戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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彼女たちは願っていたーー選ばれなかった未来を。戦いの無い世界を。


彼女たちは叫んだーー自らの願いを。夢を。


思い出のアルバム〜願い〜

 

 

依頼日当日ーー

 

ここは大赦にあるサイバー課の研究施設。只今勇者部一同は最初のグループが思い描く映像を目の当たりにしていた。通常のVRなら映像は専用のゴーグルを着けている人にしか見れないが、技術が進んだ神世紀では、専用のコンタクトレンズを付ければ、付けた当人にも同じ映像を見る事が出来るのである。

 

赤嶺「えっ!?これVR映像なの!?当事者以外にも立体視出来てるなんて、どういう事!?」

 

夏希「すっごい……コンタクトレンズ付けただけで見れちゃうんだ…。」

 

有咲「技術は兎も角、この映像は何なんだよ!」

 

みんなが観ている映像は、超高層ビルが立ち並んだ街並みにぽつんと浮かぶ法廷。

 

高嶋「マジカマジカ!敵を見つけたマジー!魔女っ子たちでやっつけるマジー!」

 

紗夜「クリクリクリクリ!敵さん敵さん、魔法の鎖で括りましょ♪ギュシャーーー!」

 

りみ「敵さん敵さん、地獄の業火にトゥインクル〜♪ボジャーーー!」

 

ゆり「何処かで聞いた台詞だと思ったら、りみが昔見てたアニメの"魔女っ子チュリプア トゥインクル"だね。」

 

美咲「紗夜さんのは確か西暦時代にやってた"魔女っ子チュリプア"!」

 

小たえ「高嶋先輩のは、それに出てくる魔法生物だね。」

 

千聖「じゃああっちのは何なのかしら?」

 

モカ「おうおう、炎に鎖が何だってんだい!こんなのが裁判なのかい?こんなのが正義なのかい?」

 

花音「ふえぇ〜!?ベーゴマが飛んで………VRだから大丈夫だね。」

 

燐子「ベーゴマで分かりました……。モカさんのは西暦時代にテレビでやっていた人気学園ドラマの"スケバン検事"ですね…。」

 

あこ「アニメとドラマが合体してるの!?」

 

友希那「それにしてもこの目の前に広がる風景は……まるで本当に特撮番組を観ているかのようね。」

 

あこ「あこも思いました!紗夜さんたち、あれ浮いてますよね!」

 

燐子「鎖とか炎も急に出てきて、本当に魔法のようです…!」

 

暫くした後、異様な光景は消え、元の空間へと戻った。

 

イヴ「元に戻りましたね。」

 

中たえ「面白かったよ!正に異世界のヒーローの夢の共演ってやつだね!」

 

有咲「あの現実にはあり得ない光景も、キラキラした演出もVRなのか!?」

 

つぐみ「作り物と思ってたけど、これは侮れないね。」

 

リサ「重たい器具やヘッドセットも無しにこれだけの世界が見られるなんてね……。」

 

夏希「やってる本人にはどんな感じに見えたんだろう?」

 

小沙綾「そうだね…特に宙に浮いてた人たち。」

 

あこ「これは……自分でやるのが楽しみになってきたよ!」

 

薫「あぁ。自分の世界もだが、他の人が選んだ世界もとても気になるよ。」

 

次のグループは場所を変える必要がある為、一同はバスに乗り目的の場所まで移動するのだった。

 

中沙綾「VRなら何処でも同じなのに場所を移動するなんてね。」

 

 

 

 

 

 

バス内ーー

 

日菜「驚いちゃった。正直VRを舐めてたよ。」

 

りみ「憧れのチュリプアになれたなんて夢みたいです!ね、紗夜さん!」

 

紗夜「そ、そうですね。恥ずかしかったですが、浮遊しているという感覚は悪くなかったです。」

 

高嶋「面白いよね!地面に立ってる筈なのに、視点は高い所にあって、飛んでる気分なんだから!」

 

赤嶺「やっぱそういう風に見えてたんだ!?」

 

友希那「ところで、このバスは何処へ向かっているのかしら?」

 

リサ「それなんだけど……今日は再現する世界によっては、適切な場所があるみたいなんだよね。」

 

バスが向かっている先は市民病院。次のVR体験は病院の一室を使って行うとのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

市民病院ーー

 

次のグループが準備に入り、少し経ってから香澄たちは入室する。一同の目に映ったのは、ドクター姿の燐子、六花とメイクアップアーティストに扮した美咲だった。

 

あこ「りんりんとロックはお医者さん!?美咲のは……?」

 

美咲「私は所謂病人専属のメイクさんってとこですね。患者さんにお化粧したり、綺麗な服を着せてあげると症状が改善する事があるって聞いたから。」

 

高嶋「それ分かるかも。体調悪い時の青白い顔を鏡で見ると、気が滅入ってきちゃうし。」

 

美咲「沈んでるお婆さんも、口紅一つでパッと笑顔になってくれるんだ。世界を笑顔に………薫さんのあの言葉、私も叶えたくなりまして。」

 

薫「あぁ…美咲にとってもピッタリな職業だよ。」

 

友希那「燐子はナースを選ぶと思っていたわ。」

 

赤嶺「ロックもそうだと思ってた。」

 

燐子「ありがとうございます……。でも、今回は将来の夢の一つとしてこれを選んだんです。私は入院していた頃、治療自体が怖かったせいで、お医者さんの事も苦手になっていました…。だから、もし可能なら私は…子供の患者さんに優しく接する、怖くないドクターになりたいなと……。」

 

六花「私も、燐子さんの夢を聞いて、その手助けになればなって…。」

 

あこ「りんりんは優しいし頭も良いから絶対なれるよ!」

 

この世界が今体現している映像。それはそれぞれの将来の夢を映したものだった。

 

中たえ「これはみんなの夢なんですね……。」

 

燐子「はい。神世紀のVRが医療に特化していると聞いて思いついたんです…アナログかもしれないですけど。」

 

美咲「機械以外のアプローチもまだまだきっと出来る筈。人間自身の力も病気の人には絶対必要だし。おっと……。」

 

屈んだ拍子に筆が何本か散らばってしまう。

 

香澄「あー!今拾うね美咲ちゃん。」

 

有咲「バカだな、VRの映像だぞ。拾えるわけーー」

 

拾おうとする香澄を静止させようとするが、香澄は筆を手に取り全部拾ってしまったのである。

 

紗夜「どういう事です!?…………これは…ベッドにも壁にも…見えている物全部に触れます!」

 

花音「それって当たり前なんじゃ?」

 

紗夜「当たり前じゃないです。これはVR、見えている物は現実とは………はっ!」

 

これこそが今回のVR体験で病院を使った大きな理由なのだ。

 

中たえ「ちょっと場所を移して説明するね。」

 

 

 

 

 

 

病院の中庭ーー

 

中たえ「最初のりみたちの世界は過去の映像を元にして作ったんだ。昔とは言え、放送されてた番組だから実際の映像が残ってたから。」

 

紗夜「それは何となく分かります。派手なエフェクトや効果音がゲームの応用でしたし……。ですが、先程の映像に触れるとか病院で病院の映像を見せる事には理解が…。」

 

VR映像の最大の利点は今いる場所で、他の場所の映像を映し、体感出来る事である。だが先程の病院での出来事は、病院で病院の映像を映している。これは寧ろVRの利点を活かせていないという事になってしまう。

 

紗夜「VRの欠点は、自分たちがいる空間の物体が物理的に没入感を邪魔してしまう事ですよ?」

 

夏希「それって、VR内じゃ何も無い所でも、実際は家具があってぶつかるとかですか?」

 

紗夜「そういう事です。あくまで見えているのは映像で、身体は現実の世界に存在しているんです。」

 

リサ「それがね、最新の技術だと現実の物体と架空の物体をミックスして投影出来るんだって。」

 

紗夜「えっ!?」

 

美咲「私は現実で筆とかを持ってて、その筆が映像にも反映されていたって事です。」

 

中たえ「その応用で、現実の障害物を仮想世界にありそうな物に置き換えて投影する事も可能なんだって。」

 

千聖「つまり………現実では本棚だった所も、設定した世界が山なら、VR映像でそこを岩壁に見せてくれるって事かしら?」

 

中たえ「正解です。」

 

つぐみ「だから現実と仮想の差異を狭める為に設定した舞台と同じ場所が望ましいんだね。」

 

リサ「現実と仮想の融合がどのレベルまで可能なのか、それをする方が良いのか悪いのか……そういったデータも、アタシたちの反応から取りたいんだって。」

 

紗夜「本当に惜しいですね………。これ程ゲーム向きな技術なのにゲームに使われていないんですから。」

 

高嶋「ゲームにするとどう楽しいの?」

 

紗夜「例えば、自分の家や学校等の間取りを全部インプットさせて、それをVR映像上で廃墟化させるとしましょう。」

 

高嶋「うん。」

 

紗夜「そこをステージにしたFPSゲームは楽しそうだと思いませんか?壁も階段も障害物もギミックも、実際と同じ形や大きさで見た目だけが変わるのなら、臨場感抜群なVRアクションが、何処にも身体をぶつけずに楽しめるんですから!」

 

あこ「くぅ〜〜っ、それすっごく楽しそうです、紗夜さん!」

 

花音「何となく分かったけど、でも……それってちょっと怖いかも。」

 

千聖「と言うと?」

 

花音「現実との区別がつかなくなって、架空の世界に行ったっきりになっちゃうとか……。」

 

中たえ「だからゲームじゃなくて医療だけに許された技術なんだと思います。」

 

リサ「いずれにしろ、メリットやデメリットのデータは今後の課題に活かされる筈だよ。」

 

全員が納得したところで次の場所に移ろうとした一同だったが、先程から何かを考えていた友希那が口を開いた。

 

友希那「………少し良いかしら?この機械は人の記憶を取り戻す治療に向けての開発と言っていたけれど、言い換えればそれはかなり強い刺激を脳や身体に与える事になるわよね…。だとすると、逆の効果が得られる可能性もあるんじゃないかしら?」

 

薫「逆とは?」

 

友希那「例えば、これで植え付けられた記憶は通常よりも強烈で、消去が不十分になる………とか。」

 

その一言に全員がある可能性に気が付くのだった。

 

美咲「それって……消される筈の私たちの記憶が、残るかもしれないって事ですか!?」

 

中沙綾「実は私も、この話を聞いた時に同じ事を思ってました。どうかな、おたえ。友希那さんの見解は。」

 

中たえ「………………あるかもしれない…だけど、断言は出来ない。だって私たちの行動は全部神樹様が見てるから。」

 

六花「結局は神のみぞ知るって事ですね。」

 

リサ「そうそう。アタシたちはただこの稀有な体験を素直に思う存分楽しめば良いだけだよ。」

 

友希那「そうね………ごめんなさい、みんな。糠喜びをさせてしまって。」

 

あこ「そんな事ないです!楽しい上に、記憶が残せる可能性まであるなんて、楽しみ過ぎます!」

 

そんな一抹の希望を抱えながら、一同は次の場所へと移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

大赦大広間ーー

 

香澄「次はどんな世界か………あこちゃん!?」

 

日菜「いやーこんな格好一度はやってみたかったんだよねー♪」

 

つぐみ「実際には少し恥ずかしいけど、VRでならこんなドレスも良いかも。」

 

目の前に広がる世界は、さながら英国の様な宮殿の大広間で行われている社交会。豪華絢爛なドレスを着飾った日菜、つぐみ、あこの姿だった。

 

燐子「あこちゃんにしては珍しいね……。」

 

あこ「日菜さんに誘われたんだ。美味しいご馳走が出るからって。」

 

日菜「確かにそう誘ったけど、本当に食べられるなんてね。」

 

あこ「どれもこれも美味しい!けど、このケーキは食べられないよ?」

 

中たえ「多分、何種類かだけ本物で、後は映像なんだろうね。」

 

花音「お嬢様、飲み物をどうぞ。」

 

そこにウェイターに扮した花音もやってくる。

 

千聖「あれは花音だったのね。髪色や瞳の色までも自由自在なのね…。」

 

日菜「さぁ、御先祖様。折角だし一緒に踊ろうよ!」

 

つぐみ「そうですね。」

 

優雅に踊る二人だが、日菜が見えない何かにおでこをぶつけてしまう。

 

日菜「痛〜い…!ここ壁だぁ……。」

 

リサ「いくら広い宮殿を再現しても、現実の部屋の広さには限界があるからね…。」

 

中たえ「柱とか置物に置き換えるのも限度があるし、ちょっと危ないからストップします。」

 

たえの合図でVRが解除され、宮殿が元の大広間へと戻っていった。

 

日菜「現実に戻ったらおでこの痛みもひとしおだよぉ…。」

 

千聖「でも、そのお陰でより強く記憶が刻みつけられたんじゃないかしら?」

 

ゆり「現実と映像のミックスをするのは良いけど、見分けがつかないのは問題だね。」

 

 

 

 

 

 

 

海岸ーー

 

薫「私と一緒で良かったのかい?」

 

ゆり「うん。私の夢だったし。」

 

次の世界は沖縄の海が広がる世界。現実の海に映像を投影して、沖縄の海を再現している。波打ち際を歩いている薫とゆり。薫はそこで思いもよらぬ体験をする事となった。

 

?「……………。」

 

薫「………っ!?あの姿は……まさか…!こころ…なのかい!?」

 

目の前に現れたのは、紛れもなく亡くなった筈の弦巻こころの姿だったのである。すぐさま薫はこころにかけ寄り抱きしめた。

 

夏希「どういう事………こころさんが、生きて動いてる。」

 

高嶋「こんな事まで……出来ちゃうの!?」

 

薫「あぁ……分かっている。これは現実じゃない……だけど、どうしてだい?目の前にいるのは……やっぱり…。」

 

友希那「どういう事?あれはCG?でも、実際に触れられているようだわ……。」

 

中たえ「簡単に言うとね、薫さんが提供してくれた写真からテクスチャを作って、同じくらいの背丈の人にそれを貼ったんです………。」

 

リサ「ただ……生きている物に関しては、どんなに似た身代わりを用いても、本物とは性格や動きが異なる恐れだってあるし……ましてや人だから声までは真似出来ないから喋れないんだ。」

 

あこ「それって……違和感があったらショックを受けちゃうんじゃ………。」

 

リサ「そうかもしれない。だけど、こころがいる世界を望んだのは薫自身なんだよ。」

 

有咲「ほら、そんなに抱きついたらこころが苦しいだろ?」

 

薫「す、すまない…。」

 

こころ「………。」

 

赤嶺「あぁ………これが沖縄……ここが私のルーツ……。初めてなのに、なんて心地良いんだろう…。」

 

ゆり「綺麗……。青くて透明で、遠くの魚まで見える。これが……薫の愛した沖縄の海なんだね。」

 

薫「そうさ………。こうしてみんなでここに来られるなんて……まるで…。」

 

ゆり「夢みたい……願いが一つ、叶ったんだ……。」

 

有咲「現実では有り得ない場所に立ってるのに、感覚や気持ちは本物で………不思議な気分だ。」

 

薫「いつも心にある風景……瞳を閉じれば思い出す。それだけで充分だと思っていた……だが、それをこうして眼にして、肌で感じただけで、こんなにも気持ちが……揺さぶられるなんてね…。」

 

赤嶺「お姉様、大丈夫ですか?辛かったらもう……。」

 

薫「いや、辛いんじゃない…。上手く言えないんだ、この気持ちをね……。」

 

薫の瞳から涙が溢れ落ちる。その涙をこころが拭ってあげるのだった。声は聞こえないが、思いは確かにここに存在しているのだろう。薫にはそれが伝わってきていた。

 

こころ「……………。」

 

薫「……そうだね、こころ。君が教えてくれた事を、私が違えてはいけないね。」

 

紗夜「現実は四国の海ですが、潮風の匂いや砂の感触を得られる分、室内よりは効果的なんですね……。」

 

あこ「薫……穏やかな顔してるね。身代わりっていうのが複雑だろうけど………それでもね。」

 

イヴ「記憶喪失の場合は忘れてた人とかの事を、こういう刺激で思い出すのでしょうか……ですが、それは………辛くないのでしょうか…。」

 

イヴ「忘れたなら、忘れたままの方が良い事だってあるんじゃねえのか………世の中には。」

 

中沙綾「そうかもしれない…その人が置かれた状況によってはね。でも………自分の中の欠けた部分が何なのか分からないまま生きるのは、とても辛い事だから…私は思い出せて良かったって思う。例え、辛い出来事だったとしても、大切な人の記憶だったから………。」

 

美咲「そうだね。だから私たちはここでの事を忘れたくないんです。例えそれが神樹の意志だとしても。」

 

彩「だ、だけど…神樹様はそうする事が多分みんなにとっても良い事だっていう考えで……。」

 

紗夜「私たちが全て忘れて、同じ歴史をまた繰り返すのが果たして最善の策だと言えるのでしょうか?」

 

彩「そ、それは……。」

 

香澄「あの……さ!私は難しい事は全然分からないけど、今はこの機械を良くする為に楽しんでるんですよね?私たちが体験して、一生懸命考えて………病気や怪我をした人、思い出が消えちゃった人に使われる時には万全になるように…だったら"今"を頑張ろうよ!だって勇者は自分より人を助ける為にいるんだから!」

 

中たえ「香澄………。」

 

美咲「参ったなぁ…人の為世の為、戸山さんに言われると、自分が恥ずかしくなるよ。」

 

中沙綾「見て……薫さん、とっても幸せそう。私たちも今は与えられた状況を精一杯楽しもうよ。」

 

 

 

 

 

 

薫たちの体験が終わり、次のグループのVR映像が広がった。一同の眼前に広がるのは、巨大な艦隊が何隻も。

 

中沙綾「総員、敵襲に備えて配置に付けーーー!!」

 

千聖・香澄「「了解!!」」

 

香澄「よーし、さーやと一緒に世界を獲っちゃうぞー!!」

 

セーラー服を靡かせた香澄が高らかに拳を突き上げ叫び、

 

中沙綾「白鷺千聖兵長!今こそ出陣の時!!」

 

軍服に身を包んだ沙綾が兵士の格好の千聖に指揮を下す。

 

千聖「お任せを!皆の者、私に続けぇー!!」

 

ゆり「香澄ちゃんはまぁ分かるけど、なんで千聖ちゃんがあそこまでノリノリなの……?」

 

花音「沙綾ちゃんに台本を渡されて、その気になっちゃったみたい……。」

 

香澄「海軍の我はー海にてー!!」

 

千聖「陸軍の我はー陸にてー!!」

 

香澄・千聖「「我が身燃え尽きるまで戦い抜く所存!!」」

 

中沙綾「主砲、敵影に向かって構えっ!撃てーーーー!!」

 

有咲「文明の利器を沙綾に与えるのはダメだな……はぁ。」

 

 

 

 

 

 

美竹農園ーー

 

バスは再び走り出し、次に到着したのは蘭の畑だった。

 

イヴ「ここは……蘭さんの畑ですね。」

 

燐子「わざわざここを使って何をするんでしょう……。」

 

一同の目の前に広がったのは、畑が広がる世界だった。

 

あこ「畑使って畑の景色だーーー!!」

 

蘭「どう?モカ。様になってる?」

 

彼方からトラクターを走らせた蘭がやって来た。

 

モカ「ばっちし。そのトラクター似合ってる。」

 

蘭「こういうのに乗れば、今よりもっと沢山収穫出来るよ。大人になったら絶対免許取るって決めてたから、今乗れて気分が上がるよ。」

 

中沙綾「大人に……なったら…。」

 

中たえ「牛に……ヤギに……ニワトリにウサギ!!動物大集合だ!」

 

赤嶺「畑にウサギは場違いなんじゃ……。」

 

花音「この風景っていつもと変わらないよね?蘭ちゃんたちはそれで良いの?」

 

友希那「そんな事は無いわ。だってここは………諏訪の畑なんですから。」

 

蘭「私はトラクターに乗れれば満足だったんですけど、湊さんがどうしてもって。」

 

友希那「ええ。叶うのなら、美竹さんの故郷をこの目で見てみたかったの。もし戦いが無い平和な世界だったら、刀では無く、こうして鍬を握っていたのかもしれないわね……。」

 

中たえ「こうして動物と触れ合ってると、生きてるって感じがヒシヒシ伝わってくるよ。」

 

リサ「そうだね。こうして友希那とたえと同じ夢を見られて、アタシも幸せ。」

 

友希那「付き合わせて悪いわね、リサ。あなたにはあなたの見たい世界があった筈なのに。」

 

リサ「良いんだよ、友希那。アタシは何処だろうと、友希那の側にいれる以上の望みなんか無いんだから。」

 

赤嶺「伝説の勇者と巫女………戦いさえ無ければ、こうして幸せに暮らしてたんだろうね…。」

 

薫「それは、私たちみんなに言えることさ。」

 

 

"勇者にさえならなければ"ーー

 

 

"神樹様に選ばれなければ"ーー

 

 

誰しもがこの気持ちを抱き、それぞれの時代を生きてきた。あったかもしれない幸せな未来。今目の前に広がっている世界は、そんな可能性の世界だった。

 

蘭「……………私はさ。諏訪にいた時は、野菜はただ食料で、とにかく食べられれば良いって思いが強かったんだ。あの頃は必死で、助けを求めて集まる人たちを、何とか飢えさせない事が最優先だったから。でも、この世界に来て、味とか形とか………色んな事に欲が出て……最初の頃は、早く御役目を終わらせて帰らなきゃって焦ってたけど、みんなが喜んで野菜を食べてくれて、一緒に畑仕事をしてくれて……それがいつしかいつも通りの毎日になって…楽しくて。だから、私は神樹様には感謝してるつもり。」

 

ゆり・中沙綾「「っ!?」」

 

友希那「美竹さん……。」

 

みんなが言葉に詰まる中、遠くから夏希の声が響いた。

 

夏希「私もですよーーー!!蘭さーーん!!!」

 

声がする方へ振り向くと、そこには最後のグループが思い描く世界が広がっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

中沙綾「あ………ぁ。あぁ……。」

 

中たえ「夏……希………。」

 

一同の目の前に広がったのは、桜が咲き誇る学校の校門。どうやら高校の入学式を再現しているようだった。

 

中沙綾「この光景は……。」

 

中たえ「こんな事って……。」

 

イヴ「どうでしょう?」

 

夏希「えへへ…未来の私たち、高校生です!」

 

校門の前に並んでいるのはイヴ、彩、沙綾、たえ、夏希の5人。見た目も若干大人びており、高校の制服を身に纏った姿をしている。

 

千聖「彩ちゃんが大きくなってる……。」

 

彩「どうどう?千聖ちゃんより大人になっちゃった。」

 

日菜「イヴちゃんも似合ってるよ!!」

 

小沙綾「沙綾さんより年上の私なんて想像も出来なかったですけど、こんな感じになるんですね。」

 

小たえ「今の私はたえ先輩より先輩だから、たえ(大)先輩だよ!」

 

赤嶺「そのフレーズ………うっ、頭が……。」

 

夏希「私の事は、夏希パイセンと呼ぶように!なんちゃって。」

 

中たえ「これが、夏希が見たかった世界………。夏希の……夢……。」

 

中沙綾「とっても素敵だけど………これは、余りに残酷過ぎる………。」

 

リサ「うん、まさに大赦もそこを心配してたんだ。」

 

 

ーーー

ーー

 

大赦ーー

 

大赦神官「ですが、手がかりが見つからず、ここで過ごしてきた記憶が消えてしまうとなったら………問答無用で全てを取り上げられてしまうのは、余りにも理不尽なのではないかと………。」

 

大赦神官「元の世界では勇者様方の姿を見る事の無かった我々が、今は度々生身の勇者様方のお姿を拝見させて頂いており………それ故、無に帰す事に対し、見ぬ振りを通すのは……………心が痛むのです。申し訳ありません。」

 

大赦神官「ですから、我らのみで論決するのではなく、此度は御二方に判断を仰ごうと相成りました。」

 

 

ーー

ーーー

 

 

ゆり「大赦が私たちの心配を?」

 

思いもよらない言葉に、驚いてしまうゆり。

 

中たえ「この世界にいる神官たちは、実際に生身の勇者たちと何度も接してるから……情が湧いたんだと思う。」

 

リサ「その人たちが、未来が叶わない事を知っている勇者たちに、儚い夢を見せるのは酷なんじゃないかって……。」

 

中たえ「だけど、それでも是非って私とリサさんがお願いしたんだ。」

 

二人は大いに悩みながら考え、一つの結論を出したのである。"夢を見たいと欲する心"、"素敵な未来があって欲しいと願う気持ち"が、勇者たち全員の力になると信じたから。

 

中たえ「朧げに思い描いていた光景を、五感と全身に刻みつければ一欠片の記憶でも残せるんじゃないかって……。」

 

六花「……………素敵です先輩方!!新生活も応援しますよ!」

 

夏希「えへへへ。こんなの希望するなんて、考えてみれば可笑しな話ですよね。勉強なんて好きじゃないのに!」

 

香澄・高嶋・赤嶺「「「あはは!」」」

 

夏希「それに、私はもう……本当よりもずっと長く余計に学校に通わせてもらったっていうのに……それでもまだ…学校行きたいだなんて。」

 

中沙綾・中たえ「「……………………。」」

 

夏希「私も蘭さんと同じで、神樹様には感謝してます。そんなのもう、いくらしてもし足りないくらい。自分のこの手で、大事な家族や友達を守れて、ムカつくバーテックスを倒す力をくれて!こんな夢みたいな事が出来る世界に連れてきてくれて………。そんなの、勇者の私たちだけだから。それに私、神樹様や世界の為に戦うの嫌いじゃなかったし。今も昔も、辞めたいと思った事なんて一度も無い。けど………だけど……。」

 

段々と夏希の声が震えていく。

 

友希那「海野さん……。」

 

蘭「夏希……。」

 

夏希「今ここにいることがもう贅沢な事で、これ以上我儘なんてダメだっていうのは分かってるけど、でも…………。ごめんなさい。私まだ、本当はもっと学校に行きたいんです。」

 

それは夏希の心からの願いだった。

 

夏希「小学校卒業して、中学にも通って卒業して、それが終わったらこんな風に高校にだって………行きたい。それでそれが終わったら大学にだって行きたい。行きたい……本当は…もっと…もっと………"いきたい"んだあぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

友希那・リサ・蘭「「「…………………。」」」

 

香澄・中沙綾・中たえ「「「……………。」」」

 

ゆり・りみ・有咲「「「………………。」」」

 

夏希「……………っ!ご、ごめんなさい、大きな声出しちゃって……VR壊れてないよね…あはは……。」

 

夏希の想いの叫びを受け取った友希那は、天を仰ぎ力強く叫ぶ。

 

友希那「……聞こえたかしら、神樹。聞いていたかしら!!今、あなたが選んだ最も幼い勇者が放ったこの言葉こそ、私たちの偽りのない本心よ!!」

 

友希那の叫びに続くように他のみんなも天を睨み言葉を続ける。

 

紗夜「記憶を消失させ歴史を変えない事が、神の思惑で例えそれが最善の策だったとしても。」

 

高嶋「人は……人として最後まで足掻く!この世界でも元の世界でも!生き抜く為に!」

 

あこ・燐子「「今よりもっと良い、友の未来を作る為に!!」」

 

友希那「それで地獄を見る事になっても後悔はしない!それが私たちの………勇者部の総意よ!!」

 

蘭「ありがとう神樹様。他の神様や精霊たちも。私はこの世界こそ運命を変える可能性……チャンスだと思ってる。だから、思い出は忘れない。石に齧りついてもね。」

 

中たえ「大いなる神への感謝と反抗の混在。これが人間の本質なんだよ………神樹様。」

 

中沙綾「私たちはあなたと違って、記憶を残す事こそがより良い未来への鍵だって信じてる!」

 

中たえ「思ったよりもずっと強いでしょ、私たち…………神樹様のお陰で、こう………なれたんだよ?驚いたでしょ!私たちは、夏希は!あなたの想像を超えてるんだから!!」

 

ゆり「色んな想いがあるのは確か。想いがありすぎて、恨みも感謝もごちゃ混ぜだよ………ホント。でも、この世界で得た物はとっても大きい。長い時間をかけて私たちは見て、感じてきた。」

 

千聖「応援してくれる人たちや……。」

 

りみ「動物や精霊や………。」

 

あこ・燐子「「神様を……。」」

 

美咲・薫「「得難い仲間たちを………。」」

 

ゆり「なのに、この世界を創り出した存在に、お礼の一つも言えないんじゃ勇者部の名が廃っちゃう。でもね……大赦の神官たちだって変わったんでしょ?だったら神樹様。あなただって変わるって信じさせてよ!!」

 

香澄「神樹様ーーーー!!何百年も長い間、見ててくれてありがとーーー!だけどお願いです!お願いします!もうあなたは一回見ちゃった歴史かもしれないけど、また最初に戻るのヤダって思うかもしれないけど……もう一回!あと一回で良いからーー!友希那さんたちの時代から始まる、勇者の歴史をまた見ててくださーーーーい!!!」

 

有咲「香澄………。」

 

香澄「そしたらきっと!絶対!瞬きしないで見ててくれたら………っ。ちょっとだけかもしれないけど、前とは絶対に過去だって未来だって変わるから………!変えてみせるんだから!あなたに選んでもらった勇者達(私達)がーーーー!!」

 

夏希「香澄さん凄い………。なんかパワーに圧倒されちゃった……。」

 

赤嶺「……………ん?これって、外部からの依頼なのに神樹様とか勇者とかって言ったら…………。」

 

その一言で、さっきまでとは打って変わって大慌てしてしまう勇者たち。

 

香澄「あーーー!!どうしようどうしようどうしよーーー!!」

 

リサ「だ、大丈夫!今日のデータは、一旦大赦の検閲を通ってから業者に渡されるから。」

 

香澄「検閲あるんですね!良かったぁ……。」

 

有咲「検閲良かったってなんだよ!!あれだけ啖呵切っといて最後にそれか!?」

 

夏希「あははははは!でも本当に良かったです。本気の本音………最後に口に出せて。聞いてもらえて。沙綾さんやたえさんは、この世界で私としっかり向き合ってくれたのに、私だけが本心隠してお別れしたんじゃズッ友って言えないもんね!」

 

薫「実に儚く……良い体験になった。この事は確実に私たちの魂に刻み込まれた筈さ。」

 

リサ(神樹様……慈悲あればこの願い、どうか聞いてください。勇者たちにどうか一片だけでも温かな思い出を……。命を賭す勇者たちに、僅かでも安らぎを……後悔の無い生をお与えください………。)

 

香澄「みんな!大きな声出してスッキリしたし、このまま街の人たちに会いに行きませんか?」

 

日菜「良いねぇ!やっぱり勇者部として最後に挨拶しておかないと。」

 

香澄「それじゃあみんな行くよーーーーー……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員「「「勇者部、出動ーーーー!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

無垢なる彼女たちの願いは聞き届けられるのかーー

 

 

それは神樹のみが知っているーー

 

 

 

 

神樹は今日もただ静かに、彼女たちを見守っているのだろうーー

 

 

 

 

 

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