戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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ましろは思っていたーー芙蓉の"力"が羨ましいと。

芙蓉は思っていたーー自分には"力"なんて無いと。


互いの気持ちを知った時、2人の想いは一つになる。



虚構の絵空事

 

倉田宅、仕事部屋ーー

 

倉田「お母さん、ちょっといい?」

 

部屋に入ると、ましろの母親はパソコンに向かっていた。

 

倉田母「うん、どうしたの?もう夕飯の時間だっけ?」

 

倉田「いや、夕飯じゃなくて……聞きたい事があるんだ。」

 

倉田母「……何?」

 

口調から深刻さを感じたのか、母親はパソコン画面からましろに向き直る。

 

倉田「私のお父さんって、どうして死んだの?」

 

そう尋ねると、母親は暫く黙り込み口を開く。

 

倉田母「………そっか、まだ話してなかったね。なんとなく話す切っ掛けがなくて、ずっとそのままにしてた。そうね、もう香澄も中学生だし、話してもいいけど……。ねぇ、香澄。あなたには味方がいる?」

 

倉田「味方?」

 

突然の事に少し驚いた。

 

倉田母「えっとね、難しい意味じゃないの。あなたに何があっても、力になってくれる人。あなたが落ち込んでたら、励まして支えてくれる人。あなたが苦しんでたら、一緒に隣を歩いてくれる人。あなたが間違った事をしようとしたら、それを止めてくれる人……。勿論お母さんは、どんな時も香澄の味方よ。でも、私以外にそういう人はいる?」

 

母親からそう言われ、1番に頭に浮かんだ人物が1人いたーーそう、芙蓉香澄だった。

 

 

ーー

 

 

芙蓉「私は倉田ちゃんにはきっと力があるって信じてるよ。最も、例え倉田ちゃんに力があっても無くても、倉田ちゃんがどんな名前だって、何者だって、私は倉田ちゃんの味方であり続けるけどね。」

 

 

ーー

 

 

自分の名前が、"力"が無い事が嫌いだと言ったあの日、芙蓉はましろを抱きしめてそう言ってくれたから。

 

倉田「………いるよ。」

 

そう答えると、母親は頷いた。

 

倉田母「そう、だったら話すわ。あなたのお父さんはね、"自ら命を絶った"のよ。」

 

倉田「自……殺…。」

 

倉田母「この前、天恐ーー"天空恐怖症候群"については話したわね?香澄のお父さんもね、それだったの。お父さんはもともとは四国の外からの避難民だった。星屑に襲われて、何とか壁の中に逃れてきた人達の1人…お父さんもまだその時は子供だったから、特に星屑に襲われた時の恐怖が強かったんだと思う。天空恐怖症候群になって……でもね、"殆ど"治ったのよ。」

 

そうして母親は父親が死ぬまでの事を全て話してくれた。父親は小学生の頃に星屑から逃れ、四国の壁の中へと避難し、その時に"天空恐怖症候群"を発症、空を恐れて外に出る事が出来なくなってしまった。

 

神世紀へと移り変わり、バーテックスや星屑が四国を侵攻しなくなった後、大赦のトップとなった今井リサの方針により、天恐の患者の治療に力が入れられ始めた。天恐発症者達の殆どが回復し、父親も症状は良くなり、成人する頃には外に出られるようになった。生活するのにも全く支障がない程だった。実際に母親も結婚した後一緒に暮らしていて、天恐の患者だと全く意識していなかったらしい。

 

しかし、僅かにーー本当にごく僅か、ふとした瞬間にバーテックスに襲われた時の記憶がフラッシュバックし、パニック状態に陥ってしまう事があった。そのせいで1つの勤め先に長く勤める事が出来なかった。何かの切っ掛けでパニック状態に陥るのか分からない事は会社にとってもリスクがあり、天恐の発症者に対する偏見も根強く残っていたから。

 

心理的な病の一種だと医学者が言っても、"天恐は伝染する"という根も歯もない噂が囁かれ嫌悪する人もいたし、天恐患者や壁外からの避難民への誹謗中傷も多かったという。

 

倉田母「お父さんと暮らしてた頃、私も周囲の人から酷い悪口を言われた事があったわ。"あなたの旦那のせいで天恐に感染したらどうするの"とか。ここに引っ越してくる前は、マンションやアパートを借りるのだって何度も断られた事があった。」

 

そう言いながら母親は力なく笑った。結局、父親は仕事も転々とし、周囲から嫌悪と非難の目を向けられ、精神的に摩耗していったのだ。

 

倉田母「それで、香澄が生まれて間もない頃、自ら命を絶ってしまった。」

 

倉田「何で……何で今まで教えてくれなかったの?」

 

そう言うと、母親は机の引き出しを開け、一枚のメモをましろに見せる。

 

 

 

 

 

『私が四国の外から来た事、天恐だった事、そして自殺した事は香澄には黙っておいてくれ。そうすれば香澄は、そしてお前も周囲から悪い目で見られる事もない。あの子は悪くない。あの子にはこんな悲しい思いをさせずに幸せになって欲しいから。辛い役目を押し付けてしまって申し訳ない。』

 

 

 

 

倉田母「お父さんは香澄を守ろうとしたのよ。自分の存在を無くす事で、香澄と私に偏見や誹謗中傷が浴びせられないように……バカなやり方だったけどね。でも、もし香澄が誰かに傷付けられそうになっても、今は味方になってくれる人がいるんでしょ?だったら、もう話しても大丈夫かなって思ったの。」

 

少しだけ母親は微笑んでそうましろに言った。

 

 

 

ーーー

 

 

ましろ達が生きる時代は、バーテックスや星屑との終末戦争が終わって約30年の月日が経っている。ましろは終末戦争前の事は知らないし、その時代の事も知らない。しかし、その頃に起こった出来事は、確実にましろ達に影響を及ぼしている。

 

 

 

 

30年ーー

 

 

 

ましろが生まれてから生きてきた時間の約2倍もの時間ーー

 

 

ましろにとって見れば長い時間。だが、人類の歴史からすれば、一瞬の時間なのだろう。ましろは旧世紀の戦争に未だに縛られているのだ。

 

倉田「はぁ……。きっと、私だけじゃない…リリさんも…。」

 

 

ーーー

 

 

9月下旬ーー

 

ある日の土曜、芙蓉から丸木船が出来上がったとメールが来る。明日の夜に出発するとあったので、ましろは待ち合わせを取り付けるのだった。

 

 

ーーー

 

 

翌日の夕方、仁老浜ーー

 

あれから考えたものの、芙蓉を止める方法は全く思いつかない。2人は詫間駅で待ち合わせをし、バスを乗り継ぎ仁老浜へと辿り着く。

 

倉田「どうしてここへ?」

 

芙蓉「荘内半島は瀬戸内海へ突き出してるから、壁に少しでも近いんじゃないかって思ってね!それに船を作る為には人気の無い所が望ましい。壁に近くて人気が無い……この条件に合う場所を探してたんだ。」

 

意気揚々と話しているが、話している内容はかなり無謀な事である。

 

芙蓉「このあたりはハイキングコースの一部で、歩いてくと一番先に灯台がある。その途中にある関ノ浦って場所が目的地だよ。」

 

倉田「はぁ……分かりました。でも、リリさんがやろうとしてる事には反対です。いざとなったら……。」

 

芙蓉「力ずくでも止める、でしょ?それなら、私は倉田ちゃんがいない時に勝手に行くだけだよ。」

 

強気な口調で答える。今回、芙蓉が海に出る事をましろに伝えたのは、あくまでましろへの義理でそうしただけなのだ。もし自分の行動を邪魔するなら、芙蓉はましろに知らせず勝手に行くだろう。彼女の意思を曲げない限りは結局止める事が出来ない。2人はハイキングコースを歩き続けた。

 

 

ーー

 

 

30分後ーー

 

関ノ浦への道標を見つけ、2人はハイキングコースの道から外れ脇道を進む。そしてその道を抜けた先に、小さな砂浜が現れた。周りには2人以外に人の影は見当たらない。辺りは既に日が沈みかけていた。9月ともなると、日の落ちは早くなり一気に暗くなっていくだろう。

 

芙蓉「いい感じに暗くなってきたね。もし海に警備隊がいたとしても、夜闇の中で小さな船一つ見つけるなんて無理難題だよ!だからこそ壁まで到達出来る可能性は高い!それじゃあ肝心の船を出すよ。」

 

砂浜には漂流してきたと思われる流木や枝等が散らばっていた。そしてそれらに紛れるように、一際大きな木の幹が転がっている。その幹の下には、板と石が差し込まれていた。

 

芙蓉「よいしょ……っと!」

 

芙蓉が全体重を乗せ木の板を踏みつけると、テコの原理で木の幹が動いてひっくり返る。すると、その幹の中はくり抜かれており、その中にはチェーンソーが入っていた。

 

芙蓉「ふぅ……どう?木を隠すなら森の中。丸木船はこうしてひっくり返せばただの一本の木の幹だし、周りの漂着物のせいで目立たない!」

 

倉田「この幹は何処から持ってきたんですか…?」

 

周りを見回すが、これと同じ様な太さの木は生えていない。

 

芙蓉「大変だったよ。この辺りの山林を歩き回って、一番大きな木の幹を見つけて、このチェーンソーで切り倒した。それをここに運んできて、少しずつ内側を削ってくり抜く……。夏休みから毎日ここで作業をしてたけど、結局1ヶ月以上かかっちゃった。えいっ!!」

 

力一杯に押し出し、船は浅瀬へと動き出す。そして船は海に浮かび、芙蓉はオールを持ってその上へ乗る。

 

芙蓉「出港は私だけでやるよ。壁越えは私が勝手に始めた事。倉田ちゃんまでバカな行動に付き合う必要はないよ。」

 

そう言って芙蓉は海へと漕ぎ出していく。ましろは迷っていた。この無謀すぎる行動を力ずくで止めるべきなのかを。完全に自殺行為だった。速度は遅いが、段々と芙蓉は浜から遠ざかっていく。今止めなければ、確実に芙蓉は漂流するだろう。

 

倉田「リリさん!やっぱりやめーー」

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、芙蓉が乗った丸木船は回転して転覆した。

 

 

芙蓉「うわーー!!溺れるうぅぅぅ!助けてぇーー!」

 

倉田「落ち着いてください!今助けます!」

 

ましろは慌てて海へ入り、芙蓉を捕まえて浜に戻った。

 

 

ーー

 

 

芙蓉「げほっ、げほっ………………うぅ…。」

 

芙蓉はずぶ濡れになって砂浜に横たわり、咳き込んだ。

 

倉田「……何だか前にもこんな事あった気がします…。」

 

海水浴場で溺れた時と同じ光景だった。丸木船も波に流され浜に戻ってくる。そんな船を見てましろはある事を思い付く。

 

倉田「………これなら。」

 

倒れている芙蓉を横目に、ましろはチェーンソーを持ち、スイッチを入れる。凄まじい轟音と共に刃が回転し、ましろはそのまま丸木船へと歩き出す。

 

芙蓉「く、倉田ちゃん!?何するの…?」

 

刹那、ましろは刃を丸木船へ振り下ろし、船を真っ二つに切断し始めたのである。

 

 

ーー

 

 

芙蓉「……………。」

 

数分後、芙蓉は無残な姿になった丸木船を見つめ、力無くその場に崩れ落ちる。この船さえ無ければ、無茶な出港も出来ない。そしてもし最初から作るとしても、また1ヶ月半はかかるだろう。

 

芙蓉「う…ひくっ、ぐずっ………うああああああ!うああああああん!」

 

1ヶ月半の努力の結晶が一瞬にして文字通り海の藻屑と化してしまった。泣きたくなるのも仕方ない。だが、芙蓉の無茶を止める為にはこれしかなかった。

 

芙蓉「……船は、壊さなくてもよかったのに…。」

 

倉田「壊さないと、リリさんはまた勝手に海に出ようとします。今は私が助けられたけど、もし私がいなかったらどうするんですか?」

 

芙蓉「……………。」

 

ぐうの音も出なかった。芙蓉は膝を抱えて弱々しい声で話し始める。

 

芙蓉「……倉田ちゃんがいないところで、船出なんてしないよ。私は倉田ちゃんがきっと助けてくれるって思ってるから……倉田ちゃんの存在を保険にしてるから、無茶出来るんだ。倉田ちゃんがいなかったら…私は高所恐怖症だから来島海峡大橋だって渡れないし、泳げないから海に入る事だって出来ない。1人で船出なんて……怖くて出来る筈がないよ…。」

 

倉田「………え?」

 

芙蓉「私は臆病だから……。お母さんが亡くなって、学校に行くようになって……勇者部を作ったけど、倉田ちゃんが仲間に加わってくれるまで、結局活動なんかしなかった……。」

 

そこでましろは思い出す。確かに、初めてましろが勇者部の助っ人として活動した時、芙蓉は"第一回"勇者部活動と言っていた。

 

芙蓉「嶽山で初めて会った時…倉田ちゃんは私を助けてくれたから……倉田ちゃんがいてくれたから、安心感があって…怖い事でも、やれたんだ……。」

 

倉田(それじゃあ、私がいたから……私が協力してたから、リリさんはこんな無謀な事をしてたって事?こうなるまでの原因を作ってたのは…私……?)

 

芙蓉「…私は昔からそうだった。臆病だし、1人じゃ何も出来ない。私には"力"がある?そんな事ないよ!私にはなんの"力"もない!お母さんが生きていた時だってそうだった。私には…何も出来なかった……。」

 

倉田「お母さんの病気の事ですか?医者じゃないんだから、しょうがなーー」

 

 

 

 

芙蓉「違うよ!!!」

 

芙蓉の鋭い声が、夕暮れの小さな砂浜に響き渡る。

 

芙蓉「病気の事だけじゃない。私が物心ついた時には……ううん、私が生まれる前から、お母さんはずっと苦しめられ続けてきた。全部、あの壁のせいだ。」

 

倉田「どういう事です?」

 

芙蓉「お母さんは壁の外からの避難民。私達が生まれる前ーーあの壁が出来た時、四国の外から来た避難民は必ずしも歓迎された訳じゃない。」

 

その言葉に思い当たる節があった。あの時母親が言っていた事ーーましろの父親もそうだったから。

 

芙蓉「当時は壁に囲われた世界での社会的資源は限りがあると考えられてたし、避難民が入ってくることで自分達の生活が変化する事を嫌がる現地住民もいた。まして壁の外から来た人は天空恐怖症候群って未知の病を抱えてた人も多かった。そのせいで外から来た人達は……嫌われ者だった。はっきりと言葉に出して非難する人もいたし、きっと言葉にはしなくても心の中で嫌っている人は多かった筈。」

 

 

 

 

一緒だった。何もかもがーー

 

 

 

 

芙蓉は海の向こうを見つめながら話を続ける。既に水平線の向こうは暗紫色に染まり始めていた。

 

芙蓉「そんな中で、お母さんは病気になった……。お母さんの病気を知って、こう言う人がいたんだーー"あれはバーテックスの呪い"、"壁の外からバーテックス由来の毒素か未知の細菌でも持ち込んできた"ってね。」

 

ましろは言葉を失う。ましろの父親と芙蓉の母親の境遇は殆ど同じだった。

 

芙蓉「みんながみんなって訳じゃないけど、そんな迷信じみた言い掛かりを言う人は多かった。お母さんの病気は難病だったけど、昔から前例があるものだったし、医学的は原因もはっきりしてた。"呪い"だなんて非科学的なものなんかじゃない!細菌やウィルス性の病気なんかでもない!でも、みんなは科学的で合理的な説明なんかよりも、くだらない噂を信じてお母さんに酷い言葉を浴びせたんだ!!お母さんが壁の外からの避難民だって事もあったんだろうね。お母さんを虐めて悦に浸ってたんだよ。私は小学生の頃から、そんなお母さんの姿をずっと……一番近くで見続けてきた…。」

 

力のない声で芙蓉は話し続ける。

 

芙蓉「お母さんは壁の外から入ってきた人だったし、元々身寄りのない人だった。そこに病気が重なったせいで、もっと肩身が狭くなって、引っ越しを繰り返したよ。もう病気が悪化して殆ど病院から出る事が出来なくなるまで、同じ場所に続ける事がなかった。」

 

倉田「…………。」

 

芙蓉「でも、私は……酷い言葉を浴びせ続けられるお母さんの傍にいたのに、何も出来なかった……。くだらない中傷でお母さんを虐める大人達を、殴る事すら出来なかった。言い返す事も出来なかった。怖かったんだ。私よりずっと体が大きくて歳上な大人達が。力でも言葉でも、小学生だった私じゃ、大人達には敵わない!芸能界にいてお金を稼いでも、お母さんの病気は治せなかった。一生懸命勉強して知識を身に着けても、大人の偏見を正す事さえ出来なかった。お母さんを傷つけられても、何も反抗出来なかった。私にはなんの"力"もない!!」

 

海の向こうを芙蓉は睨み付ける。

 

芙蓉「私はあの壁が嫌い。バーテックスと星屑が嫌い。考えなしに人を傷付ける人間が嫌い!そして、何も出来ない私も嫌いだよ……!お母さんを傷付けた人達は、お母さんの病気の事も、バーテックスの存在もろくに調べないで、頭の中に安易な思い込みだけしかなかった。私は自分の命をかけても、アイツらを否定する。バーテックスも星屑も、そんな"迷信"は絶対に否定する。"迷信"を信じる人も否定するんだ!!」

 

前に芙蓉は"自分で見たものしか信じない"と言っていた。ましろ達の世代は、バーテックスも星屑も勇者達の活躍も見たことがない。バーテックスも戦争も、ただ大人達が"あった"と言っているに過ぎない。それと"迷信"の何が違うのだろうか。

 

ましろには、バーテックスの存在や勇者の力を科学的に証明する事が出来ない。当時の戦いの写真や映像も無い。なのに、ただ周りの人間が"あった"と言っているから、ましろはその存在を信じていた。それはましろが迷信を信じていない連中と何一つ変わりない事を意味していた。

 

倉田(そうか……。)

 

日は落ち辺りは闇夜に包まれ、眼前には漆黒の海が広がっている。

 

 

 

 

バーテックスーー

 

 

 

 

勇者ーー

 

 

 

 

壁ーー

 

 

 

 

天空恐怖症候群ーー

 

 

 

 

神世紀ーー

 

 

 

 

約30年前に起こった様々な出来事は、ましろ達の生きる今でも影響を及ぼし続けている。生々しい存在感を持っている。けれど、バーテックスも勇者も私達の生活の中に実際に現れる事はない。

 

 

存在感はあるのに、存在はしないーーまるで幽霊の様に。

 

倉田(そうか……私達の生きるこの時代は……酷く中途半端なんだ…。)

 

ましろは芙蓉が今まで言い続けてきた事を陰謀論だと否定し続けてきた。しかし、バーテックスの存在を肯定する事も否定する事も、"等しく迷信"なのだ。何故なら"ましろ自身何も確かめていない"のだから。

 

重要なのは確かめる事。肯定するにしろ否定するにしろ、自分で考え、確かめ、真実を得る事なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

倉田「ーー分かりました、リリさん。」

 

ましろは座り込んでいる芙蓉の両手を取り、立ち上がらせ涙に濡れる芙蓉の瞳を真っ直ぐ見つめた。

 

倉田("迷信"を捨てる。真実を確かめる。そうしないと、リリさん………あなたはもう止まれないんですよね?今は私も同じ…納得が出来ない……。)

 

倉田「私がリリさんに壁の外を見せてあげます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして、2人の香澄を遠くから見つめる女性が1人ーー

 

?「芙蓉さんの母親、倉田さんの父親、その2人が受けてきた悲しみは同じもの。そしてそれは…………。」

 

薄紫の髪の女性は2人の境遇を仲間だった1人の姿に重ね合わせていた。

 

?「平和になっても人の邪な部分は、あの頃と変わりはしないのかもしれないわね……紗夜。」

 

 

 

そう呟き、その女性ーー花園友希那はその場を後にするのだった。

 

 




勇者部活動報告第3回--

事実そのものは重要じゃない。

"確かめる事"。

思考して、努力して、確かめようとする意思を持つ事。

その意思こそが、お母さんを傷付けた人達への否定である。



           8月某日 芙蓉香澄

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