ここから始まるのは5人の勇者部の物語。
……1人足りないような--
友の記憶
のどかで平和な街並みが広がっている。
みんなで守り抜いてきた平和がそこにはあった。
花咲川中学勇者部部室--
香澄「花咲川中学勇者部は、勇んで世の為になる事をする倶楽部です。なるべく諦めない。成せば大抵何とかなる。などの精神で頑張っています。今日も勇者部しゅっぱーつ!…っと。」
彼女の名前は戸山香澄。花咲川中学勇者部部員で、明るく元気。キラキラドキドキする事が大好きな中学2年生。本人は星だと言い張るが、猫の様な髪型が特徴的。
有咲「小学生の作文か!」
香澄「中学生だよー。」
有咲「知ってるっつーの!」
今突っ込んだ少女は市ヶ谷有咲。途中入部の中学2年生。いつも香澄に振り回されてはツッコミに回る完成型勇者部部員である。
ゆり「香澄ちゃん。タウン誌で勇者部の活動を紹介してもらうんだから、良いキャッチコピーを考えてね。」
香澄「はーい。」
彼女は牛込ゆり。この花咲川中学勇者部の部長の中学3年生。基本しっかりしていて勇者部を引っ張っていくリーダーである。
りみ「お姉ちゃん!幼稚園からお礼のメールがたくさん来てるよ!」
ゆり「この間は凄く受けたからね。」
香澄「凄い凄い!」
パソコンを見ている少女は牛込りみ。名前から分かる通りゆりの妹で、花咲川中学1年生。ゆりに憧れつつも自分の夢をしっかり追い続けている真面目な子である。
有咲「親御さんは苦笑いしてたけどな…。」
香澄・りみ「「えへへ…。」」
ゆり「そんな事無いよ。」
そこに、もう1人の生徒がやって来る。
?「ごめんごめん、もう始まってる?」
手に持っているのはウサギのぬいぐるみ兼枕。
?「掃除当番の途中で寝ちゃったんだー。」
有咲「そんな時に寝れるのはお前ぐらいだよなー……たえ。」
たえ「有咲に褒められた。」
香澄「良かったねー、おたえ。有咲は中々人を褒めないんだよ。」
香澄がたえにハイタッチする。
有咲「だぁーーー褒めてねぇーーーー!!」
ゆり「さて、全員揃ったね。じゃあ、12月期の部会、始めるよ。」
香澄・りみ・たえ「「「はーい!」」」
ゆり「今、依頼が来てる件を地図に…。」
香澄(秋までに色々あったけど…。今、花咲川中学勇者部は、こんな風にやたらと元気です!)
牛込宅--
たえ「零は無。そんな概念を思い付いたインドの人は凄いヨガ。」
ゆり「いや、そういうのより…もっと、こう、高校受験用の対策を……。」
りみ「何で2年生のおたえちゃんがお姉ちゃんを教えてるの?」
りみはおやつを出しながら、そんなごもっともな事を尋ねた。
ゆり「たえちゃんはそこらの家庭教師より頭が良いから。」
たえはお団子を1つくわえ、上にポーンと投げて、口でキャッチする高等テクニックでお団子を頬張る。
たえ「んー美味しい。」
ゆり「そんな風には見えないけどね。」
りみ「じゃあ、私の勉強も見てもらいたいな。」
ゆり「ああ、それは良いかもね。りみはちょっと心配だし。」
りみ「もう、お姉ちゃんてばー。色々ありすぎて、夏の間は勉強しなかったからね…。」
たえ「ゆり先輩、2年生までの成績は良かったんですよね?」
ゆり「それはもうとっても!でも、今はそれはもうとってもマズイかなー。」
りみ「お姉ちゃん…。」
ゆり「だってしょうがないでしょ。3年になって色々ありすぎたから…。」
ゆりは夏の頃の戦いの日々を思い出していた。
たえ「ゆり先輩が頑張ったから今があるんですよね…。」
ーーー
ーー
ー
少し前の事--
たえ「勇者部に入部希望の花園たえです。」
有咲「花園たえ!?あの…?」
有咲は大赦にいた為、花園家の凄さは知っていた。
たえ「2年前、大橋の方で勇者やってました。改めて、よろしくお願い致しまーす。」
りみ「わぁ。」
有咲「何で伝説の勇者がこんな所に!?」
有咲は呆気に取られている。
たえ「うーん。家にいてもやる事がないから?」
有咲「そんな理由かよ!」
たえ「私、小学校中退だしねー。」
有咲「そんな重い事をしれっと!?」
ゆり「御役目から解放された花園さんは普通の生活に戻る事を大赦に要請したの。」
ゆりが経緯を説明する。
たえ「まさか普通の生活に戻れるなんてね。」
ゆり「偉大な先輩勇者を歓迎します、花園さん。」
たえ「花園とかたえで良いですよ。ゆり先輩。よろしくね、有咲。」
有咲「おっ、おう…。」
たえ「後は…りみに香澄だね。」
香澄「よろしくね、おたえ。」
りみ「こちらこそよろしくね、おたえちゃん。」
たえ「っ……。」
2人のおたえ呼びに何故か懐かしさを感じるたえ。
たえ「あっ、それでねーこの子がオッちゃん。」
たえは持ってきたウサギのぬいぐるみ兼枕を紹介する。
りみ「不思議な人だね、お姉ちゃん。」
たえは部室を見渡した。
たえ「そっかー。みんなこんな風に青春してたんだね。」
香澄「おたえ。」
たえ「ん?」
香澄「勇者部へようこそ!」
たえ「うん、これから私も青春するんだ。」
ー
ーー
ーーー
たえ「ベッドでずっと見てたから。勇者部楽しそうだなー、楽しいだろうなーって。」
たえはあの頃を思い出す。
たえ「また学校に行けるようになるなんて思って無かったから。嬉しい。よし、勉強の続きをしましょう。」
メガネを装着するたえ。
たえ「それじゃあ、私の好きな複素数の行列からやりましょう。」
かめや--
香澄と有咲がうどんを食べている。
香澄「有咲、日曜日なのに来てくれてありがとうね。」
有咲「別に、今日はたまたま暇だったし。」
2人はソフトボール部の手伝いの帰りに寄っていたのであった。
有咲「勇者部って変な部だよなー。」
香澄「だから楽しいよね。毎日違う事が起きて。」
有咲「まぁな。」
2人は店を出る。
香澄「日が暮れて、また明日だね。」
有咲「はぁ…もう月曜か。休みの日はあっという間だな。」
香澄「帰ったら宿題やらないとね。」
有咲「私はもう終わらせたぞー。」
香澄「え!?朝から試合だったのに?」
有咲「土曜のうちにやったんだよ。当然だろ。」
香澄「有咲は凄いなー。あっ…。」
その時、すれ違った車椅子の少女が気になった香澄。
香澄「……?」
有咲「どうした?」
香澄「ううん、何でもないよ。」
香澄は気になりながらも家路に着いた。
別の日、部室--
りみ「じゃじゃーん。」
香澄・ゆり・有咲「「「わー。」」」
たえ「りみ、そのケーキどうしたの?密輸?」
たえが尋ねた。
りみ「違うよー。今日家庭科の授業があって作ったんだ。」
香澄「りみりんが作ったの?」
りみ「うん!」
りみは箱を開けて中身を見せるが、猫の絵がいびつになっていた。
香澄・ゆり・有咲「「「……。」」」
りみ「作りすぎたから持ってきたんだ。」
ゆり「さすがは私の妹。」
有咲「なんちゅーか、独特のセンスだな。」
ゆり「表現が豊かだと言いなさい。」
ゆりはケーキを6等分に切り分ける。
全員「「「いただきまーす。」」」
香澄「うん!」
有咲「見た目はともかく…。」
たえ「味は美味しいよ!」
ゆり「りみが、ついに食べられる料理を…。うっ…。」
りみ「お姉ちゃん。かえって傷付くよ…。」
5人はケーキを食べ進め、最後の一個に手を伸ばす。
全員「「「あっ…。」」」
香澄「有咲食べて。」
香澄が譲る。
有咲「いや、りみが食べるべきだと思うぞ。」
有咲が譲る。
りみ「私は授業でも食べたから…。おたえちゃんどうぞ。」
りみも譲る。
たえ「いやいや、部長こそどうぞ。」
たえも譲る。
ゆり「2つも食べたら女子力的に心配だよね…。」
有咲「そもそも何で6つに切り分けたんだ?」
ゆり「ついいつもの癖で…。」
香澄「癖?」
香澄が引っかかる。
ゆり「え?いや、何となくかな?」
その時、
たえ「5等分出来たよ。」
たえが最後の1つを更に5等分した。
香澄「ほぇー…。」
りみ「どうやって切ったの?おたえちゃん。」
たえ「数学だよ。数学。」
香澄「チョココロネ…。」
香澄が、突然口に出す。
ゆり「え?何?」
香澄「なんか、前に部室でチョココロネ食べなかったかなーって…。」
りみ「ああ、前に香澄ちゃんも家庭科の授業で作ってきたんだよね。」
りみが答える。
香澄「あ…。あぁ、そっか……。」
ゆり「はい、おやつの時間はおしまい。日曜日の練習をしましょう。」
香澄・りみ・たえ「「「はーい。」」」
香澄「……?」
たえは香澄の言葉が気になっていた。香澄も自分の発言が引っかかっていた。
放課後--
1人帰り道を歩いている香澄。
香澄「!?」
香澄の隣の家に目が行く。
香澄「……。」
大橋近くの建物--
そこはお墓だった。
たえは"海野家"と書かれた石碑に献花する。
たえ「夏希。やっと来られたよ。久しぶり。元気だった?あっ、元気とかそういうのは違うか…。久しぶりといえば、イネスの醤油豆ジェラート、店ごと無くなってた。残念だね。時の流れは残酷だよ。あのね、夏希。私、勇者部に入ったんだ。そ、花咲川中学の。みんなとっても面白くて、私達のチームに負けず劣らずなんだよ。今日は土曜だけど、みんなと幼稚園でライブをやるんだ。あの時のライブ楽しかったよね。夏希も見てて。」
たえ「あっ、そうだ。これ、うちで作ってきたんだ。夏希の作り方を思い出して自分で作ってみたんだ。」
そう言うと、たえはパックに入った焼きそばを供えた。
たえ「これ、夏希の分。美味しかったら褒めてね。で、これは私の分。で……。」
1つ余った焼きそばを見る。
たえ「何で私3つ作っちゃったんだろうね、夏希……。」
たえがいる場所は"英霊之碑"。歴代の勇者を祀る所である。
たえ「っ……。」
突然たえは立ち上がり、その目からは涙が流れた。
たえ「さ…あや……。」