戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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外伝第3部1話目です。
舞台は再び西暦へ。高嶋香澄の訃報を聞いた都築詩船は思い出していた、初めて香澄に出会った"あの日"の事を。

そして"本来の巫女であった"少女の事をーー




偽りの巫女

 

西暦2019年、大社ーー

 

窓の外から蝉の鳴き声が聞こえる。外は照りつける暑さだが、この室内はそれを感じさせないくらいの涼しさだった。

 

ここは大社内にある都築詩船の自室。そこで詩船は同僚の神官から勇者である高嶋香澄の戦死報告を受けていた。

 

詩船「"酒呑童子"をその身に宿し、"完成型"3体を討伐した後、神樹の付近にて生体反応を消失………。樹海化解除後も、高嶋香澄の生存反応は確認出来ず………か。」

 

渡された報告書を読みながら、持ってきた神官に一瞥する。大社の中で詩船は神官であると同時に"高嶋香澄の巫女"という立場だった。"7.30天災"と呼ばれる2015年のバーテックス出現の日に、勇者である高嶋香澄を見出し、彼女を四国へと導いたからだ。

 

香澄が勇者として大社に所属したのと同時に、詩船も巫女として大社所属となったが、その時は既に巫女の力を失っていた。

 

湊友希那を見出した"今井リサ"にしろ、宇田川あこと白金燐子を見出した"戸山明日香"、氷川紗夜を見出した"宇田川巴"にしろ、全員が巫女の力を発現させたのは十代前半の事。それに反し、詩船は当時既に二十歳を超えている。神樹の巫女としての力は既になくなってしまったのだろう。

 

その為巫女では無く神官となったが、かつて勇者を導いた巫女という実績は大きく、詩船は大社神官達の中では特別視されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"そういう事になっている"--

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩船「………分かった。暫く1人にしてくれないか。」

 

そう言うと、神官は一礼し部屋を後にする。

 

詩船(………アンタも最後までやり切ったんだね、香澄……。)

 

詩船は思っていた。香澄のあの性格だと長生きは出来ないと。いつの時代だってそうだった。若くして処刑されたキリストにしろ、大往生した釈迦にしろ、世界的大聖人ですら生きた時間の長さはバラバラだ。この差は何なのだろうか。香澄はたった14歳で死んだ。

 

そう頭の中で考えながら詩船は立ち上がる。いつもより体が重く足取りも悪い。最初は夏風邪かとも考えた。しかし、それはすぐに勘違いだと気付く。

 

詩船「そうか………私は…落ち込んでるんだな…。」

 

 

ーー

 

 

深く息を吸い込み、机の引き出しを開けタバコを取り出し一服する。このタバコは大社に来る前に吸っていたものだ。既に賞味期限も切れているし味も香りも最悪だった。

 

ふと視界の端に本棚が映った。そこには大学院時代に書いた研究者や論文集があり、それに混ざってその本棚には不釣り合いな絵本が3冊置かれている。その絵本の作者は"和奏レイ"。

 

詩船「……取り敢えず、アイツにも香澄の戦死は教えてやらないとね。」

 

和奏レイーー

 

詩船が"7.30天災"の時に知り合った少女。楽器を演奏する事が好きであり、また両親がそうだったからなのか、絵本を描くのも得意だった。

 

詩船と香澄が大社に入った後も、レイは年に一冊詩船の元へ自作の絵本を送っていた。最初の一冊は"幸福の王子"。二冊目と三冊目はオリジナルの絵本。

 

今となっては最初の一冊目は、多分2人に対する皮肉、あるいは彼女なりの忠告だったのかもしれない。二冊目以降は分からなかった。

 

詩船はノートを便箋代わりに手紙を(したた)める。電子メールだと記録がデータ上で残ってしまう。勇者の戦死情報を外部に漏らす事は本来であれば言語道断である。事実あこと燐子の戦死は外部に漏れてしまい、それが元となって紗夜の戦死という最悪の事態まで引き起こしている。

 

しかし、レイには"知る権利があった"。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"和奏レイこそが、高嶋香澄を見出した本当の巫女なのだから"ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩船は手紙を書きながら4年前、香澄とレイに初めて出会った時を思い返すのだった。

 

 

ーーー

 

 

2015年7月30日、奈良県御所市ーー

 

詩船はバイクを走らせている。御所市にある秋津・中西遺跡の調査チームとして現地に向かっている最中だった。走行中、ワイヤレスイヤホンでスマホから流れるラジオのニュースに耳を傾ける。7月に入ってから全国各地で頻発している災害のニュースが流れていた。

 

詩船「近年の異常気象、災害の頻発………地球全体がおかしくなってる。私が生きているうちに、人類が滅びるのを見られるかもしれないね。」

 

そんな事を独り言ちながらバイクを走らせる。奈良周辺では他と比べてそこまで大きな災害は発生していない。小さな地震が1日に数回起こっている程度だ。しかし、このままいけば発掘調査は中止か延期になる可能性もあった。

 

 

ーー

 

 

早朝からバイクを走らせ午後には御所市に着いた。調査チームと合流するのは明日からの為、今日は市内をバイクで走らせながら、地形や遺跡の位置を確認する。

 

詩船「…………。」

 

研究の一環とは言え、自分がやっている事に虚しさと焦燥感を覚える。詩船にはぼんやりとだが自分の生涯という強固なレールの終端が見えていたのだ。

 

 

ーー

 

 

スーパーマーケットーー

 

記録を終えた頃には、日も落ち夜になっていた。詩船はホテルに寄る前に近くのスーパーマーケットに立ち寄っていた。

 

食べ物やお酒をカゴに入れ、レジへ向かおうとしたその時だった。

 

 

 

 

視界が揺れる。いや、揺れているのは地面だったーー

 

 

 

また地震が起こっている。しかし、今回の地震は数日前から続いている小さな地震では無く、かなり大きい。店内の人達が悲鳴を上げ、棚の商品が次々に落ちていく。

 

暫くして揺れが収まったが、店員も客もパニックになっており、レジもまともに機能していない。これでは店から出る事も出来ないと思い、詩船はふと闇夜に包まれた窓の外を見るーー

 

 

 

 

 

次の瞬間、窓ガラスに何かが叩きつけられる。初めは何なのか分からなかったが、叩きつけられた"ソレ"は赤黒い液体を垂らしながら、ズルズルとガラスを滑り落ちていく。

 

 

 

人間の下半身だったーー

 

 

 

上半身は無く、下半身だけが千切れており、吹っ飛ばされて窓ガラスに叩きつけられたのだ。それを見た他の客が先の地震の時より数倍の大きさの悲鳴を上げる。

 

詩船(本物の死体?悪戯か?誰が?何故こんな事を?)

 

頭の中で考えが渦を巻く。目を凝らして外を見ると、何かが動いた。店の外で"巨大な何か"が数匹蠢いているのだ。ヒグマより大きく、闇夜とは対照的な程白く、僅かに浮いている体。

 

その化け物は、店の外にいた人間を巨大な口で飲み込み、噛み潰していった。自動車に逃げ込んだ人も、車ごと噛み砕き捕食していく。

 

客「人が……食われてる!?」

 

客「いやあああ!!」

 

悲鳴が店中に響き渡る。1人の男性が、慌てて店から出て行った。車に乗り込もうとするが、目の前に現れた化け物に食われてしまう。化け物の口から溢れ出た血と肉が無惨に駐車場に落ちる。

 

無策で逃げても化け物の餌食となってしまう。しかし、このまま店に立て篭っていても、車を破壊出来るほどの力があるのなら、いずれ天井や壁を破壊して侵入してくるだろう。

 

詩船はスマホで110番に連絡をかける。しかし、呼び出し音は鳴るが誰も出ない。119番も同じだった。

 

詩船「………なんだ、この状況は…。」

 

一瞬で強固だと思っていた人生のレールが壊れてしまった。訳の分からない化け物が簡単に壊してしまったのだ。

 

窓の外に見える化け物の数は3体。アレが店に入ってくれば、全員タダじゃ済まないだろう。

 

客「おい、そのガキを黙らせろ!」

 

声がする方を向くと、恐怖から泣いている子供とその母親を男性が怒鳴りつけていた。

 

詩船(……丁度良い、利用させてもらうよ。)

 

男性客が手をあげようとした瞬間、詩船は男の腕を掴み、軽く捻って関節を極めつつ、ポケットに入れておいたポールペンを首筋に突き立てた。

 

詩船「クズが。どんな状況であれ、弱者に手を出すのは感心しないね。」

 

男性は一瞬詩船を睨みつけるが、暴れたり抵抗したりはしなかった。

 

客「分かったよ……。」

 

そう呟き逃げるように立ち去って行く。この時店の中の空気が変わった。この瞬間、詩船は周囲からの信頼と尊敬を得たのだ。

 

詩船「みんな、聞いてくれ。提案がある。」

 

発言力が高まったところで詩船は呼びかける。

 

詩船「あの化け物どもは、いずれ店内に侵入するだろう。車さえ噛み砕く力も持ってる。バリケードも無意味だ。」

 

客「じゃあ、どうすれば……。」

 

詩船「今すぐにでもこの店を出て、助けを呼ぶべきだ。」

 

客「でも、出たらあの化け物に殺されるわよ!」

 

詩船「幸いにも奴らはたった3匹だ。幾つかのグループに別れ、それぞれ別々に逃げれば生き残れる可能性は高い。」

 

客「だけど……逃げ延びられる人もいるだろうけど、殺される人もいるんじゃ……。」

 

詩船「心配無い。みんなが逃げられるよう、私が囮になる。」

 

 

ーー

 

 

詩船は次の様な作戦を伝えた。

 

 

・詩船が囮となり60秒時間を稼ぐ。

・店を脱出するのは、体に問題が無く運動が出来る人のみ。

・子供や老人、病人等はここに残り脱出者が救助を呼んでくるのを待つ。

・逃げる人数は1グループ5人。

・60秒経ったら、そこから20秒毎に1グループずつ店から脱出する。

 

 

最初に詩船が脱出し、囮となって化け物を誘き寄せる。さっき店から出て行った客がいきなり襲われたのは、あの化け物が人間を見つけた瞬間に迷いなく襲いかかっているからだと詩船は推測した。

 

あの化け物は店から脱出した詩船に躊躇なく襲いかかってくるだろう。60秒、それだけあれば化け物を店から離れた場所へ誘導出来る。

 

作戦を伝え終え、詩船は覚悟を決め一気に入り口から外へ飛び出した。

 

詩船(………ふっ。)

 

詩船「こっちに来な、化け物ども!」

 

わざと声を上げながら走る。案の定推測した通り、3体の化け物は詩船目掛けて追ってきた。速度は化け物の方が圧倒的に速いのは分かりきっていた。だから詩船は突き飛ばされ駐車場に無造作に転がっている車の間を縫う様に走り続け少しでも時間を稼ぐ。

 

しかし、化け物は車をおもちゃの様に押し除けたり噛み砕いたりしながら近付いて来た。

 

 

ーー

 

 

詩船「はぁ……はぁ…はぁ………。」

 

駐車場を抜け、フェンスを飛び越え火葬場の墓石群の中に逃げ込んだ。化け物は墓石もお構いなしに進んでくる。

 

逃げ始めて30秒程経った。楽しい時程時間が経つのは早く、逆もまた然りと言うが、これ程60秒が長いと思った事はない。

 

墓石群を抜け道路へ飛び出す。詩船のスピードは落ち始めていた。その時、化け物2匹が踵を返しスーパーマーケットの方へと戻り始めたのである。

 

詩船「くっ……化け物め…。」

 

追い続けてくる1匹から逃げつつ、詩船は再びスーパーマーケットまで駆け戻る。店内には人間達が我先にと脱出し始めている。この化け物は中々捕まらない1人を追いかけるより、残った大勢を襲う為に戻ったのだ。

 

詩船「かなり知能が高い…だけどね!」

 

追われるのが1匹になった事で、対処はしやすくなった。詩船は駐車場に停めていた自分のバイクに跨りエンジンをかける。バイクの速度なら逃げ切れるだろう。

 

店内にいた人達が60秒以上待っていれば、詩船が化け物からの距離を充分に離し、彼らは逃げ切れ、詩船は殺されていただろう。

 

 

 

しかし、彼らは待てなかったーー

 

 

 

 

恐怖心と焦りを抑えきれなかったーー

 

 

 

店内から逃げた人達は、化け物に追われて殺されるだろう。詩船はそう予期しスーパーの方を振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには予想外の光景があったーー

 

 

 

 

 

 

 

 

?「はぁああああああっ!!!」

 

攻撃を受けていたのは店から逃げ出した人達ではなく、あの化け物の方だったのだ。店から逃げ出した人達と化け物の間に立っていたのは1人の少女ーー

 

 

 

 

高嶋「私がみんなを守るんだ!!」

 

 

 

 

 

それが詩船と高嶋香澄の最初の邂逅だった。

 

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