戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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外伝第3部6話。

自分のせいで失ってしまった2つの命。それを埋めるかの様に、レイは目の前で消えそうな小さな命を救おうと躍起になる。
彼女もまた、この変わり果てた日常によって壊れてしまった1人なのかもしれない。




命の釣り合い

 

 

ガソリンスタンド周辺--

 

香澄、レイ、少女の母親、医者の青年、詩船の5人で30分程周辺を探し回ったが、少女の姿を見つける事は出来なかった。少女を探しながら、ふと詩船は思い付いたかの様にレイに尋ねる。

 

詩船「レイ、お前さんの力で見つける事は出来ないかい?」

 

レイ「え?」

 

詩船「化け物の居場所を察知するみたいに、あの少女がいる場所を察知する事は出来ないか?」

 

レイ「多分、無理だと思います……。あの不思議な力は"いつ起こるか分からない"んです。私自身が自由に察知出来る訳じゃなくて……それに、あの白いお化けに関わる事以外は、何も分かりません………。」

 

詩船「そうか……。」

 

自力で探すしかなかった。少女を探し回っているうちに、母親の足の怪我が悪化し、歩く事が難しくなった為、詩船達は一旦バスへ戻る事にした。

 

 

---

 

 

マイクロバス、車内--

 

高嶋「すみません、まだ女の子が見つからないんです!もう少しだけ待っててください!」

 

バスの中で香澄が中にいる人達に対し頭を下げる。だが、茶髪の女は声を荒げて叫んだ。

 

女「良い加減にしてよ!いつまで待てば良いの!?もう出発してよ!またいつあの化け物が来るか、分かんないでしょ!!」

 

女の怒号で車内は静まりかえる。

 

レイ「そ、それって…あの子を置いて出発しろって事…ですか…?」

 

女「そうよ。だってどこに行ったのかも分からないんでしょ?見つける方法も無いんでしょ!?探すったって、いつまで探すのよ!何時間!?いいえ、何日もかかるかもしれない!そんなに待ってられないの!!私達は1秒でも早く安全な場所に行きたいの!!」

 

車内に女の言葉を諌める者はいなかった。彼女の言葉は、多くの同行者達の代弁だったのだろう。

 

女性「ごめんなさい…ごめんなさい……ごめんなさい………。」

 

少女の母親は泣きそうな声で、車内のみんなに謝り続けていた。香澄が助けを求める様に詩船の方を見る。しかし、詩船が言葉を発するよりも先に、黒シャツの男が会話に割り込んだ。

 

男「なあ、ここにいる奴ら全員の意見を聞いてみからどうだ?その子供が見つかるまで探し続けるのか、その子供はもう諦めて先へ出発するのか。なあ、どうだ!?」

 

高嶋「待ってください!」

 

香澄は止めようとするが、茶髪の女が香澄の言葉を無視して話を進める。

 

女「そうね!ねえ、みんな!このまま女の子が見つかるまでここで待ち続ける方が良いと思う人は立ってよ!見つかるまで何日かかるか分からない!いつ化け物が出るか分からない!でも子供が見つかるまでずっと探した方が良いって人はいる!?多数決を採りたいから、探したい人は立ち上がってよ!」

 

車内にいる人達は、お互いの顔色を伺うように視線を彷徨わせていた。他の人はどう動くのかを見計らって迷っている。迷っている人は答えを出せず、立ち上がる事が出来ない。

 

女「ほら、立ち上がる人いないじゃん!探そうって人は誰もいない!!さあ、早く行きましょうよ!いつ化け物が出てくるか分からないし!ほら、さっさと車を出しなさいよ!」

 

鬼の首を取ったかの様に言いながら、茶髪の女は詩船に詰め寄った。

 

男「これ以上、時間を無駄にするなよ。怪我人や高齢者だっているんだぞ!怪我が悪化したり老人が体調を崩したりしたらどうすんだ!」

 

黒シャツの男も正論を吐く。少女の母親は涙目になりながら、しかし何も言えずにただ俯いている。

 

高嶋「でも…………!」

 

香澄は車内の人達と詩船を何度も見比べていた。2人の意見に賛同する人達からの不満げな声、諦めの声が周囲から聞こえ始める。

 

女「分かったでしょ?早くバスを出せって!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった--

 

 

 

 

 

レイ「だ………。」

 

声を震わせながら、レイが弱々しい声で反論したのだ。

 

レイ「駄目です。あの子は見捨てて行けません。見つかるまで探します。絶対に探します。見つかるまで……。」

 

男「おい……。」

 

黒シャツの男が睨みつけながらレイに手を伸ばそうとした瞬間、詩船が2人の間に入った。

 

詩船「待ちな。さっきからお前達が提案した"多数決"ってのはフェアじゃないね。」

 

女「何よ?」

 

詩船「お前は"化け物がいつ出るか分からないが、少女が見つかるまで探したい人は立て"って言ってたね?質問の内容がデメリットのみを強調してて、質問者が回答を恣意的に誘導してるんだよ。それに、"立たなかった人"はバスを出発させたい人だけじゃない。答えを出せずにいた人達も含まれてる。例えば…そうだね……。」

 

詩船は辺りを見渡しながら話を続ける。

 

詩船「"自分が助かりたいから、少女を見殺しにしてバスを出発させたい人は立て"って質問でも……やはり立たない人が多かったんじゃないかい?」

 

男「うっ………。」

 

女「それは……。」

 

黒シャツの男と茶髪の女は言葉に詰まる。

 

詩船「それと、お前達は最大に勘違いをしている。このバスの中において"多数決なんて全く意味を成さない"のさ。何故なら高嶋香澄と和奏レイ、そして私の意見こそが絶対だからだ。化け物と戦ってお前達を守ってくれているのは他でもない香澄であり、安全地帯へお前達を運んでやっているのは私とレイだからね。保護されてるだけのお前達が、私達に何かを強制する事は出来ないって事を理解しておきな。今、香澄とレイがあの子を探すと言った。だったら、結論は既に出ているんだよ。」

 

 

---

 

 

どうにか少女を探す事に決まったが、積極的に手伝おうとする人は少なかった。子供を探すのは、先ほどの5人に加え数人の人だけ。ガソリンスタンドの周辺を探している途中、レイは詩船に話しかける。

 

レイ「さっきはありがとうございました。私が子供を探したいって言った時、味方になってくれて……。」

 

詩船「私としてはどちらでも良かったが、お前さんが必死だったからね。」

 

レイ「………どうしても、見捨てるのが嫌なんです。」

 

詩船「両親への贖罪のつもりかい?」

 

レイ「……………。」

 

詩船「お前さんは自分のせいで両親が死んだと思っている。だから、死んだ両親の代わりに誰かの命を助けたいとでも考えてるんじゃないか?」

 

レイ「……はい…。だって………そうじゃないと釣り合いが取れないじゃないですか…。私のせいで誰かが死んだのなら、私が誰かを助けないと……。」

 

詩船「馬鹿だね。両親が死んだ理由はお前さんのせいじゃないし、命に釣り合いも不釣り合いも無い。死んだ分だけ誰かを救うなんて、そんな数字的なプラスマイナスで語る事は出来ないよ。」

 

レイ「だけど……私は、自分が許せないんです。」

 

これ以上は、最早レイの気持ちの問題でしかないのだろう。

 

 

--

 

 

捜索を開始して1時間程が経過した。少女は見つかる気配が無い。以前テレビで似たような事件があったが、そこでは何日も捜索隊が探す事で漸く見つかった程だ。それに加え今は化け物がいつ何処から来るか分からない状況、時間はかけられない。

 

詩船「……………。」

 

レイ「詩船さん…。」

 

詩船「どうした?」

 

レイ「………いえ…何でもないです。」

 

詩船「そうだ、レイ。あの化け物はこの周辺にはいないのか?」

 

レイ「はい……いないと思います。」

 

詩船「一番近くにいるのはどの辺りだい?」

 

レイ「えっと……少し前に感知したんですけど…。」

 

そう言いながらレイはスケッチブックを取り出して地図を描き出した。詩船はその地図とスマホのマップアプリとを照らし合わせる。

 

詩船「ありがとね。私は暫くここを離れるけど、気にするな。数時間で帰ってくる。」

 

レイにそう言伝を残し、詩船はバスの方へ向かって行くのだった。

 

 

--

 

 

詩船が去るのを見送ったレイは思い返していた。

 

レイ(さっき話した時も…………詩船さんの口元は、笑いを我慢している様にも見えた。見間違いかもしれないけど…。)

 

レイは奈良を出立した直後の詩船の姿が今も頭の片隅に残っていた。あの笑顔の詩船が。そしてさっきの会話でも同じ様に感じていた。

 

レイ(詩船さんは、きっと悪い人では無いんだろうけど、いまいちよく分からない。バスでの意見の対立だって、私の味方をしてくれていた。だけど、人を説得する時の言い方は、不必要な程に攻撃的だった。詩船さんは頭が良い人だからもっと波風が立たない言い方で説得する事だって出来たと思う。それなのに………。もしかしたら、詩船さんは…。)

 

そこまで考え、レイはその考えを一蹴した。今は少女を探す事が最優先事項だから。

 

高嶋「レイヤちゃん、大丈夫?きっと見つかる!もうちょっと探そう!」

 

別の場所を探していた香澄が戻って来ていた。その言葉でレイはやる気を取り戻す。

 

レイ(私は平凡な人間だ。いてもいなくてもどうでも良い人間。今はあの化け物の居場所を感知出来る少しだけ"特別"な力を手に入れたけど、そんな後付けの力以外は何もない。)

 

レイ(それなのに、いてもいなくてもどうでも良いような、私のせいでお父さんが、お母さんが死んでしまった。)

 

 

 

 

レイ(マイナスを取り返さないといけない--)

 

 

 

 

 

レイ(何かのプラスで埋めないといけない--)

 

 

 

 

 

レイ(そうでないとバランスが取れない。)

 

 

 

ふとバスを見る。窓からレイ達を見ている人達の顔が見えた。疲れ切って濁ったような目でレイ達を見ている。

 

レイ(私はあの人達に迷惑をかけている。)

 

 

 

 

レイ(でも、それでも、私は誰かを助けたい--)

 

 

 

 

 

レイ(目の前で誰かが死ぬのは嫌だ--)

 

 

 

 

 

レイ(もう誰にも死んで欲しくなんかないから。)

 

 

 

---

 

 

あれからどれだけ探し続けただろうか。歩き過ぎてレイの足の豆が潰れてしまった頃、森の奥から香澄の声が響く。

 

高嶋「見つけたー!レイヤちゃーん!見つかったよーー!!」

 

少女はガソリンスタンドから数百メートル離れた林の中に、座り込んでいた。

 

レイ「見つかって良かった…。こんな所に一人でいちゃ駄目だよ。帰ろう。」

 

少女の手を握るが、少女はレイの目を見ようとはしなかった。

 

少女「かえるって……どこに?」

 

レイ「何処って、バ--」

 

"バスに"。そう答えようとした瞬間言葉に詰まった。バスに帰るのはおかしい。本当なら帰るべき場所自分の家なのだ。この少女にとっては出発地点だった奈良にあろう家が帰るべき場所なのだから。

 

少女「おばあちゃんはびょうきでうごけないからいえにいるの……おとうさんはかいしゃにいっててどこにいるのかわからない…。いえにかえりたい……くらくなったらいえにかえりなさいっていわれてたのに………。」

 

少女は声を震わせながら答える。この少女は母親と一緒に奈良からここに来て、実家に高齢の家族を残し、父親と連絡が取れなくなっているのだろう。そして母親と2人だけでここまでやって来た。この少女は、ここから自分の家に帰ろうとしただけなのかもしれない。奈良にある自分の家まで。到底歩いて帰れる距離ではないのに。

 

レイ「大丈夫。帰れるよ。きっとすぐに家に帰れる。今は色々とおかしくなってるけど、いつか全部元に戻る。大丈夫。きっと家に帰れるから……。だから、今は行こう?少しの間だけ、安全な場所に行っていようね。」

 

そう言ってレイは少女を優しく抱きしめるのだった。

 

 

---

 

 

ガソリンスタンド--

 

レイは少女をおんぶし、香澄と一緒にガソリンスタンドまで戻ってきた。母親は少女の姿を見て、涙を流しながら少女を抱き締める。

 

詩船「レイ、お前さん達が見つけたのか?」

 

いつの間にか戻っていた詩船がレイに尋ねる。

 

レイ「はい…香澄ちゃんが見つけてくれて。」

 

詩船「そうか。私はさっきまで少し離れた所を探していたが、見つかって良かった。」

 

レイ「そうですね…。」

 

詩船「レイ、あの子はお前さんが救ったんだ。お前さんがあの子を探そうと強く主張しなかったら、私達はあの子を置いて出発してただろう。だから、あの子はお前さんが救ったんだ。だが、それで両親が死んだ事への後悔は、少しでも晴れたかい?」

 

レイ「………………いえ。」

 

詩船「だろうね。この世界は、マイナスをプラスで埋める事なんて出来ないのさ。だけど、お前さんがいた事でプラスがあった事は確かだ。一人の少女が救われた。」

 

レイ「お父さんとお母さんが犠牲になってまで……私が生き残った意味はあったんでしょうか…。」

 

詩船「お前さんのお陰で救われた命があった以上、意味はあったさ。私はそう信じてるよ。」

 

レイ「………ありがとうございます…。あの子は…自分の家に帰りたいって言ってました。」

 

詩船「そうかい。」

 

レイ「今は世界がおかしな事になってますけど…きっと……いつか戻れますよね?今は一時的に四国へ避難しても……きっと家に帰れますよね?」

 

詩船「お前さんはどう思ってるんだい?」

 

レイ「私は……お父さんもお母さんも死んでしまって、戻る場所なんて無いですから、家に帰りたいとは思わないです……。だけど、元の日常にって意味でなら、帰りたいです。あの化け物が出てくる前みたいな日々に帰りたいって………。」

 

詩船「……そうかい…。」

 

詩船はそう呟きながら、陽が昇らない真っ暗な空を見上げていた。

 

 

---

 

 

マイクロバス、車内--

 

詩船達は瀬戸大橋へ向けて、再びバスを走らせ始める。少女が見つかって良かったと言いたいところだが、そう全てが丸く収まる訳ではない。この騒動で何時間も足止めされてしまい、車内の空気はひたすらに重苦しかった。車内にいる人達の詩船達への視線は、より険しいものへと変わり、疎ましげに思っている者も更に増えているだろう。

 

高嶋「…どうすれば良かったのかな……。」

 

ぽつりと香澄が呟いた。

 

高嶋「見捨ててはおけなかったけど、ここにいる人達には迷惑かけちゃいましたし…。」

 

詩船「気にする事じゃない。全部がそう上手く収まる事なんてない。それより少し寝ておくんだね。」

 

高嶋「はい……。」

 

そう返事はするものの、目は瞑らず、香澄はじっと自分の拳を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女「はぁっ、はぁ……はぁ…はぁ……っ!?」

 

その時、唐突に車内から苦しげな声が聞こえた。声の主は、さっき詩船達と言い争った茶髪の女からだった。

 

レイ「どうしたんですか!?」

 

心配して声をかけるも、女は青ざめた顔で、目には涙を浮かべながら頭を抱えてうわ言の様に声を漏らすだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

女「怖い……空が………………怖い…。」

 

 

 

 

 

 

少しずつ、でも確実に車内に異変が起こり始めていた--

 

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