時代は再び神世紀に戻る。リサと友希那達大赦により壁の外の真実を知った芙蓉と倉田、二人の香澄。
仮初の平和が築かれようとする世界で、二人は"勇者部"として何を見て、何を成して行くのかーー
神世紀30年、倉田宅ーー
透き通った空気の中、除夜の鐘が鳴り響いている。
倉田「除夜の鐘だ。去年はなんだか妙に大変な一年だったなぁ……。」
寒空から隔離された暖かい部屋の中から窓の外を眺める。真夜中だというのにかなり離れた自宅の中からでも"それ"は良く見ることができた。
海に聳え立っている大きな植物でできた壁。昨年の秋頃、ましろはその壁を登り、芙蓉香澄と共に壁の外の真実を知った。
世界の外側は炎の大地と化しており、四国だけが神樹の加護によって守られている。人々がこの真実を知る事は無く、仮初の平和を謳歌しているのだ。
ふと手にしているスマホに目をやる。それと同時にとある人物からの着信が入った。画面に表示された名前を見るや否や、ましろの口から息が漏れる。
倉田「リリさんから…?」
通話に出ると、何やらスマホの向こうから息を切らしながら今にも事切れそうな芙蓉の声がする。
倉田「もしもし。」
芙蓉『はぁ……はぁ…倉田ちゃん…絶体絶命…断崖絶壁……はぁ…私はもう…ダメかもしれない……。』
倉田「そうですか。それじゃあ。」
そう言ってましろはすぐに通話を終了させる。するとすかさずまた着信が入った。
倉田「もしもし。」
芙蓉『はぁ……いきなり切るなんて冷酷無情じゃないか……!これが…最期の会話かもしれないのに…ゴホッゴホッ…。意識が薄れてきたよ……。』
倉田「そうですか。切りますね。」
芙蓉『倉田ちゃんと出会って、半年くらいだね…幸せだった…よ……。もっと沢山一緒の時間を過ごしたかったな…ゴホッゴホッ……目の前が暗くなってきた…。』
倉田「もう寝たらどうです?」
芙蓉『最期に…少しだけ希望を持ってるんだ……倉田ちゃんが助けに来てくれるかもって……。』
そう言い残し今度は芙蓉側から通話が終了された。
倉田「…………まぁ、どうせいつもの演技だよね…。」
すると今度はメールの受信音が。メールには丁寧に自分が今いる場所の地図が添付されていた。これが益々の演技臭さを実感させる。
倉田「リリさんの演技にはこれまで散々引っかかってきた……もう騙されないよ!」
スマホを机に置き、ベッドに横たわる。
倉田「どうせ演技だから…危機に陥ってるように見せかけて私を呼び出す算段なんだから……そう、演技に決まってる。」
窓の外からは除夜の鐘が鳴り響く。今の電話は芙蓉の演技だとましろは必死で自分に言い聞かせる。だが、一方で一抹の不安もあった。以前の病院での出来事である。
ーーー
ーー
ー
芙蓉「私が今日病院に来てたのは定期検診の為だよ。お母さんの病気は遺伝するんだ。私の身体にも、同じ病気を発症しやすい遺伝子があるんだって。だけど、必ず発症する訳じゃないよ。発病しても必ず死ぬ訳でもない。でも………死ぬかもしれないんだ。」
芙蓉「お母さんが死んだのは39歳だった。私もそのくらいで死ぬ事だってあり得る。人の寿命が90年くらいだとしたら、その半分以下でしかない。だったら私は不覊奔放、今出来る事をやって生きるだけ。」
ー
ーー
ーーー
芙蓉の母親は病気で亡くなり、その病気に芙蓉自身も罹ってしまう可能性があるのだ。万一の事があるかもしれない。その可能性がましろの判断を鈍らせていたのだ。
倉田「演技……だよね……。うぅ〜……………もうっ!」
徐に起き上がり、スマホを手に持ち部屋を飛び出した。
倉田「分かった!行けば良いんでしょ!行けば!」
その声を聞き、自室で仕事をしていたましろの母である霧絵がドアを開けましろに尋ねる。
霧絵「どうしたの、香澄?」
倉田「ちょっとリリさんに会ってくる!お母さんは先に寝てて良いから!」
霧絵「リリさん……?」
自転車を走らせながら、ましろは必死に自分に言い聞かせていた。
倉田「別に騙されて行くんじゃない……リリさんはいつも無茶ばっかりするし、万が一本当に病気で倒れてたりするかもしれないし……無事だったらそれはそれで良い。確かめないでモヤモヤするより、その方がスッキリする。そう、私がスッキリする為に行くんだ。リリさんが心配だからじゃないし、騙されて行く訳でもない。」
暫く自転車を走らせたましろは、送られてきた地図に示されていた神社へと辿り着いた。
倉田「リリさんがいるのはここ……。」
その神社では初詣の真っ最中で、真夜中だというのに人も多く、辺りは賑わいを見せていた。すると、社務所の方から一人の巫女がましろの方へ駆けてきた。一連の元凶である芙蓉香澄である。
芙蓉「倉田ちゃーーん!!来てくれたんだね!
言葉を言い終える前に、突然ましろは芙蓉の事を抱きしめた。
芙蓉「っ!?急にどうしたの?」
倉田「リリさん……本当に良かった……!」
次の瞬間、背中にあったましろの両手が芙蓉の頬へと移動し、芙蓉の柔らかい頬を摘み上下左右へと動かされる。
芙蓉「い、いへへへ!いはいよふらはひゃん!!」
倉田「全く……どうして生きてるんです!?」
芙蓉「倉田ちゃん、酷い!!?」
倉田「死にかけてる電話だったじゃないですか!」
芙蓉「ふふっ……倉田ちゃんは純粋無垢だなぁ。何度も私の演技に引っかかってくれる。」
倉田「帰ります。」
踵を返した途端、今度は芙蓉がましろに抱きついてきた。
芙蓉「待って!すぐ帰らないで!!」
倉田「………何ですか?」
芙蓉「じゃーん、まず私を見て何か言う事があるんじゃないかな?」
両手を広げ、自身の格好をましろに見せびらかす芙蓉。
芙蓉「普段と違わない?ほら……ほら!!」
倉田「う〜〜〜〜ん…………何もありませんね。」
芙蓉「こらぁ!!この白衣と緋袴が目に入らないの!?友達として、可愛いとか似合ってるだとかは無いの!?」
倉田「似合ってます。可愛いですね。」
それに対してつっけんどんな態度で芙蓉を突き放すましろ。
芙蓉「うぅ………心が篭ってない…これを見せる為に呼び出したのにぃ……。」
倉田「………。」
だが、ましろは表面上ではああいう態度を取ったものの、正直なところ芙蓉の巫女服姿は正反対にかなり似合っていると言っても良い。実際、隣を横切る人々は芙蓉の姿を横目で見るなり、"綺麗"や"似合ってる"などの言葉を口にしている。
ハーフであり人目を引く美少女でもある芙蓉。加えて昔は子供タレントとしても活躍していた経緯もあり、ましろもその巫女姿を見てドラマのワンシーンかと見まごう程であった。
倉田「それで、リリさんはこんな所で何をしてるんです?」
芙蓉「知り合いの伝手で神社の手伝いをしてるんだ。ほら、"勇者部"の活動目標は世界をなるべく良くする事でしょ?ボランティア的な活動も勇者部の目的に合ってるんじゃないかなって。」
倉田「勇者部って……まだあったんですね。」
その一言に芙蓉は相当のショックを受けてしまう。
芙蓉「倉田ちゃん!?私と倉田ちゃんがいれば、いつでも何処でも勇者部だって………倉田ちゃんが言ったんだよ!?」
その言葉に違和感があったましろは一瞬その時の事を思い出す。
ーーー
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ー
倉田「……それに、私とリリさんしかいないんですから、勇者部の活動目的や存在意義なんて、無くても良いんじゃないですか?壁の外を見るって目的が無くなっても……私とリリさんがいれば、それだけで今までと何も変わりませんし。」
芙蓉「………それもそうだね!私と倉田ちゃんさえいれば、それはもう勇者部だよね。なんなら、勇者部が存在しなくたって今までと同じだね!」
倉田「………そうですよ。」
芙蓉「とはいえ、何の目的もないっていうのは、何か寂しいよね。やっぱり何か目標があった方が良いのかなぁ。」
倉田「私はどっちでも良いですよ。目的があってもなくても。」
芙蓉「うーん………。なら私達2人の"勇者部"の活動目標は--この世界をなるべく良くする事!」
倉田「曖昧な目標ですね………でも、悪くないです。」
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ーーー
倉田「………それ言ったのは私じゃないと思いますよ?」
落胆する芙蓉。そこへ他の巫女さんが芙蓉を呼びにやって来る。
巫女「芙蓉さん。ちょっと社務所の方を手伝ってくれる?」
芙蓉「あっ、はい!分かりました。倉田ちゃん、もう少しだけここで待ってて。後30分くらいで私の仕事時間は終わるから。」
そう言い残し、芙蓉は社務所の方へと駆けて行った。
倉田「はぁ……仕方ないか…。」
嵐が過ぎ去ったような感覚に陥ったましろは取り敢えず、神社で時間を潰すことにするのだった。
神社の入り口近くで芙蓉を待っているましろ。スマホを見ながら、時折初詣に来ている人の様子を眺めていた。
倉田「楽しそうにしてるなぁ……。」
和気藹々としている人を見ながら、ましろは再び思い出していた。あの壁の外の光景を。
倉田(平和な世界……だけどそれは仮初の姿。あの時今井リサ様も言っていた…。残酷な真実を突きつけられるのなら、何も知らずに平和に生きてた方が幸せなのかな……。)
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リサ「これが世界の真実の姿。神樹様の御力によって、壁の外の真の光景は、内側から見えない様になってる。だけど、加護から一歩でも外に出ると、本当の世界の姿が露わになる。この世界は--四国を除いて、既に人が住める土地じゃない。滅んでると言ってもいい。私達は壁の外のこの光景やバーテックスの事を、絶対に公開しない。滅んだ世界の凄惨な光景やバーテックスの圧倒的な力を見れば、多くの人は正気を保っていられない。だから四国の安寧を守る為には、隠さなくちゃいけない真実だってあるんだよ。」
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ーーー
真実ほど人を魅了するものは無い。だけど真実ほど人に残酷なものも無いんだとましろは大赦に会うことで痛感もしていた。
それから言われた30分程が経ち、仕事を終えた芙蓉が戻ってきた。手には神社の人がくれた缶コーヒーが握られている。
倉田「仕事終わったんですね。」
芙蓉「……ぷはぁ。廃寝忘食して仕事した後のコーヒーは格別だよ!」
半分ほどコーヒーを飲んだ後、芙蓉は持っていた缶コーヒーをましろに手渡す。
芙蓉「あとは倉田ちゃんにあげるね。」
倉田「ありがとうございます。」
芙蓉「さて、私が今日倉田ちゃんを呼び出したのには理由があるんだ。」
唐突に芙蓉は話を切り出した。
倉田「え?巫女服を見せたかったからじゃないんですか?」
芙蓉「それもある!それもあるけど、私は私が働く姿をみせる事で今の勇者部の活動に警鐘を鳴らそうとしてたんだ。」
倉田「警鐘?」
芙蓉「そう!勇者部は世界をなるべく良くするって目的で昨年に生まれ変わった。だけど!その活動は停滞していると言わざるを得ない。」
倉田「停滞って……今だってリリさんは勇者部の活動として神社の仕事をしてたんじゃ?私も他の部活の助っ人する事だってあるし、それも勇者部の活動って言えるんじゃないですか?」
芙蓉「倉田ちゃん……部活の助っ人の報酬、今も貰ってるでしょ?」
倉田「うっ……。」
手痛いしっぺ返しを喰らってしまう。芙蓉の言う事は当たっていた。ましろの反応で芙蓉の予想は確信に変わった。
芙蓉「やっぱり!貰ったんだね!私以外の人から………浅ましいよ、倉田ちゃん!今まで
倉田「あれは報酬では無いです!お昼ご飯代の奢りとして貰ってるだけです!」
芙蓉「貰わなければ良いじゃん!」
倉田「依頼してきた部の部長が勝手に渡してくるから…。」
必死に取り繕うましろだったが、終いに芙蓉は泣き出してしまった。幼気な少女が涙を流す姿は当然参拝客の目に止まる。側から見ればましろが芙蓉を虐めてる様に見えてもおかしくはないだろう。
芙蓉「うぅ……酷いよ、倉田ちゃん……。」
冷たく突き刺さる視線に恐怖したましろは必死で芙蓉を慰めながら他の部からお金を貰わない事を誓うのだった。
倉田「わ、分かりましたリリさん!もうお金は貰いません!それで良いですか?」
芙蓉「うん!それで良いよ!」
さっきの涙が嘘の様な笑顔を見せる芙蓉。いや、それどころか涙一つ流していなかったのだ。流石は元子役といったところだろう。
芙蓉「話を戻すよ。勇者部は今や倉田ちゃんが他の部の助っ人をしたり、私が地域のボランティアをやったりしてるだけ。果たしてそれで世界を良くする活動って言えるだろうか!」
倉田「でもそもそも単なる中学生の私達に世界をどうこうなんて無理があります。」
芙蓉「子供にだって出来る事はあるよ。その為にも、もっと明確で具体的な活動内容を定めた方が良いと思うんだ。」
倉田「………例えば?」
芙蓉「神社の手伝いをしながら、ふと思いついたんだけどね……。旧世紀……西暦時代の記録を保存して、残していく活動はどうかな!」
それは如何にも芙蓉らしい内容だった。
倉田「西暦時代の記録を!?」
芙蓉「そう!四国を囲む壁ができる前の世界がどうなっていたのか、旧世紀と新世紀の狭間で何が起こったのか……私達でさえ良く知らないんだよ。私達より年下の人達はもっと知らなくなる。私達が調査して、記録を残す事で後世の人々の為に役に立つ筈だよ!」
倉田「リリさんが………凄く良い事を言ってる…。」
芙蓉「私の凄さが分かった?」
倉田「だけど……記録出来ない事もありますよね?壁の外の事とか…。」
壁の外がどうなっているか、それは大赦トップである今井リサによって絶対に口外しないようにと口止めされている事。もしそれを破ったらどうなるか、その一端を二人は壁登りの際に痛いくらいに体験していた。特に芙蓉は相当堪えたようで、ましろがリサの名を口にした途端に震え出してしまう。
芙蓉「うっ……!い、今井…り、リサ……様……!?」
倉田「あまり好き勝手にやってると、また突然現れるかも。」
芙蓉「い……嫌!嫌だぁ!!あの人の前には……立ちたくない……!」
倉田「完全にトラウマになってますね…。」
芙蓉「本当に怖かったんだよぉ……。」
以前のヘリコプター内ではましろの助力もあり、威圧に怯まず立ち向かった芙蓉だったが、内心はこれ程までに怯えていたのだろう。
芙蓉「落ち着け落ち着け私……大丈夫だよ、倉田ちゃん。壁の外に触れるような真似はしないよ……。あくまで歴史を調べるだけだからさ……。」
倉田「声と足が震えてますけどね………。」
芙蓉「これは武者震いだよ!!」
倉田「そうですか…。」
芙蓉「さ、さて!私達が調査して記録すべき旧世紀の真実を幾つかスマホのメモにリストアップしてみたんだ。」
そう言うと、芙蓉はスマホのメモ帳をましろに見せる。そこには箇条書きで幾つかの走り書きがありーー
・神樹の正体、宇宙人が残したオーパーツ説を検証。
・大赦、古事記に記されし人類誕生以前の秘密結社説。
・花園友希那様、産まれた時からクローン影武者七人いる説。
・旧世紀の四国は呪術的に世界の中心だった説。
・旧世紀、年越しうどんはマイナーだった説。
倉田「…………。」
言葉を失ったましろとは対照的に、満面の笑みでスマホを見せている芙蓉。
芙蓉「どうかな、倉田ちゃん?」
倉田「全部怪しい都市伝説じゃないですか!」調べるまでもなく嘘だって分かりますよ!」
芙蓉「いやいや、そうとも限らないよ?」
倉田「はぁ………リリさんは全然変わりませんね…。」
最早反対意見を言う気力も無くなってしまった。メモ帳を閉じようとしたその時、ましろはメモ帳の下にもう一つの走り書きに目が止まった。
・"香澄"という名前に関する説。
芙蓉「ん?あぁ、そのあたりはまだ構想段階というか……調査内容を決めてないんだ。」
倉田「…………取り敢えず、全部却下です。去年のようにリリさんの言う都市伝説や陰謀論に付き合う気はありません。」
芙蓉「そんなぁ……!一緒に調査しようよぉ!!」
倉田「私はもう帰りますよ!」
そう言い残し、ましろは芙蓉を置いて神社を後にするのだった。
芙蓉「待ってよ、倉田ちゃーーーん!!」
芙蓉の声を無視して帰路に着くましろ、だがその途中とある言葉がずっと頭の中で反芻しているのだった。
倉田("香澄"の名前………か…。)
それから数日が経った。
ましろは今日もバスケ部の助っ人として試合に参加している。ましろが的確にスリーポイントのシュートを決め続け、試合は月ノ森中学の勝利で終わる。試合が終わり、バスケ部の部長がましろに話しかける。
バスケ部部長「やるじゃん、シロ。今回もシロのお陰で勝てた勝てた!やっぱりシロはバスケ部に入るべきっしょ!」
倉田「何度も言うけど、遠慮するよ。」
バスケ部部長「相変わらず連れないねー、シロは。今回の助っ人代は後で渡すから。」
倉田「あ……それなんだけど、もう助っ人代は貰わない事にしたんだ。今後は無償で。」
そう言ってましろは体育館を後にしようとしたその時、スマホに芙蓉からの着信が入る。
倉田「もしもし。」
芙蓉『倉田ちゃん!』
芙蓉の口調は何やら興奮気味だった。まるで新発見を早くましろに教えたいかの如くソワソワしているのが電話越しでも伝わってきた、
芙蓉『