情報収集の足掛かりとしてインフルエンサーへの道を進み出した"勇者部"。
するととある人物からのコンタクトがありーー
芙蓉(昔私がまだ芸能の仕事をしていた頃、『バナナフィッシュにうってつけの日』という小説を読んだ事があった。最初から最後まで文章ら理解出来るが、主旨が
芙蓉(青年の自殺には、きっと作者には明確な動機付けがあったのだと思う。だけど、それは作中には書かれていない、実に不親切な小説だろう。でも、現実の出来事の多くも同じ事なんだろう。あらゆる物事のバックグラウンドは決して表面には出てこない。人の行動も言動もその真意を他人が完全に理解する事は絶対に出来ない。探偵小説の様に丁寧に全てが説明される事は無い。それは親子や兄弟、はたまた親友といった親しい間柄においても同じだ。真実は決して分からない。でも、だからこそそれを理解しようとする事は、時としてとっても大切な事なんだろう。)
芙蓉(最終的に、その真実を知れなかったとしてもーー)
"勇者部"に新たな仲間広町七深が加わり今までとは違った賑わいを見せる様になった芙蓉とましろ。三人は今日も今日とてうどん屋に来ており、うどんを啜りながらこれからの事について話し合っていた。
七深「う〜ん!!私がいつも食べてるうどんとはまた一味違った味がする!愛媛と香川で違いがあるのかな?」
芙蓉「もぐもぐ………それは興味深い感想だね。各地のうどんについても旧世紀からの歴史に残しておきたいね!七深ちゃん、今日は七深ちゃんの歓迎会も兼ねてるから遠慮しないで食べてね!」
倉田「それよりも七深ちゃん、本当に"勇者部"に入る気なの?」
七深「うん。と言っても、家が遠いから基本土日だけの参加になっちゃうけどね。」
芙蓉「全然構わないよ!不定期参加でも、学校が違っても、私達は同志なんだから!」
七深「旧世紀の情報を集めれば、高嶋様の功績について更に知れるかもしれないしね!それで………"勇者部"って普段どんな活動をしてるの?」
芙蓉「良く聞いてくれたね!旧世紀と神世紀の間に起こった様々な真実を記録して、語り継ぐんだよ!」
七深「それは知ってるんだけど、具体的には?」
芙蓉「ぐ、具体的に………?」
七深「この前私のお母さんに話を聞きにきてたけど、あんな風に"7.30天災"の当事者に話を聞いていくって感じかな?」
芙蓉「そ、それは……そのぉ……。」
倉田「いいえ、実際に話を聞きに行ったのはあの時が初めてだよ。」
七深「え?じゃあいつもは何をしてるの?」
芙蓉「えっとぉ…………うどんを食べたり…ハンバーガーを食べたり?」
七深「何もしてないよね、それ。」
芙蓉「うぅ……
倉田「そんな訳なんで、大きな目標を抱えてるだけで実際は何にもしてないんです。」
芙蓉「でもでも、束手無策を続けるつもりはないよ!情報収集をする為の足掛かりを作り始めたんだから!」
そう言うと芙蓉はリュックから徐にタブレット端末を取り出して、二人にあるサイトの画面を見せる。
芙蓉「じゃじゃーん!これを見てよ!新生勇者部のホームページを作って、各種SNSにアカウントも作った!ここで呼び掛ければすぐに情報が集まる筈!!」
七深「それは凄い!それで、その成果は出たの?」
七深の鋭いナイフの様に尖った質問に芙蓉は再び狼狽えてしまう。
芙蓉「えぇ〜っとねぇ………今の所はまだ…。」
倉田「全然ダメじゃないですか!!」
芙蓉「うぅ〜………じゃあどうすれば良いのぉ!!」
うどんを食べるのも忘れるほど頭を抱えて困っている芙蓉。すると七深はある提案をするのだった。
七深「そうだなぁ………このSNSのサイトとホームページ、私に管理させてくれないかな?」
芙蓉「七深ちゃんに?」
七深「うん。ネットを使って情報収集がしたいなら、まずは知名度を上げなきゃ。私が立ち上げた高嶋香澄様のファンサイトは月間のPVが20万を超えてるんだ。」
倉田「ファンサイトって………え、20万!?」
芙蓉「す、凄い!凄いよ!私の作ったホームページの2万倍も!?」
倉田「雲泥の差じゃないですか………。」
七深「私がこの勇者部サイトの知名度を上げて、情報を入れ食い状態にしてみせます!早速行動に移しましょう!!」
こうして芙蓉とましろは七深に言われるがまま、お会計を済ませて近くの公園へと移動するのだった。
公園、噴水広場ーー
七深「じゃあそこで回って笑顔。手はハートの形を作ってね。」
倉田「は、ハート?」
七深「リリちゃんは足が上がってないよ。シロちゃんはは笑顔が硬いから動きを合わせてね。」
辺りを通りすぎる人達のなんとも言えない視線が刺さる中、訳が分からないまま二人は数分間のダンスを何回か踊るのだった。
芙蓉「はぁ……はぁ………く、倉田ちゃん…どうして私達は公園でダンスしてるの?」
倉田「分かりません……全然分かりません…。」
体力が無くその場にへたり込む芙蓉。対してましろは普段から部活の助っ人をしている事からもあまり疲れを顔に見せていない。が、ましろはまた違った疲れを見せているようだった。そんな二人に対し、七深はこう言い放つ。
七深「二人にはこれからインフルエンサーになってもらうよ!」
芙蓉・倉田「「インフルエンサー?」」
七深「そうだよ。だから踊るの。」
倉田「どうしてダンスに繋がるの!?」
芙蓉「成る程……私達の可愛さで"勇者部"の知名度を上げる作戦だね?」
七深「ふっふっふ………リリちゃんは元子役なだけあって、自分の価値を分かってますねぇ。かつて高嶋香澄様が国民の関心を集めたのは、勇者というだけじゃなく、自身についても大きく報道されたから。メディアは有効に活用するべきです。二人の色んな動画をネットにアップして注目を集めるんです。」
確かに七深の言う事には一理ある。現状ホームページは機能していないと言っても良い。アクセス数が増えればそれだけ情報も集まりやすいからだ。足掛かりとしての最初の一歩としてはかなり大きいだろう。だが、ましろは大きく頭を横に振った。
倉田「ちょっと待って!私はやらないよ!さっきはつい流れで踊っちゃったけど……恥ずかし過ぎてもう絶対にやらない!!」
目立つ事を嫌うましろの意思は固い。どんなテコでも動かないだろう。だが七深は違った。違うアプローチでましろに揺さぶりをかける。
七深「シロちゃんがそこまで言うなら、リリちゃんだけにやってもらおうかなぁ………そしたらリリちゃんが有名になって、いずれ変なファンに粘着されちゃって、ストーカーされちゃって…………危険な目に遭うかもしれないね…。」
倉田「な、何言ってるの七深ちゃん……。」
ましろに漠然とした不安がのしかかる。自分の事だけならまだ良かった。だが、友達が危険な目に遭うかもと聞かされたましろの心は大きく揺らいだ。更に追い討ちをかける様に芙蓉がましろに語りかける。
芙蓉「大丈夫だよ倉田ちゃん、七深ちゃん。私は危険でも一人でやっていくよ。」
倉田「うっ…………うぅ〜〜…分かった!分かりました!私も一緒にやります!」
芙蓉・七深「「チョロいっ!!」」
互いを見合い小さくガッツポーズを作る芙蓉と七深。
倉田「また私は乗せられてしまった……。」
七深「それじゃあダンスの練習を再会しましょう!」
こうして"勇者部"の新たな活動が始まった。四国一のインフルエンサーを目指すべくダンスだけでは無く、歌を歌う動画を撮ったりーー
芙蓉「見てよ、倉田ちゃん!私が歌った動画の再生回数を!コメントも沢山付いてるよ!」
七深「リリちゃんが子役時代に歌った歌を今のリリちゃんが歌う…これが伸びない筈がありません!」
倉田「歌も出来るなんて、リリさんは芸能活動の才能には溢れてますね…。」
ASMRの動画を撮ったりーー
倉田「本当にこんな動画で大丈夫なのかなぁ……。」
七深「うんうん、その咀嚼音が脳に効くんだよ!」
動画によって二人の知名度が上がっていくにつれて、ホームページの閲覧数は日に日に伸びていった。動画の再生数も右肩上がりに増えていく。そして何回かの生放送も行い、同接も平均4000人を超えるにまで至ったのである。
それから暫く経ったとある週末、集まって早々に七深は二人にとある報告をする。
七深「なんと、私達のホームページの先月のPV数が30万回を突破して、SNSの総フォロワー数も7万人を超えたんだよ!もう"勇者部"は立派なインフルエンサーと言っても過言じゃないです!」
芙蓉「凄い………凄いよ七深ちゃん!遂に私達はインフルエンサーになれたんだね!」
倉田「………………。」
喜び万歳三唱する芙蓉と七深に対し、放心状態のましろ。
倉田「………ーーない。」
芙蓉「え?」
倉田「こんなんじゃないでしょ、リリさん!!私達はインフルエンサーになりたい訳じゃない!"勇者部"の当初の活動を思い出してくださいよ!!!」
芙蓉「………………あーーーーーーーっ!!!
七深「落ち着いてください。知名度が上がれば、情報も集まりやすくなる筈です!」
芙蓉「そうだそうだ!その為の活動だったね。私達宛に何か来てない?」
七深「えっとー……………ん?これは……。」
何かないかと探していた七深の指が止まる。
倉田「何か来てたの?」
七深「リリちゃん、シロちゃん……これ見て。」
翌日、徳島県のとある喫茶店ーー
芙蓉「凄い!この喫茶店からは大鳴門橋が一望出来るね!」
倉田「七深ちゃん、メッセージをくれた人はまだ来てないの?」
七深「えっとねぇ…………書いてあった特徴の人らしき姿はまだないかな。」
芙蓉「まぁ、待ち合わせ時間も場所も間違ってないんだからそのうち来る筈だよ。」
倉田「それで…詳しい事は聞いてなかったんだけど、どんな人なの?」
七深「"7.30天災"の時に四国の外から避難してきた人みたい。」
倉田「七深ちゃんのお母さんと同じ境遇だ……。」
芙蓉「ふっふーん♪動画活動で私達が有名になったからこそ情報提供者が現れたんだよ!」
七深「そのメッセージにはね………"動画で広町七深さんという方を見てーー"……って書いてあるね。」
芙蓉「あれー?」
倉田「私達はあまり関係無さそうだね…。」
確かに七深も時々動画にアシスタント役として映った事もあった。嘆く芙蓉に七深は更に続ける。
七深「リリちゃん、待って。まだ続きがあるんだ。"また、芙蓉さんとお話ししたいと思い連絡させていただきました。"だって。」
倉田「…………?つまり、リリさんと七深ちゃんの両方の関係者って事?」
七深「私とリリちゃんに共通の知り合いなんていなかった筈だけど………。」
芙蓉「そうだね…。」
それから数分の後、とある女性が喫茶店に入店し辺りをキョロキョロと見回しながら三人の元に近付いてきたのである。女性は三人を見つけると七深に尋ねるのだった。
?「あの……もしかして貴女は広町七深さん?」
七深「あっ……はいそうです。」
?「そしてこちらが芙蓉香澄さんで、こちらが倉田……ましろさんかしら?それとも香澄さんと呼べばいいかしら?」
芙蓉「はい。」
倉田「どちらでも構いません。」
?「七深さん………やっぱりどことなくあの人の…そして……香澄さん……そうなのね…………。」
七深「メッセージをくださった方ですか?」
?「あっ、ごめんなさい。挨拶が遅れてしまって…。初めまして。私、牛込と言います。」
会釈を交わし席に着いた牛込と名乗る女性。彼女は三人に驚くべき事を口にするのだった。
牛込「"7.30天災"が起きて四国へ避難してる時、私は高嶋香澄様と和奏レイさん………貴女のお母様に助けて頂いたんです。」