタインの行事は廃止するというのはどうかしら?」
唐突な友希那の提案には、当然反対する者が名乗りを上げてくる。
燐子「2月14日は大事な日です……!チョコに想いを込めて贈る大事なイベントなんです……!日頃、恥ずかしくて口に出せない、淡く甘酸っぱい本当の気持ちを振り絞れる唯一の日なんです……!」
友希那「り、燐子……珍しく饒舌ね…。」
中沙綾「燐子さんの言う通りです。友希那さんは何も分かってません。私達勇者は、いつどうなるか分からないんです。それが異世界だとしても。今日にも明日にも、御役目で倒れるかもしれない。だからこそ!今この想いを伝えたいんです!」
友希那「山吹さん……あなたも?」
中沙綾「私達のいるこの世界は、いつ終わるかも分からない。この奇跡はいつ終わってもおかしくないんです!だから、想いを伝える事を後悔したくないんです!」
リサ「友希那。たえ達の事と、みんなの気持ちは分けて考えなきゃ。人を愛する事は罪じゃないんだよ?」
友希那「何故、そこで愛なの?」
彩「……私感動しちゃった!みんなの愛の力で、神樹様は一層パワーアップする事間違いなしだよ!」
沙綾達の怒涛の説得により、首の皮1枚繋がったたえ達。しかし、中学生たえの様子に少し変化が。
小たえ「あれ?たえさんどうしたんですか?」
中たえ「……………ううん、何でもないよ。」
様々な想いが渦巻く中、バレンタイン当日がやって来る。
ーーー
バレンタイン当日--
リサ「友希那……友希那ってば……!」
友希那「…………リサ?」
友希那が目を覚ますと、起床時には絶対に聞かない音が辺りに響き渡っていた。
ゆり「………え?」
千聖「…………私達は夢でも見てるのかしら…。」
見回すと、そこは海。
友希那「ここは何処なの!?」
殆どの人があり得ない出来事に困惑している最中、リサ達はとある場所まで全員を連れて行くのだった。
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とある島、キャンプ場--
小たえ「やって来ました!バレンタインジャーニーです!!」
友希那「これは一体どう言う事なの!?」
モカ「たえ達の指示で私達巫女が、みんなが寝てる間に"カガミブネ"でここまで運んだんです。」
友希那「"カガミブネ"って………リサもグルだったの!?」
リサ「ごめんね、友希那。これが最善の策だったんだ。」
六花「前みたいに友希那さんのファンクラブが押し寄せるから、リサさんも心配だったんです。」
リサの言い分に口をつぐんでしまう友希那。しかし、1つ問題があった。バレンタインのチョコを当日に作ろうと思っていた人も勇者部には何人かいたという事だ。
日菜「あちゃー……当日に作ろうと思ってたのになぁ。」
小たえ「それは心配ないですよ。チョコを作るのに必要なものは一通り揃ってますから。」
燐子「手回しの良さは流石ですけど……そもそもここは一体何処なんでしょうか…。」
中たえ「ここはですね……花園家が所有する、瀬戸内に浮かぶ無人島です!」
美咲「あぁ………流石は大赦トップ…。」
蘭「ならこれはバレンタインと慰安旅行のドッキングって事…?」
中たえ・小たえ「「そうなんです!!という事で……今年もやってきましたバレンタイン!!皆様思う存分想いを伝えてください!」」
友希那「………端末を渡しなさい座りなさい手を後ろに回しなさい息を止めなさい。」
たえ達が高らかに宣言したところで、友希那は2人を座らせ簀巻きにする。
中たえ・小たえ「「あーれー!!」」
こうして今年も混沌渦巻くバレンタインが、この無人島で開催されるのであった。
ーーー
無人島、森の中--
蘭「そこかしこに果物が自生してるんだね……凄いなここ。」
あこ「ホントだ!沢山食べられるね!」
燐子「あこちゃんも、美竹さんも順応するのが早いですね……。」
りみ「あっ、そうだ蘭ちゃん。今年は蘭ちゃんにバレンタインのチョコあげるね。」
蘭「ありがと、りみ。」
りみのチョコを受け取った蘭。ここで蘭は恐る恐る気になっている事を質問する。
蘭「このチョコって……りみの手作り?」
りみ「このチョコは3日前にお姉ちゃんと作ったんだ。ね、お姉ちゃん!」
ゆり「そうそう。ちょっとズルいけど、私達2人はその時に交換しちゃったんだ。1人2個の縛りって中々キツくてね。」
燐子「そうだったんですね……。」
勇者部の人数も増え27人になっている。その中で2人だけに想いを伝える事は結構大変な事だった。
ゆり「それで、私のチョコは…はい、あこちゃん。」
あこ「ゆり先輩からあこに!?ありがとうございます!」
燐子「良かったね、あこちゃん……。私のは…りみさん……貰ってくれますか?」
りみ「ありがとうございます!私ももう1つは燐子さんにあげようと思ってたんです!どうぞ。」
燐子「嬉しいです……!私……りみさんとゆりさんみたいな姉妹に憧れてたんです…もう、ずっと前から……。」
あこ「あこもなんだ!あことりんりんは約束してるの。生まれ変わったら絶対、本当の姉妹になろうって!」
ゆり・りみ「「っ!?」」
あこの言葉を聞いたその時、2人の頭の中に以前の模擬戦の風景が浮かび上がってきた。
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あこ・燐子((生まれ変わっても…また…。今度はきっと…本当の……姉妹…に。))
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ゆり(何であの記憶が……?)
りみ(どうして……?)
理由は分からないが、その言葉に何故か2人の胸は締め付けられる感覚があった。
あこ「どうしたんですか、2人とも?」
ゆり「…ううん、何でもない。………なれるよ、きっと。あこちゃんって子供っぽい所もあるけど、燐子ちゃんに対してはお姉ちゃんしてるしね。それに、なんか親近感もあるし。」
あこ「ホント!?やったぁ!りんりん!あこ、絶対にすっごいお姉ちゃんになるからね!」
そう言って、あこは燐子にチョコを渡すのだった。
燐子「うん…!今年もチョコありがとう……あこお姉ちゃん…。私のチョコも食べてね…。」
あこ「り、りんりん……!食べる!食べるよ!」
燐子「ふふ……照れ臭くて無理だと思ってたけど…勇者はいつ何があるか分からないもんね…。」
蘭「そうですね。想いは胸に秘めてるだけじゃダメなんです。言える時に言っておかないと……。」
モカ「良かったですなー。」
あこ「りんりんの事はあこが絶対に守るから!何があってもね。」
燐子「うん…頼りにしてるね…。私の大好きな……あこお姉ちゃん…。」
互いにチョコを渡して抱き合う2人。側から見れば、2人は本当の姉妹の様だった。そんな最中、茂みの奥から赤嶺がやって来る。
赤嶺「あー、良いんだぁ。あこに燐子ちゃんってば。無人島で開放感たっぷりって感じ。」
りみ「あっ、赤嶺さん。1人ですか?」
赤嶺「うん。お姉様を探してたところ。誰か見なかった?」
あこ・蘭「「海じゃない?」」
ゆり「………そうだ、私も探してこようかなぁ…。」
挙動不審になりながら、ゆりの視線がりみに動いた。
りみ「私を見なくても大丈夫だよ。いってらっしゃい、お姉ちゃん。」
赤嶺とゆりの2人は薫を探しに海の方へ歩いていくのだった。
ーーー
無人島、川辺--
ここでは夏希、沙綾、イヴ、美咲の4人が川辺を散策していた。
夏希「うわぁ…ザリガニが沢山いる!」
美咲「どうしてバレンタインに無人島までやって来て川辺なんだろう……。」
夏希「川をみたら、あこさんの誕生日パーティーの事を思い出したんですよね。あの時は私身体張ったなぁ……。」
小沙綾「あぁ……あの時はザリガニを鼻に挟ませてたんだよね…。」
夏希「名誉の負傷だよ……って、イヴさん!?」
思い出に浸っている中、イヴを見ると今まさにイヴの鼻をザリガニが挟んでいたのである。
イヴ「痛ててて!このエビ野郎!離しやがれぇーーー!」
美咲「言ってるそばから何やってるの!?もう1人のイヴ出ちゃってるし!」
もう1人のイヴはザリガニを川に投げ捨て、鼻を摩りながら夏希にチョコを手渡した。
夏希「これって……チョコですか!?」
イヴ「おう。………オメーに身体張らせるくらいなら、俺が代わりにやってやるから……いつでも言えよ。」
美咲「こらこら、あなただってダメダメ。どっちも大事な勇者で、大事な身体。はいこれ。」
イヴ「奥沢が俺に?」
美咲「私はあなたが心配なの。あなたって、自分はどうなっても良いタイプでしょ?そんな人が、今ではイヴだけじゃなくて、他の人まで守ろうと頑張っちゃってるんだから。」
イヴ「お、俺じゃねえよ……イヴが守りてぇって思ってるからだ。アイツの大切な物は俺が守んねーと……。」
美咲「それは分かってる。でも、言っておかないと後悔しそうだから言ったの。無茶はやめてよ?」
イヴ「無茶じゃねーよ!それでお前らを守れるなら……そんなん……ちっとも無茶じゃねー…。」
その時、川上から薫を探しにやって来た赤嶺とゆりがやって来る。
赤嶺「カッコいい事言うね、イヴ。思わずキュンってきちゃったよ。」
イヴ「ばっ……そんな事……!」
イヴ「そんなカッコいい事は言ってませ…あ、戻ってしまいました…どうしてでしょうか……鼻が痛いです。」
小沙綾「さっきザリガニに鼻を挟まれてましたから…。」
ゆり「何やってるの!大丈夫?……良かった。何ともない。」
イヴ「ありがとうございます…。それで……ゆりさんにコレを…。ゆりさんは、初めて私に言ってくれた人ですから。」
ゆりに頭を撫でられ、顔を赤くしながらイヴはチョコをゆりに渡す。
夏希「隅におけないですね、ゆりさん。何て言ったんですか?」
イヴ「はい……"お帰り"って……言ってくれたんです。」
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ゆり「お、帰ってきたね。はいはーい!お帰り。」
イヴ「…………はい。」
ゆり「こらこら、"はい"じゃなくて、お帰りって言われたら"ただいま"でしょ。」
イヴ「あ……………………た、ただぃ…………ま。」
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胸に残るのは温かかった"お帰り"という言葉。イヴは以前ゆりから言われたその言葉をずっと胸にしまっていたのである。
ゆり「そっか……。チョコありがとう、イヴちゃん。いつでも帰ってきて良いからね。待ってるから。」
イヴ「はい……!」
赤嶺「ところで、誰かお姉様を見なかった?」
夏希「薫さんは……海じゃないですか?」
小沙綾「多分というか、絶対そうだと思います。」
赤嶺「ありがとう、行ってみるね。」
そう言い残し、2人は川下の方へと歩いて行った。
イヴ「私も一緒に行きます。薫さんにも渡したいんです…家族ですから。」
イヴも2人の後を追って走って行った。
夏希・小沙綾・美咲「「「家族!?」」」
想い伝え合うバレンタインの1日はまだ始まったばかりであった。