戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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全を取るか、個を取るか--


この問題は決して軽いものではありません。





勇む者の部

 

 

登校中の香澄と沙綾。だが、香澄の様子は辛そうだった。

 

香澄「はあ、はあ、はあ……。」

 

沙綾は心配しているが、なんて声をかけてあげればいいか分からず悩んでしまう。

 

香澄「最近、暖かくなってきたね。」

 

沙綾「うん……。」

 

香澄「もうすぐ春だ。」

 

沙綾「うん…。」

 

沙綾の返事は空返事になってしまう。

 

 

香澄「さーや、私ね……………結婚する。」

 

 

沙綾「うん…。うん?」

 

突然の香澄の宣言に困惑する沙綾。

 

 

香澄「突然ですが、戸山香澄は結婚します。」

 

沙綾が持っていたカバンを落とした。

 

沙綾「な、なななななな何言ってるの、香澄!?中学生なのに!大体相手は!?」

 

香澄「神樹様だよ。」

 

沙綾「え……?」

 

沙綾は茫然とするしかなかった。

 

 

ーーー

ーー

 

 

事態は沙綾達5人が香澄の勇者御記を読んでいた頃に遡る--

 

同時刻、香澄の家には大赦の神官が訪ねていたのだ。

 

香澄「あ、あの…。頭を上げてください。」

 

神官は香澄に深く頭を下げていた。

 

香澄「今日は何の御用でしょうか?」

 

神官「香澄様には急ぎお知らせしなければならない事があります。ご両親には全て了解していただいております。」

 

香澄「えっ?な、何ですか?」

 

神官が口にした事は驚くべき事態だった。

 

神官「私達を約300年の間守ってきてくださった神樹様の寿命が近づいております。」

 

香澄「えっ?」

 

神官「神樹様が枯れてしまわれれば、外の炎から守る結界が無くなり、我らが暮らすこの世界は炎に飲まれ、消えてしまいます。」

 

香澄「消え…る?」

 

神官「遺憾ながら。」

 

香澄「待って待って!いきなりすぎます!消えるなんてダメ…。」

 

神官「仰る通りです。人間を全滅させるわけにはまいりません。」

 

香澄「っ……。」

 

神官は淡々と話し続ける。

 

神官「全滅を免れ、皆が生きる解決法を我々は見つけております。」

 

香澄「あの…。これって勇者部全員で聞いた方が……。」

 

神官「まずは香澄様にだけお話を。」

 

香澄「っ…。」

 

神官「皆が助かる方法は1つ…選ばれた人間が神樹様と結婚するのです。」

 

香澄「えっ!?結婚?結婚って、あの結婚ですか?」

 

神官「はい、神との結婚を、古来神婚と云います。神と聖なる乙女の結合によって世界の安寧を確かなものとする儀式。それが神婚。」

 

香澄「あの…。それだとみんな助かるんですか?」

 

神官「はい。」

 

香澄「助かる…。」

 

神官「神婚する事で新たな力を得て、人は神の一族となり、皆永久に神樹様と共に生きられるのです。」

 

香澄「はあ…。」

 

神官「ご理解いただけたでしょうか?」

 

香澄「よく分かりません。でも、とにかく全滅は…。」

 

神官「私達も香澄様と同じ気持ちです。」

 

しかし、ここで神官は重大な事実を突き付けた。

 

神官「神婚が成立すれば選ばれた少女の存在は神界に移行し、俗界との接触は不可能になります。」

 

香澄「えっと…?」

 

 

 

神官「神婚した少女は、死ぬという事です。」

 

 

 

香澄「っ!?」

 

神官「そして神婚の相手として、神樹様は香澄様を神託で示されました。」

 

香澄「な、何でまた私を…?」

 

神官「心も身体も神に近い存在…御姿だからです。」

 

香澄「………。」

 

神官「天の神が香澄様を生贄にしているのと理由は近いかと。」

 

香澄「私が神婚するって…。」

 

神官「私達大赦は人類が生き延びる為に様々な方法を模索し続けて来ました。そして、神婚という選択肢のみが残されたのです。」

 

香澄「あの…。すみません、すぐ答えられなくて…。頭が追い付かないっていうか…。」

 

神官「天の神の怒りを背負われている。さぞ、お辛いでしょう。祟りの為に、皆にこのことも話せず……。」

 

香澄「話せないなら話せないで、もっと賢いやり方もあったかもしれないんですけど…。」

 

香澄は祟りの事を言えずに、有咲を悲しませてしまった事を思い出していた。

 

香澄「私、友達を傷つけちゃって…。」

 

神官「皆を慈しむ心。香澄様は素晴らしい勇者であると、私は思います。」

 

香澄「そんな事ありません。」

 

神官「その友達を、人間を救う事が出来るのは香澄様だけです。」

 

神官の言葉がもはや誘導染みてくる。

 

香澄「神婚したとして、その…人が神の一族になってずっと生きるっていうのは…?」

 

神官「言葉通りの意味です。我々を神樹様に管理していただく、優しい世界。人は死んでしまえば終わりですが、神の眷属となり、神樹様と共に生きてゆけば希望が持てます。」

 

香澄「それって、みんな、ちゃんと人間なんですか?」

 

神官「神の膝下で確かに存在できます。信仰心の高い者から神樹様の元へ。」

 

香澄「みんなが、神樹様と共に…。」

 

神官「どうか…この世の全ての人々をお救いください…慈悲深い選択を…。」

 

そう言い残し神官は帰っていった。

 

 

 

 

 

香澄「くっ…!うぅ……。」

 

胸の刻印が痛み出す。

 

香澄「はあ…、はあ……。」

 

牛鬼が心配そうに香澄に近付いてきた。

 

香澄「祟りの次は結婚だって。ビックリだね、牛鬼…。お父さんとお母さんは泣いてたけど、私の意思に任せるって、言ってくれたけど…。私の身体は…命は、もう……。」

 

外へ出る香澄。

 

 

 

 

 

香澄(神婚して死ぬと、どうなるんだろう?祟りで死ぬより苦しくないのかな?)

 

香澄「っ…!自分の事ばっかり考えて良くないな…。私は勇者なんだから……。」

 

香澄(勇者らしい事をしなきゃ……。)

 

香澄が葛藤している中で、

 

 

たえは熟睡中--

 

 

ゆりは勉強に疲れたのか机で寝ていて、りみが毛布をそっと掛けてあげている--

 

 

有咲はジョギング中--

 

 

沙綾は水垢離をしている--

 

 

香澄が神婚をすれば、みんなのいつも通りの日常が続いていくのだ。

 

香澄(世界が炎に包まれるなんて、そんなの嫌だ…絶対!)

 

香澄は神社へと歩いていく。

 

香澄(勇者部5箇条。成せば大抵何とかなる。そうだよ…。迷ったり怖がってる場合じゃない。やらなきゃ!)

 

香澄(だって私は勇者だから……!)

 

香澄「あっ……!」

 

神社の石段に躓いてしまう。

 

香澄(祟りで消えてしまう命なら…この命をみんなの為に使おう。)

 

香澄「怖くない…怖くない……。」

 

祟りが香澄の身体を蝕んでいく。

 

香澄「怖く…ないっ!はあ、はあ……。」

 

石段を登りきり、街を見下ろす。

 

香澄「はあ…はあ……。綺麗………。」

 

香澄「はあ…はあ……はあ……はあ………。私、決めたよ…。」

 

 

ーー

---

 

 

勇者部部室--

 

ゆり「いや、怪しいよ!そんな事引き受けちゃだめよ!!」

 

ゆりが香澄に詰め寄った。

 

たえ「香澄…。」

 

りみ「それは違うよ、香澄ちゃん。」

 

たえとりみも反対する。

 

香澄「みんな……。」

 

沙綾「今のみんなの反応で分かるでしょ?香澄の考えが間違ってる事が。」

 

香澄「さーや…。」

 

ゆり「くっ…!それにしても大赦め……!」

 

ゆりはまたも大赦に対し怒りを露にする。

 

ゆり「香澄ちゃん、私達もついて行ってあげるから、バシッと断って。」

 

りみ「神婚する必要なんてないよ。」

 

有咲「たえ、今から大赦に連絡入れられるか?」

 

たえ「うん。」

 

香澄「まっ……。」

 

沙綾「もう我慢出来ない!」

 

みんなが香澄の為に動き出した。

 

ゆり「行きましょう。一度潰した方が良い組織になるかもね。」

 

香澄「待って!!」

 

香澄がみんなに待ったをかける。

 

香澄「だから、私は…神婚を引き受けるって……。」

 

沙綾「その必要はないよ!」

 

有咲「だって、死ぬんだろ!?」

 

ゆり「訳が分からない。生贄と変わらないじゃない。」

 

たえ「あと、神樹様と共に生きるって、何なのかな?」

 

りみ「その…何かゾクッとくるっていうか……。」

 

沙綾「とても幸せな事だとは思えない!」

 

みんなが次々と反論していく。

 

香澄「でも、私が神婚しないと神樹様の寿命が来て世界が終わっちゃうんだよ。」

 

ゆり「神樹様の寿命も分かるけど!」

 

ゆりが諭す。

 

香澄「っ!」

 

ゆり「でも、だからって香澄ちゃんが行く必要はないでしょ。」

 

香澄「ゆり先輩。勇者部は人の為になる事を勇んで行う部活、でしたよね?」

 

ゆり「香澄ちゃん。これは違う。」

 

香澄「でも、これも勇者部だと思うんです。」

 

ゆり「…………。」

 

香澄「誰も悪くない。世界を守る為にほかに選択肢が無いなら…。それしかないなら、私は勇者だから……。」

 

ゆり「香澄ちゃん!!1回頭冷やしなさい。」

 

たえ「香澄、それしかないって考えはやめよう。神樹様の寿命が無くなるまでの間にもっと考えれば良いんだよ。」

 

たえも必死で香澄を説得する。

 

香澄「ダメなんだよ…。考えるって言っても、私も…。私にも、もう時間がなくて……。」

 

そう香澄が言った時、みんなの左胸に刻印が浮かび始め、香澄は咄嗟に口を手で覆った。

 

沙綾「大丈夫だよ、香澄。私達もう知ってるから。」

 

香澄「っ!?」

 

沙綾「香澄が天の神からの祟りで体が弱っている事を……。」

 

沙綾が香澄の手を取る。

 

香澄「その話はやめて!私は何も言ってない!」

 

沙綾「香澄、大丈夫だよ。その件を含めて解決して見せるから。」

 

りみ「大体おかしいよ。何で香澄ちゃん1人がこんな目に合わなきゃならないの!?」

 

りみも感情を爆発させた。

 

香澄「で、でもね、でもね、りみりん。私は嫌なんだ。誰かが傷付く事、辛い思いをする事が…。それが今回は私1人が頑張れば…。」

 

沙綾「ダメだよ!!」

 

沙綾が香澄を大声で叱る。

 

沙綾「香澄が死んだら、ここにいるみんながどれだけ傷付いて辛い思いをすると思ってるの!?私、想像してみたけど…香澄の後を追っちゃうかもしれない……!」

 

香澄「で、でも…。さーやだって、みんなを守る為に火の海に行ったでしょ。あれだって、自分1人で世界を救えるならって思ったからでしょ!?」

 

沙綾「そう!でも壁を壊した私の自業自得でもあるんだよ。香澄は悪くない!反対だよ!」

 

香澄「そんなの、ずるいよ……。私はさーやの代わりに…。あっ…。」

 

香澄が言葉を濁した。

 

沙綾「代わりに…何?香澄。」

 

りみ「か、香澄ちゃん。」

 

りみも自分の思っている事を香澄にぶつける。

 

りみ「香澄ちゃんが言うように、勇者はみんなを幸せにする為に頑張らないといけないと思うよ。」

 

香澄「そうだよ。私頑張ってるよ。」

 

りみ「で、でも…。」

 

ゆり「みんなって言うのは、自分自身もそこに含まれてるんだよ、香澄ちゃん。」

 

ゆりが言葉を付け加えた。

 

香澄「し、幸せ、だよ、私は…。それでみんなが助かるなら…。」

 

ゆり「嘘だよ!!」

 

香澄「ゆ、勇者部5箇条!なるべく諦めない。私はみんなが助かる可能性に賭けてるんだよ!」

 

ゆり「あなたが生きる事を諦めてるじゃない!」

 

ゆりが叫ぶ。

 

香澄「勇者部5箇条!成せば大抵何とかなる!成さないと何もならない!」

 

ゆり「香澄ちゃん!!5箇条をそういう風に使わない!!!」

 

香澄「私は、私の時間のあるうちに私の出来る事をしたいんです!だからこうしてみんなにきちんと相談しました!」

 

たえ「これじゃあ報告だよ、香澄。相談しなきゃ…。」

 

香澄「相談してるよ!!!」

 

香澄はたえにきつく言ってしまった。

 

有咲「香澄、その…とにかく、無理すんな……。」

 

香澄「無理してないよ!!」

 

有咲「ご、ごめん…。」

 

香澄「勇者らしく、私らしくしてるよ!!」

 

りみ「待って…。」

 

ゆり「香澄ちゃん!みんながここまで言って、まだ分からないの!?」

 

香澄「だから!他に方法がないからこうなっているんです!!」

 

りみ「待ってよ…。なんで…なんでこんな……、ケンカなんて…。」

 

りみが泣き出してしまった。

 

香澄「りみりん…。」

 

りみ「っ…うぅっ………。」

 

香澄は一歩足を引いてしまうが、足がドアに当たる。

 

香澄「私は……。私には本当に時間が無くて…。もう…。っ!?」

 

みんなの左胸に刻印が浮かび上がる。

 

香澄「あぁ……っ…!?」

 

香澄は部室から飛び出してしまった。

 

沙綾・たえ「「香澄!」」

 

沙綾とたえは香澄を追いかけた。ゆりは泣いているりみを見て、どうしたらいいのか迷ってしまう。

 

有咲「クソっ!こういう時、どうすりゃ正解なんだよ!!」

 

有咲はロッカーを叩きうなだれていた。

 

 

勇者部はバラバラになってしまったのだ--

 

 

 

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