戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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[鏑矢][カルト集団自殺事件][神世紀72年][赤嶺香澄]




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禁章〜◾️◾️◾️◾️の章〜
刎頚の友


 

時代は神世紀71年ーー

 

 

世界を滅ぼそうとする人類の敵、バーテックスがいたらしいーー

 

 

 

バーテックスから人類を守護する、勇者がいたらしいーー

 

 

 

 

 

 

戦争と平穏の間の時代を生きてきた"語部"と名乗る1人の女性が各地で勇者達の伝承を伝えて廻っているという噂も囁かれてはいるが、危機が過ぎ去り平和な時間を生きている人達にとってみればそれは最早空想上の伝説になっていた。

 

 

 

しかしそれはこの世の理の表層に過ぎない明るい部分。世界の深層にはまだ黒い闇が残っている。

 

 

 

"大赦"はそれを駆逐すべく、全ての悪を悉く穿つ矢を作らんとしていた。

 

 

 

 

そして白羽の矢が立ちたるはーー

 

 

 

 

 

 

ーー家の家系である心優しい少女とーー

 

 

 

 

 

"香澄"の名を持つ無垢な少女だったーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

象頭町--

 

ここは香川県の西部、象頭町。赤嶺香澄は大赦の命を受け、羽丘中学校へ入学する為にこの町へとやって来ていた。

 

赤嶺「ここが象頭町かぁー。ジムとかあるのかな?後で見に行ってみよっと。」

 

赤嶺は時計を確認する。一緒に入学する人と羽丘中学の先輩と待ち合わせをしていたからだ。

 

赤嶺「集合時間まで後15分。……ちょっと早く来過ぎちゃったかなぁ。」

 

集合場所のすぐ近くの公園に寄り、赤嶺はポケットからスマホを取り出し音楽をかける。

 

赤嶺「折角だから、少し体を動かそっかな。」

 

スマホから軽快な音楽が鳴り響き、赤嶺は軽やかにステップを踏む。

 

少女「あ、なんか踊ってる人がいるー。カッコイイ!」

 

少年「お姉ちゃん、今の動きもう一回!」

 

その踊りに魅せられたのか子供達が1人、また1人と赤嶺の元へ集まってくる。

 

赤嶺「ありがとう!じゃあもう一回見せちゃう、ね!」

 

少女「すごーい!!」

 

いつしか赤嶺の周りには大きな人だかりが出来ていた。そこへやって来るとある人物が。

 

?「ん?何でしょう、あの人だかり……。ストリートダンスなんて珍しいですね…ってあれは赤嶺さん!?」

 

青っぽい髪形に赤いシュシュ、黒縁メガネが特徴的なその少女、朝日六花は赤嶺を見つけて驚いた顔をしていた。そしてそこへもう1人やって来る。

 

?「あそこで踊ってる人凄いですね。バランスも良いですし筋力もあります。」

 

六花「ひゃあっ!?び、びっくりした…。えっと……氷河つぐみさんですよね?私は迎えに来た朝日六花です。」

 

つぐみ「そうです。宜しくお願いしますね。あ、これは挨拶代わりのプレゼントです。」

 

そう言ってつぐみは六花に手作りのクッキーを手渡した。

 

六花「あ、わざわざありがとうございます。」

 

つぐみ「ところで、来るって言っていたもう1人は何処でしょうか?」

 

六花「その人なら今そこで踊っています…。集合時間までもう少しあるからこのまま踊らせてあげましょう。」

 

六花が指差した方向にはさっきよりも沢山の人に囲まれた赤嶺の姿。

 

つぐみ「成る程……あの人が私と同じ御役目に選ばれた人ですね…。」

 

六花「そうです。だから選ばれたんでしょうね………"鏑矢"に。」

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて集合時間となり、赤嶺はダンスを終了。惜しみない拍手を送られながら2人の元へとやって来る。

 

赤嶺「ごめんね。待たせちゃったかな?」

 

六花「大丈夫ですよ。時間ぴったりです。」

 

赤嶺「良かった!改めて自己紹介だね。私は赤嶺香澄。」

 

つぐみ「っ!?香澄、なんですか………!大赦から贈られるという名前の。私は氷河つぐみです。」

 

六花「私は朝日六花、この先の羽丘中学校の2年生です。それではそろそろ私達の寮に行きましょうか。」

 

赤嶺香澄、氷河つぐみ、朝日六花--

 

これが3人の初めての出会いであり、ここから3人は御役目に就く事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

羽丘中学、寮--

 

六花「ここが寮の中でお2人が使う部屋です。相部屋なので仲良く使ってください。」

 

赤嶺「わぁ、広いなぁ。ありがとうございます、朝日さん。」

 

六花「ここの真上が私の部屋なんですけど、廊下に出なくてもこの押し入れから上の階に行けるんですよ。」

 

そう言って六花は押し入れの天井の一部を開ける。すると梯子が降りてきた。

 

つぐみ「面白いですね。隠密のようです。」

 

六花「ですよね!ワクワクしますよね!」

 

六花は天井を元に戻そうとした次の瞬間だった。

 

六花「きゃあっ!?」

 

押し入れから足を踏み外し落っこちてしまう。幸い怪我は無かったようだ。

 

赤嶺「朝日さん、大丈夫ですか!?」

 

六花「痛てて……私のおたんちん……。」

 

つぐみ「おたんちん…?」

 

赤嶺「確かその言葉使いって…。」

 

六花「ああ…かつての美濃地方の方言です。たまに出るんですけど気にしないでください。」

 

赤嶺「あはは!何か仲良くなれそうです!親しみ込めて…えっと……ロックって呼んで良いですか?」

 

六花「構いませんよ。その方が距離感縮まりますしね。」

 

赤嶺「氷河さんは……つぐちんって呼ぶね!」

 

つぐみ「分かったよ。けど、何かむずむずするね。」

 

六花「じゃあ次は役割分担を決めましょうか。」

 

つぐみ「それなら私が色々やりますよ。」

 

赤嶺「そんな、つぐちんばっかにお願い出来ないよ。」

 

つぐみ「赤嶺ちゃん、大雑把な性格でしょ?」

 

つぐみは部屋の隅に目をやる。そこには乱雑に置かれた赤嶺の荷物の数々。

 

赤嶺「うっ……それは否定出来ない…。それに比べてつぐちんの荷物はピシッとしてるなぁ。」

 

つぐみ「それに私そういうの好きだから任せて!」

 

赤嶺「うん…それならお願いしようかな。でも手伝える事があったら何でも言ってね。」

 

つぐみ「うん。」

 

六花「まとまったようですね。それなら早速制服に着替えましょうか。」

 

3人は支給された制服に着替え始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

赤嶺「おお…何だか大人っぽい。」

 

黒を基調としたスマートで動き易い制服に3人は着替えた。

 

つぐみ「気に入りました。」

 

六花「闇に紛れ易い制服になってます。これは1つ1つ特注で仕事服も兼ねているんです。」

 

赤嶺「この格好で御役目をこなすんですか?」

 

六花「そうです。すぐに鍛錬が始まります。私は"巫女"として、お2人は"鏑矢"として。」

 

赤嶺「"鏑矢"………。」

 

つぐみ「ある程度は説明を受けてきましたけど、まだ謎が多いです。」

 

六花「歓迎会をしながらそのあたりの事を話しましょうか。」

 

赤嶺「良いですね、歓迎会!」

 

六花「では歓迎会とくれば、ご馳走です。お金は大赦から頂いているので買い出しに行きましょうか。」

 

赤嶺「料理出来る人いるの?」

 

六花「え…っと……。」

 

つぐみ「私料理出来るよ。良く手伝ってたから。」

 

そう言うとつぐみは徐に冷蔵庫を開けて中に入っていた小松菜を使って料理を始めた。

 

赤嶺「いきなり料理を始めたけど、手慣れた手つきでびっくり!」

 

六花「手つきは凄いけど、問題は味だよね…。」

 

赤嶺「でもすっごい包丁捌きだよ。それに良い匂いもしてきました。」

 

ものの数分でつぐみは何品か作り上げ、2人は味見をする。

 

つぐみ「味には自信があるけど、どうかな?」

 

赤嶺「うわぁー!小松菜がこんなに美味しく感じたのは初めてだよ!」

 

六花「沢山種類がある細巻きも可愛いし、飽きないです!」

 

つぐみ「六花さん。この寮ではある程度自炊する必要があるんですよね?」

 

六花「そうですね。朝は食堂でご飯が出ます。」

 

つぐみ「じゃあ、私が食事をつくるね。香澄ちゃん、良いかな?」

 

赤嶺「えーっ。良いの?な、何だか全部やってもらってる雰囲気だけど。」

 

六花「雰囲気じゃなくて実際そうなんですけどね…。」

 

赤嶺「流石に全部任せっきりは良くないよ。私も手伝える事があれば手伝うから。」

 

つぐみ「ありがとう。何かあれば言うね。」

 

赤嶺「う、うん。」

 

赤嶺(何だろう……。何だかじっと見つめられるとドキドキするなぁ。)

 

つぐみ「ん?どうしたの?」

 

赤嶺「な、何でもないよっ!」

 

真っ赤になった頬をつぐみに見せない様に赤嶺は顔を必死に晒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、象頭橋--

 

歓迎会の次の日、六花は2人を連れて羽丘中学近くの象頭橋へと来ていた。

 

六花「今回、私達が選ばれたのは特別な御役目の為です。私は"巫女"として、2人は"鏑矢"としてです。」

 

つぐみ「……私達が行う事は神事と聞いています。」

 

六花「そう。私達が行う事は妖魔を退散させ、五穀豊穣や無病息災を祈願する神事です。」

 

赤嶺「大赦で時々やってますよね。」

 

六花「それは普通の神事ですね。こう、弓の弦を鳴らして穢れを祓ったりするやつです。でも、私達は違います。」

 

赤嶺「違う……?」

 

六花「"物理的"に矢を放つ。そして妖魔を退散させます。その放たれた矢は"鏑矢"と呼ばれます。つまりお2人の事ですね。」

 

赤嶺「え?私達は妖魔と戦うんですか!?……あの、"伝説の勇者"の様に?」

 

六花「違いますよ。そんな敵はもういません。私達の敵は………平和を脅かす"人間"です。」

 

赤嶺・つぐみ「「っ!」」

 

六花「だから勇者様の様に装束を纏う事もありません。ただ粛々と、目標を射抜くんです。」

 

つぐみ「穢れを祓う大変な御役目だとは聞かされてましたけど……。」

 

赤嶺「そ、それを中学生の私達が……。」

 

六花「神樹様に選ばれた無垢な少女は、その体に大きな力を宿せるんです。祝詞で、その力を2人に付与させるのが私の役目。そして、その超常的な力で、厄を祓うのがお2人。決して表には出せない御役目です。」

 

つぐみ「厄を…祓う……。つまりそれは…。」

 

六花「……神の力を振るわれた人間は昏睡状態に陥るそうです。その人間が最終的に助かるのか、神罰が下るのか……それは神樹様が決める事。2人は気にせず矢として役割を全うしてください。」

 

眈々と説明する六花を他所に、つぐみは何か思うところがあるようだった。

 

つぐみ「………。」

 

赤嶺「つぐちん……。」

 

六花「いきなり言われても絶句でしょうね。より詳しくは大赦の人が説明してくれます。言える事は一つだけ。これからの平和を守る為に神樹様が私達を選んだんです。」

 

赤嶺「神樹様の…御意志……。」

 

つぐみ「……それは、名誉な事です。」

 

六花「ちなみに、2人の訓練には"あの御方"も見てくださるそうです。」

 

 

"あの御方"--

 

 

今の時代でそう呼ばれる人物はただ1人しか存在しない--

 

 

赤嶺「あ、あの御方って……!まさか…!」

 

つぐみ「うん…。西暦の時代、終末戦争を生き抜いた伝説の勇者……!」

 

赤嶺「花園…友希那様……!」

 

 

 

 

花園友希那--

 

 

西暦の時代、5人の勇者と共に四国を護り抜いた伝説の勇者。神世紀71年の今、齢85歳になった今でもその実力は衰えておらずその存在は四国に住んでいる人なら誰もが知っている。本来の名前は湊友希那なのだが、西暦の終わりにとある理由から花園へと名を変えている。

 

 

 

 

 

 

 

六花「それだけ"鏑矢"が大事だって事です。平和になった筈なのに、再び終末戦争に巻き戻るような時間が起ころうとしている…。それを止める為の手段が"鏑矢"…私はそう聞いています。」

 

赤嶺「もし、そんな事が起これば…。」

 

つぐみ「放ってはおけないね……。」

 

 

 

 

 

 

 

大赦、訓練場--

 

2人が訓練場に入ると、そこには大赦の神官が壁に沿うように座っており、最奥には1人の老齢の女性が瞑想をしていた。

 

赤嶺「あ、あの御方が……。」

 

つぐみ「は、花園様…。」

 

友希那「2人ともそんなに畏まらないで頂戴。楽にして良いわ。」

 

2人は緊張な面持ちで友希那の前に座った。

 

友希那「これからあなた達2人を指導する湊--」

 

赤嶺「湊?」

 

友希那「…ごほん、花園友希那よ。早速だけれど、これから1年であなた達を徹底的に鍛え上げるわ。来るべき時に備えて。あなた達、覚悟はあるかしら?」

 

赤嶺・つぐみ「「……はいっ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

氷河つぐみは覚悟を決めれば、それを貫き通す強い意志があった。だが、それに引き換え赤嶺香澄には、つぐみ程に精神が強固という訳ではなかった。

 

"鏑矢"という役目に於いて、その役目をこなす時にはその優しさが命取りになりかねない。それは当の赤嶺自身も分かっている事だった。

 

 

 

 

 

翌日、寮ーー

 

 

六花「ルーティンを作る?」

 

つぐみ「その一言を口にすれば、任務のみに没頭する……切り替えスイッチの様なものだね。」

 

赤嶺「武道とかでは良く聞くでしょ?祝詞を唱えたり、印を結んだり。」

 

六花「それで、どんな台詞をスイッチにするんです?」

 

赤嶺が頭の中で思い描いている言葉は既に決まっていた。

 

赤嶺「私ね、焚き火を見ると不思議と落ち着くんだ。パチパチって音とかも凄く集中出来るし……だから、そこら辺をイメージした言葉に決めたんだ。真っ暗な闇の中に、熱い火の粉が舞っているみたいに………この言葉を口にしたら、何も迷わない。成すべき事を、成すよ。」

 

つぐみ「すばり、その言葉とは?」

 

赤嶺「それはねーー」

 

 

 

 

 

 

 

そこから暫く経ち、赤嶺香澄、氷河つぐみ、朝日六花は"鏑矢"とその巫女としての御役目を遂行していった。粛々と、そして着実に目標を射抜いていく。

 

だがとある夜、二人は御役目の最中で想定外の敵と遭遇する事となるのだったーー

 

 

 

 

 

象頭町、とある町外れの広場ーー

 

赤嶺「まったく………私達が選ばれた理由が今はっきりと実感出来たよ。」

 

つぐみ「そうだね。」

 

二人の眼前には赤黒い人型の"なにか"。辺りは夜、街灯も少ないのにも関わらずその"なにか"の周辺はぼんやりと明るさを帯びていた。

 

つぐみ「こんなものを倒せるのは、神の力を得ている私達だけなんだろうね。」

 

赤嶺「これって、"妖魔"っていうんじゃないのかな。ロックは確か前に妖魔はいないって言ってたよね。」

 

つぐみ「妖魔と言えるほどの形を保ってないよ。何者でもないって感じがする。良くない気の集合体……って感じ。

 

人の形をしているが人では無い。目や耳、鼻や口も無いその顔からは感情すら読み取る事は出来ず、その"なにか"は二人を何かの感覚で見つけると止めていた足を動かし二人の方へ近付いて来る。

 

つぐみ「赤嶺ちゃん、どんな敵でも冷静にーー」

 

赤嶺「火色舞うよーー」

 

その一言で赤嶺の頭が切り替わる。雑念を振り払い、赤嶺は一目散に"なにか"へと駆け出す。

 

つぐみ「余計な気遣いだったかな。」

 

少し遅れてつぐみも赤嶺に続くのだった。二人の鋭い連撃を前にその"なにか"は成す術もなく吹き飛ばされ、赤嶺が追撃を入れようと体勢を整えた瞬間、光の粒子となり跡形もなく消えてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

二人が遭遇した"なにか"は六花を通じてすぐさま大赦へと報告された。これを受け、3人は大赦から秘匿とされていた色々な事実を知らされる事となる。

 

西暦の時代ーー終末戦争と呼ばれる勇者とバーテックスとの戦いがあった時代、人々は"天空恐怖症候群"というものが蔓延していた。

 

空から突如やって来た神の眷属であるバーテックスの襲撃を受けた人々がそのトラウマから空に恐怖を抱いてしまうといったものだ。

 

しかし、人々がバーテックスという存在を見て受けたものは恐怖という感情だけでは無かったのだ。恐れは畏れ。あろう事かバーテックスの存在に畏怖を感じ、その災厄を放った天の神を崇拝するという人々が出始めたのである。

 

圧倒的過ぎる力は恐れを超え、人を魅了する。

 

 

"神樹に集った神様よりも、天の神の方が優れている。故に大人しく天の神による運命を受け入れるべき。その方が最終的には救われることとなる。天の神が望む事は人類の根絶。ならば全員根絶すべし。"

 

 

その様な主題を掲げその人々は動いていた。

 

赤嶺達"鏑矢"はそういった思想を持つ人々を射抜く為、今日までの御役目を遂行していったのだった。

 

 

赤嶺「一つ疑問なんだけど、どうして今になってその人達は活動を始めたんだろう。神世紀の初頭とかならまだ分かるんだけどさぁ。」

 

つぐみ「疑問はまだあるよ。そんな極端な考えの人々なのに、ちゃんと組織として機能してる事だよ。畏怖を持った人もいたにはいたと思うけど、少数の筈……そんなに人って集まるもの?」

 

六花「大赦での権力争いとかで負けた人達が集まってるみたいなんです。そんな負の部分が固まってるってことだよ。それに………"大赦の内部で大きな力を持っていた人が亡くなられた"というのも一つあります。ですが、その人は後の事もある程度予測して手は打っていました。だから今こうして対処出来てるんです。」

 

つぐみ「そしてその組織は、望みを実行出来る力を手に入れた………。」

 

赤嶺「だから今になって動き出したんだね。」

 

つぐみ「力………それは昨日の夜に私達が遭遇した"なにか"…。」

 

六花「そうです。それはかつて"精霊"と呼ばれたものです。終末戦争の最中、勇者様達が体の中に入れて使っていたもの。それを実体化させて操る力。まぁ完全には実体化出来てないみたいですけどね。」

 

つぐみ「………………。」

 

赤嶺「平和だと思っていてても、裏じゃ全然そんなことなかったんだね。」

 

 

 

 

 

 

赤嶺香澄と氷河つぐみも、厳しい訓練の中で、その腕を鍛えていった。香澄は接近戦を主体に。つぐみはそれを補佐する形でめきめきと力をつけていく。

 

赤嶺「くっ……なんでこっちの攻撃が全然当たらないの!?」

 

友希那「当てる気が無いから当たらないのよ!」

 

つぐみ「はぁ……はぁ…そんな事言われても…どうすれば良いのか…。」

 

友希那「稽古で出来ない事が実践で出来るとは思わないで!!」

 

試行錯誤を繰り返す二人。その時、偶然息が合ったのか友希那の剣撃をつぐみが弾いた隙を付き、赤嶺の拳が友希那の胸を突くーー

 

 

 

 

赤嶺「はぁ…はあ………!」

 

寸前、赤嶺の拳は動きを止める。赤嶺はわざ拳が当たる直前で寸止めしたのだ。

 

友希那「………何故止めたの?」

 

赤嶺「はぁ……勝負あり……です…。」

 

しかし友希那は剣を納めるどころか、蹴りで赤嶺をつぐみ諸共吹き飛ばす。

 

赤嶺「かはっ……!」

 

つぐみ「うっ……!」

 

友希那「さっきも言った筈よ!稽古で出来ない事が実戦で出来ると思うなと!命を刈る気が無い刃で敵を倒せると思わないで!!」

 

赤嶺「で、でも友希那様が怪我を……。」

 

友希那「怪我をするのは自分のせいでは無いわ。避けられなかった方に咎がある。いかなる稽古に於いても、それ自体が常に戦いである事を覚えなさい。あなたが持っているその驕りは今此処で全て捨て去るの!!」

 

赤嶺「……火色舞うよ。ありがとうございます、友希那様!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

寮ーー

 

 

赤嶺「はぁ………今日は特にきつい稽古だったね……つぐちん。」

 

つぐみ「そうだね…だけど、得たものも多かったよ。」

 

六花「二人とも、お疲れ様でした。」

 

赤嶺「ロックこそ、巫女の鍛錬は精神使うって聞くよ。」

 

六花「そっちに比べれば随分マシですよ。花園友希那様直々の稽古なんですから。」

 

赤嶺「実践に出てから今日まで、厳しく付き合ってくださった意味が分かるよ。友希那様は私達が御役目で死なない様に厳しく鍛えてくださってるんだなって。」

 

つぐみ「うん、私達は精霊もどきとも戦って行かなくちゃならないんだから。」

 

六花「二人がその気持ちなら安心です。花園友希那様はもう大赦の運営からは退いてます。時間は沢山あるんです、またと無い機会に沢山鍛えてもらいましょう。

 

赤嶺「でも、少し気になる事もあるんだ。」

 

六花「気になる事?」

 

赤嶺「友希那様は稽古の前とか後とか、どことなく目線が遠い時があるんだよね。なんだか、遠くを見られているというか……あんなに体もお元気で、ハキハキ喋られるのにどこか、とても儚いんだよ。」

 

つぐみ「そうだね、赤嶺ちゃんが言いたい事分かるよ。」

 

六花「終末戦争を戦い抜いて、それ以降でもずっとずっと平和の為に動いてきた御方です。天の神を崇める人々をなんとかすれば四国の中に完全な平和が訪れる。外の対策が済んで、中も纏まって、大赦も次代の人達が動かして軌道に乗って、あらゆるやるべき事が済んで漸くあの御方の肩の荷が降りると思うんです。もしそんな日が来れば、花園友希那様には笑って過ごして欲しいですね。」

 

 

 

 

 

 

花園友希那は二人の稽古をつけ始めた頃からよく夢を見たそうだ。

 

宇田川あこーー

 

 

白金燐子ーー

 

 

高嶋香澄ーー

 

 

氷川紗夜ーー

 

 

 

そして、今井リサーー

 

 

 

みんなが居た、あの頃の夢をーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜ーー

 

 

赤嶺「つぐちん、起きてる?」

 

つぐみ「赤嶺ちゃん、眠れないの?」

 

赤嶺「ちょっと内緒話したいなって。」

 

つぐみ「…………赤嶺ちゃんに気を遣わせちゃったね。私の最近の様子に違和感を覚えたんだよね?」

 

赤嶺「違和感っていうより、なんか深く考えてる時があるなーって。」

 

つぐみ「うん…考えてる。」

 

赤嶺「つぐちんが何を考えてるのか、難しい事だったら分かんないけど、知りたいな。つぐちんが私に話さずに一人で悩んでるのって、なんか嫌なんだ。」

 

つぐみ「私が考えてるのは、"鏑矢"の役目の事だよ。……これから私達は天の神を崇める人達全てを射抜く事になる。その中には多分…私や赤嶺ちゃんと同じくらいの年齢の人、それより幼い子だっている筈。」

 

赤嶺「………っ!?」

 

つぐみ「精霊を使う事が出来る人………それは無垢な少女しかいないんだから。私達で覚悟を決めた人なら、例え同世代だって私は容赦はしないつもり。だけど、その人が大人達の意のままに動くだけの無垢な子だった場合………その子を射抜く事は、私の正義じゃない。これまで標的にされて射抜かれ、後日目を覚ました人は今までいなかった。つまり、標的となってしまったからには………射抜けば助からない。」

 

赤嶺「……大丈夫、そんな操られてるだけの人は、初めから標的から外されてるよ。」

 

つぐみ「そうかもしれない……でも、そうじゃないかもしれない。赤嶺ちゃん…赤嶺ちゃんはそんな現実に直面した時、同世代の標的を射抜ける?」

 

赤嶺「…………出来ると思う。その為のスイッチだから。火色が舞ってる時の私は、そういう私だから。だって、もし躊躇したせいで、つぐちんの身が危なくなったら?そのせいでみんなの平和が脅かされたら………だから私はやれるよ…。」

 

つぐみ「赤嶺ちゃん……。」

 

赤嶺「怒った?」

 

つぐみ「一つの答えだよ。責任を持った、立派な決断。だけど私は、そんな人がいるなら救いたい。それが私には出来る筈。」

 

赤嶺「うん。救えるならそれが一番なんだから。だからそういう人は標的にしないって、私達からもちゃんと言っておこう。大赦も分かってくれるよ!」

 

つぐみ「そうだね………自問自答してたって始まらないよね。ありがとう、赤嶺ちゃん。」

 

 

 

これから先の運命を、まだこの二人は知る由もない。しがし彼女達の立場がどうなろうとも、三人の友情は決して変わらないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから二人は稽古と御役目を繰り返す毎日を繰り返していた。稽古の最初は友希那に触れる事すら出来なかった2人だった。毎日鍛錬が始まる時間よりも早くから自主練、そして鍛錬が終わった後も夜遅くまで残り復習をする。二人は友希那からの教えを反復し自分なりの技術に落とし込み、次第に友希那の動きに着いて行ける様になった。そして半月が経った頃には漸く数発の攻撃が通るようになるまでに成長する。

 

 

 

 

 

そして時は流れ、1年後の神世紀72年。

 

 

 

運命の日がやって来るーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大赦、訓練場--

 

友希那「今日であなた達を教えるのは最後になるわ。今日まで良く着いて来れたわね。私が教える事はもう何も無いけど……最後に1つ。」

 

赤嶺・つぐみ「「?」」

 

友希那「西暦の時代、私は友人である美竹蘭からバトンを受け取り、終末戦争を生き抜いてきた。それは長く険しい、終わりが見えない道で私はその中で多くの友を失ってきたわ。私含め全ての勇者達が、時に恐怖して、悩んで、苦しんで……守りたいものの為に戦っていき、そして半ば降伏に近い形で今の平和な世の中がある。あなた達もこの先同じ事が待っているかもしれない。」

 

赤嶺・つぐみ「「………。」」

 

友希那「今、私はそのバトンをあなた達2人に託す。」

 

つぐみ「友希那様からの……。」

 

赤嶺「バトン……。」

 

友希那「そのバトンの名は"勇気"。または"希望"、"願い"とも言える……。信じて欲しい。あなた達の後ろには、バトンを引き継いできた沢山の人達がいる事を。見回して欲しい。あなた達の隣には、今まで一緒に過ごしてきた友達や家族がいる事を。決して1人では無い事を知って欲しいの。私が最後に贈る言葉は、"戦いなさい"や"頑張りなさい"でもないわ。」

 

友希那「"生きて"--」

 

赤嶺・つぐみ「「えっ?」」

 

友希那「大切な人がいるのなら、その人の事を思い出して欲しいの。あなた達が生きるのを諦めてしまったら、その人が悲しむ事を思い出して欲しい。私は多くの大切な友達を失ってしまった。あなた達の大切な人に、私と同じ思いをさせないで。その人のところへ、必ず戻ってあげて。」

 

言葉1つ1つの重みが違う。激動の西暦を生き抜き、その中で培ってきた本当の思いがこの言葉に溢れている。

 

赤嶺「……分かりました。その御言葉、しかとこの心に刻み、」

 

つぐみ「そのバトン確かに私達が受け継いでいきます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大赦、とある部屋--

 

二人を見送った稽古場で見送った後、友希那は大赦の一室へ足を運んでいた。雨の日も雪の日も、友希那は毎日同じ時間にこの部屋を訪れている。友希那以外は立ち入る事が禁じられているこの部屋。そこでは1人の友希那と同じくらい老齢の女性がベッドで眠っていた。まるで眠っているだけで、声をかければ今にも起きておはようと返事をしてくれるかの様なーーそんな安らかな顔をしていた。

 

友希那「……待たせたわね、リサ。今日で訓練も終わり。これで私の役目も終わる。バトンは未来の鏑矢………いや、"勇者"に託したわ。」

 

友希那「赤嶺香澄という少女。まるで香澄の姿そっくりだったわよ。名前も香澄で一緒。本当に生まれ変わりと思ったくらいよ。腕も確か。これからの大赦を引っ張っていくのはあの子でしょうね。」

 

友希那「そしてもう1人の氷河さん。苗字からもしやとは思ったけれど、どうやら紗夜の子孫の様よ。紗夜と同じで愚直で真っ直ぐ。赤嶺さんに何かがあってもちゃんとサポートする筈よ。だけど心に迷いがあるのも紗夜と同じ………。それを御する事が出来るかどうかはあの子次第。」

 

 

友希那「此処まで長く険しい道のりだった……リサ、貴女が側にいてくれたから私は勇者でいられた。どんなに辛くても頑張る事ができた。全てをかけて……走り続けたわ……。」

 

 

 

友希那「美竹さん、燐子、あこ、香澄…紗夜……そして、リサ……長い事待たせてしまったわね……。この続きは…一緒に……話し………ま…しょ……う…。」

 

 

 

 

神世紀72年--

 

 

"神事"が始まる一方でバーテックスの襲来を実体験した最後の生き残りが老衰で死去。

 

 

それを2人が知る事は無いだろう--

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、象頭橋--

 

六花「いよいよ今夜から大規模の"神事"が始まります。」

 

つぐみ「全ては万人の暮らしの為に…。」

 

赤嶺「火色舞うよ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

3人が目指す場所は象頭橋近くのとある集会場。大赦からの情報ではここに大規模な天の神の信仰集会が開かれているとの事だ。3人は天井裏から様子を伺っていた。

 

赤嶺「段取りは大丈夫?」

 

つぐみ「オッケーだよ。」

 

六花「掛巻くも畏き神樹、産土大神(うぶすなのおおかみ)大地主神(おおとこぬしのかみ)の大前に(かしこ)み恐みも(まを)さく、捧奉りて乞祈奉(こひのみまつらく)を平らげく安らげく(きこし)召して、神樹の高き広き厳しき恩頼(みたまのふゆ)に依り、禍神の禍事なく、身健やかに心清く、守り恵み(さきわ)へ給へと恐み恐みも白す。」

 

赤嶺「行くよ。3.2.1…今!」

 

赤嶺の合図で2人は会合中のど真ん中へ降り立った。

 

教祖「な、なんだ!?」

 

赤嶺「あなた達な恨みは無いけれど、これも世界の平和の為だから…。」

 

つぐみ「あなた達の行く末を決めるのは神樹様…神に祈る事です。最も、その神は神樹様の敵ですけどね。」

 

2人は信者達を次々に拳で殴打していく。そして殴られた信者は昏倒して倒れていった。また混乱に乗じ何体もの精霊もどきが二人の行手を阻むが、二人は意に介さず蹴散らしてゆく。

 

倒れた信者の行く末を決めるのは神樹だ。青年や老人、同年代や年端もいかない子供もいる。その全てが粛清対象であり、赤嶺は粛々と御役目を遂行していく。あの時の言葉通り、"赤嶺は"全ての者を等しく粛清した。自分の感情を押し殺してまでも。

 

つぐみ「…。」

 

 

 

悲鳴がこだまするーー

 

 

 

つぐみ「うっ……!」

 

 

逃げ惑う雑踏が響くーー

 

 

 

つぐみ「…………っ!」

 

 

 

友希那からの教えを何度も反芻するーー

 

 

 

つぐみ「はぁ……はぁっ……!」

 

 

 

 

自分の心臓の鼓動が早まるのが分かったーー

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

つぐみ「精霊を使う事が出来る人………それは無垢な少女しかいないんだから。私達で覚悟を決めた人なら、例え同世代だって私は容赦はしないつもり。だけど、その人が大人達の意のままに動くだけの無垢な子だった場合………その子を射抜く事は、私の正義じゃない。これまで標的にされて射抜かれ、後日目を覚ました人は今までいなかった。つまり、標的となってしまったからには………射抜けば助からない。」

 

赤嶺「……大丈夫、そんな操られてるだけの人は、初めから標的から外されてるよ。」

 

 

ーー

ーーー

 

 

今ならまだ助かる人がいるーー自分なら助けられるーー

 

 

 

つぐみ「………………っ!?」

 

 

つぐみの動きが明らかにおかしい。赤嶺と六花の二人もそれは分かっていた。だけど何も言わなかった。二人の考えは同じだった。

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

つぐみ「そうかもしれない……でも、そうじゃないかもしれない。赤嶺ちゃん…赤嶺ちゃんはそんな現実に直面した時、同世代の標的を射抜ける?」

 

赤嶺「…………出来ると思う。その為のスイッチだから。火色が舞ってる時の私は、そういう私だから。だって、もし躊躇したせいで、つぐちんの身が危なくなったら?そのせいでみんなの平和が脅かされたら………だから私はやれるよ…。」

 

つぐみ「赤嶺ちゃん……。」

 

赤嶺「怒った?」

 

つぐみ「一つの答えだよ。責任を持った、立派な決断。だけど私は、そんな人がいるなら救いたい。それが私には出来る筈。」

 

 

ーー

ーーー

 

 

 

 

教祖「ま、待ってくれ……!お、御慈悲を………。」

 

赤嶺「……それは神樹様が決める事だよ。」

 

赤嶺は粛々と射抜き続ける。最後に残った教祖の言葉も耳にせず殴打、御役目遂行を完了させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かに思えた--

 

 

 

 

 

 

 

 

つぐみ「はぁっ………くっ……!」

 

つぐみは拳を突き出す寸前で動きを止めていた。その眼前には1人の少女が震えて縮こまっている。彼女の親も既に昏倒している大勢の中に混じっているだろう。

 

赤嶺「つぐちん……その子で最後だよ…御役目を遂行しないと。」

 

つぐみ「……分かってる……分かってる!けど………この子は教祖に魅せられた親に着いて行っただけかもしれない。」

 

赤嶺「その少女が今回精霊を操ってたんだよ?」

 

つぐみ「やらされただけかもしれない……!」

 

赤嶺「つぐちんが敢えて子供や同年代の少女に御役目を遂行してないのは分かってた。けど……。」

 

つぐみ「私は救いたい!自分が救える力を持っていて……自分にしかそれが出来ないのなら……それが氷河家の矜持だから!!」

 

赤嶺「それを決めるのは私達じゃない……神樹様だよ。」

 

六花「…………。」

 

六花は2人の様子をただ見ていた。横入りする気は無い。全てを二人に委ねるつもりだった。

 

 

 

 

 

赤嶺「どいてつぐちん…。つぐちんがやらないなら私がやるよ。」

 

動かないつぐみを押し除け、赤嶺は少女に向かって歩みを進める。その目に迷いは無い。

 

赤嶺「火色舞うよ……。」

 

つぐみ「待って赤嶺ちゃん!」

 

赤嶺「………ごめんね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神世紀72年某月某日深夜、鏑矢により大規模テロ未遂鎮圧--

 

 

集会参加者473名全員が粛清を受け昏睡。そしてそこから1時間後に全員の死亡を大赦が確認--

 

 

 

 

 

"赤嶺家"はその功績を買われ大赦での地位を確実なものへとしていきーー

 

 

 

 

 

一方"氷河家"は大赦から私情が混ざったと判断、鏑矢の御役目から外され、その後徐々に衰退。"赤嶺家"との地位が開いていった。

 

 

 

そして後にこの御役目の真実は大赦により検閲ーー"カルトの集団自殺事件"として世に知れる事となる。

 

 

 

 

 

 

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