猫探しの依頼で仔猫を探す紗夜と高嶋。いつもの様に猫缶で誘い出そうとするが、野良猫に餌をあげていると子供達に勘違いされてしまいーー
次回から外伝第3部が始まります。
住宅街ーー
女性「うちの大切な家族なので助かりました!勇者部の皆さんには感謝しかありません!」
友希那「礼には及ばないわ。無事で何よりね。それでは、私達はこれで失礼するわ。」
感謝する依頼人を背に、友希那達は住宅街を後にする。ただ今勇者部は逃げてしまった猫を探す依頼を完了したところだった。
高嶋「役に立てて良かったね。猫ちゃんも元気だったし!」
あこ「それにしても、勇者部は猫探しの依頼が多く来ますよねー。あこ達、もう猫探しのプロフェッショナルって名乗れるかも。」
勇者部にはひと月に約20件程の依頼をこなしている。その中でも大体1/3が猫探しの依頼だ。何故猫探しが多いのか。その理由は至極簡単だった。
日菜「だって友希那ちゃん、この辺りにいる猫の事は大体知ってるでしょ?この前も公園の隅で猫に餌あげてるの見たし。」
友希那「うっ……日菜、何故その事を……見てたのね…。」
高嶋「あははは♪」
友希那「そ、そんな事より依頼が終わった事をゆりさんに連絡しましょう。」
友希那が端末を手にした丁度その時、リサの端末に着信が入った。ゆりからだった。
リサ「あっ、丁度ゆりさんから電話だ。もしもーし、丁度今連絡を………え?また猫が!?………分かりました…了解です。」
友希那「どうしたの?猫って聞こえたけど…。」
リサはみんなに説明する。どうやら今度は仔猫が逃げ出してしまったらしい。
日菜「噂をすれば……って良く言うけど、本当にそうなるなんてね。」
あこ「また!?もー、ペットを飼うならちゃんとしないと!」
イヴ「ですが、頼まれた依頼なら全力で解決しましょう。」
友希那「そうね。それじゃあ、手分けして事に当たりましょう。」
友希那の一言で各々が散らばって行ってしまった。仔猫の特徴や何処で逃げたのかも聞かないままに。
紗夜「皆さん、どう分かれるのかも聞かないままに行ってしまうなんて…。」
リサ「まあまあ。さっ、私達も探すよ、友希那。」
友希那「り、リサ!?あまり引っ張らないで頂戴……!」
友希那とリサも行ってしまい、この場に残ったのは紗夜と高嶋の2人だった。
高嶋「みんな行っちゃったね。私達はどうしようか?」
紗夜「どうもこうもありません……どんな仔猫なのか、どんな名前なのかも聞かされていないというのに…。湊さんを始め、勇者部の皆さんはせっかち過ぎます…。」
高嶋「そんな事言って、本当は友希那ちゃんの事大好きなんでしょ?」
紗夜「なっ…高嶋さん!?それは大きな勘違いです!」
高嶋「え、そう?私、紗夜ちゃんと友希那ちゃんが仲良くなってきて、嬉しかったんだけど……。勘違いだったのかな…何かごめんね…でも、ちょっと残念だな。」
紗夜「だ、大丈夫ですよ高嶋さん!べべべ別に私と湊さんは仲違いしてるとかではあああありませんから。」
高嶋「そうなの?良かったぁ♪みんな仲良くが1番だもんね!」
紗夜「ええ……そうですね、高嶋さん。」
友希那にチョコを渡して以来、友希那の事が嫌いでは無くなっていた。だけど、いざ面と向かって言われると、やっぱりどこか照れてはぐらかしてしまう紗夜なのだった。
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商店街ーー
高嶋と紗夜は早速商店街で聞き込み調査を開始する。すると、すぐ有力な手掛かりが手に入った。
おばあちゃん「え?仔猫かい?そうさねぇ……そういえば、この先の公園で小っちゃいのを見た気がするよ。」
高嶋「本当ですか!因みにどんな毛色か覚えてますか?」
おばあちゃん「茶色の……何て言うんだっけ、あれは…。」
紗夜「茶トラですか?」
おばあちゃん「そうそう、それ!その仔猫が公園で蝶を追っかけてるのを見たよ。」
高嶋「ありがとうございました!紗夜ちゃん、早速公園に行ってみよう。」
紗夜「はい。」
2人はその公園へ足を走らせる。途中でコンビニに立ち寄り、仔猫を誘い出す為の猫缶を買っていった。
ーー
公園ーー
公園にたどり着いた2人は、早速園内を探す。しかし、それらしい姿は見当たらない。
高嶋「うーん……それらしい仔猫は見当たらないなぁ…。」
紗夜「ちょっと待ってください、高嶋さん。メールが届きました。勇者部への一斉連絡のようです。」
メールに書かれていた内容は"白猫とハチワレ"のみ。どうやら先程のおばあちゃんが言っていた仔猫は探している茶トラではないようだった。
高嶋「茶トラじゃないんだね…。」
紗夜「そうみたいですね。どうしますか?」
高嶋「取り敢えず、買った猫缶で誘い出してみよう。きっと、お腹空いてる筈だよ!」
猫缶を開け公園のベンチに置き、2人は少し離れた木の後ろに隠れて様子を伺った。すると、すぐに茂みからガサゴソと音がして、2匹の仔猫が顔を出す。その仔猫達は丁度さっきメールで送られてきた白とハチワレの仔猫だった。
高嶋「あっ、あの子達だよ!紗夜ちゃん静かにね……餌に夢中になってる隙に私が捕まえるから。」
紗夜「分かりました。」
猫缶を夢中で食べるハチワレの仔猫。しかし、白猫の方は中々食べようとはしなかった。
紗夜「………あの仔猫を見ていると、宇田川さんと白金さんの様に見えてきますね…。」
高嶋「…こうなったら一気に行っちゃおう!突撃だよ、紗夜ちゃん!」
紗夜「はい!」
高嶋の合図で2人は木陰から飛び出し、仔猫目掛けて駆け寄る。しかし、その勢いに驚いたのか仔猫達は驚いて逃げ出してしまう。
高嶋「あーーーー!逃げたよ!私、白い子追うから!」
一目散に駆け出していく高嶋。
紗夜「じゃあ私はハチワレを……って、もういない!?高嶋さんの姿も見えない……何やってるんでしょうか、私は…。」
どうしようか途方に暮れていると、何処からやって来たのか2人の少年と少女が紗夜に話しかける。
女の子「ねーねーお姉ちゃん、その猫缶はお姉ちゃんの?」
紗夜「え?えぇ……そうですが…。」
男の子「野良猫に餌をあげちゃいけないんだよ?餌をあげるといっぱいになっちゃうってママや先生が言ってたよ?」
至極当たり前の事だ。餌をあげると野良猫が居付き騒音や糞等の被害も出てしまう。紗夜はその事は勿論知っていた。だが、少し考え紗夜は2人に尋ねた。
紗夜「では……猫がお腹を空かせてしまうのは良いんでしょうか?」
女の子「それは……可哀想だけど…。餌をあげるとさぁ…自分1人で生きていけなくなっちゃうんだよ?」
紗夜「……………そうですね。偉いですね、あなた達は。教えてくれて、ありがとうございます。」
女の子・男の子「「うん、バイバーイ!」」
女の子の言葉を聞き、紗夜は微笑み謝った。1人になった紗夜。頭の中にはさっきの女の子の言葉が反芻している。
紗夜「餌を貰うと1人では生きていけなくなる………ですか。私も、以前は同じ事を考えていました。動物には動物の世界があって、私達人間は干渉するべきではない……と。」
この異世界に来た当初の紗夜は猫探しに消極的だった。今でもそう思う時は多々ある。しかし、今の紗夜には何か分からないモヤモヤとした気持ちが胸の中に残っていた。
紗夜「………っ!?」
ボーッとベンチに座っている紗夜。すると猫缶を置いていた場所からペチャペチャと音がする。音のする方を見ると、そこにいたのは最初に探していた茶トラの猫だった。
紗夜「茶トラの仔猫!?」
呆気に取られているうちに、茶トラは残っていた猫缶を全て食べ、食べ終わると満足した様に大きな欠伸をするのだった。
紗夜「全部食べたんですか……。これで、あなたも数日は生きていけますね……。」
欠伸をした後、茶トラは紗夜に擦り寄ってくる。茶トラはすっかり警戒心を解いていた。
紗夜「…人間を恐れなくなってしまったら、もう野良ではやっていけませんよ。だから簡単に野良猫に餌をあげてはいけないんです………ごめんなさい。明日からあなたは、また1人で餌を取らないといけません。今日だけが特別な1日だったんです。今日の事は夢だと思って忘れてください。」
紗夜は茶トラを自分の姿と重ねていた。最初は警戒し、餌を貰うと警戒心を解いて懐いてしまう。その姿は少しこの世界で過ごしてきた紗夜に似ていた。
紗夜「………私もここでの御役目が終われば元の世界に……またあの厳しい現実に戻るしかありません。厳しくて…寂しいだけの現実に。あなたは、その覚悟が出来てますか?」
茶トラ「ニャーン?」
紗夜「私は……………。」
茶トラ「ニャーン♪」
質問を投げかける紗夜を一切気にもせず、茶トラは自分のペースで動き、紗夜の膝の上へ乗っかった。
紗夜「だ、誰が膝の上に乗って良いなどと………!」
茶トラ「ニャーン!ニャーン!」
紗夜「私も…….同じですね。差し出された手に縋り、仲間だと言ってくれる人達に甘え………もう、皆さんの温もりが無いと生きていけないんではないかって……この温もりが無くなったら、きっと私は壊れてしまうんじゃないかって……いつもいつも不安で…ですが、かと言って自分ではその温かい手を振り払えない……。私はいつからこんな臆病になったんでしょうか……。この気持ちは、どうすれば良いんでしょうか……。」
そんな独白を吐露する紗夜。すると何処からやって来たのか大きな犬が紗夜に近付いて来る。しかし、茶トラが紗夜を庇うかの様に立ち上がり威嚇したのだ。
茶トラ「シャーーーッ!!」
紗夜「何やってるんですか!私を庇う必要なんかありません!」
茶トラ「フギャーーーッ!!」
紗夜の事を無視して威嚇を続ける茶トラ。その気迫に怖気付いたのか、犬は踵を返してまた何処かへ走り去ってしまった。
ーー
紗夜「さっきは守ってくれてありがとうございました。ですが、命知らずは長生き出来ませんよ?」
茶トラ「ミャーン?」
紗夜「もし、あなたが人間だったら、間違いなく勇者になっていたでしょうね。私の仲間達の様に、弱い者を守る為なら身を挺して敵に立ちはだかる勇者に。」
その時、背後から声がする。
?「紗夜ちゃんだって、そうでしょ?」
紗夜「高嶋さん……。」
そう言ってやって来た高嶋の両手には、白猫とハチワレが抱えられていた。
高嶋「仔猫、2匹とも捕まえたよ♪ほら、白猫ちゃんとハチワレちゃん。」
白猫・ハチワレ「「ミャー!ミャー!」」
すると、2匹の仔猫の声を聞いた茶トラが反応し、2匹に駆け寄ったのだ。
紗夜「あら………?この3匹は知り合いなのでしょうか。」
高嶋「電話で確認したらね、仔猫達が開いた窓から飛び出していっちゃったみたいなんだけど、それを見てすぐ茶トラが追いかけたんだって。2匹のお姉ちゃんみたいだよ、この子。」
紗夜「そうだったんですね………ふふっ、だから仲間を守る強さが身についていたんですね。」
高嶋「それは紗夜ちゃんも同じでしょ?」
紗夜「え…………?」
高嶋「紗夜ちゃんは臆病なんかじゃないよ。後、甘えてるのは私も一緒。手を振り解こうなんて考えないで。守ったり守られたりで、良いんじゃない。」
紗夜「さっきの独り言…聞いていたんですか!?」
高嶋「守られて弱くなったんじゃないよ、紗夜ちゃんは。温もりを受け入れて、ずっと強くなったの。ずっと紗夜ちゃんを近くで見てきた私が言うんだから絶対間違いない!」
紗夜「高嶋さん…………ありがとうございます。」
茶トラ・白猫・ハチワレ「「「ニャーーン!」」」
突然紗夜の膝元に、3匹の仔猫が乗ってくる。
紗夜「なっ……3匹いっぺんは困りますよ!?」
高嶋「ははっ。良いなー紗夜ちゃん。猫ちゃん達にモテモテ♪」
紗夜「もう………しょうがないですね…。飼い猫なだけあって、人に良く慣れています。」
高嶋「この子達にも解るんだよ、きっと。紗夜ちゃんが優しい人だって。」
紗夜「そんな事………ありません。」
高嶋「あるよ。私の言う事信じてくれないの?」
紗夜「そんな!………いつだって、信じてます。」
高嶋「良かった…。さぁ、みんな。帰って飼い主さんにごめんなさいしようね。キミ達の家族、すっごく心配して今友希那ちゃんに泣きついてるって。」
紗夜「湊さんの困った顔が目に浮かびますね。」
高嶋「どうする?紗夜ちゃん。3匹とも私が抱っこして行こうか?」
紗夜「そうですね………いえ、この茶トラは私が抱えて行きます。」
茶トラ「ニャー♪」
2人は仔猫を抱えて立ち上がる。
高嶋「あはは!可愛いね。すっごく懐いてるよ。ねぇ、紗夜ちゃん……。」
紗夜「どうしました?」
高嶋「丸亀城でも飼えるかな?」
紗夜「猫をですか?」
高嶋「うん!ここから戻ったら、一緒に猫飼いたいなーって。」
紗夜「い、一緒にですか!?…………はい、そう出来たら良いですね。高嶋さんと……ふふっ。」
誰かの手を取る事は弱さじゃない。強くなる為の過程である。紗夜は感じていた。この強さがある限り、自分はもっと強く、優しくなれるんだと。