戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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外伝4部、5話目。

連絡を取り3人が会う事になった人物、牛込るり。
かつて高嶋香澄と和奏レイに助けられた事があるその女性は芙蓉にとある物を託しにやって来たのだがーー


次回、外伝4部最終回ーー


母の涙

 

 

ーーー

ーー

 

 

芙蓉(私の中にある一番古い記憶は、お母さんが泣いていた場面だった。物心付く前の記憶なんて殆ど忘れてしまっているのに、何故かその光景だけははっきりと覚えている。泣いている理由は分からない。物心付いた後の思い出の中ではお母さんはいつも私に笑顔を見せていたから。だから泣いている姿なんて後にも一度も見ていない。)

 

芙蓉(だけど、そのたった一つの記憶の中ではお母さんは別人の様に弱々しく涙を流していた。私がお母さんと過ごした時間はとても少ない。お母さんは早くに亡くなってしまったし、生前も殆ど全ての時間を病院かベッドの上で過ごしていたから。私は、お母さんの事を何処まで理解してたんだろう………。)

 

 

ーー

ーーー

 

 

 

徳島県のとある喫茶店内ーー

 

牛込「あっ、ごめんなさい。挨拶が遅れてしまって…。初めまして。私、牛込と言います。"7.30天災"が起きて四国へ避難してる時、私は高嶋香澄様と和奏レイさん………貴女のお母様に助けて頂いたんです。」

 

その言葉に驚きを隠せない3人だったが、芙蓉はその女性、牛込るりに険しい剣幕で話しかける。

 

芙蓉「牛込さん………聞かせていただきましょうか…。どうして私より先に、七深ちゃんが貴女の目に留まったのかを…!」

 

牛込「そ、それは………。」

 

芙蓉「奇怪千万!!あの動画の中で常に目立ってたのは私と倉田ちゃんです!なのにどうして……貴女の目には真っ先に七深ちゃんが目にーー」

 

倉田「良い加減にしてください!!」

 

じりじりと詰め寄る芙蓉の脳天に、ましろのチョップがクリーンヒット。芙蓉は頭を抱えて悶絶する。

 

芙蓉「くぅ〜〜っ!!倉田ちゃん!ツッコミが強過ぎるよぉ!!」

 

倉田「リリさんが刑事ドラマみたいな事をしてるからです!牛込さんも困ってるじゃないですか!」

 

芙蓉「だけど真実を追求するのが"勇者部"の使命だよ!?」

 

倉田「それとこれとは別です!」

 

店内だというのに水かけ問答を繰り返す二人を見て、思わずるりから笑みが溢れた。

 

牛込「ふふっ……二人は仲が良いんですね。」

 

倉田「え?仲は……まぁ、そうですね。」

 

牛込「さっきの芙蓉さんの質問だけど、最初に言った通り七深さんのお母さんは私の命の恩人なんです。」

 

七深「それはどういう……?」

 

牛込「私は四国へ避難してくる時、七深さんのお母さん……和奏レイさんにとてもお世話になったの。まさか娘さんを見つけられるとは思わなかったわ。名前じゃ気が付かなかったけど、何て言うのかしら………雰囲気がね。」

 

七深「お母さんに………。」

 

牛込「近いうちにレイさんにご挨拶させてちょうだいね。」

 

七深「はい…それは良いですけど……四国へ来た時って事は高嶋様とも一緒だったんですか!?」

 

牛込「ええ……まだ私は幼かったけれど、朧げにその時の事は覚えてる。」

 

そうしてるりは僅かに覚えていた時の事を3人に話すのだったーー

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

高嶋「見つけたー!レイヤちゃーん!見つかったよーー!!」

 

レイ「見つかって良かった…。こんな所に一人でいちゃ駄目だよ。帰ろう。」

 

牛込「かえるって……どこに?おばあちゃんはびょうきでうごけないからいえにいるの……おとうさんはかいしゃにいっててどこにいるのかわからない…。いえにかえりたい……くらくなったらいえにかえりなさいっていわれてたのに………。」

 

レイ「大丈夫。帰れるよ。きっとすぐに家に帰れる。今は色々とおかしくなってるけど、いつか全部元に戻る。大丈夫。きっと家に帰れるから……。だから、今は行こう?少しの間だけ、安全な場所に行っていようね。」

 

 

ーー

ーーー

 

 

七深「そうだったんですね………。」

 

牛込「それで話は変わるけれど、今日の目的は芙蓉さんに会う為だったの。」

 

芙蓉「私ですか?」

 

牛込「そう。私、芙蓉さんのお母さんとは友達だったから。」

 

倉田「友達?」

 

それからるりは3人に"7.30天災"の後に起こった様々な事について話すのだった。避難の際に家族とは離れ離れになってしまった事。避難民は天災の後の混乱の中で、住む場所も働く場所も少なく苦しい生活を余儀なくされてしまった事。そして、一部の人間から差別に近い迫害を受けた事。それは芙蓉の母親やましろの父親が体験してきた事と殆ど同じだったのだ。

 

牛込「ーーそしてその時期、四国の外から避難してきた人達は互いに助け合う為、様々な互助団体を作ったの。私と芙蓉さんのお母さんはその団体の一つに所属していたんです。途中から彼女は会合には来なくなってしまったけれど………。」

 

芙蓉「お母さんは病でしたから……。症状が重くなってからは殆ど病院から出られなくなっていましたし。」

 

牛込「そうみたいですね……。そのうち私も仕事の都合で引っ越して、会う機会も無くなってしまった。でも、最後に会った時に受け取った物があるんです。」

 

芙蓉「え?」

 

そう言って牛込はカバンから一冊の本を取り出し、テーブルの上に置いた。

 

牛込「これは彼女が書いた日記です。芙蓉さんが産まれる前から書いていたものだったみたい。」

 

倉田「牛込さんが私達に会いたかった理由は、これをリリさんに見せる為ですか?」

 

牛込「えぇ…そうなんだけれど……正直迷ってるんです。」

 

倉田「迷ってる……?」

 

牛込「芙蓉さん、あなたはお母さんの事が好き?」

 

唐突に投げかけられた質問。芙蓉は迷わず首を縦に振り答える。

 

芙蓉「はい、勿論です!」

 

牛込「………そう。」

 

るりはテーブルに置いた日記から指先を離さなかった。まるでこの日記を見せることに渋っているかの様に。

 

七深「…どうかしましたか?」

 

牛込「あなたのお母さんが日記を私に預けたのは、彼女自身がこの日記を娘に見せるのを躊躇っていたから。娘にはこれを見せたくない……嫌われてしまうから…って。」

 

芙蓉「……え?」

 

るりはテーブルに置いた日記をまたカバンに戻して言葉を続ける。

 

牛込「すぐに答えを出さないで…数日考えてみてほしいの。これが私の電話番号。答えが出たら連絡をください。この日記の本来の持ち主はあなたであるべき。だけど、彼女の気持ちの問題もあるから……。」

 

そう言ってるりは喫茶店を後にするのだった。嵐が過ぎ去った後の様な静けさが3人を包む。それから暫くして3人も喫茶店を出て帰路に着くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

電車内ーー

 

倉田「どうするんですか、リリさん?」

 

芙蓉「うん…………。」

 

七深「当然貰いましょう!貰うべきだよ!」

 

倉田「だけどリリさんのお母さんが見せたくないって………実の娘でも、そんなに軽々しく見て良いのかな…。」

 

七深「それは……そうだね…。」

 

芙蓉「ともかく、牛込さんから言われた通りに少し考えてみるよ。」

 

倉田「それが良いです。」

 

 

 

 

 

 

 

数日後、倉田宅ーー

 

3人がるりと会って3日が経った日の夜、ましろが携帯を見ながら窓の外を眺めていると家の前に人影がいる事に気が付いた。

 

倉田「あれは………リリさん?」

 

玄関を開けると、感慨に耽った表情で芙蓉はましろの元に近付いてきた。その時の表情は前に四国を囲む壁の調査をした日々の時と少しだけ似ている気がした。

 

倉田「どうしたんです、リリさん?」

 

芙蓉「ちょっと倉田ちゃんと話がしたくて。……良い?」

 

倉田「私は構いませんよ。」

 

芙蓉「此処だとアレだから場所を変えよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

有明浜ーー

 

芙蓉「前にも此処で倉田ちゃんと話した事あったね。」

 

倉田「ですね。前にリリさんが家出した時でしたよね。」

 

芙蓉「そのつもりは無かったんだけど…。」

 

倉田「親と喧嘩して家を出たのなら、それは立派な家出です。それで、話って何ですか?」

 

芙蓉「あれから考えてみたけど………やっぱり私はお母さんの日記を受け取る事にするよ。」

 

倉田「…………そうですか。」

 

芙蓉「倉田ちゃんは日記を受け取る事に少し反対してたよね。……ごめんね。」

 

倉田「別に反対な訳じゃないです。亡くなった人が秘密にしていた意味を考えるべきだって意味です。私の両親も私にずっと秘密にしてた事がありました。話さないという事は話さない理由があるんですよ。」

 

芙蓉「倉田ちゃん………。」

 

倉田「だけど、リリさんがしっかり考えて出した答えなら……私はそれに賛成します。前にも言ったじゃないですか。私は何があってもリリさんの味方です。」

 

それはリサと友希那、二人の伝説の人物と対した芙蓉にましろが言った言葉。その言葉は今でも芙蓉の心の支えとなっている。

 

芙蓉「………ありがとう、倉田ちゃん。私にはね、一つだけどうしても分からない事があるんだ。」

 

倉田「何ですか?」

 

芙蓉「物心付く前の思い出でお母さんが泣いていた……。理由は分からない。だけど私のお母さんは強い人で、その記憶以外で泣いている姿なんて見た事無いんだ。あれは私の記憶違いだったのか…もしそれが本当だったら、どうして泣いてたのか………。」

 

倉田「その日記を読めば、その時の事が分かるかもしれない………。」

 

芙蓉「うん、そう思う。」

 

翌日、芙蓉はるりに電話をかけた。再び会う約束を取り付け、今度の休みに芙蓉とましろ、七深の3人は徳島の喫茶店へと赴くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

徳島県のとある喫茶店ーー

 

牛込「そう………日記を受け取る事にしたんですね。」

 

芙蓉「はい。」

 

牛込「分かりました。だけど、一つだけ条件があります。」

 

倉田・七深「「条件?」」

 

牛込「ごめんなさい。私にもまだ少し迷いがあるの。それを消す為だと思って。」

 

芙蓉「分かりました!それで、条件というのは……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香川県、高屋神社入口ーー

 

芙蓉「まさか……条件が高屋神社で御百度参りだなんて……。」

 

るりが提示したとある条件。それは高屋神社を御百度参りする事。御百度参りとは字の如く神社を百回参拝する事。百日かけてゆっくり参拝しても良いし、一日で百回参拝しても構わない。

 

芙蓉「下の宮から上の宮まで徒歩で4〜50分ってところかな。」

 

七深「この神社は有名な神社なの?」

 

倉田「香川じゃかなり知られた神社だよ。でも、るりさんがどうして此処を指定したのかは分からないね…。」

 

七深「リリちゃんの家の近くだからかな?」

 

芙蓉「それは後でるりさんに聞いてみれば良いよ。高屋神社の御百度参りなんて阿轆轆地(あろくろくじ)に終わらせて見せるよ!!」

 

意気揚々と高屋神社に足を踏み入れる芙蓉。だがその元気は瞬く間に打ち砕かれる事となるのは自明の理だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後ーー

 

芙蓉「ぜぇ…………だぁ…………ばぁ……ひぃっ!もう……もう駄目だぁ…!!!」

 

階段を登ってからたった数分で芙蓉の顔から笑顔が消える。体力が雀の涙もない芙蓉にとって、御百度参りは最早拷問だろう。

 

ましろ「さっきの威勢はどうしたんですか……。」

 

七深「はい、これお水だよ。まだやっと中宮を通り過ぎた所だよ。」

 

芙蓉「ごくっ………ごくっ……ぷはぁ!もう少し頑張るよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数十分後ーー

 

芙蓉「うぎゃあぁぁぁぁっ!目の前に上の宮までの270段の石段がぁぁぁぁ!!!」

 

何とか上の宮最後の関門まで辿り着いた3人。芙蓉に待ち受けているのは最後にして最大の難関である急な石段。此処を登りきれば上の宮、ゴール地点である。

 

ましろ「石段がある事は最初から知ってますよね!?」

 

七深「此処でこの高い石段はリリちゃんの心を折にきてるね。」

 

粉骨砕身の気概で芙蓉は一段一段ゆっくり登っていき、遂にゴールへ辿り着くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

高屋神社、上の宮ーー

 

芙蓉「はぁ〜〜〜…………やっと登りきったよぉ……。」

 

七深「うわぁ……眺めが良いねぇ。瀬戸内海が一望出来るよ。」

 

倉田「リリさん、大丈夫ですか?」

 

芙蓉「疲労困憊………半死半生………残息奄奄(ざんそくえんえん)…………もう…動けない………。」

 

その場でへたり込む芙蓉。この後降りるのにも時間が掛かった事は言うまでも無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

芙蓉宅ーー

 

泥の様に眠っている芙蓉。そこへ一件の着信が。

 

芙蓉「…………ん?こんな夜明け前に電話……うっ!?き、筋肉痛が……!倉田ちゃんから……?もしもし?」

 

倉田『出るのが遅かったですね。寝てましたか?』

 

芙蓉「昨日の御百度参りの筋肉痛で動けなくて……こんな時間にどうしたの?」

 

ましろは昨日の労いの言葉をかけると思いきや、その口から放たれた言葉は芙蓉の想像を絶するものだった。

 

倉田『高屋神社へ行きますよ。』

 

芙蓉「へえっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

高屋神社、中の宮ーー

 

芙蓉「うぅっ…………!!ひぐぅ………!!もう……無理ぃ!!!!身体は痛いし、寒いし、眠いし……どうして真冬の早朝の高屋神社にぃ……!?」

 

倉田「当然参拝する為です。」

 

芙蓉「せめて……せめて2日に一度にぃ……!!」

 

倉田「御百度参りですよ!?それじゃあどれだけ時間が掛かるか分からないです!」

 

七深「ファイトだよ、リリちゃん!」

 

倉田「そうです。七深ちゃんも応援しに来てるんです。気合い入れましょう!」

 

芙蓉「はぁ……はぁ…………な、七深ちゃん…どうやって此処に……?」

 

七深「始発の特急です!」

 

芙蓉「七深ちゃんが……そこまでする必要は…無いんだよ……?」

 

七深「リリちゃん……私は義理堅いんだ。二人には感謝してもしきれないくらいだよ。お母さんから昔の話を聞けたのは、二人のお陰だから。だから今度は私がリリちゃんの力になるよ。……って言っても、今はこうやって一緒に登って応援するくらいしか出来ないけど。」

 

芙蓉「七深ちゃん………!」

 

倉田「私もですよ、リリさん。私もリリさんには色々感謝してるんです。リリさんのお陰で前より学校も生活も楽しいですし。」

 

ましろは少し照れながらそう芙蓉に言葉をかけ、七深と二人でぐいぐいと先へ進んで行ってしまう。

 

倉田「さぁ、どんどん登りましょう!!」

 

七深「レッツゴーだよ、リリちゃん!」

 

芙蓉「ま、待ってよ二人ともぉ〜!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

高屋神社、上の宮ーー

 

七深「上の宮に到着〜!早朝の眺めも良いねぇ。流石天空の社。」

 

芙蓉「ぜぇ………ぜぇ……はぁ……………。」

 

倉田「大丈夫ですか?」

 

芙蓉「槁木死灰(こうぼくしかい)……死んだ…………私は死体だ……。」

 

倉田「喋れるならまだ大丈夫ですね。放課後も登りますよ!」

 

芙蓉「う…………うわぁーーーーーーん!!倉田ちゃんの鬼ぃーーーーーー!」

 

早朝の高屋神社に芙蓉の魂の叫びがこだまするのだった。

 

 

 

 

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