真相を確かめる為、"深沼香澄"なる人物を探す二人はネットの情報網を頼りに愛媛の中学へと向かった。
そこで会った人物は、かつてましろの自信を打ち崩した者だったーー
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倉田(私は、自分の名前が嫌いだった。バーテックスと呼ばれる化け物と戦って四国を守った"4人"の勇者の一人、高嶋香澄という名に因んだ"香澄"という名前が。香澄という名前は産まれた時に特別な動作をした人に付けられる。その動作が何の意味を持つのかは知らない。)
倉田(ただ、香澄という名を付けられた子供は……ほんの少しだけ特別であるかの様に見られてしまう。その視線は"呪い"だ。私を増長させ、狂わせ、貶め、焦らせ、苛立たせ……苦しめた。でも、私はリリさんとそして………あの人、花園友希那様に出会ったお陰で"香澄"という名前と、私に向けられる視線の呪縛を受け入れる事が出来た。何があったのかは………まぁ、色々あったんです。だけど、もしも私達以外にも"香澄"という名前を持つ人がいたら……その人はどう生きているんだろう。"香澄"の名前はどう思っているんだろう………。)
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うどん屋ーー
芙蓉・倉田「「いただきます!」」
芙蓉「感慨無量だよ!やっぱりこのお店のうどんは美味しいねぇ!」
一口毎に食レポをしながら舌鼓を打っている芙蓉に対し、ましろはいつもの様に無心で食べ続けている。
倉田「ずずっ……ずずっ………。」
倉田(あぁ……頭の中を空っぽにして、食べ続けてたいな……。)
否、ましろも頭の中で食レポをしながら食べていた。
芙蓉「このお店はね、旧世紀の頃から香川県産の小麦を使ってるんだって。私達が追っている旧世紀の資料に残しておくべきだね!」
食べながら芙蓉がうんちくを披露している間に、ましろはうどんを完食してしまった。
倉田「ぷはぁ……ご馳走様です。」
芙蓉「早い!」
倉田「それでーー」
食べ終わるや否や、ましろは昨夜あった芙蓉からの電話の話題を切り出した。
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芙蓉『
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倉田「もう一人の"香澄"が見つかったかもしれないっていうのはどういう事です?」
芙蓉「ま、待って待って!今食べ終わるからぁ!」
慌てて残りのうどんを頬張る芙蓉。
数分後ーー
芙蓉「はぁ……美味しかったぁ…。さて、今回の件について、まず"香澄SNS"について話さないとだね。」
倉田「"香澄SNS"………ですか?」
芙蓉「その通り。文字通り、香澄の名を持つ者だけが入れるSNSの事だよ。」
倉田「そんな物があるんですか!?」
芙蓉「ふふーん、私が作ったんだ!」
倉田「……………へ?」
芙蓉「実はね、倉田ちゃんと出会った頃にふと思ったんだ。もしかしたら私達の他にも結構な数いるんじゃないかって。」
香澄という名は産まれた時に逆手を打った子供に付けられる名である。偶然逆手を打った子供や、ましろの様に最初から"香澄"と名付けられた子供もいる可能性は0ではない。
芙蓉「だからサーバーを立てて、オープンソースのツールを使って"香澄"しか入れない完全招待制のSNSを作ってみたんだよ!」
倉田「自作でSNSを!?」
芙蓉「凄いでしょぉ!………でも、加入者は全然いなかったんだけどね……。」
倉田「私のお母さんも香澄の名前を持つ人はそんなにいないって前に言ってたっけ……。」
芙蓉「千慮一失……私はその後、SNSの存在自体を忘れてたんだ。だけど、昨日久しぶりに見てみたらなんと加入依頼の連絡が来てたんだ!」
この芙蓉の話が本当であれば、この四国にもう三人目の香澄がいるという事になる。ましろのテンションは若干の上昇を見せた。
倉田「それで、どんな人なの?」
芙蓉「"深沼香澄"っていうみたい。」
倉田「…………!」
芙蓉「だからすぐにその人にメッセージを送ったんだ。だからすぐ返事が来る筈だよ!」
笑顔で鼻高々に説明する芙蓉。自分の名前について何か分かる事があるかもしれない。そんな淡い期待を抱えながら次の日を迎えるのだった。
翌日ーー
芙蓉「返信が来ない!!」
ファーストフード店でハンバーガーを頬張りながら芙蓉は不貞腐れていた。
芙蓉「
倉田「そんなに急いでハンバーガーを食べると喉に詰まらせちゃうよ?」
芙蓉「もぐもぐ………私は半分アメリカの血が流れてるから……もぐもぐ……言わばソウルフードなんだよ?喉に詰まらせるなんてありえ……っ!?」
次の瞬間、苦悶の表情を浮かべながら芙蓉は胸を叩き出した。案の定ハンバーガーが喉に詰まってしまったのだ。
倉田「っ!?早くジュース飲んでください!」
ましろが手渡したジュースを急いで飲み出す芙蓉。一気に飲み干し、何も無かったかの様に彼女は話を続けた。
芙蓉「………だけど、どうして返事が来ないんだろう。」
倉田「まだ一日しか経ってないし、もう少し待ってみたらどうです?」
芙蓉「…そうだね…。」
その翌日ーー
芙蓉「今日も来ない!!
今日はうどん屋でうどんを食べている二人。まだ返信が無い事に苛立っているのか、芙蓉のうどんを啜る様子も若干の荒々しさを見せている。
倉田「怒るのか食べるのかどっちかにしたらどうです?まだ二日目です。もう少し待ってみましょう。」
その翌日ーー
芙蓉「来なーーーーーい!!!
倉田「もぐもぐ………。たこ焼きの様でいて、この食べ応え……上にかかったマヨネーズに青海苔、削り節…この食べ物はたこ焼きの進化系か…お好み焼きの亜種か……。いつも私を迷わせる……。」
芙蓉「うんそうだねぇ……って!食べ物より私の怒りを聞いてよぉ!!」
あれから三日経ったがまだ連絡は来ない。芙蓉の痺れもとうとう限界まで来ようとしていた。
倉田「冷める前に食べたいんです!たこ判は一個200円もします。滅多に買い食い出来ないんです!」
芙蓉「今度私が奢ってあげるからぁ!!………そんな事より、どうして返事が来ないんだろう。」
倉田「ちょっと気になったんですけど、リリさんはその香澄SNSを放置してたって言ってましたよね?その深沼香澄さんから連絡が来たのはいつなんですか?」
芙蓉「えっとねぇ……二ヶ月前だよ。」
倉田「…………………え?」
芙蓉「二ヶ月前。」
その言葉にましろの怒りが一気に頂点にまで達したのは言うまでもないだろう。
倉田「二ヶ月ですか!?二ヶ月も放置して今更返信したところで反応なんてある訳ないじゃないですか!!」
芙蓉「えぇぇぇぇぇぇっ!?!?!?どうして!?」
倉田「そんな胡散臭いSNSに加入申請して返信が無かったらイタズラか詐欺サイトかって思いますし、二ヶ月経ったらとっくにその人も忘れてるに決まってるじゃないですか!!」
芙蓉「胡散臭い!?」
倉田「諦めましょう。多分深沼香澄からは今後一切ありません。」
芙蓉「そ、そんな…………。」
倉田「まぁ、私も"香澄"って名前の人には興味がありますけどね……。」
芙蓉「……ふっ………ふふふっ……ふはははっ……!」
香澄の名が知れる機会を失い、若干の落胆を見せたましろ。だが、芙蓉は違った。このどん底の状況が逆に芙蓉の執念に火をつけてしまったのだ。
倉田「ど、どうしたんです?」
芙蓉「私は諦めない………百折不撓だよ!!倉田ちゃん、今から私の家に行くよ!」
そう言って芙蓉はましろの腕を掴み、半ば強引に芙蓉の家に連行するのだった。
芙蓉宅ーー
芙蓉「ただいまー!」
倉田「お、お邪魔します。」
二人は芙蓉の自室入ると、芙蓉は自分の机に置いてあるパソコンを起動、徐にキーボードを叩き始めた。
倉田「何するんです?」
芙蓉「私の香澄SNSを発見するくらいなんだから、きっと深沼香澄は多少なりともネットの知識に詳しいんだと思う。となると………。」
パソコンの画面上には次々と色々なSNSのサイトが。短文投稿型SNS、日記系SNS、画像メインのSNS、動画投稿SNS等々。一口にSNSと言っても数多くの種類があり、人々は自分に合った一つのSNS、若しくは複数のSNSを楽しんでいる。芙蓉はそれらの中から"深沼香澄"という名前を検索にかけていたのだ。すると"深沼香澄"という名前の複数のアカウントが見つかった。
倉田「幾つか出てきましたね。」
芙蓉「そして、短期間にアカウントの名前を変更したのはきっと本名じゃないから、それらは除外。次に投稿内容だけど……同一人物だったら異なるSNSでも似た様な文体や思想がある筈だから………ふふっ。」
倉田「リリさんの邪悪な笑み……初めて見た…。」
それらを加味して、篩にかけて行くと、やがて一つのアカウントが芙蓉の目に留まった。
芙蓉「複数のSNSに出てくるこの"深沼香澄"……多分これは同一人物の筈。きっと彼女こそ私達に連絡を送ってきた人に間違いない!」
目星をつけたアカウントに対し、芙蓉は更にそこに載せられている写真を分析する。投稿された写真の風景、電柱、マンホール、民家から芙蓉は住所を特定。更にそこに写っている人の瞳やメガネに映った物をAIの情報検索にかけ、投稿時間を分析して行動パターンの予測、挙げ句の果てには投稿内容から年齢や行動範囲、生活ルーティンを推測するにまで至った。
芙蓉「ふむふむ…………成る程、どうやら彼女は随分な高嶋香澄フリークみたいだね。」
倉田(リリさんが怖い……どんどんSNSから情報を抜き出してる…。敵に回すのは絶対に止めよう。)
芙蓉「倉田ちゃん、分かったよ!」
倉田「な、何がです?」
とうとう突き止めた芙蓉は、今度は画面に地図を映し出す。示された範囲は愛媛県のとある地域だった。
芙蓉「どうやら年齢は私達と同じくらいだから学校も特定出来そうだよ。SNSのフレンド一覧から交友関係も分かりそう。」
倉田「そんな事まで分かるんですね……………あれっ?」
フレンド一覧の中から、ましろはとある人物の名前に気がつく。
芙蓉「どうしたの?」
倉田「この名前は…。」
芙蓉「知り合い?それなら都合が良い!その人を通じて深沼香澄に近付けるかもしれない!」
倉田「知り合いって程じゃないけど……。」
その人はあの時たった一回会っただけ。だけどその人の名前と雰囲気は今でも鮮明に覚えていた。
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?「意外に大した事なかったわね…。」
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ーーー
倉田(あの時の私は世間知らずだった。旧世紀を知っている大人は香澄の名前を高嶋香澄に結びつける人も多い。だから少しスポーツが出来る私も注目されて、私はそれを自分の力だって勘違いした。その勘違いを打ち崩したのが、その人とそのチームメイト達だった。私がその人達と会ったのはたった一回だけだけど、その後も人伝いにチームの活躍は聞いていた。)
愛媛県、とある中学校前ーー
そして次の日、二人は深沼香澄が通っているであろう中学校の前まで来ていた。情報を調べ終わった後、ましろが深沼香澄のフレンドの人に連絡を取り、会う事を取り付けていたからだ。待つ事数分後、校門からその人が姿を現した。
?「待たせたわね、倉田さん。」
倉田「久しぶり。あの時の大会以来ですね、八潮さん。」
瑠唯「ええ、そうね。隣の方はどなたかしら?」
芙蓉「私は倉田ちゃんの大親友の芙蓉香澄です。あなたが八潮瑠唯さんですね。バスケの大会で倉田ちゃんをコテンパンにした。今日はそのリベンジに来た!」
瑠唯「そうなの?」
倉田「違います!!何を言ってるんですか!」
ましろは出会い頭に出まかせを言う芙蓉の口近くの頬を両手で摘み、そのまま上下左右に激しく動かした。
芙蓉「
瑠唯「急にあなたから連絡が来て少し驚いたわ。どうして私の連絡先が分かったのかしら?」
芙蓉「とある人を調べてたら偶然あなたの名前のSNSアカウントを見つけたんだ。この学校にいる深沼香澄って人を知ってる?」
瑠唯「深沼香澄………えぇ。」
芙蓉「知ってるんだね!」
瑠唯「同じクラスですから。」
芙蓉「是非合わせてほしいんだ!」
瑠唯「……………。」
少しの間瑠唯は考えた後、二人にとある提案を出すのだった。
瑠唯「ええ、良いわ。ただし、倉田さん。あなたが私にバスケで勝ったらの話しよ。」
倉田「えっ!?」
瑠唯「あなたが勝ったら連れてくるわ。」
その提案を受け入れたましろは体育館へと移動するのだった。
体育館ーー
芙蓉「頑張れー!頑張れー!倉田ちゃーーーん!!」
1on1で対峙するましろと瑠唯。ましろが攻撃側で瑠唯が守備側。ましろが瑠唯からゴールを決めればましろの勝ち。ましろの攻撃を防げば瑠唯の勝ちとなる。
瑠唯「ねぇ、倉田さん。何故あなたはバスケ部を辞めたのかしら?」
倉田「…………っ!」
瑠唯「あの試合の後、倉田さんがバスケ部を辞めた事を人伝いで聞いたわ。私達に負けて、心が折れでもしたかしら?案外脆いのね。」
挑発をかけ揺さぶる瑠唯。だがこの勝負の決着は一瞬で着くこととなる。
瑠唯「っ!ここでフェイント……!」
倉田(隙を作った!ここからなら……!)
前へ切り込むと見せかけてバックステップで下がったましろは、そのまま3ポイントラインからシュートを放つ。放物線を描くボールはそのままゴールへと吸い込まれて行く。勝負はましろの勝利で幕を下ろすのだった。
瑠唯「…………私の負けよ。流石ね、倉田さん。」
倉田「たまたま運が良かっただけだよ。」
瑠唯「私達があの時の試合に勝てたのも運が良かっただけよ。…………もう一度聞くわ。どうしてバスケ部を辞めたのかしら?」
倉田「あのまま続けても、成果が出ないと思っただけだよ。」
瑠唯「成果………ね。あの時のチームメイトも同じ事言って殆ど辞めていったわ。第一もしこのまま四国でトップになってもそこで打ち止め。旧世紀には日本全国とか世界を目指していたけれど。」
倉田「今の時代にはもう無いもんね。」
瑠唯「そうね………この世界は狭すぎる。………約束通り彼女を連れてくるわ。久々に試合が出来て楽しかったわ、倉田さん。」
体育館を後にする瑠唯に向かって芙蓉は叫んだ。
芙蓉「瑠唯ちゃーん!世界だろうと日本全国だろうと何処で活躍するかは関係ないと思う!自分がやってきた事は、必ず自分にも周囲にも意味を齎すから。世界だろうと四国内だけだろうと関係ない!自分が成し遂げてきた事そのものが、何よりも大きくて重要な成果だよ!」
倉田「リリさん……。」
"成し遂げてきた事"ーー
ましろはその言葉が今でも心の中に残っていた。何故ならその言葉はあの初代勇者である友希那が言っていた言葉だったから。自分の力を認めてくれた言葉だったから。
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ーー
ー
友希那「だけどね、倉田さん。"力"というものは、その強さや大きさが重要なのではないの。"何の為に使うか"、よ。今回、あなたは友の為に精一杯の力を使った。その結果として、今からあなた達は壁の外を見る事が出来る。あなたは友の願いを実現させたのよ。あなたの持ってる力は……私達勇者や、あるいは天才と呼ばれている人達に比べて小さいかもしれない。だけどその力を振るって成し遂げた事は、"神世紀になって約30年、誰も成し遂げる事が出来なかった偉業"なのよ。」
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ーーー
瑠唯「芙蓉さん…。その言葉、心に留めておきます。呼んでくるので此処で待っててください。でも、多分二人が思ってる人とは違うと思うけれど。」
そう言って瑠唯は体育館から去って行くのだった。
倉田「どういう意味だろう……?」
それから数分後ーー
?「あの………るいるいに此処に来るように言われたんですけど……。」
倉田「あっ……。」
芙蓉「やっと来たね……ってーー」
芙蓉・倉田・?「「「えーーーーーーーーっ!!!!」」」
七深「シロちゃん!?」
倉田「な、七深ちゃん!?」
体育館にやって来た人物はピンク色の髪をした短いサイドテールの少女。二人が驚くもの無理はない。何故なら深沼香澄の正体は、以前に二人が会った事のある人物だったからである。