戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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死んでしまった者は何も答えてくれない。だけど、何かを遺す事は出来る--

それはバトンとなり、人から人へ受け継がれ、やがてそれは後世に大きな意味を持つ事だってあるのだ--




魂の行き場所

 

 

リサ「巴は今、別棟の部屋に隔離されてる。」

 

明日香「えっ!?……なんで?」

 

リサ「神官と言い争った後、大社を脱走しようとしたからなんだ……。」

 

明日香は言葉に詰まってしまう。言い争ったというのはまだ良く分かる。前から巴は大社に反発的なところがあったのは明日香も知っていた。今まで表立って言い争って反抗したりはしてこなかったが、神官と口論が起こるのは不思議ではないからだ。でも脱走をする理由が分からない。

 

リサ「言い争いの理由は、大社の内部で、紗夜を一時的に親元に帰して休養させようって意見が出たからなんだ。勿論バーテックスが襲来した時は、勇者として戦う事になるけど…。」

 

明日香「実家で休養するだけなのに、どうして巴が怒るの?」

 

リサ「………明日香は、紗夜の家庭環境を知らなかったね…。紗夜の家庭は少し複雑で……親と一緒に過ごす事が紗夜の為になるとは思えない。私も大社の提案には反対してるんだけど、私の意見が聞いてもらえるかどうか……。」

 

巫女として1番の力を持っているリサも巫女としての力を除けば普通の中学生の子供でしかない。どんなに大社内での発言力が高かったとしても、子供の意見が大人に通じるかと言われると甚だ疑問が残る。

 

リサ「それで巴は言い争いになって……。」

 

リサが曰く巴は紗夜を親元ではなく病院などに移し、しばらくの間、完全に戦線から退かせるべきだと大社の神官達に主張したようだ。しかし現在、あこと燐子が戦死し、高嶋は戦いで負った怪我が原因で入院中。そんな状態で紗夜まで完全に戦線離脱させてしまえば、残る勇者は友希那ただ1人になってしまう。

 

樹海化によって人々の命は守られてるとはいえ、バーテックスの侵攻で四国内の建物や街の一部が破壊される等、今でも被害が出ている。例えいくら友希那が強かったとしても、たった1人だけでは戦力が足りない。それでも巴はこう大社の神官達に訴えたのだ。

 

 

--

 

 

巴「被害が出るなら出ればいい。街が破壊されたからって、人が死ぬわけじゃない。いや、勇者を神聖視するのがあんた達神樹教の教義の一つなら、例え人が死んだとしても、何十人か何百人かの命より紗夜さん1人の命の方が重いだろ!」

 

 

--

 

 

明日香「それは……随分と過激だね…。」

 

巴は自分の意見を正直に言う人だ。以前にも"人の価値は全員等価で無い"などと言っていたのを覚えていた。巴にとって、紗夜の価値は他人何百人分よりもずっと重いのだろう。

 

詩船「大社としては、その考え方は当然受け入れられないだろうね。」

 

2人が振り返ると、詩船が話しかけてきた。

 

詩船「もし人間の命が等価で無い……つまり勇者の命が一般人のそれよりも価値が高いのであれば、そもそも勇者は何の為に戦ってるのか分からない。価値の低いものを守る為に、価値の高いものが犠牲になっている事になる。勇者の戦いの意義自体が揺るがされかねない。」

 

リサ「先生……人の命に対して…価値が高いとか低いとか、そういう言い方をしないでください。」

 

口調こそは敬語だったものの、リサの静かな言い方に明日香は気圧されてしまう。それに対し詩船は凛とした態度でそれを受け流し話し続ける。

 

詩船「巴は神官と言い争った後、無断で大社から脱走した。すぐに見つかって捕まったけどね。しばらく頭を冷やさせる為に……それと、巴の考え方が他の巫女達に伝染しない様に、別室で生活させる事になったんだよ。」

 

明日香「……。」

 

詩船「しかし、巴は大社を脱走して何をしたかったのか……それは分からないよ。2人に言っておくが、巴の事はしばらく放っておきな。犯罪をやった訳じゃない。すぐに解放されるだろうから余計な事はしない事だ。」

 

冷たい口調で2人に釘を刺し、その場を立ち去る詩船。

 

明日香「…食堂で巫女のみんながピリピリしてたのは、その事件があったからなんだね…。」

 

ため息を吐くしかなかった。引き篭もっている間に、状況は凄まじい速さで変化していた。丸亀城という前線では勇者がどんどん不利な状況に追い込まれているし、大社もガタガタである。

 

明日香「もう…どうなるんだろうね、私達……。」

 

希望が見えなかった。延々と暗闇の中を歩いている様な感覚。このまま人類が滅んでしまっても仕方のない事なのかもしれない。だけど、リサは明日香を励ます様に笑顔で尋ねる。

 

リサ「明日香。明日、ちょっと出かけない?」

 

 

---

 

 

翌日、羽丘総合病院--

 

明日香がリサに連れられやって来た所は良く知っている病院だった。

 

明日香「ここって……私の弟が入院してる所?」

 

リサ「そう。ここは天空恐怖症候群の治療を主にやってる病院なんだ。」

 

2人は病院の中に入る。今でも天空恐怖症候群に悩まされている者は少なくない。中に入ると、看護師に連れられて病院内を回る事になった。

 

看護師「巫女様にお見舞いに来て頂けるとは光栄です。きっと患者の皆さんも喜ぶでしょう。」

 

そんな言葉に明日香は戸惑った。英雄として祀り上げられている勇者程ではないが、巫女も世間一般からすれば、十分に敬意を払われる存在なのである。

 

そんなこの病院では、通院している患者もいれば、入院している人もいる。天空恐怖症候群の症状は空を怖がり、外出する事が出来なくなるもので、重いものになればバーテックス襲来時の恐怖がフラッシュバックして恐慌状態に陥る事もある。

 

症状の軽い人でも外を歩く事を躊躇うのだが、ここの病院の患者達は症状の重さが同じくらいの者でグループを作り、一緒に病院の庭を歩いたり、病院の周りを散歩したりして過ごしている。

 

看護師「あの患者さん達が外に出られる様になるまで、2年かかりました。」

 

庭を歩いている女の子達を見ながら看護師は教えてくれる。患者達はお互いに支え合い、病に立ち向かって治そうとしている。未来が見えない世の中でも、少しでも前に進もうとしているのだ。

 

嘆いて立ち止まってばかりではない--

 

 

 

諦めたりなどしていない--

 

 

 

 

人間は強いのだ--

 

 

--

 

 

そして最後に2人が向かったのは、明日香の弟がいる病室だった。

 

明日香弟「おねーちゃん!」

 

病院に入るや否や、弟は明日香に飛び付いてきた。ずっと大社にいるので弟に会えるのは年に数回だけ。だから、会った時は弟も喜んでくれた。

 

明日香弟「俺、やっと外に出られるようになったんだ!」

 

弟は嬉しそうに報告する。

 

明日香「本当に!?前は……窓を開ける事さえ怖がってたのに……。」

 

明日香弟「いつの話してるの、おねーちゃんは遅れてるなー!」

 

生意気な弟の言葉に怒るどころか思わず泣きそうになってしまう。"7.30天災"から4年弱、弟やこの病院にいる全ての人達が、バーテックス襲来という天災を乗り越えようとしているのだ。

 

リサ「前を向いて生きようとしてる人がいるなら、私達も諦める訳にはいかないよね。どんなに困難な状況でも、微かな可能性でも……道を切り拓いていかないといけない。そう思うんだ。」

 

明日香「……本当に…本当にその通りだね…。」

 

顔を上げる。前を向いて進んでいかなければならない。2人の為にも生きていかなければならない。

 

 

---

 

 

大社--

 

病院から戻った明日香はお風呂に入っていた。

 

明日香(気持ちを切り替えよう。いつまでも落ち込んでちゃ、あこと燐子さんに笑われちゃう。)

 

お風呂から上がると、部屋を軽く掃除し教科書やノートの準備をする。巴がいない事が少し寂しいが、すぐに戻ってくると言っていた。教科書を探していると、本棚の隅に一冊の本がある事に気がついた。

 

明日香「これ……燐子さんが大社に行く時に貰った小説だ。」

 

貰ったは良いが、結局内容が難しすぎて1度も読まなかった小説。今更ながら読んでおけば良かったなと思いながらページを捲っていくと、あるページの文章に線が引かれているのを見つける。

 

 

--

 

 

『人は死ぬ時、何かを残しておかなければならない、と祖父は言っていた。子供でも、本でも、絵でも、家でも、自作の塀でも、手作りの靴でも良い。草花を植えた庭でも良い。何か死んだ時に魂の行き場所になるような、何らかの形で手をかけたものを残すのだ。そうすれば、誰かがお前が植えた樹や花を見れば、お前はそこにいる事になる。』

 

 

--

 

 

明日香「そうか…….きっと…。」

 

明日香は立ち上がり部屋を飛び出した。

 

明日香(授業に復帰するのは、もう少しだけ延期だな。やらなきゃいけない事が出来たから……。)

 

 

---

 

 

翌日、丸亀城--

 

明日香は丸亀城へ来ていた。昨晩あの後神官達に丸亀城へ行く許可を申請したのである。大社の神官達は勇者のメンタルが安定していないからと反対されたのだが、明日香は一歩も譲らなかった。

 

明日香(もう私は間違えない。大人達や他人に配慮してやるべき事をしないで、全部が終わって後悔するくらいなら、初めから出来る事は全部やろう。それで失敗して後悔しても、私は構わない。)

 

もし行けないなら巫女を辞めるとまで言い、それが決定打となり神官達も反対出来なかったのだ。丸亀城へ行く前、明日香は病院にいるリサと友希那の元を訪ねていた。

 

 

--

 

 

病院--

 

現在勇者はたった3人しかいないが、高嶋は以前入院中、紗夜は精神状態を崩して部屋に引き篭もり滅多に出てこないらしい。勇者として問題なく活動出来ているのは友希那ただ1人となってしまっていた。

 

友希那「久しぶりね、戸山さん。」

 

挨拶をする友希那だったが、明日香は友希那の手に包帯が巻かれている事が目にとまった。

 

明日香「手、怪我してるんですか?」

 

友希那「………これは、ちょっとね…。」

 

友希那は表情を曇らせて言葉を濁した。

 

リサ「それにしても、急に丸亀城に行くって聞いたけどどうしたの?」

 

明日香「燐子さんの魂の行き場所を探すんです。」

 

 

--

 

 

燐子は頭が良い。明日香はあの小説の一節を見た時に気付いたのだ。勇者としてバーテックスと戦わなければならない事を告げられたあの日、いつか自分が命を落とすかもしれないという事を意識していたに違いないと。だからあの一節が燐子にとって深く印象に残り、線まで引いていたんだろうと。

 

明日香「魂の行き場所を……きっと遺してるはず。」

 

燐子の部屋に入ると部屋の半分以上が本棚が占めていて、しかもそれらの本棚は全部本でぎっしりと埋め尽くされていた。

 

明日香「やっぱり活字中毒だったんだな……。」

 

2人の部屋は、殉死した後もほとんどそのままにされているようだった。勇者の遺品は大社の管理物になっていて、家族でも勝手に持ち出したりする事は出来ない。巫女や神官達が遺品を全て確認した後、問題ないと判断されたものだけが家族に返される事になっている。

 

明日香「………。」

 

部屋の中を見ていると、手が止まってしまう。生きていた頃の生活や、あこが燐子の部屋に入り浸っている姿が容易に想像出来てしまうからだ。

 

明日香「……まずは机や家具から調べるかな。」

 

正直、燐子がどんなものを遺してるかは分からなかった。それに、そもそも燐子が何かを遺している確信すら無い。今やっている事は明日香自身が推測している単なる願望に過ぎないのだから。

 

 

--

 

 

机や家具からはめぼしいものは見つからず、次に本棚へと作業を移す。膨大な量の本ではあるが、明日香は一冊一冊取り出して調べていった。

 

そして日も暮れ始めた頃、最後の本棚を探している途中、明日香はシリーズものの大判の百科事典を手に取った時違和感を覚えた。大きさの割に軽く、振るとカサカサと変な音がするのだ。本を開けると、内部のページがくり抜かれていて空いたスペースに小さめのノートが入っていたのである。

 

明日香「これは……。」

 

恐る恐る中を開くと、細かな文字でぎっしりと文章が書かれていた。本などからコピーした文章や図等も貼り付けられていた。内容は勇者達の能力に関する考察。他の勇者達の戦いを燐子自身の目で観察して気付いた事や、神話に基づく推測等が書かれていた。読み進めていくうちにこのノートにはとんでもない事実が書かれている事に気がつくのだった。

 

 

--

 

 

燐子『勇者はバーテックスと戦う際に、"精霊"と呼ばれる存在を自らの身に降ろして、一時的に戦闘能力を上げる事が出来ます。これは勇者の通常の力だけでは倒す事が出来ないバーテックスが出てきた際に使う、切り札的な技となっています。』

 

燐子『ですが、精霊を降ろして戦った後、勇者達の性格にごく僅か、変化が起こっているように思えるようになりました。行動がやや乱雑になったり、苛立っている様な表情を見せる事が出てきます。しかし、それらは意識していても、気のせいだと思う程の僅かな変化です。精霊の影響だと断言する事は出来ません。誰にだってたまには機嫌の悪い日もある筈です。こう言ってしまえばそれまでです。』

 

燐子『私以外の全員が、戦いの中で複数回精霊を降ろして戦っています。なので、私は自分の身を持って実験する事にしました。誰にも知られる事の無いよう、たった1人で精霊"雪女郎"をその身に降ろしてみたのです。』

 

燐子『私の判断は間違っていませんでした。その日から数日間、私の精神に僅かながら変化が起こりました。苛立ちや落ち込み等の負の感情が起きやすくなったのです。特筆すべき事は結界外遠征の後にあこちゃんに起こった変調でした。あこちゃんは遠征中名古屋で一度精霊"輪入道"を使い、そして四国に帰還した後、体への違和感を訴えたのです。病院の検査では異常は無く、あこちゃん自身も気のせいと思っているようですが--』

 

 

--

 

 

この他にも、神話学や民俗学的な観点から、精霊に関して調べた事がびっしりと書かれていた。そのノートを見ながら明日香の手が微かに震える。

 

明日香「精霊が勇者の体に起こす異常……。」

 

そして友希那と会った時の事が脳裏に蘇る。

 

 

--

 

 

明日香「手、怪我してるんですか?」

 

友希那「………これは、ちょっとね…。」

 

 

--

 

 

明日香「あの時友希那さんは手に怪我をしていて、その事に関して言葉を濁していた……。まさか友希那さん達にもその兆候があったんじゃ…!そして今紗夜さんが精神状態を崩している原因は……!」

 

大社は紗夜の精神状態を回復させるために一度親元へ戻す計画を立てていた。今明日香が知った情報は大社の神官ですら知らない事実なのかもしれない。

 

明日香「勇者として戦って、勇者をずっと見てきた燐子さんだから、このごく僅かな変化に気が付けたんだ。」

 

この内容は最早軽はずみに他人に話せるものではなかった。勇者達の不安感を煽り更なる精神状態の悪化を引き出しかねないからだ。だから燐子は様々な事に確信が持てるようになるまでこの事実を誰にも話さなかったのだろう。このノートも部屋に出入りするあこにすら見つからないように、燐子はあこが絶対に手に取らないような本の中に隠していたのだ。

 

他の事典も調べてみると、そこには同じ様に勇者や神樹、バーテックス、精霊等についての考察を書き記したノートが数冊見つかった。燐子は2015年に勇者として大社に入ってから、ずっと記録をつけ続けていたのだ。

 

明日香「これは……すぐ調べてもらったほうが良い。勇者達の為に…!」

 

そのノートを持ち、後片付けも忘れて明日香は燐子の部屋を飛び出し大社へと急いだ。

 

明日香「きっと……きっと役に立つ。未来に……繋がっていく!」

 

途中で急に目の前がぼやけ、自分が泣いている事に気が付いた。

 

明日香「例え死んじゃったとしても……あこも、燐子ちゃんも、確かにここに存在していたんだ!」

 

そして燐子が遺したこのノートは未来に繋がり、後世に意味を持つ事となる。

 

 

---

 

 

その日の夜、明日香は夢を見る。

 

 

--

 

 

イネス--

 

明日香とあこ、燐子はイネスに来ていた。四国で1番の大型ショッピングモール。あこは幼い時に一度しか来た事がない為、その広さと店の多さに興奮していた。

 

あこ「コスプレショップはあるかな!?」

 

そんな事を言いながら、フロアを歩き回り2人はあこに振り回され疲れてしまう。一方で燐子は本屋を見つけると、その場から動かなくなってしまう。

 

あこ「次のお店に行こうよー、りんりんー!」

 

燐子「もう少しだけ……。凄く本の品揃えが良いから、もっと見てたい…!」

 

そんな風に言い合う2人を明日香は笑いながら眺めていた。

 

 

--

 

 

やがて2人も成長していき、大学生になった。その頃にはバーテックスとの戦いも終わっていて、3人は普通の女性として生活している。勇者と巫女だった時みたいに、滅多に会えない状況じゃないし、家も近くに越して自然と一緒にいる時間も多くなるだろう。

 

3人とも同じ大学に入り、

 

明日香「就職活動が大変だよ……。」

 

あこ「あこは自由気ままにやりたい事見つけていくよ!」

 

燐子「私は…自分のやりたい事が見つからないよ……。」

 

明日香「自分のやりたい事が分からず悩む事も青春だよね。」

 

あこ「あこと一緒にゲームしよう、りんりん!」

 

燐子「うーん……本が好きだから、出版とか、司書とかかな……。」

 

あこ「りんりんー!あこをスルーしないでぇー!!」

 

明日香・燐子「「あはははっ!!」」

 

そんなたわいもない話を笑ってする。そしていつか大学も卒業して、社会人になって、大人になって--

 

 

時が経って色々な事があっても、3人でたまに集まったり、一緒に遊びに行ったり、いろんな事を相談し合ったり--

 

 

 

ずっと--

 

 

 

 

ずっと仲良くしていく--

 

 

 

 

 

一緒の時間を積み重ねていく--

 

 

 

 

 

 

そんなとても(かな)しい夢--

 

 

 

--

 

 

朝目が覚め窓を開ける。外は春の空気に満たされていた。夢から醒めたこの世界には、あこも燐子もいない。

 

明日香「きっとこれから先、何度も何度も"ここにあこがいたら"だとか、"今ここに燐子さんがいたら"とかって思う事があるんだろうな。」

 

もし2人が生きていたらという可能性の世界と、2人がもういない現実の世界は、時が経てば経つほど隔たっていく。だから、大切な人を失った悲しみは、時間が経てば経つほどに大きくなっていくのだ。

 

明日香「私は2人の死を乗り越える事なんて出来ない。2人の死を乗り越えて、私だけが前へ進んでいく事なんて出来ない。私はずっと………2人の死を抱えて、一緒に進んでいくよ。」

 

その日から明日香は授業に出るようになり、以前と同じ生活に戻った。しかし、相変わらず巴は別棟の部屋から出てこなかった。

 

 

---

 

 

そしてそんな日が数日経った日の事、いつも通り明日香が教室に入ると、黒板には大きな字で自習と書かれていた。理由を聞く為明日香は近くにいた年少の巫女に尋ねる。

 

明日香「詩船先生、どうして休んでるの?」

 

巫女「大社の人達みんなで、会議をしているみたいです…。」

 

明日香「何かあったの?」

 

巫女「私も良く分からないんですけど……。」

 

一瞬躊躇うように口をつぐんだ後、衝撃の出来事を明日香に伝える。

 

巫女「氷川紗夜様が湊友希那様を殺そうとしたらしいんです……。」

 

 

 

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