戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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大赦が全ての真実を隠した事により作られた平和な日常。それはまるで箱舟の様。




その名は"勇者部"

神世紀29年、7月某日、うどん屋--

 

その日の放課後、ましろは芙蓉と向き合っていた。

 

芙蓉「今から遡る事30数年前……その頃、まだ四国の周辺の海を囲む壁は存在しなかった。人々は四国の外にある日本の国土全体、それどころか日本の外の"外国"と呼ばれる他の国々まで気軽に移動してたんだ。」

 

ましろは芙蓉の話を聞きながら、割り箸を割った。

 

芙蓉「倉田ちゃんも聞いた事あるでしょ?アメリカ、ロシア、イギリス、中国……日本以外の様々な国の名前を。」

 

2人の目の前には今、うどんの丼が置かれている。トッピングにワカメや蒲鉾、餅の天婦羅が入っている。

 

芙蓉「だけど、西暦2015年。"7.30天災"と呼ばれる天変地異で"星屑"や"バーテックス"と呼ばれる化け物が日本に襲来……四国には"神樹"と言う謎の樹木と"壁"が出現した。化け物は壁の内側には入って来られなかったけど、壁の外は壊滅的な被害を受けた。四国を除く日本の外ーー外国に至っては、状況が全く分からなくなってしまった。」

 

倉田「………。」

 

芙蓉「バーテックス対策機関である"大赦"--その当時は"大社"と呼ばれていた機関が表立って活動を始めて、なんとか四国内の混乱を収めていったんだ。」

 

このうどん屋は学校からは少し離れた場所にあり、月ノ森の生徒もあまりやって来ない。その為、勇者部の秘密の作戦会議には持ってこいなのだと、芙蓉は鼻高々に言っていた。尤も、倉田は勇者部に入ったつもりは無いのだが。

 

芙蓉「西暦2015年に四国の壁が出来てから数年間……壁の外は壊滅的な被害を受けても、壁の内側は比較的平和な時期が続いた。勿論、"7.30天災"の際に四国外から逃れてきた避難民も沢山いて、その人達をどう受け入れるかに関しては、社会的なレベルで混乱があったんだけど、そんな事は四国外の壊滅的被害に比べれば枝葉末節。大きく状況が動いたのは西暦2018年。」

 

倉田(……あっ、このうどん美味しい。)

 

芙蓉「2018年以降、"星屑"や"バーテックス"が壁の内側に侵入するようになった。それらと戦い、四国を守ったのが"勇者"と呼ばれる者達。四国の勇者は丸亀城を拠点にして、全員で"4人"って言われてる。その勇者の1人が"高嶋香澄"。私や倉田ちゃんの名前である"香澄"の嚆矢濫觴たる人なんだ。」

 

倉田「………。」

 

ましろは無言でうどんを啜り続け、口直しにトッピングの天婦羅に口をつける。

 

倉田(……海老ちくわも美味しい…。このお店、今度また行こう。)

 

芙蓉「だけど、勇者達はバーテックスとの戦いの中で次々に命を落としていった。高嶋香澄も、2019年に起こった、歴史上最後のバーテックス襲来の際に命を落としたんだ…。生き残った勇者は、あの花園友希那様だけ。友希那様は今でも御健在で、時々公務で人々の前に姿を見せるよ………って、さっきから聞いてる?倉田ちゃん。」

 

倉田「………え?聞き流してました。うどんが伸びちゃうといけないですし。」

 

その言葉で芙蓉はガクリと肩を落とした。

 

倉田「でも、さっき言ってた事は私も軽くだけど知ってるよ。細かい事までは初耳だけど。芙蓉ちゃんも早くしないと、うどん伸びちゃうよ?」

 

芙蓉「ここからなんだよ!私が問題視してるのは、西暦2019年以降……年号が"神世紀"に改められた後!」

 

そう言うと、芙蓉はスクールバッグからタブレット端末を取り出して、あるページを表示させる。

 

 

『勇者部電子基地〜勇者と壁とバーテックスの真実を探求する部活動〜』

 

 

ブログのページだった。芙蓉はその中にある記事の1つを開いて見せた。

 

倉田「"バーテックスの実在性に関する疑義"………。」

 

ましろが記事を読んでる間に、芙蓉も割り箸を取りうどんを食べ始めた。

 

芙蓉「そこに書いてある通り、全ては大赦の陰謀詭計と権謀術数なんだよ!私達は騙されてる!」

 

目を輝かせながら芙蓉は語る。食べる動作1つとっても美しいのだが、この言動のせいでどこか残念美人感が否めない。

 

芙蓉が見せたページに書かれていた事は、要約すると"勇者やバーテックスが実在するかは疑わしい"という事。陰謀論の類だった。

 

芙蓉「バーテックスが存在した時期からたった30年程しか経ってないのに、これらが存在したっていう明確な証拠は殆ど無いんだよ!公的な記録として見れる写真や映像も無い!勇者とバーテックスが戦っている写真や映像も、何一つ見つける事は出来なかった。」

 

確かに芙蓉の言う事にも一理あった。たった30年。勇者やバーテックスがいたという事実が本当ならば、まだ傷も癒えていない神世紀になってからの記録は何処にも無いのはおかしい。また西暦2019年を境に、四国に攻めて来なくなったのにも疑問が残る。

 

芙蓉「バーテックスはなんらかの理由で死滅したって考えるのが当然だよね。」

 

倉田「でも、バーテックスや星屑が四国へ来なくなったのは、大赦が何か"儀式"みたいな事をやったからってテレビでは言ってますけど。」

 

そう言うと、芙蓉は首を大きく横へ振った。

 

芙蓉「その儀式だって、具体的に何をやったかは公表されてないし、誰もその詳細を知らないんだよ。大体、儀式をやったくらいで解決するのなら、どうして初めからそれをやらなかったの?勇者が戦死して、甚大な被害が出るまでやらなかった理由が無いよ。」

 

倉田「確かに……。じゃあ、どうして大赦はギリギリに追い詰められるまで、その儀式をやらなかったんだろう。」

 

芙蓉「だから思うんだ。バーテックスなんて初めから存在しなかった。そして勇者がそんな化け物と戦ったなんて捏造なんじゃないかって。」

 

倉田「でも、それならなんで四国には未だに壁があって、私達は壁の外に出られないんですか?」

 

その言葉を聞いて、芙蓉は不敵な笑みを浮かべる。

 

芙蓉「ふふふ……倉田ちゃんも壁を巡る陰謀に、興味が湧いてきたんじゃない?」

 

罠だった。この流れだと、自分から興味がありますと言っている様なものだ。芙蓉はしてやったりという顔で手を差し出す。

 

芙蓉「無常迅速だよ。興味が湧いたら、すぐに勇者部に入学しよう!勇者部の活動目的は、四国を囲む壁を越えて、その外へ出る事!壁の外へ出れば、世界の真実は全て明らかになるはず!さぁ入部しよう!」

 

倉田「イヤです。」

 

ましろは素っ気なく断り、うどんを食べ終わって箸を置き、席を立った。

 

芙蓉「あぁ、待ってよぉ!今私も食べ終わるからぁ!」

 

芙蓉も慌ててうどんをかき込み、店を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

2人が店を出た直後、2人が座っていたテーブルのすぐ後ろの客2人が席を立ち退店。そして2人が歩いていった方角を見つめ、呟いた。

 

?「勇者は"4人"か…。仕方がないとはいえ、無かった事になるっていうのは辛いよね。」

 

?「そんな事ないさ。例え全ての人が忘れようとも、私が覚えてる。私の心の中にはいつまでもあの人がいるんだからさ。」

 

?「この世界の真実を知ろうとする者………髪色は違うとは言え、確かにあの子は高嶋さんと瓜二つだね、巴さん。」

 

巴「そうだな、明日香。知らないまま平和に生きていく事。真実を知る事。どっちが幸せなんだろうな。」

 

明日香「それは本人達が決める事だよ。行こう、リサさんと友希那さんが待ってる。」

 

そうして2人は香澄達とは逆の方へ歩いていった。

 

明日香「2人に神樹様の御加護がありますよう……。」

 

 

---

 

 

龍王神社で芙蓉に会ってから数日が経っていた。ましろは毎日のように、芙蓉から"勇者部"に入って欲しいと勧誘を受けている。

 

 

"勇者部"--

 

西暦から神世紀への転換期に起こった様々な事件や、バーテックス、勇者、四国を囲む壁等に関する真実を探求する部活動。

 

しかし、そもそも勇者部は学校からは正式な部活動とは認められていない。

 

部の目的は、壁を越えて四国の外へ出る事。30年程前、勇者は壁の外へ出て四国外調査を行ったと言われていた。その勇者の様に、四国の外に出てやろうという部活動。故に"勇者部"。

 

倉田(だけど、私も芙蓉さんもただの普通の中学生。30年間誰も越えた事の無い壁を越えるなんて、出来る筈がない。そんな事に時間を費やすよりも、私は"力"を得る為の活動をしたい……。)

 

そうは考えるものの、結局何をすれば良いのか、相変わらず答えは見つからなかった。

 

 

---

 

 

8月某日--

 

ましろは朝ご飯を食べながらニュースを見ていた。そこでは、祭礼の一環として剣術の演舞を行う40代ほどの女性が映っている。

 

その女性の名は花園友希那。居合と剣術の達人で、バーテックスと戦った勇者で唯一の生き残り。そして友希那の側には同じ年頃の女性、今井リサが控えていた。"大赦"において友希那は看板的な存在であり、リサは機関運営の実質的なトップだ。

 

友希那の外見は至って普通の女性。対してバーテックスは数十メートルの巨体だと言われている。いくら友希那が剣術の達人だからとは言え、体格差がありすぎる。勇者は特殊な力を授かって戦っていたとも言われているが、その映像も残されていない。だからこそ芙蓉の様に、勇者やバーテックスを陰謀論と唱える者が現れたりするのである。

 

ニュースを見終えた時、当然芙蓉から電話がかかってくる。

 

倉田「もしもし?」

 

芙蓉『………倉田…ちゃん……。』

 

発せられたその声は、今にも消えてしまいそうな程か細かった。

 

倉田「ど、どうしたんですか!?」

 

芙蓉『………うん、何でもないよ…。休みの日にごめんね………。』

 

声がどんどん弱々しくなっていく。その声は助けを求めている様にも思えた。

 

芙蓉『…短い間だったけど………今までありがとう……さようなら…。』

 

このまま電話を切ってしまったら、何が起こるか分からない。ましろは直感でそう思った。

 

倉田「ま、待って!何があったんですか!?今、何処ですか!?」

 

芙蓉『…………。』

 

数秒の沈黙。しかし、そのお陰で電話口の向こうから微かに波の音が聞こえてくるのが分かった。

 

倉田「海……すぐ行くから待っててください!」

 

芙蓉『…………。』

 

返事は返って来ず、通話が切れる。ましろは急いで家を飛び出した。

 

 

---

 

 

有明浜--

 

息を切らしながら、芙蓉を見つけたましろ。芙蓉は1人砂浜に立っていた。

 

芙蓉「延頸鶴望!待ってたよ、倉田ちゃん。早速勇者部の活動を始めよう!」

 

電話越しでの弱々しさは微塵を感じられなく、そこにいた芙蓉香澄は明るく元気いっぱいだった。

 

倉田「…………へ?」

 

芙蓉「勇者部の活動を始めよう!」

 

倉田「さ、さっきの電話は何だったんですか…!?」

 

芙蓉「ああやって言ったら、来てくれるかもしれないって思ったんだ。久しぶりに本気で演技をしてみたけど、案外上手かったでしょ?」

 

失念だった。引退したとは言え、芙蓉は元子役。言葉や雰囲気に感情を乗せる事が異常に上手いのだ。ましろは完全に騙されていたのである。

 

倉田「………帰ります。」

 

芙蓉「わああっ!待って待って!騙す様な事してごめんね!ちょっとだけ話を聞いてよぉ!」

 

倉田「…何ですか?」

 

芙蓉「倉田ちゃんを調べたんだ。倉田ちゃんは何個かの部活で助っ人部員をやってるよね?」

 

この言葉にましろは驚いた。この事は各部長や一部の部員しか知らないからだ。しかも、その人達には固く口止めをしている。その為今までこの事が他人に漏れた事は一度もなかった。

 

芙蓉「その秘密の事で、脅迫したい訳じゃないよ。ただ、倉田ちゃんがアルバイトとして助っ人をしてるのなら、勇者部でも助っ人として活動するのはどう?」

 

倉田「他人の事を探る人の事なんか信用出来まーー」

 

芙蓉「時給1000円。」

 

倉田「…っ!?」

 

芙蓉「助っ人代としてそれだけ払うよ。他の部活じゃ、一試合1000でしょ?割高だと思うな。」

 

ましろはかなり迷った挙句、これを承諾する。時給1000円はかなり魅力的な提案だったからだ。

 

倉田「はぁ……。何か私、段々芙蓉さんの言う事に逆らえなくなってきてる気がする……。」

 

芙蓉「決まりだね!じゃあ、記念すべき勇者部の部活動第一回目だよ!」

 

倉田「一回目?今まで一人で活動してきてたんじゃないんですか?」

 

芙蓉「まぁ……それは…こういう部活動は一人でやるものじゃないって思ってたから………。」

 

目を泳がせながら芙蓉は答える。

 

芙蓉「そ、それよりも今日の部活動の内容だよ!今まで話した通り、私達勇者部の目的は、四国を囲む壁を越えて、その外に出る事。今日はその一歩目として、陸路の壁超えルートを調べよう。」

 

倉田「陸路?」

 

芙蓉「壁ができる前、四国は日本の本州と3つの橋を通るルートで繋がってたんだ。香川の瀬戸大橋、徳島の大鳴門橋、愛媛の来島海峡大橋。そこに行ってみよう。」

 

倉田「行き方は調べてあるんですか?」

 

芙蓉「おおっ!乗り気になってきたね、倉田ちゃん!」

 

倉田「今の私はこの部の助っ人です。雇い主のやりたい事には全力で協力します。」

 

芙蓉「正式な部員になっても良いんだよ?」

 

倉田「それは断ります。」

 

芙蓉「がっくし…。」

 

 

--

 

 

2人は砂浜を歩きながら計画を練っていく。少し歩くと、芙蓉は立ち止まりましろの方を向いた。

 

倉田「どうしました?」

 

芙蓉「私の電話で、心配して来てくれてありがとう。嬉しかったよ。」

 

倉田「っ!?」

 

満面の笑みで芙蓉はましろに言った。ましろはその言葉で頬が赤くなるのだった。

 




勇者部活動報告第0回--

昨日、屋上から部員募集の紙を巻いた事は、先生達に酷く怒られてしまったけど、まど1日しか経っていないのに、もう入部希望の生徒から電話があった。

私と同じ、"香澄"の名を持つ生徒だ。とは言え、世界の真実を探求する我が部である"勇者部"に入るには、閃きと行動力が要求される。中途半端な人を入部させる訳にはいかないからね!

私は倉田さんに入部試験を課した。暗号を解いて、私が指定する箇所に来られるかどうかという試験。

水神という言葉は龍を表し、天を睨むという事は山頂にあり、そして海の壁も見える。私の暗号の答えさ嶽山の龍王神社!

私は嶽山山頂で、倉田さんを待った。暫くして、彼女は暗号を解いて、そこに現れた。想定外な事は起こったけど、私はカッコよく幻想的な雰囲気を演出して、倉田さんを迎える事が出来た!

だけど、倉田さんは入部を拒否してきた。試験をクリアしたのにどうして!?

人間の時間は有限だ。私の人生にどれだけの時間があるのかなんて、誰にも分からない。

生死不定。電光朝露。光陰如箭。いち早く彼女を説得して、勇者部に入れないと。

勇者部の目的は、四国を囲むあの"忌まわしき壁"を超える事。その為の同志は少しでも多い方がいい!

                             7月某日 芙蓉香澄
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