巫女の名前を全員知っていたら、あなたは相当なBanG Dreamマニア。
リサ(あれはまだバーテックスが襲来する前の事だった--)
リサ(私はいつもの様に友希那の家へ遊びに行っていた。その日も友希那は道場で居合の練習をしていた。私は友希那が剣を振る姿を見るのが好きだった。)
リサ(道場での練習が終わった後、家の縁側でお茶を飲みながら他愛もない世間話をする。やがて友希那が練習の疲れでうとうとし始めると、私が膝枕をしてあげた。)
友希那「ありがとう、リサ。」
リサ「良いんだよ。友希那の膝枕を出来るのは、私の特権なんだから。」
リサ(幸せな日々だったと思う--私は友希那がいるだけで幸せだった。この平穏な時間がずっと続いてくれれば良いと思っていた。)
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リサ(ふと軒先を見ると燕が巣を作っていた。親鳥が雛達に餌を運んでくる。それを見た雛達は一斉に口を大きく開けて元気に鳴き声をあげた。)
友希那「仲の良い親子ね。」
リサ「そうだね。」
リサ(側から見れば仲睦まじい親子にしか見えないだろう。しかし親子の鳥の行動は、本当は仲が良い証でも愛情でもないという。)
"
一定の刺激に対する反射行動とも言われ、親鳥は雛鳥の口の中の色と鳴き声に反応し、反射的に餌を口の中に入れているだけなのだ。例えば親鳥が卵を温める行動も、子に対する愛情では無い。卵の形や色が鍵刺激となって反射的に行動し温めているだけと言われている。
リサ(だったら、鳥達の間に、愛情や感情は無いのだろうか--あの鳥達は、ただ反射を繰り返すだけで、心は只管に空虚なのだろうか--)
リサ(私はどうなんだろうか--)
リサ(私の行動には、本当に愛情や感情は伴っているのだろうか--)
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それから数ヶ月後、"7.30天災"が起こりバーテックスが襲来してくる。四国は神樹の結界によって外界と隔絶され、バーテックスの脅威から逃れた。それにより、人々は一先ずの平穏を得たのである。その中で友希那はバーテックスと戦う"勇者"となり、リサは神樹の声を聞く"巫女"となった。
勇者達は丸亀城に集められ、巫女達は大社の中に集められる。勇者はたった5人しかいないが、巫女はもう少しだけ数が多い。年齢も小学生から高校生とバラバラで、元々四国に住んでいた人もいれば、四国外から避難してきた人もいた。
リサが大社に来たばかりの頃、巫女はみんな暗い顔をしていて、周囲に漂う空気はとても重く息苦しささえ感じた。仕方が無かった。巫女達の中にはバーテックスに襲われ家族や友人を失ったり、自分自身がバーテックスに襲われ命を落としかけたりと、精神が不安定になっている人も多く、大人の様に感情を上手くコントロール出来ないのだから。だから毎日の様に喧嘩が起こり、虐めも多かった。
そんな中、リサは少しでもその空気を変えようと必死でみんなの中を取り持ってきた。そのお陰もあってか数ヶ月後には落ち着きを取り戻し、諍いも起こらなくなった。
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そんな中、リサは偶然神官が話していた事を耳にしてしまう。
神官A「今井様は何を考えているのかが分からない。我儘も言わないし、自分勝手な行動もした事がない。いつも他人の手伝いをしたり、諍いの仲裁をしたりと、そんな事ばかりしている。」
神官B「素直で良い子なのは間違いないが、まだあの年齢の子供が、あんな風に生きられるものだろうか?」
神官A「"気味が悪いな"。」
神官B「"どこかおかしいのでは?"」
リサは彼らが言っている事に怒りや悲しみは感じなかった。それどころか妙に納得してしまうほどだった。
リサ(何を考えているのかが分からない--)
リサ(私は多分とても空虚な人間なんだな。自分の中に、自分を中心にした欲求が無いんだ。行動の指針が自分じゃなく他人なんだろう。)
行動指針を他人に置いておく事を、"優しさ"や"思いやり"だと言ってくれる人もいるだろう。だが実際リサの中に今井リサという自分が無いだけである。それは傍から見れば"気味が悪い"事なのかもしれない。
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2019年、秋--
紗夜が亡くなった事や巴が大社から姿を消した事、そして7体の"完成型"バーテックスが襲撃した事もはるか昔のように感じる程に目まぐるしく事態は動いていった。7体もの"完成型"に友希那と香澄が立ち向かい、香澄が戦死し、友希那も大怪我を負った。被害は大きかったが、勇者は四国と神樹を守り通したのである。
そして香澄が神樹と一体になった事により結界は強化され、その後バーテックスの侵攻は起こっていない。今、大社ではリサがとある報告を行なっていた。
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大社--
リサ「--以上が、私が結界の外で見てきた光景です。」
昨日リサと友希那は結界の外に出て、世界の様子を目で確かめてきたのである。結界は強化されたものの、外界では相変わらず無数のバーテックスが蔓延っており、友希那と香澄がその身を犠牲に倒した"完成型"も全く同じ形のものが再び生まれていて、バーテックスは無限に再生を繰り返すという絶望的な事実を目の当たりにするのだった。
だが、1番大きな報告は、結界外の世界"そのものが創り変えられてしまった"という事。以前に結界外を調査した時には荒廃していたとは言え、まだ日本という国土だった筈なのだが、2人が結界外に出た瞬間、言葉では言い表し難い現象が起こった。
太陽が落ちてきて大地を飲み込み、地表は溶岩と炎に包まれ、空は昼でも夜の様に暗く、太陽も青空も見えない地獄の様な世界が目の前に広がっていったのだ。
老神官「神々は攻撃の手を緩めるつもりは無い……という事でしょうな。」
神官A「しかし、結界は強化されたのだから……。」
神官B「いや、それもいつまで持つかは分からない。」
神官C「勇者はもう湊様1人だけになってしまっている。万が一再びバーテックスが襲ってきたら、戦力が足りない。」
神官D「新たな勇者が発見されたという報告は無いのか。」
神官達は無秩序に話し始めるが、打開策は出てこなかった。やがて、神官の1人が苦渋の声で言った。
神官C「やはり………"奉火祭"を執り行うしかないのでは……。」
その言葉に誰もが黙ってしまう。
詩船「犠牲の重さを理解して言っているのかい?」
会議に参加していた詩船が冷たい視線を向ける。
"奉火祭"--
大社の最終手段として、少し前から検討されていた儀式。天の神と、その尖兵バーテックスに対する完全な降伏宣言。6人の巫女を犠牲とし、赦しを乞う言葉を天に届けるもの。人類は敗北を認め、これ以上の攻撃を止めてもらおうという儀式である。
リサ「奉火祭によって天に赦しを乞う……それ自体は賛成です。降伏して人々を守れるなら…これ以上の戦いをしないで済むなら……屈辱的でも敗北を宣言して赦しを乞うべき。だけど………。」
1番の問題は6人の巫女が犠牲にならなければならないという事--
神官C「今井様…….あなたのご判断次第です。」
神官達はリサを見つめ首を垂れる。リサは何も答える事が出来なかった。
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会議が終わった後、リサは廊下を歩きながら考えていた。奉火祭が執り行われると決まれば、犠牲になる巫女にリサが含まれる事は確実だったからだ。さっき神官が判断を委ねたのもそれが理由である。
今までに前例がない儀式の為、天の神から赦しを得られるかの確信は無い。だから大社は奉火祭を成功させる事に全力を尽くすだろう。犠牲となる巫女も、出来る限り"効果的な人材"を選ぶ筈である。リサは巫女としての適性が最も高く、巫女達の代表と言っても過言ではない。だからそんな人間を犠牲として差し出せば、天の神も人が完全に降伏したと認める可能性が高い。リサは犠牲として最適な人間なのだ。
それに神官の一部はリサを快く思っていない者もいる。この機会に消してしまえばいいと考えている者もいるだろう。もしリサが奉火祭を承諾すれば、速やかに執行に向けて準備が動き出すだろう。そして間も無く、奉火祭は実行される。
リサ(私以外にも5人の巫女が犠牲になるし、私がいなくなったら友希那はどうなるだろう?勇者のみんなが亡くなって、私も死んだら………たった1人だけ残された友希那はどうなる………?)
そんな事を考えているうちに食堂の前を通りかかると、夕食時だったのか明日香や他の巫女達が集まっており、リサを見つけたのか1人の巫女がリサの元に駆け寄ってきた。
光「リサさん、来ていたんですね!」
巫女の一人である日野光だった。普段は丸亀城で暮らしている為、中々顔を出す事が出来ないが、それでも巫女のみんなはリサに友達として接してくれていた。リサは食堂へ行き、巫女達の輪に加わる。その中に巴の姿がいない事に寂しく感じてしまう。巴の行方は今でも何処にいるのか分からなかった。
リサはみんなと話しながら、一人一人顔を見て落ち込んだり調子の悪い人がいないかを確認する。さっき話しかけてくれた巫女は最年少の巫女である中学1年の光。そして中学3年の鈴木佳奈子と仁藤史織。明日香と話している巫女は高校2年の豊崎麻里恵。他にも海老沢成美に真木園水とリサが親しくしている巫女が全員食堂に揃っていた。
明日香「今日は何か用事だったんですか?」
明日香が訪ねてきたので、大社へ来た理由と結界外の光景について話す。話し合えると、その場の空気が重くなったのが分かった。
佳奈子「でも、結界が強化されたんだよね?だったら、もうバーテックスは結界の中に入って来れないし……安全だよね……?」
不安そうに言う佳奈子に対し史織が首を横に振った。
史織「そうとも限らない。どんなに頑丈な壁でも、いつかは限界を迎えるよ。」
麻里恵「そうだね…その限界は数ヶ月後か、数年後か。ううん、もしかしたら数日後の可能性だってあるかもしれない。」
神樹の力も無限ではない。それどころか、天の神が本気で侵攻してくれば、結界なんて一瞬で破られるのではないかとさえ思える。これまでの戦いではっきり分かった事は、現状では天の神とバーテックスの力が、地の神と勇者達の戦力を遥かに上回っているという事だ。
リサは奉火祭の事は言わなかった。
リサ(みんなの中から5人が死ぬ…だなんて言えるわけ無いよ……。)
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丸亀城--
帰った後もリサは悩んでいた。教室の窓から城郭を眺めると友希那が懸命に素振りをしているのが見える。結界の外を見た後から友希那は今まで以上に厳しい鍛錬を自分に課している。怪我もまだ治っていないのに。まるで自分自身を痛めつけているかの様にも見える。自分以外の勇者達が亡くなってしまった事や友達を守れなかった事を悔やんで罰を与えているかのようだ。
リサ(今の友希那の心は、酷く危うい状態にある…。これ以上、友希那の心に負担をかけたら、きっと壊れるだろう。)
二人は物心ついた時からずっと一緒にいた。家族と同じくらい--いや、それ以上に、同じ時を過ごし共有してきた。リサにとって友希那は自分の半身の様なものだし、それは友希那にとっても同じ事だ。リサの死は友希那を完全に壊すのに充分だろう。
リサ「友希那を守る為に………私は死ぬわけにはいかない……。」
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丸亀城、城郭--
リサ「あまり無理しないでよ、友希那。」
友希那「分かっているわ。だけど、もう残っている勇者は私だけ……。この世界は、美竹さんと、燐子と、あこと、紗夜と、香澄が命を懸けて守ってくれたものよ。だから私も命を懸けて守らなければならないわ。」
最近の友希那は自分が死ぬ事を躊躇っていない。身近な人の死を多く見てきたからだろう。もし次の戦いが起これば、友希那はきっと命を落とす。天の神の力は圧倒的で、死はそれを恐れない人を優先的に呑み込むものだから。
リサ(友希那を死なせるわけにはいかない--)
リサ(友希那を生かす為には、戦いを終わらせなければならない--)
リサ(私は--)
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翌日、大社--
リサ「奉火祭を行いましょう。」
リサは会議室で神官達にそう提言する。
老神官「犠牲となる巫女の筆頭は今井様と戸山様となりますが、よろしいのですね?」
リサ「明日香に関しては、彼女の意見を尊重してください。私が犠牲になる事は受け入れます。」
リサ(私が死んだ後、友希那が失意に陥らない様、あらゆる手を打っておこう。暫くは私の死を隠しておいた方が良い。何かの理由をつけて。会えないという事にして。それとも、友希那とわざと喧嘩して、会いたくないという事にしておくか。巫女のみんなに協力してもらえば、私の死を隠しておく事は出来る筈だ。他にも考えられる限りの手を打っておこう。)
老神官「承知しました。それでは今井様以外に天の神へ捧げる巫女の選抜を始め--」
その時だった--
?「その必要はありません。」
老神官の言葉を遮るのと同時に、巫女達が会議室の扉を開け入ってきたのだ。先頭にいたのは麻里恵だった。麻里恵は一枚の紙を老神官の前に置いた。その紙には目を疑う内容が書かれていた。
麻里恵「私達巫女全員で話し合い、奉火祭の犠牲となる者を選びました。皆、了承しています。」
なんと麻里恵が提出した紙には、6人の巫女の名前が載っていたのである。
リサ「えっ………!?」
リサは困惑する。奉火祭の話はあの時には話していなかったのだから。その上紙に書かれた6人の名前の中にはリサも明日香の名前も書かれていなかったのである。当然神官は反発する。
神官A「これでは駄目だ。少なくとも今井様の犠牲は必要だ!今井様を残せば、天の神に服従心を疑われるかもしれない。古来、神は人を疑い、試すもの。服従すると決めなのならば、我々は全力で服従の意を示さなければならない!」
しかし麻里恵も引き下がらない。その目には強い意志がこもっていた。
麻里恵「今井さんを犠牲にすると言うのなら!我々巫女は、誰一人として奉火祭の犠牲になる事を了承しません!そうなれば奉火祭を行う事自体、不可能です!今井さんを除いた奉火祭でも、失敗するとは限らない。その可能性にかけることです。」
こうして会議は終了し、奉火祭は紙に名前を書かれた6人の巫女を犠牲として執り行われると決まった。
--
リサはとにかく困惑していた。奉火祭の犠牲に名乗りを上げた巫女は、豊崎麻里恵、日野光、鈴木佳奈子、仁藤史織、海老沢成美、真木園水の6人。全員がリサと仲の良い人ばかりだった。
リサ「………やっぱり人員を考え直そう!私が犠牲になれば、少なくとも1人は犠牲になる人が減る--」
光「これで良いんですよ、リサさん。この6人が犠牲になるのが一番良いんです。」
そう言いながら、光はにこやかに微笑んでいた。
リサ「どうして……。」
史織「犠牲者となるのを了承したの6人の巫女は、私含めてみんな自分から立候補したんです。私達6人は、身寄りのない者ばかりですし、死んでも悲しむ人は少ないです。」
リサ「でも!でも……私が…私は悲しいよ…。」
麻里恵「光は一番年下だからね、私もこんな子が犠牲になるべきじゃないと思うんだけど。」
リサ「だったら……私が………!」
その言葉を光が遮った。
光「リサさんは生きていてください。私は顔も知らない大勢の人々の為に死ねるほど、人間が出来ていません。でも、リサさんの為だと思えば…………私が死ぬのはリサさんを生かす為だと思えば、奉火祭に臨む勇気が出るんです。だからリサさんは生きていてください。」
リサ(こんな…こんな悲しい決断の仕方は………。)
俯き肩を震わせるリサに麻里恵は冗談っぽい口調で言う。
麻里恵「それにさ、今井さんを犠牲にしたなんて言ったら、湊さんが大激怒間違いなしじゃん!生き残ってる勇者はもう湊さんだけだし……湊さんには、今井さんが必要だから。」
明日香「私は………。」
何も言えなかった明日香もポツリと声を漏らす。本来であれば明日香も適性の高さから、奉火祭の犠牲になる筈だったのだ。
麻里恵「戸山さんも生きてないと駄目だよ。」
明日香「えっ?」
麻里恵「あなたがいなくなったら、あこちゃんと燐子ちゃんの事を語り継ぐ人がいなくなっちゃう。あこちゃんも燐子ちゃんも紗夜ちゃんも、勇者はこの世界の為に真っ先に犠牲になった。そんな勇者の事を語り継げる人は、1人でも多く生きていないといけないんだよ。」
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そしてそれから数日後、奉火祭は実行された。巫女達が壁の上から結界外の炎の中へ身を投げていくのを、リサはその場で見ている事しか出来なかった。