戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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"力"を求める少女と"力"を手にしている少女。正反対の2人が出会う時、それは思わぬ化学反応を引き起こす--




運命の出会い

倉田宅--

 

ましろは家に帰ってから、リビングのソファーに座り、今朝撒かれたチラシを眺めていた。自分と同じ"香澄"の名を持つ少女--チラシには"勇者部"と書かれているが、ましろにはそれが何なのかさっぱり意味が分からなかった。名前から部活の内容が全く想像出来なかったからだ。

 

書いてあった電話番号をスマホで入力し、発信しようとして、止める。それを何度か繰り返していると、仕事部屋から母親が出てきた。

 

倉田母「ふぅ…小休止。香澄、晩ご飯作るけど、何が良い?」

 

咄嗟にましろは、そのチラシを丸めてポケットにしまい尋ねる。

 

倉田「……お母さん。香澄って名前の人って、沢山いるのかな?」

 

倉田母「うん?そんなに多くは無いと思うわよ。私もあなた以外に会った事無いし。」

 

倉田「うちの学校にもう1人いたんだ。芙蓉香澄っていう。」

 

その言葉を聞いた途端、母親が驚いた声を上げて言う。

 

倉田母「芙蓉…香澄……って、リリちゃんじゃない!?」

 

倉田「リリちゃん?」

 

母親が何故驚いているのか、ましろには分からなかったが母親はその芙蓉香澄の事を知っているようだった。

 

倉田母「芙蓉・リリエンソール・香澄ちゃん!はぁ〜……同じ学校だったんだ…。」

 

倉田「リリエンソールって、何その名前?それよりどうしてお母さんが知ってるの?」

 

倉田母「香澄は覚えてないかぁ。まだ小さかったもんね。二十歳以上の人は殆ど知ってると思うわよ。」

 

母親が言うには、芙蓉香澄は今から7年程前にテレビで引っ張りだこだった子役タレントであり、その人気は凄まじく、ドラマやCM、バラエティ番組等で見ない日は無い程の少女だったのだ。

 

倉田「子役タレント……。」

 

倉田母「そう。もの凄い美少女でね、しかも名前は"香澄"でしょ。ハーフっていうのも目を引いたし。」

 

倉田「そっか、ハーフだからリリエンソールって…。」

 

前に聞いた事があった。四国が壁に閉ざされるより以前に外国から来た人には、苗字と名前の他にミドルネームというものがある人もいるらしいと。

 

倉田母「リリエンソールは芸名だと思うわよ。壁が出来た後に生まれた子は、ミドルネームは付けられないから。でも、芙蓉香澄っていうのは本名なんだって。大人気だったんだけど、一年くらいで芸能活動を辞めちゃって、その後どうしてるのか知らなかったけど……凄い偶然!同じ学校だったなんて!」

 

未だに興奮が冷めやまない母親。

 

倉田「…………。」

 

ましろは今朝、学校の屋上にいた変人とも言うべきあの少女の事を思い出していた。

 

倉田(有名な元子役タレント……。ハーフ、香澄、美少女と三拍子揃って、殆ど唯一無二の存在だったんだろう。きっと収入だって結構あったよね……。)

 

ましろは芙蓉香澄が羨ましかった。あんなに変人だったのに、彼女は自分よりも立派な"力"を持っていたから。

 

 

---

 

 

翌日--

 

外は良く晴れていた。ましろは昨日芙蓉が撒いたチラシに書かれていた電話番号に発信する。数回コールが続き、その後電話が繋がる。

 

倉田「あっ……えっと…私、あなたが屋上から撒いたあのチラシを見たんですけど…。」

 

芙蓉『……ふふふ、待ってたよ。この番号に電話をかけてくる人を。』

 

たった一言だったが、電話の向こうから聞こえてきた声は、普通の人とはまるで違う存在感を放っている事が分かった。役者特有の聞き取りやすく、脳へ直接響くような声。

 

芙蓉『私の同士たらんとする者よ!私の言葉に導かれよ。私は壁と天を睨む水神として待つ者だよ。目を覆う闇を払わんとする勇者よ、私の元にーー』

 

倉田「………。」

 

思わず電話を切ってしまう。聞き惚れる程の良い声なのに、言葉の内容に癖がありすぎる。危ない人間なのか、危ない人間を演じようとしている自意識過剰なのか。

 

倉田(この事は忘れよう……。)

 

 

 

 

 

そう思っていた--

 

 

 

 

それなのに--

 

 

 

 

数十分後、ましろは芙蓉に会う為に、汗だくになりながら真夏の太陽の下、自転車をこいでいた。

 

倉田「はぁ……はぁ……何やってるんだろう私………。」

 

芙蓉香澄に関わるのはもう止めようと思っていたのに、結局あの後もう一度ましろは芙蓉に電話をかけた。しかし電話は繋がらなかった。そしてましろは考えた。さっき芙蓉が言っていた言葉は暗号なのではないかと。

 

"壁と天を睨む水神として待つ者なり"

 

きっと芙蓉は海の向こうの"壁"が見える場所にいるのかもしれない。そして"天を睨む"と言う言葉は高い場所--山の頂上やビルの屋上だろう。

 

真っ先に思いついた場所は高屋神社だ。稲積山の山頂にあり、"天空の鳥居"と呼ばれる有名な鳥居がある神社である。

 

 

---

 

 

稲積山麓--

 

暫く自転車を走らせ、目的地の麓へ辿り着くき坂道を登る。歩いているだけで汗が額から零れ落ちた。時折バッグから水筒を取り出し、水を飲みながら進んで行く。

 

倉田(はぁ……何なんだろう…。私は芙蓉香澄に会って何がしたいんだろう?"香澄"仲間でも欲しい?"香澄"って名付けられた苦労話を語り合いたい?)

 

そんな事がましろの頭の中を駆け巡る。しかし、芙蓉香澄はましろよりも"特別"で"力"も持っている。それならば、"香澄"と言う名に引け目など感じていないかもしれない。

 

倉田「はぁ…はぁ…………。」

 

息を切らしながら階段を登りきり、ましろは本宮に辿り着く。ましろの予想通り海の向こうには四国を取り囲む壁も見える。しかし、どれだけ探しても芙蓉香澄はいなかった。

 

倉田「はぁ……バカだなぁ、私。」

 

大体芙蓉が言った事が本当に暗号なのか確信もなかった。意味深な言葉を、意味もなく口に出した可能性立ってある、むしろその可能性の方が高い。

 

倉田「……家に帰ろう。今度こそ忘れよう。もう気にしない。」

 

自分に言い聞かせるように言い、もと来た道を戻ろうとしたその時、再び携帯が鳴り始めた。画面を見ると見覚えのある、芙蓉香澄からの着信。

 

倉田「……………。」

 

出るべきかどうか迷った。しかしいつまで経っても着信は鳴り止まず、根負けして通話を繋いだ。

 

倉田「…もしもし?」

 

芙蓉『………あなたは今何処にいるの?』

 

倉田「高屋神社にいます。水神がどうとか言ってたので、ここにいるのかなって。でもいなかったですね。」

 

芙蓉『成る程成る程…やっぱりそっちに行っちゃったかぁ。千荊万棘……。』

 

倉田「もう私は帰りますね。」

 

芙蓉『…っ!?ちょっと待って!一回間違えただけで諦めちゃうなんて薄志弱行だよ。他にも同じ条件に当てはまる場所がある筈。』

 

倉田「…………。」

 

芙蓉『あなたが来るのを待ってーー』

 

ましろは通話を切った。

 

倉田(待っていようがなんだろうが、私はもう帰る!もう気にしない気にしない………。)

 

 

 

 

 

それなのに--

 

 

 

 

 

 

 

倉田「はぁ…………。」

 

 

 

 

 

ましろは今度は電車に乗り、東へと向かっていたのだった。

 

 

---

 

 

 

倉田「何やってるんだろう、私は……。」

 

電車に揺られ、ましろは高松駅に降り、そこで琴平電鉄に乗り換える。今ましろが向かっている先は嶽山。芙蓉香澄はましろの考えを間違っていないと言っていた。その時思ったのだ。もしかすると、山の頂上にあって、海の壁が見える神社は他にもあるのではないかと。

 

スマホで検索すると、検索結果には先程の高屋神社ばかりが出てくるが、かなり下の方に嶽山が出てきたのだ。最寄駅で電車を降り、スマホで道を調べながら歩き続ける。

 

 

---

 

 

嶽山麓--

 

かなりの距離を歩いて、ましろはようやく嶽山の麓に辿り着いた。

 

倉田「はぁ……。」

 

登山口を見た途端にいつものため息がこぼれる。さっきの高屋神社のように気軽に登れるかと思っていたが、嶽山の登山道は人を拒絶するかの如く狭くて薄暗く、そして周りにはましろ以外誰一人いなかった。

 

日が暮れかけているが、ここまで来てしまった。もう後戻りは出来ない。

 

倉田(まぁ、ここにいなかったら、諦めがつくかな。)

 

 

 

諦め--

 

 

 

この感情にふと疑問が生じる。まるで芙蓉香澄に会いたがっているかのようだからだ。確かに同じ"香澄"の名前を持つ人に興味はあった。しかし、どうしても会いたい程の思い入れはなかった筈なのだ。

 

そんな考えを頭の片隅に押し込み、ましろは山道を進み続ける。登り続ける毎に地面は岩を積み重ねた様な道へと変わり、傾斜も急になっていく。日が落ち始め、もしここで転落でもしたら助けに来る人はいないだろう。手摺りの代わりに備え付けられているチェーンを両手で握り締め、ましろは慎重に登っていった。

 

倉田「こんな道、参拝者がいないのも納得だな……。」

 

更に進み続けると目の前に"龍王神社"と書かれた鳥居が立っていた。

 

 

 

 

 

そして--

 

 

 

 

 

空気が夕日の茜色に満ちる中、鳥居の下には少女が立っていた。芙蓉香澄その人だった。

 

芙蓉「待ってたよ。」

 

芙蓉はましろを見て、口の端に笑みを浮かべながら言った。

 

芙蓉「よく私の言葉の意味を理解して、ここまで辿り着いたね。あ…あなたのような人が現れるのを………ま、待ってたん…だからぁ!!」

 

しかしすぐに余裕のあった表情は崩れ、芙蓉は泣きじゃくりながらましろに抱きついてきたのである。

 

倉田「ま、待って!なんで急に泣いてるんですか!?」

 

芙蓉「だ、だって……!ここに登ったのは良いけど、怖くて降りられなくて……!日が暮れてるし、ひぐっ、夜になっても誰も来なかったら…どうしようかって……!うぇえ……!」

 

倉田「………はぁ…。」

 

ましろは直感で理解した。彼女は木に登って下りられなくなった猫と同じなのだと。龍王神社まで登ってきたのは良いが、崖のような傾斜が怖くて、下りられなくなったんだろう。ましろは芙蓉が泣き止むまで、子供をあやすかの様に頭を撫で続けたのだった。

 

 

--

 

 

芙蓉「も、もうダメだぁ!足がガクガク震えてるし、踏み外して落ちるかもしれないよぉ!?」

 

倉田「大丈夫ですから、安心してください。下を見ちゃダメです!」

 

芙蓉「落ちそうになったら受け止めてよ!?」

 

それからなんとか泣き止んだ芙蓉と一緒に下山した。大丈夫だと言い聞かせ悪戦苦闘の末、ようやく2人はなだらかな場所まで降りる事が出来た。

 

芙蓉「………ふふっ、感謝するよ、お陰で助かった。あのまま山頂で夜を明かす事になるかと思った。」

 

安全な場所に来た途端、さっきまで涙目で叫んでいた芙蓉は、急にしゃっきりとした態度で話し出す。

 

芙蓉「さて、あなたの名前は?」

 

倉田「倉田ま--」

 

芙蓉「ま?」

 

すんでのところで言葉に詰まった。本当の事を話すべきかと頭の中で考えが目まぐるしく駆け巡る。

 

倉田「香澄。倉田香澄です。」

 

芙蓉「香澄!?あなたも香澄なの?私と同じ名前だね。同気相求!」

 

ましろは初めて自分から他人に本当の名前を明かした。不思議と芙蓉には自分の事を知ってもらいたかった。そう思ったのである。

 

芙蓉「私が撒いたチラシを見て連絡してきたって事は、私の"勇者部"に入りたいんだね?」

 

倉田「……………。」

 

芙蓉「歓迎するよ、倉田香澄ちゃん!ようこそ勇者部へ!」

 

満面の笑みで、芙蓉はましろに向かって手を差し出してきた。

 

 

 

 

 

 

しかし--

 

 

 

 

 

 

 

 

倉田「いや、私、別にそんな部活に入るつもりはありません。」

 

芙蓉「………………ふえぇ!?」

 

思いもよらぬ回答に、芙蓉の口からは変な声が漏れ出る。そしてこれが2人の香澄の運命の出会いだった。

 

 

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