戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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夏希の勇者システムは改良され有咲の手に渡っています。

散華は無くなりましたが、それに伴って精霊も減るので少し寂しいですね。




花々の再誕

 

 

幼稚園前--

 

ゆり「たえちゃんがまだ来てないって?もう、時間なのに……。」

 

有咲「たえの奴、メッセージも既読になんねーし。まだ寝てんのか?」

 

りみ「おたえちゃん、あんなに張り切ってたのに…。」

 

ゆり「仕方ない。本来私は出ないつもりだったけど、たえちゃんの代わりに出ますか。」

 

このライブではゆりに変わってたえがリードギターで出る予定だったが、ゆりが代わりに出ることになった。

 

ゆり「香澄ちゃん……。」

 

香澄「……。」

 

ゆり「香澄ちゃん!」

 

香澄「っ!?う、うん。」

 

ゆり「ちょっと、香澄ちゃんまでどうしちゃったの?もうすぐ本番だよ。」

 

りみ「香澄ちゃん、どこか具合でも悪いの?」

 

ゆりとりみが香澄を心配する。

 

香澄「体は大丈夫。」

 

りみ「体は?」

 

香澄「……あのね、何か胸の中がザワザワ変な感じがするの。みんなはしない?」

 

ゆり・りみ・有咲「「「……。」」」

 

3人は顔を見合わせる。

 

ゆり「今日は中止にしようか?」

 

ゆりがそう言った時、

 

先生「勇者部の皆さん。」

 

幼稚園の先生がこちらに来たのだ。

 

先生「今日はありがとうございます。」

 

ゆり「あ…実は……。」

 

先生「子供達が今日のライブを楽しみにしていて。今か、今かと。」

 

ゆり「あっ……。」

 

先生や子供達が待ち望んでいる事を聞いたゆりは、言うに言えない状況だったが、

 

香澄「大丈夫です!やりましょう、みんなが待ってますから!」

 

香澄はそう言い、ライブが始まった。

 

 

 

 

 

香澄「初めましてみんな!私達……。」

 

全員「「「Glitter*Partyです!」」」

 

香澄「まずはみんなが一緒に歌える曲を演奏するから、みんなで大きな声で歌って見よう!」

 

園児達「「「はーーーい!!」」」

 

 

〜♩

 

 

 

 

 

 

曲が終わり、

 

香澄「それでは、メンバーを紹介しまーす!」

 

香澄「ベースのりみりん!」

 

りみは子供達に手を振る。

 

香澄「リードギターのゆり先輩!」

 

ゆり「みんなー今日は楽しんでいってねー!」

 

香澄「あっちが有咲!」

 

有咲「キーボードだぁーーー!」

 

香澄「そしてー……っ!?」

 

紹介の途中で香澄が止まってしまう。

 

ゆり「ど、どうしたの、香澄ちゃん…。」

 

ゆりが香澄を心配する。

 

香澄「ぁ………。」

 

突然香澄の目から涙が溢れた。子供達も戸惑い始めている。その時だった。

 

たえ「はあ、はあ、はあ、はあ……。」

 

息を切らしたたえが扉を勢いよく開けて入ってきたのだ。

 

ゆり「たえちゃん?」

 

たえ「はあ…はあ……。」

 

そして、そのまま香澄に抱きついた。

 

香澄「ぁ……。私は…私は………。」

 

香澄もたえを抱き締める。

 

香澄「私は、ずっと一緒にいるよって、約束したのに……。したのにぃ…。」

 

 

 

香澄「うぅ…うぅっ……沙綾!」

 

 

 

 

 

 

夕方、部室--

 

りみ「香澄ちゃん…。」

 

有咲「たえも…。」

 

ゆり「2人とも一体どうしたの?」

 

3人は突然の事に圧倒され2人に尋ねた。

 

たえ「よく聞いてね。」

 

たえが口を開く。

 

ゆり・りみ・有咲「「「うん。」」」

 

 

たえ「今の、この記憶は嘘って事。」

 

 

ゆり「えっ!?」

 

ゆりが驚く事も無理ない。

 

たえ「何か、とんでもなく悪い事が起きていて……。それが何だかは分からないけど、私達はそれを無かった事にしている。」

 

ゆり・りみ・有咲「「「…………。」」」

 

有咲「何言ってんだ?」

 

有咲も頭を抱える。

 

香澄「私、思い出したんだ…。」

 

香澄が話し出す。

 

香澄「勇者部にはもう1人、とても大切な友達がいたんだよ!忘れる訳がない。絶対、忘れたりなんかしちゃいけないのに……。」

 

ゆり「香澄ちゃん、落ち着いて。」

 

香澄「みんな、思い出して!」

 

香澄は3人に訴えかけた。

 

 

香澄「沙綾……。ここに、山吹沙綾って子がいたんだよ!!」

 

 

ゆり・りみ・有咲「「「っ!?」」」

 

 

3人は思い出す。

 

有咲「あれっ!?そういえば、沙綾って今どこだ…。」

 

ゆり「山吹、沙綾…。」

 

今まで、沙綾の記憶が全員から消えていたのだ。

 

 

ーーー

ーー

 

 

時期は少し前に戻る--

 

ある朝の登校中、校門の前に一台の車がやってくる。

 

香澄・沙綾「「?」」

 

香澄と沙綾が気が付くと、車から1人の少女が出てきた。

 

たえ「じゃじゃーん!花園さんちのたえだよ!驚いた?」

 

香澄「え?えっと、あの?」

 

香澄はいきなりの事にテンパっていた。

 

たえ「今日から同じクラスメイトだよ。よろしくね!」

 

沙綾「おたえ…。」

 

たえ「へいへい、沙綾。たえだよ!」

 

沙綾「おたえっ!」

 

沙綾はたえに抱き着いた。

 

たえ「驚いてる驚いてる!サプライズは大成功だね!」

 

 

 

 

 

部室--

 

たえ「勇者部入部希望の花園たえです。」

 

有咲「なっ!?花園たえってあの!?」

 

たえ「2年前、大橋の方で勇者やってました。改めて、よろしくお願い致しまーす。」

 

沙綾「またおたえと勉強できるなんて……。」

 

たえ「授業中に居眠りしてたら注意してね。」

 

沙綾「しないように気を付けないとダメだよ。」

 

ゆり「何だか、沙綾ちゃんがお母さんみたいだね。」

 

 

 

 

 

たえも加わり6人になった勇者部。中でも足も治り、歩けるようになった沙綾は特に勇者部の活動に力を入れていた。初めの方は、

 

沙綾「自分の足で歩けるようになった事が本当に嬉しくて……。」

 

だなんて言っていたが、沙綾の働きっぷりは他の5人から見ても異常な程であった。そんな中、5人は沙綾を部室に呼び出す。

 

ゆり「沙綾ちゃん。頑張ってくれてるのは嬉しいけど、たまには休まないとダメだよ。」

 

有咲「そうだぞ、沙綾。また歩けなくなったらどーすんだ。」

 

ゆりと有咲が気にかけるが、

 

沙綾「大丈夫ですよ。私全然無理なんかしてませんから。」

 

沙綾は笑顔で答える。

 

しかし、香澄は気付いていた。沙綾が何故あんなに頑張るかを。そして、

 

香澄「沙綾……。あの事を気にしてるの?」

 

沙綾「やっぱ、香澄の目は誤魔化せないか。」

 

沙綾が苦笑いし、話し出す。

 

沙綾「体が元気になったからって言うのも本当の事。でも、私が壁を壊してしまった事……。」

 

沙綾は前の戦いの際、みんなを絶望から解放すべく、壁に穴を開けバーテックスを呼び寄せた事を未だに悔いていたのだった。

 

沙綾「一時の感情とはいえ、世界を危機に陥れてしまったのは事実。それは許されない事だから…。私、どうやって償っていけば良いのか分からないから、だから……。何か罪滅ぼしが出来ないかって考えたんです。」

 

ゆり「それで、部活を必死でこなしてたって事なのね。」

 

たえ「沙綾、随分極端になったね。」

 

ゆり「気持ちは分かるけど、自分も大事にしなきゃダメだよ。」

 

沙綾「すみません……。」

 

香澄「さーや。」

 

沙綾「?」

 

香澄が話し出す。

 

香澄「みんなの為に頑張りたい気持ちは私達も一緒だよ。」

 

たえ「そうだよ、沙綾。何かあったら私達を頼って良いんだから。」

 

沙綾「香澄…。おたえ……。」

 

ゆり「うん、2人の言う通りだよ。」

 

りみ「沙綾ちゃん、私も頑張るからね。」

 

沙綾「りみりん、みんな…ありがとう。」

 

 

ーー

ーーー

 

 

有咲「ど…どういう事だ!?何で私達の誰も沙綾の記憶が無いんだよ!」

 

香澄・たえ「「……。」」

 

香澄とたえは沈黙している。

 

有咲「まるで、最初から沙綾が世界にいなかったみたいになってるじゃんか!」

 

りみ「お姉ちゃん…。」

 

ゆり「私、部長なのにまた……。」

 

香澄「でも、もう思い出した!」

 

たえ「沙綾……今どこで何をしてるの?」

 

 

 

 

 

 

世界のどこか--

 

 

そこには火炙りになっている少女の姿があった。

 

 

 

 

 

 

5人は必死で沙綾がいた痕跡を探していた。

 

ゆり「写真にも、新聞の記事にも沙綾ちゃんがいない……。」

 

有咲「どうなってんだ、これ!?」

 

たえ「とにかく沙綾を、探そう!」

 

香澄・ゆり・りみ・有咲「「「うん!」」」

 

夕暮れの中、香澄は沙綾を探して走り回っていた。

 

香澄「はあ、はあ、はあ、はあ・・・。」

 

香澄(私、さーやの事絶対に覚えてるって約束したのに…。それなのに……!)

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、部室--

 

有咲「全員、手掛かり無しか…。」

 

香澄「さーや、やっぱり元からいない事になってた。教室に机もないし……。」

 

りみ「大赦なら何か知ってるだろうけど…。」

 

ゆり「でも、私には何も知らないって……。」

 

有咲「こっちも同じ返答だった。」

 

ゆり「また、大赦はトボけてるって事?」

 

ゆりが拳を握るが、

 

たえ「本当に何も知らないみたいだよ、大赦は。」

 

たえが部室に入ってきた。

 

ゆり「たえちゃん、どこ行ってたの?」

 

たえ「大赦本部。沙綾の事、私が話せる地位の神官さん達に聞いたけど……みんな震えながら知らないって。」

 

有咲「大赦すら知らない事態だなんてな…。」

 

香澄「さーや……。」

 

香澄は悲しみに暮れるが、

 

たえ「もう、これしか無いみたいだね。」

 

香澄「え?」

 

たえがケースを机の上に置き、それを開けた。

 

香澄・ゆり・りみ・有咲「「「っ!?」」」

 

たえが用意したケースの中には勇者システムのスマホがあった。

 

ゆり「これって……。」

 

りみ「勇者システム……。」

 

たえ「ぷんぷん怒って、出してって言ったら大赦の人は出してくれたよ。これで見つけに行こう。」

 

香澄「見つけるって…。」

 

有咲「今も変身出来るんだよな?」

 

たえ「そうだよ、有咲。」

 

そう言って、たえはケースを指差す。

 

たえ「見て、沙綾のスマホが無いんだよ。」

 

ケースにはもう一台置けそうな隙間があった。

 

たえ「でも、私の端末のレーダーには沙綾の反応はない。もしかして、沙綾は凄くびっくりする所にいるんじゃないかな?」

 

ゆり「それってまさか…。」

 

香澄「あっ!壁の外!?」

 

たえ「その通りだよ、香澄。」

 

ゆり「沙綾ちゃんなら行きそうな所だね。」

 

ゆりも納得する。

 

たえ「だから、勇者になって行ってみようと思うんだ。」

 

たえは指を鳴らすと頭の上に精霊である"烏天狗"が現れた。

 

香澄「精霊!」

 

りみ「でも、勇者になったらまた力の代償があるのかな?」

 

りみが思うことは最もである。勇者の切り札である"満開"。そして、大きな力を得る代償に身体を捧げなくてはならない"散華"という機能がある。

 

たえ「今回はバージョンが新しくなって、散華する事も無いんだって。」

 

有咲「何か、出来すぎてるっつーか。」

 

ゆり「そうだね。どれだけ新しいシステムになったって言っても、結局また…。」

 

ゆり、りみ、有咲は躊躇う。

 

たえ「怖いのが当たり前だよね…。」

 

香澄「よし!さーやを見つけるためなら私は。」

 

香澄は自分の頬を叩き、スマホに手を伸ばすが、ゆりがそれを阻止した。

 

ゆり「待って、香澄ちゃん。」

 

香澄「ゆり先輩。」

 

ゆり「初めての時とは違うの。私は、部長としておいそれとみんなを変身させたくない。勢いで、なんて言うのはやめて。」

 

香澄「はい……。」

 

ゆり「たえちゃんもだよ。」

 

たえ「うん。ありがとうございます。確かに私達は酷い目にあったけど……。勇者が身体を供物にしなければ世界は滅んでいた。仕方なかったんだよ。大赦はやり方がまずかっただけで、誰も悪くない。大赦は勇者システムについて、もう一切隠し事はしないって言ってくれた。私はそれを直接聞いて、信じようと思ったんだ。だから、前とは違う…。今度は納得してやるから。私は行くよ。」

 

たえの決意を聞いた香澄は、

 

香澄「っ…。私も信じる。」

 

ゆり・りみ・有咲「「「!?」」」

 

ゆり「香澄ちゃん…。」

 

香澄「大赦の人はよく分からないけど、おたえがそう言ってるんだから信じるよ。」

 

たえ「香澄……。」

 

香澄「ゆり先輩。ちゃんと考えました。私は行きます。」

 

香澄はスマホを手に取る。

 

ゆり「あー、もう…。部長を置いていっちゃダメでしょ。」

 

ゆりも手に取った。

 

香澄「ゆり先輩!」

 

ゆり「香澄ちゃんやたえちゃんなら、私も信じてるからね。」

 

有咲「まっ、勇者部員が行方不明ってんなら……同じ部員が探さないとな。」

 

有咲も手に取った。

 

りみ「私も行くよ!」

 

りみもスマホを掴んだ。

 

ゆり「りみ…。」

 

ゆりは心配するが、りみの決意は固かった。

 

たえ「素敵な仲間達だね。」

 

たえが香澄に笑いかけた。

 

5人が勇者システムを起動する--

 

 

 

たえが新しい勇者システムについて説明する。

 

たえ「新しい勇者システムは満開ゲージが最初から全部溜まってる状態だよ。精霊がバリアで守ってくれるけど、バリアを使う毎にゲージは減っていく。そして、ゲージは回復しない。満開はゲージがいっぱいなら出来るけど、使えばゲージは一気に0になる。ゲージが0になると精霊がバリアを張れなくなる。この時攻撃を受ければ、命に関わる事になる。これが散華が無くなった勇者システムだよ。」

 

香澄「今みたいに全部説明してくれた方がやりやすいな。」

 

ゆり「そうだね。覚悟が出来るしね。」

 

その時、ゆりの端末が光り、中から"犬神"が飛び出してきた。そして、他の精霊も出てくる。

 

香澄「牛鬼、久しぶり!またよろしくね。」

 

そして、5人は壁の外へと向かった。

 

 

 

 

 

 

壁に到着する5人。

 

たえ「この先はズゴゴゴって感じだから気をつけてね。」

 

たえが注意する。

 

有咲「私が先頭で行くからたえは後ろからサポート頼むな。」

 

たえ「有咲、あまり前に出ないでね。」

 

たえは有咲に夏希の面影を感じ言葉をかける。

 

有咲「ぁ…。分かった。」

 

ゆり「りみ、今晩はスペシャルうどんを作ってあげるからね。」

 

りみ「うん。楽しみにしてるよ、お姉ちゃん。」

 

ゆり「よし、行きましょう!」

 

5人は壁の外へと足を踏み出したのだった。

 

 


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